第1部 国民の安全・安心を支える気象業務

序章 はじめに

1節 気象情報の流れ

 気象庁は、気象・海洋や地震・火山などの自然現象を常に監視・予測し、的確な気象情報を提供することによって、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現することを任務としています。気象庁では、これらの自然現象に関する防災気象情報を、防災関係機関にオンラインで迅速に伝達すると同時に、テレビ・ラジオやインターネット等を通じて広く国民に発表しています。

気象情報の流れ

 気象庁が発表する大雨警報や津波警報などの防災気象情報は、様々な伝達手段を用いて防災機関や住民へ伝達されます。

 例えば、気象庁では、防災気象情報をテレビ・ラジオ等の報道機関や気象庁ホームページなどを通じて住民へ提供しているほか、都道府県や消防庁を通じて市町村等防災機関に伝達しています。市町村からは、地域の実情に応じて防災行政無線や広報車の巡回、ケーブルテレビなどを用いて防災気象情報が周知されます。また、携帯事業者の協力を得て、緊急地震速報や大津波警報、津波警報、気象等及び噴火に関する特別警報を、該当する地域にいる一人ひとりの携帯電話に一斉に配信する「緊急速報メール」等を用いた伝達も行っています。さらに、最近では携帯電話やスマートフォンなどの各種アプリケーションを用いて、一人ひとりがその地域で必要な防災気象情報を手軽に手に入れることができるようになっています。

 気象庁は、防災気象情報を防災機関や住民に効果的に伝達することにより、地域における防災力の強化や気象災害に伴う被害の防止・軽減を図っています。


2節 気象庁ホームページ

 気象庁ホームページでは、大雨、地震・津波、火山噴火等に関する防災情報を掲載しています。掲載している防災情報には、警報・注意報や予報等を文字や表で伝えるものや、いつ、どこで洪水や浸水害発生の危険度が高まるのかがわかる「危険度分布」があります。また、これらの防災情報の解説や効果的な利用方法も合わせて掲載しています。平成30年(2018年)10月に、いま知りたい情報を分かりやすく表示するためトップページをリニューアルし、スマートフォン向けトップページも新設しました。気象庁ホームページは、日頃から防災情報の取得に有効に活用されており、1日で約1,800万ページビュー、特に、台風が接近している時などはアクセス数が増加し、5,000万ページビューを超えることもあります。

気象庁ホームページトップページ

3節 防災情報提供センター

 国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。

 このウェブサイトからは、気象庁と国土交通省の各レーダーそれぞれの長所を活かして統合した雨の分布に、省内各部局及び都道府県などの雨量情報を重ね合わせて表示可能な「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。

 また、携帯端末向けのホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)では、屋外などパソコンが使えないような場所でも、これらの災害・防災情報を入手できるようにしています。

リアルタイムレーダーの提供ページ

1章 気象の監視・予測

1節 気象の監視と情報発表

(1)気象等の特別警報、警報、注意報及び気象情報

ア.気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報の役割

 気象庁は、大雨や暴風などによる災害の防止・軽減のため、気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報などの情報(防災気象情報)を発表しています。災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、まず数日前から気象情報や早期注意情報(警報級の可能性)を発表し、その後の危険度の高まりに応じて注意報、警報、特別警報を段階的に発表することで、都道府県、国の機関等の防災活動、市町村の避難勧告、住民の避難行動等の判断を支援しています。これらの内容や発表タイミングについては、平常時から防災関係機関との間で意見交換を行い、効果的な支援となるよう努めています。

警戒レベルと避難行動等

 特に、平成31年(2019年)3月に内閣府において「避難勧告等に関するガイドライン」が改定され、災害の危険度の高まりに応じて住民が適時的確な避難行動をとれるよう、防災情報(市町村の避難勧告や気象庁の防災気象情報等の情報)に警戒レベルを明記して防災情報が提供されることとなりました。この警戒レベルは、住民がとるべき避難行動を5段階に分けて表したもので、例えば、避難勧告は警戒レベル4に位置づけられています。気象庁では、この方針を受け、大雨・洪水・高潮の警報等を発表する際にどの警戒レベルに相当するか分かるように提供し、住民自らの判断による避難行動をより一層支援しています。気象に関する防災気象情報の種類を、下に示します。

防災気象情報の種類

大雨特別警報の位置づけ・役割

 なお、挙げられた防災気象情報の中でも、特に注目されることの多い大雨特別警報は警戒レベル5相当情報であり、上のような位置づけ・役割を持っています。特別警報の発表を待っていては手遅れになりかねません。大雨の際には、特別警報を待つことなく、避難勧告などに従って避難などを行うことが大切です。


イ.気象等の特別警報・警報・注意報

○ 気象等の特別警報・警報・注意報及び早期注意情報(警報級の可能性)の発表

 警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶおそれがあります。このため、警報級の現象が発生すると予想される時間よりも前(最大で6時間程度前)に警報を発表することとしており、警報の発表に当たっては危険な時間帯が一目で分かるよう、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯を赤色、黄色で示した時系列の表を付しています。また、警報級の現象が概ね6時間以上先に予想されている場合には、警報の発表に先立って警報に切り替える可能性が高い注意報を発表し、警報級の現象が予想される時間帯を明示しています。こうした、警報等の発表から現象発生までの猶予時間(リードタイム)は、警報等が防災関係機関や住民に伝わり安全確保行動がとられるまでにかかる時間を考慮して設けているものです。ただし、現象の予想が難しい場合にはリードタイムを十分確保できない場合もあります。


警報・注意報の発表例

 また、警報級の現象が5日先までに予想されているときには「早期注意情報(警報級の可能性)」を[高]、[中]の2段階で発表しています。なお、翌日までの早期注意情報(警報級の可能性)は、警戒レベル1に対応します。


早期注意情報(警報級の可能性)

○ 危険度分布

 大雨警報や洪水警報が発表された時に、実際にどの地域で危険度が高まっているかを5段階で示す「危険度分布」を発表しています。

大雨警報( 土砂災害) や土砂災害警戒情報等の発表判断

 5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫)が出現した段階では、土砂災害がすでに発生していたり、氾濫した水により道路冠水等が発生して屋外への避難が困難となっていたりするおそれがあります。このため、大雨による災害から命を守るためには、土砂災害警戒区域や浸水想定区域、中小河川沿いにお住まいの方は、避難にかかる時間(土砂災害については約2時間等)を考慮し、遅くとも重大な災害となる可能性があるという基準に到達することが予測された「非常に危険」(うす紫)【警戒レベル4相当】が出現した時点で、速やかに避難開始の判断をすることが大変重要です。例えば、大雨警報(土砂災害)の危険度分布では2時間先までの予測値が土砂災害警戒情報の基準に到達しているタイミングで避難開始の目安となる「非常に危険」(うす紫)【警戒レベル4相当】が出現し、速やかに土砂災害警戒情報が発表されます。さらに、高齢者等の方が避難を開始する目安となる大雨警報(土砂災害)については、避難にかかる時間を考慮して、土砂災害警戒情報よりも1時間程度早く発表できるような基準を設定し、大雨警報(土砂災害)の危険度分布で「警戒」(赤)【警戒レベル3相当】が出現し、速やかに大雨警報(土砂災害)が発表されます。

市町村単位の警報等が発表されたら危険度が高まっている場所を確認

 また、大雨特別警報や大雨、洪水警報・注意報、土砂災害警戒情報が市町村単位で発表されるのに対し、危険度分布は1キロメートルメッシュごとの危険度の高まりを確認することができます。大雨警報等が発表されたときには、自分がいる場所の危険度を危険度分布で把握して、避難勧告等が発令されていなくても自ら避難の判断をしてください。

 なお、危険度が高まっていなくても、自治体から避難勧告が発令された場合には、速やかに避難行動をとってください。


ウ.各災害に関する防災気象情報

○ 土砂災害に関する防災気象情報

 土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。大雨によって土砂災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(土砂災害)【警戒レベル3相当】、土砂災害警戒情報【警戒レベル4相当】等を市町村単位で発表しています。このうち、土砂災害警戒情報は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときに、市町村長の避難勧告や住民の自主避難の判断を支援するために都道府県と気象庁が共同で発表しています。さらに、これらの情報が発表されたときに実際にどこで危険度が高まっているかを把握できるように、地図上で1キロメートル四方の領域(メッシュ)ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「大雨警報(土砂災害)の危険度分布」を常時10分ごとに更新しています。

 崖や渓流の付近など、土砂災害によって命が脅かされる危険性があると認められる場所は、都道府県が土砂災害警戒区域や土砂災害危険箇所(以下「土砂災害警戒区域等」という。)に指定しています。こうした区域にお住まいの方は「大雨警報(土砂災害)の危険度分布」を用いて早めの避難を心がけてください。

大雨警報(土砂災害)の危険度分布(令和元年7月3日の曽於市の状況)

○ 浸水害に関する防災気象情報

 下水道等で排水しきれないほどの大雨が短時間で降ると、河川の氾濫が発生していなくても、周囲より低い窪地や道路のアンダーパス等に雨水が集まって家屋の床上浸水や道路冠水等の浸水害(いわゆる内水氾濫)が発生します。こうした浸水害の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(浸水害)等を発表しています。さらに、これらの防災気象情報が発表されたときや雨が強まってきたときに、どこで危険度が高まっているかを把握できるよう、地図上で1キロメートル四方の領域ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「大雨警報(浸水害)の危険度分布」を常時10分ごとに更新しています。住宅の地下室や道路のアンダーパスは特に危険ですので、「大雨警報(浸水害)の危険度分布」を用いて、各自の判断で、こうした場所から離れ、屋内の浸水が及ばない階に移動する等の安全確保行動をとってください。

大雨警報(浸水害)の危険度分布(平成28年9月6日の稚内市の状況)

○ 洪水災害に関する防災気象情報

 河川の上流域における降雨や融雪によって洪水災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に洪水注意報【警戒レベル2】、洪水警報【警戒レベル3相当】を発表しています。また、これらが発表されたときに実際にどの河川のどこで危険度が高まっているかを把握できるように、危険度の高まりに応じて、地図上で河川流路を概ね1キロメートルごとに5段階に色分けして表示した「洪水警報の危険度分布」を常時10分ごとに更新しています。この危険度分布には「指定河川洪水予報」(後述)の危険度も重ねて表示しています。

洪水警報の危険度分布(平成30年7月豪雨時の広島市安芸区矢野川の状況)

・中小河川の洪水災害に関する防災気象情報

 中小河川は、流域面積が比較的小さく、上流域に降った雨が河川に集まるまでの時間が短いため、短時間のうちに急激な水位上昇が起きやすい特徴があります。洪水危険度の急激な高まりに気付きにくいため、不意を突かれて逃げ遅れることのないよう早めの避難が必要となります。

 中小河川であっても氾濫した際には家屋が押し流されたり、場所によっては浸水の深さが最上階の床の高さにまで達したりするおそれがあります。特に、山間部を流れる中小河川(山地河川)は、勾配が急で流れが速く、氾濫する前から水流によって川岸が削られて川沿いの家屋が押し流されるおそれがあるほか、氾濫した際も幅の狭い谷底平野に流路が限定されるため、谷底平野全体が川のようになって水かさが深くなりやすく、破壊力の大きな氾濫流が生じて家屋が押し流されるおそれもあります。「洪水警報の危険度分布」では、実際に急激な水位上昇が起きるより前の早い段階から、洪水危険度の急激な高まりの見込みを事前に把握できるようにしています。こうした区域にお住まいの方は「洪水警報の危険度分布」を用いて早めの避難を心がけてください。また、上流地点に出現した危険度の高まりは、その後、下流に移動してくる傾向がありますので、上流地点の危険度も含めて確認することで、自らに迫る危険をいち早く覚知して早めの準備や判断ができます。

山地部を流れる中小河川の洪水災害

・大河川の洪水災害に関する防災気象情報

 大河川は流域面積が広く、氾濫が発生すると、大量の氾濫水で周辺の家屋が押し流され、浸水も広範囲にわたり、場所によっては深く浸水した状態が長期間継続します。

 流域面積が大きく洪水により大きな損害を生ずる河川については、気象庁は国土交通省又は都道府県と共同で「指定河川洪水予報」を発表しています。発表する情報は、危険度の高まりに応じて「氾濫注意情報」、「氾濫警戒情報」、「氾濫危険情報」、「氾濫発生情報」の4つがあり、河川名を付して「○○川氾濫危険情報」のように発表します。これらの情報と警戒レベルとの対応を図にまとめました。

指定河川洪水予報の発表の流れ

 氾濫が発生したときに水流で家屋が押し流されてしまう場合や浸水の深さが最上階の床の高さまで達してしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある家屋等にお住まいの方は自治体の避難情報や河川の水位情報に留意するとともに、指定河川洪水予報の氾濫危険情報が発表された時点で家屋等からの立退き避難を開始し、浸水想定区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。

 これら大雨による災害について、危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報、市町村の対応例、住民の方にとっていただきたい行動等の概要を図のようにまとめました。

段階的に発表される防災気象情報(土砂災害・洪水)

○ 気象等の特別警報・警報・注意報の発表区域と発表基準

 気象等の特別警報・警報・注意報や土砂災害警戒情報は、おおむね市町村単位で発表しており、災害発生に密接に結びついた指標(風速、潮位や後述の指数など)を用いて発表基準を設定しています。警報・注意報の基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査した上で、重大な災害が発生するおそれのある値を警報の基準に、災害が発生するおそれのある値を注意報の基準に設定しています。例えば、暴風警報の基準は「風速がこの値以上に到達すると重大な災害が発生するおそれがある」という値を設定しています。土砂災害や浸水害、洪水災害発生の危険度を判断する基準には、過去約25年分の災害データを用いています。例えば、土砂災害警戒情報の基準は「この基準を超えると、過去の重大な土砂災害の発生時に匹敵する状況となり、この段階では命に危険を及ぼす土砂災害がすでに発生していてもおかしくない」という基準を設定しています。地盤が崩れやすく土砂災害が発生しやすい地域では、過去の土砂災害履歴に基づき土砂災害警戒情報等の基準が低く設定されています。このように、大雨、洪水警報等や危険度分布の基準には地盤の崩れやすさの違いや河川の貯留施設等の影響なども一定程度反映されています。また、特別警報の基準は、数十年に一度という極めてまれで異常な現象を対象として設定しています。

 特別警報、警報、注意報や土砂災害警戒情報は、基準以上に到達する現象が予想されるときに発表します。

 なお、強い地震により地盤がゆるんだり、火山噴火により火山灰が積もったりしている地域では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなります。このような場合は、通常よりも警戒を高めるため、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの基準を暫定的な値に引き下げて運用することがあります。


○ 高潮災害に関する防災気象情報

 台風や低気圧等の接近に伴う海面の上昇により、高潮災害が発生するおそれがあると予想されるときには高潮警報【警戒レベル4相当】や高潮警報に切り替える可能性が高い注意報【警戒レベル3相当】、高潮注意報【警戒レベル2】を発表しています。これらの警報等には、市町村長による避難勧告等の発令区域の判断を支援するため、予想される最高潮位(高潮の高さ)の標高を記載しています。高潮災害で命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水区域などをあらかじめご確認ください。そして、台風等の接近時に、警報・注意報等で伝えられる予想最高潮位を用いて、どのくらいの高さの高潮が予想されているかを自らご確認ください。高潮発生時に堤防を越えた波浪が家屋を直撃する場合や氾濫した水に家屋が押し流されてしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある区域にお住まいの方は、台風や急発達する低気圧の接近が予想されているときには、高潮注意報が発表されたら予想最高潮位の標高を確認し、お住まいの場所が命を守るために家屋等からの立退き避難が必要な場所かどうか確認するようにしてください。

高潮時に浸水のおそれがある区域

高潮災害からの避難が必要となるタイミングについて

 さらに、高潮災害が起こるような台風等の接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外移動が困難となりますので、高潮警報を待つことなく暴風警報が発表された時点で避難を開始する必要があります。そして、暴風が吹き始める段階までには高潮注意報の予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外の安全な場所への避難を完了しておくことが大変重要です。

段階的に発表される防災気象情報(高潮災害関係)

エ.その他の防災気象情報

○ 台風情報

 気象庁では台風や熱帯低気圧の動きを常時監視し、これらの実況(中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さ)と予報(進路や強さ)を「台風情報」でお知らせしています。台風については、実況と12時間先、24時間先の予報を3時間ごとに、5日先までの24時間刻みの予報を6時間ごとに発表します。さらに、台風が我が国に近づき被害のおそれが出てきた場合には、様々な防災対策に利用できるよう、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。熱帯低気圧については、24時間以内に台風に発達すると見込まれる場合に実況と24時間先までの予報を発表していますが、令和2年9月(予定)からは5日先までの予報を発表することとします。台風や熱帯低気圧の予報では次ページ左上の図のように、中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。

 台風の勢力は、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」で表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)を、「強さ」は最大風速を基準にしています。また、5日先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。

「台風予報」の発表例台風の大きさと強さの表現

「暴風域に入る確率」の発表例(左:時間変化グラフ、右:分布図)

○ (全般・地方・府県)気象情報

 低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを気象情報(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候についての解説も気象情報(「高温に関する気象情報」など)として発表します。

対象となる地域による気象情報の種類

図形式府県気象情報の発表例

○ 記録的短時間大雨情報

  大雨警報の発表中に、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表します。この情報が発表された地域では土砂災害や浸水害、中小河川の洪水災害の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。

 この情報が発表されたら、実際にどこで災害発生の危険度が高まっているかを大雨・洪水警報の危険度分布で確認してください。

記録的短時間大雨情報の発表例

○ 雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、高解像度降水ナウキャスト)

 「解析雨量」は、気象レーダー観測で得られた1時間雨量の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された雨量で補正し、1キロメートル四方の細かさで解析します。「降水短時間予報」は、解析雨量から雨域の移動や発達・衰弱を推定し、数値予報の予測雨量も用いて、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測します。解析雨量と降水短時間予報は10分間隔で更新します。これに加え、降水短時間予報では、数値予報の予測雨量を用いて、7時間から15時間先までの各1時間雨量を5キロメートル四方の細かさで予測し、1時間間隔で更新します。これらは気象庁ホームページの「今後の雨」で提供しています。

 一方、積乱雲などの極めて短時間に雨の強さが変化する雨雲に対応するため、きめ細かな雨の実況と予測情報を提供するのが「高解像度降水ナウキャスト」です(気象庁ホームページの「雨雲の動き」で提供)。5分ごとの雨の強さの分布を250メートル四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1キロメートル四方の細かさ)で予測するもので、5分間隔で更新します。高解像度降水ナウキャストでは、全国20か所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁、国土交通省及び地方自治体が保有する全国約10,000か所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省のXRAIN(国土交通省高性能レーダ雨量計ネットワーク)のデータも活用して、雨域の内部を詳しく解析することにより、きめ細かな解析や予測を実現しています。

高解像度降水ナウキャストの解析値と予測値

○ 積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報

・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報

 積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保するための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」と「竜巻注意情報」を提供しています。竜巻発生確度ナウキャストは、気象ドップラーレーダーにより観測される風のデータなどから、竜巻などの激しい突風が発生する可能性(発生確度1・2)を10キロメートル四方の細かさで解析し、その1時間先(10~60分先)まで予測するもので、10分間隔で更新します。竜巻注意情報は、天気予報と同じく各都道府県をいくつかに分けた地域に対して発表します。竜巻発生確度ナウキャストの発生確度2の地域に発表するとともに、竜巻の目撃情報が得られて竜巻の発生する可能性が高いと判断した地域にも発表します。竜巻注意情報が発表されたとき、情報発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に注意が必要です。

竜巻発生確度ナウキャストの例(平成25年9月2日14時20分の例)

竜巻注意情報の例

・雷ナウキャスト

 落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を提供しています。雷ナウキャストは、雷監視システム(LIDEN)による雷放電の検知や気象レーダーにより観測される雨雲の発達などから、雷の状況を1キロメートル格子の細かさで解析し、その1時間後(10分~60分先)まで予測するもので、10分間隔で更新します。雷の状況は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4のときは、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。

雷ナウキャストの例(平成25年9月2日14時20分の例)

コラム 急発達する積乱雲の監視と情報発表

 積乱雲が急激に発達すると、急な強い雨、落雷、竜巻・ダウンバーストなどの激しい突風といった気象(シビア現象)を伴うことがあります。このような急速に発達する積乱雲を、全国の3 次元レーダーデータ等の豊富な観測データを用いて全国一元的に集中監視し、効果的かつ効率的に情報発表作業を行うための体制(シビアストーム監視班)を気象庁本庁に新たに整えました。

シビアストーム監視班

 シビアストーム監視班では、これまで地方気象台等から発表してきた「竜巻注意情報」及び「記録的短時間大雨情報」について、平成31年(2019年)1月29日から関東甲信地方を対象に、そして令和元年(2019年)6 月4 日からは全国を対象として一元的に発表しています。また、全国の警察・消防等から提供される竜巻等突風の目撃情報についても、現在ではシビアストーム監視班が一元的に受領し、竜巻注意情報の発表業務に活用するとともに全国の気象官署へ速やかに共有しています。さらに、積乱雲の発生・発達状況や今後の推移も分析し、その成果を全国の気象官署が行う予報や情報発表に活かしています。

 大きな影響をもたらすシビア現象も、狭い地域でみれば発生する頻度は低いものです。このため、シビアストーム監視班が全国のシビア現象を一元的に監視し、多くの事例や知見を蓄積することで、さらに高度な監視に努めてまいります。


(2)天気予報、週間天気予報、季節予報

 天気や気温は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいか、週末に予定している旅行ではどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。


ア.天気予報

 天気予報は、毎日5時、11時、17時に発表しています。天気予報には、「府県天気予報」、「天気分布予報」、「地域時系列予報」の3種類があります。

 「府県天気予報」は、明後日(5時の発表では明日)までの風、天気、波の高さ、最高・最低気温、6時間ごとの降水確率を予報します。対象となる地域の1日ごとの天気をおおまかに把握する場合に適しています。

府県天気予報(11時発表)の例

 「天気分布予報」と「地域時系列予報」は、明日24時までの天気などを3時間刻みに予報しますので、府県天気予報よりも詳しい天気を知ることができます。「天気分布予報」では、面的な分布が一目で分かるので、雨が何時ころにどの辺りで降るか、気温が何時ころに何℃になるかといったことを容易に把握することができます。「地域時系列予報」では、対象となる地域の天気、風、気温の時間変化を知るのに便利です。

天気分布予報の例地域時系列予報(5時発表)の例

イ.週間天気予報

 週間天気予報では、予報発表日の翌日から1週間先までの日々の天気、最高・最低気温、降水確率を、毎日11時と17時に発表しています。今日や明日の予報に比べ、さらに先の予報については、どうしても不確実性が大きくなります。週間天気予報では、その日の予報がどの程度信頼できるかという情報をお知らせするために、天気の信頼度と最高・最低気温の予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の予報での降水の有無について「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表す情報で、予報の信頼度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。例えば、2018年1月10日11時発表の島根県の週間天気予報では、14~16日は同じ曇り時々晴れという予報ですが、16日は14,15日よりも信頼度が低く、予報が変わる可能性が比較的高いことを示しています。また、気温の予測範囲は、2日目以降の気温の欄に(11~16)のように括弧を付して記述しています。実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。

週間天気予報の例

ウ.季節予報

 季節予報には、予報期間別に、令和元年(2019年)に新たに開始した2週間先までの気温を予報する2週間気温予報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、夏や冬の天候を予報する暖候期予報・寒候期予報があります。そのうち1か月予報、3か月予報、暖候期予報・寒候期予報では、予報対象期間の平均的な気温や降水量などを、予報区単位で3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。2週間気温予報では、代表地点の最高・最低気温の予報も行います。また、2週間気温予報の対象期間に顕著な高温や低温または大雪が予想されたときには早期天候情報を発表して、注意を呼び掛けています。それぞれの予報の発表日時とその内容は表のとおりです。

季節予報の種類と内容

地方季節予報で用いる予報区分

(3)その他の情報

ア.光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供

 気象庁は、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況(晴れて、気温が高く、風が弱いなど)が予想される場合には「スモッグ気象情報」や「全般スモッグ気象情報」を広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。


イ.熱中症についての注意喚起

 一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。

 平成27年度(2015年度)からは、高温注意情報(概ね35℃以上の高温が予想される場合)の発表を5時頃から17時頃の間に随時発表するように、また、高温注意情報を発表した場合だけでなく概ね真夏日(最高気温30℃以上)が予想される場合にも日々の天気概況で注意を呼びかけています。

 さらに、令和元年(2019年)6月からは新たな情報として2週間気温予報の発表を開始し、2週間先にかけての気温を毎日予報するとともに、週に2回(原則として月曜日及び木曜日)、著しい高温が予想される場合は高温に関する早期天候情報を発表して注意を呼びかけています。

 地方別、都道府県別の高温注意情報の発表状況、内容、気温予想グラフは気象庁ホームページで確認できます(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html)。

 また、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられますので、暑さを避け、水分をこまめに補給するなど、特に健康管理に十分気をつけてください。

 ※一部の地域では35℃以外を用いています。


2節 気象の観測

(1)地上気象観測

 気象台や測候所、特別地域気象観測所では、気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象現象を把握することを目的として、これらの気象官署を含む全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)により、降水量などを観測しています。このうち約840か所では、降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間を、また、豪雪地帯などの約330か所では、積雪の深さを観測しています。

 地上気象観測により得られるデータは、防災気象情報の発表等に利用されるほか、ホームページなどを通じて広く提供されています。これらの観測データは、各観測地点における気温や降水量等の情報ですが、気象庁では、「今」の気象状況を、広がりをもった情報として見ることができるよう、「推計気象分布」を合わせて提供しています。推計気象分布は、アメダスの観測データに加えて、気象衛星ひまわりの観測データや解析雨量等を用いて気温と天気のきめ細かな分布を算出したものであり、観測点のない場所も含め、気象状況を面的に把握できるようになっています。

アメダス(地域気象観測システム)観測網

アメダス観測所アメダス観測所推計気象分布

(2)レーダー気象観測

 気象レーダーは、水平方向に回転するパラボラアンテナから電波を発射し、雨粒等によって反射されて戻ってくる電波を受信することで、どの位置にどのような強さの降水があるかを観測する装置です。気象庁は、全国20か所に設置した気象ドップラーレーダーにより、我が国の陸上全域と周辺の海上における降水の分布とその強さを5分ごとに観測しています。また気象ドップラーレーダーは、反射されて戻ってくる電波のドップラー効果を利用して、風で流される雨粒や雪の動きを観測する機能も備えています。このうち東京レーダーには、降水の強さをより正確に推定することが可能な「二重偏波気象ドップラーレーダー」を新たに導入しています。これらの観測成果は、気象庁ホームページ等で提供されるほか、天気予報や大雨警報などの気象情報の発表に利用されています。

気象レーダーの配置気象レーダーの外観とパラボラアンテナ

(3)高層気象観測

ア.ラジオゾンデ観測

 天気に影響する低気圧や高気圧などの予測を精度よく行うためには、これらの動きに大きく関連している上空の大気の観測が必要になります。このため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風を観測しています。

 ラジオゾンデの観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。

ラジオゾンデ観測網

人の手で行うラジオゾンデ飛揚機械で自動的に行うラジオゾンデ飛揚

イ.ウィンドプロファイラ観測

 ウィンドプロファイラは、地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱されて戻ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を300メートルの高度間隔で10分ごとに観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。全国33か所に設置したウィンドプロファイラの観測データは、実況監視や数値予報に利用され、大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。

ウィンドプロファイラ観測網ウィンドプロファイラによる上空の風の観測の概要

(4)静止気象衛星ひまわり

 気象を観測する衛星には様々なものがあり、目的によって地球を周回する高度や軌道が異なります。赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上に位置する静止気象衛星は、地球の自転周期に合わせて周回するため、同じ地域を連続して観測できることが強みです。気象庁が運用している静止気象衛星「ひまわり」は、常に東経140度付近にあって、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を24時間、常時観測しており、特に海上の台風の監視などに不可欠な観測手段となっています。

 気象庁は、昭和53年(1978年)の初号機の運用開始以来40 年以上、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。現在は、世界最先端の観測機能を持つ「ひまわり8号・9号」が観測を行っています。「ひまわり8号・9号」の二機体制により、令和11年(2029年)までの長期にわたって安定した観測を継続することにより、国民の安全安心の確保や、アジア・太平洋地域の防災力の向上、気候変動の監視などに貢献します。

静止気象衛星「ひまわり」の進化

「ひまわり」による令和元年東日本台風(台風第19号)の監視

 気象庁では、「ひまわり」のデータを使って雲や台風の解析などを行うほか、同じ地域を高頻度で常時観測できる「ひまわり」の利点を最大限に活かして、連続した複数枚の衛星画像から雲が移動する様子を解析することで、上空の風(風向・風速)を算出しています。この風のデータは、特に海上のように地上の観測所が存在しない地域を含む広い範囲で算出されるため、数値予報の精度向上のためになくてはならないデータとなっています。

観測画像から算出した上空の風の分布図

 「ひまわり6号・7号」では、5バンド(可視1、赤外4)による1時間ごとの全球観測を行っていましたが、「ひまわり8号・9号」では、16バンド(可視3、近赤外3、赤外10)による10分ごとの全球観測に加え、2.5分ごとの日本周辺観測、さらには台風や火山の噴煙など必要に応じて場所を決め、2.5分ごとに観測を行う機動観測が可能になり、また、空間分解能も可視1キロメートル、赤外4キロメートルから、可視0.5キロメートル、赤外2キロメートルとなりました。

 観測機能の向上により短い時間間隔で高い空間分解能の画像を撮影でき、また観測バンドの種類も増えたため、従来よりも高い頻度、高い密度、高い精度で上空の風を算出できるようになり(上図)、これは台風の進路予報等の精度向上につながっています。また、「ひまわり8号・9号」の観測データは、黄砂や火山灰の監視、海面水温の算出や流氷の監視など幅広い用途に利用されています。これらのデータは日本のみならずアジア・太平洋地域を中心とした世界各国でも利用されています。

 「ひまわり8号・9号」の機動観測機能については、「ひまわりリクエスト(外国気象機関から要請された領域に対する機動観測)」としてアジア・太平洋域内各国にも利用されており、それらの国における気象等の監視に大きく貢献しています。例えば、令和元年(2019年)よりオーストラリア東部で発生した大規模な森林火災に対しては、オーストラリア気象局の要請を受けて、オーストラリア東部を対象に森林火災を監視するための観測を行いました(右図)。観測データは現地気象局を通じて、オーストラリア政府による森林火災の発生域の特定に大きく役立てられました。

「ひまわりリクエスト」による観測例

 このほか、「ひまわり」には、その観測範囲内であればどこからでもデータを中継できる通信機能があり、国内外の離島や山岳地帯などに設置された観測装置で得られた気象データや潮位(津波)データ、震度データ等の収集に活用されています。


2章 地震・津波と火山の監視・予測

1節 地震・津波の監視と情報発表

 地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、地震や津波が発生した時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震・津波に関する情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。

地震・津波に関する情報の作成及び伝達の流れ

(1)地震に関する情報

 気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所や大学の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さ(震度)を測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。

地震観測網

震度観測網

ア.緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)

 緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを自動的に解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨もあわせてお知らせします。緊急地震速報により、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。気象庁は、最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、緊急地震速報(警報)*を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で強く揺れることを知らせたり、制御信号を発して機械を自動制御したりするといった個別のサービスを行っています。

*震度6弱以上の揺れが予想される場合は地震動特別警報、それ以外の場合は地震動警報に位置づけています。

緊急地震速報のしくみ

イ.地震情報

 気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後に震度3以上を観測した地域をお知らせする「震度速報」のほか、震源の位置やマグニチュード、各地域や各市町村で観測された震度などをお知らせする「震源・震度に関する情報」など、観測データを基に順次詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるだけでなく、防災関係機関の初動対応や災害応急対策の基準としての役割があります。そのため、震度の観測においては地面の揺れを的確に観測できるよう検定に合格した震度計を使用し、設置方法等にも基準を設けています。また、地方公共団体の震度計についても同様の基準を満たすよう、気象台が技術的なアドバイスを行っています。さらに、高層ビル等における地震後の防災対応等に資するため、観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」を、気象庁ホームページで提供しています。

地震情報

(2)津波に関する情報

 気象庁は、地震により発生した津波が日本沿岸に到達するおそれがある場合には大津波警報・津波警報または津波注意報(津波警報等)を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報として発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約410か所の観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されるとその観測結果を津波情報として発表します。

津波観測網

○ 大津波警報・津波警報・津波注意報、津波予報、津波情報

 海域で規模の大きな地震が発生し、地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすることで、津波が発生します。気象庁は、陸域で浸水などの重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置付けている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)を全国66に分けた津波予報区単位で発表します。なお、地震発生後、津波が予想されるものの災害が起こるおそれがない場合には、「津波予報」(若干の海面変動、0.2メートル未満)を発表します。

 ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を精度よく求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで地震の規模を精度よく把握し、それに基づき予想される津波の高さを数値で示す津波警報等を発表しなおします。

 津波警報等の発表後、沖合や沿岸の潮位データを監視して、津波警報等の切替えや解除等の判断を行っています。加えて、沖合で津波を観測した場合には、間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を津波情報(沖合の津波観測に関する情報)で発表します。沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実を速やかに知らせるため、第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値を津波情報(津波観測に関する情報)で発表します。

巨大地震時の津波警報等のイメージ

大津波警報・津波警報・津波注意報

津波情報

津波予報

(3)「南海トラフ地震に関連する情報」と「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」

 令和元年(2019年)5月31日に国の防災対策を検討する中央防災会議において、国の南海トラフ地震に対する防災対策の基本計画(南海トラフ地震防災対策推進基本計画)に、新しい南海トラフ地震に対する防災対応(トピックスⅠ-1参照)が追加されました。これを受けて、国や地方公共団体、企業等が、この基本計画に基づく防災対応をとりやすくするため、気象庁では、同日から「南海トラフ地震臨時情報」等の南海トラフ地震に関連する情報の提供を開始しました。

 「南海トラフ地震に関連する情報」を発表するに当たり、有識者から助言をいただくために「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」(以下「評価検討会」という。)を開催しています。評価検討会には、観測データに異常が現れた場合に南海トラフ地震との関連性を緊急に評価するための臨時の会合と、平常時から観測データの状況を把握するために原則毎月1回開催している定例の会合があります。

「南海トラフ地震に関連する情報」の種類及び発表条件※

「南海トラフ地震に関連する情報」発表の基本的な流れ

(4)地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用

 「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、地震に関する調査研究を一元的に推進するため、総理府(現在は文部科学省)の特別の機関として地震調査研究推進本部(通称:地震本部)が設置されました。

 また、同法に基づき、気象庁は、平成9年より地域地震情報センターとして、文部科学省と協力して大学や国立研究開発法人防災科学技術研究所等の関係機関の地震観測データを収集・処理しています。これらの収集・処理されたデータは、地震本部の下に設置されている地震調査委員会で行われる各種の地震活動評価や、大学など関係機関での地震調査研究に活用されるだけでなく、気象庁の地震情報等の防災気象業務にも活用され、多方面で防災・減災に役立てられています。


2節 火山の監視と情報発表

(1)火山の監視

ア.111活火山と火山監視・警報センター

 我が国には火山噴火予知連絡会(同節(5)参照)により選定された111の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)に設置された「火山監視・警報センター」及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「地域火山監視・警報センター」(両者をまとめ、以下「火山監視・警報センター」という。)において、活火山の火山活動を監視しています。活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された50火山については、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び監視カメラ等)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関)からのデータ提供も受け、24時間体制で常時観測・監視しています。

火山監視・警報センターにおける24時間監視と噴火警報等の発表

全国111の活火山と50の常時観測火山

 また、50火山以外の火山も含めて、火山監視・警報センターの火山機動観測班が現地に出向いて計画的に調査を行うほか、活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するため観測体制を強化します。例えば、平成30年の草津白根山(本白根山)の噴火の後、監視カメラや地震計を増設しました。火山監視・警報センターは、全国の活火山について、観測・監視の成果に基づき、火山活動の評価を行い、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して噴火警報を発表しています。


イ.火山活動を捉えるための観測網

 噴火の前には、マグマや高温高圧の熱水が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加等)が起きます。こうした現象は先行現象と呼ばれます。

 高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで、先行現象を捉えることができる場合があります。

噴火の先行現象と火山観測

○ 震動観測(地震計による地震や微動の観測)

 震動観測は、地震計により、火山体またはその周辺で発生する地震や微動を捉えるものです。地震や微動は、主に地下のマグマや火山ガス、熱水の活動等に関連して発生します。

○ 空振観測(空振計による音波観測)

 空振観測は、噴火等で生じる空気の振動を捉えるものです。天候不良等により監視カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震波形や空振波形により、噴火の発生と規模を検知することができます。

空振計と地震計

○ 地殻変動観測(傾斜計、GNSS観測装置等による地殻変動観測)

 地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計は山体の傾きを精密に観測することができます。また、GNSS観測装置は、他のGNSS観測装置を組み合わせることで2点間の距離の伸縮を計測し、火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮、熱水の動きを知り、火山活動を評価するための重要な手段となります。

GNSS観測装置と傾斜計

○ 監視カメラによる観測

 監視カメラにより、噴煙の高さ、色、火山噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測しています。気象庁では、星明かりの下でも観測できる高感度の監視カメラを設置しています。

監視カメラ

ウ.現地調査

 火山活動に変化がある場合は、現地に機動観測班を派遣し、現地調査を行うことにより、火山活動の正確な把握に努めています。また、全国の活火山について、平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱や火山ガスなど陸上からの観測に加え、関係機関の協力により、ヘリコプターやドローン(第2部第3章第2節コラム「火口周辺調査に無人航空機(ドローン)を導入」参照)等による上空からの観測等を実施し、カメラや赤外熱映像装置などを用いて、地上からは近づけない火口内や地熱域等の様子や火山噴出物の分布等を上空から詳しく調査・把握するなど、継続的な火山活動の把握・評価に努めています。


○ 熱観測

 赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、温度の高まりなど熱活動の状態を把握します。

可視画像と熱赤外映像装置による画像

○ 火山ガス観測

 火山ガスは、水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としており、これらを測定することで、火山の活動状況や地下のマグマの状態を推定しています。特に、二酸化硫黄は比較的容易に遠隔測定可能であるため、気象庁では火山ガス放出量の指標として火山活動の評価に活用します。

噴火後の雌阿寒岳等

○ 噴出物調査

 噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や火山噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。

火山ガス観測、噴出物の調査と降灰調査

エ.災害を引き起こす主な火山現象

 災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。

大きな噴石 噴火によって火口から吹き飛ばされる概ね直径20~30センチメートル以上の、風の影響をほとんど受けずに弾道を描いて飛散する噴石をいいます。

火砕流 噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象です。火砕流の速度は時速百キロメートル以上、温度は数百℃に達することもあります。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。

融雪型火山泥流 火山活動によって火山を覆う雪や氷が融かされることで、火山噴出物と多量の水が混合して地表を流れる現象です。流速は時速数十キロメートルに達することがあり、谷筋や沢沿いを遠方まで流下することがあります。

溶岩流 溶けた岩石が地表を流れ下る現象です。流下速度は地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、比較的ゆっくり流れますので歩行による避難が可能な場合もあります。

小さな噴石・火山灰 小さな噴石は、噴火によって火口から吹き飛ばされる直径数センチメートル程度の、風の影響を受けて遠方まで流されて降るものをいいます。特に火口付近では、小さな噴石でも弾道を描いて飛散し、登山者等が死傷することがあります。火山灰は、噴火によって火口から放出される固形物のうち、比較的細かいもの(直径2ミリメートル未満)をいいます。風によって火口から離れた広い範囲にまで拡散します。火山灰は、農作物、交通機関(特に航空機)、建造物などに影響を与えます。

火山ガス 火山活動により地表に噴出するガスのことです。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としています。火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒を発生する可能性があります。


(2)噴火警報と噴火予報

 噴火警報は、噴火に伴って、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して全国の活火山を対象に発表します。

 例えば、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。なお、「噴火警報(居住地域)」は特別警報に位置づけられています。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関を通じて住民等に直ちに周知されるほか、気象庁ホームページに掲載されます。

 火山活動の状況が静穏である場合、あるいは火山活動の状況が噴火警報には及ばない程度と予想される場合には「噴火予報」を発表します。

噴火警報の種類と「警戒が必要な範囲」について

 また、噴火警戒レベルが運用されている火山においては、地元の火山防災協議会で合意された避難計画等に基づき、気象庁は噴火警戒レベルを付して噴火警報・予報を発表し、地元の市町村等の防災機関は入山規制や避難勧告等の防災対応を実施します。


(3)噴火警戒レベル

ア. 噴火警戒レベルの考え方

 噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、平成19年(2007年)12月から運用が開始されたものです。地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の「地域防災計画」に定められた火山で運用を開始しています。噴火警戒レベルが運用されている火山では、噴火警報・噴火予報に噴火警戒レベルを付して発表しています。

 市町村等の防災機関では、あらかじめ合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。


イ.噴火警戒レベルの設定と改善

 平成27年(2015年)12月に施行された活動火山対策特別措置法の一部改正により、常時観測火山の周辺地域では、火山防災協議会の設置が義務付けられました。令和2年(2020年)3月現在、48火山で噴火警戒レベルの運用が行われており、気象庁では、地元自治体等での具体的な避難計画の策定への助言を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の火山防災協議会と共同で進めていきます。

噴火警報と噴火警戒レベル

(4)その他の情報等

 噴火警報・予報以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。


 このほか、火山現象に関する情報や資料を発表して、火山活動の状況等をお知らせしています。


(5)火山噴火予知連絡会

 火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年(1974年)に発足しました。

 連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究及び観測体制を整備するための検討を行っています。

火山噴火予知連絡会の様子

 連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。

 全国の火山活動について定期的に総合的な検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、臨時に連絡会や部会を開催し、火山活動の総合判断を行います。


コラム 桜島と共生する火山防災トップシティとしての取組(鹿児島県鹿児島市)

鹿児島市のロゴ

 鹿児島市危機管理局危機管理課


 鹿児島市街地から鹿児島湾を挟んだ約4㎞の対岸にそびえる桜島は、60年以上の長きにわたって噴火活動を続けており、昨年は393回の噴火を起こしています。

 市民にとって桜島の噴火や降灰は日常の事であり、桜島上空の風向きや降灰予報もニュース等で流れ、ロードスイーパーでの除灰作業が行われるほか、市民も宅地等の灰を「克灰袋」に集めるなど、地域全体で降灰対策に取り組んでいます。桜島島内では、退避壕や退避舎を設置しており、近年増加する海外からの観光客対応のため、4か国語表記での現在地や避難施設等の案内看板設置を行っています。また、令和元年度(2019年度)で第50回を迎えた桜島火山爆発総合防災訓練では、消防、警察、自衛隊等の防災関係機関と連携した実動訓練を実施しており、さらに、2か月に1回程度開催する火山防災連絡会では、気象台、大学(京都大学、鹿児島大学)、国、県、市で情報共有を行うなど、多くの機関と顔の見える関係づくりも行っています。

 そうした中、本市では、桜島に対する火山防災対策を世界に発信することにより、国内外の火山災害の被害軽減に寄与できるものと考え、2019年3月には、鹿児島市火山防災トップシティ構想を策定しました。同構想では、市民と地域、事業者、研究機関・行政が一体となって、桜島に対する総合的な防災力の底上げを図るとともに、最先端の火山防災に取り組む「鹿児島市」を、火山の魅力も交えながら世界に発信することにより、交流人口に加え、関係人口の拡大を図ることとしています。

 構想の1つ目の柱「大規模噴火でも『犠牲者ゼロ』を目指す防災対策」では、近い将来発生すると言われている桜島の大規模噴火に備え、桜島からの島外避難計画を、バスとフェリーの両方を活用した迅速かつ効率的な避難方法へと見直しました。また、全国に先駆けて大量軽石火山灰に関する本格的な検討を行い、避難対応、保健福祉、救急医療、軽石火山灰除去、ライフライン対策、土石流・河川氾濫対策の各分野に係る対策を、大量軽石火山灰対応計画として策定しています。また、車両走行や道路啓開作業の検証実験を行い、軽石火山灰が堆積した状況下において車両が走行できるか、また、道路啓開にどの位の資機材や作業量等が必要なのかを検証する実験を行いました。

車両走行検証実験の様子

 2つ目の柱「次世代に『つなぐ』火山防災教育」としては、小学6年生を対象として、桜島の防災施設や災害遺構等への訪問体験事業のほか、小学校に火山専門家を派遣して講話やワークショップ等を行うとともに、火山防災教育用副読本の作成・配布を行いました。

 3つ目の柱「『鹿児島モデル』による世界貢献」では、本市と同様に火山を抱えるインドネシアのスレマン県と、火山防災等の交流促進に関する覚書を締結し、今後、本市の火山防災対策やノウハウの提供を図ることとしています。

 以上のように、本市のシンボル・桜島と共生していくため、ハード・ソフトの両面から火山防災対策に取り組んでいますが、より充実した実効性ある火山防災対策を確立できるよう、今後とも、気象台をはじめ関係機関の皆さま方と緊密に連携し、協力をいただきながら対応してまいりたいと考えています。


3章 地球環境の監視・予測

1節 異常気象などの監視と情報発表

(1)異常気象の監視

 気象庁は、世界中から収集した観測データなどをもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を常に監視し、週・月・季節ごとに、極端な高温・低温や多雨・少雨などが観測された地域や気象災害をとりまとめた情報を発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらす異常気象が発生した場合は、その特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表しています。

 なお、気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。

異常気象の監視に用いる世界の観測データ

令和元年(2019年)10月の異常気象や気象災害

 さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会を開催します。異常気象分析検討会では、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て、最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。

異常気象分析検討会

(2)エルニーニョ/ラニーニャ現象等の監視と予測

 エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えます。

 気象庁では、エルニーニョ/ラニーニャ現象、西太平洋熱帯域とインド洋熱帯域における海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。

エルニーニョ現象等監視海域及びエルニーニョ現象時の海面水温平年差

エルニーニョ現象発生時の世界の天候の特徴(3か月平均)

ラニーニャ現象発生時の世界の天候の特徴(3か月平均)

2節 気候変動の監視・予測

 気象庁では、地球温暖化はじめ気候変動に係わる問題に対処するため、温室効果ガスの変動や、気温、降水量、海面水位等の長期的な変化傾向を監視して、気候変動の現状に関する情報として提供しています。また、地球温暖化に伴う将来の気候について、数値モデルで予測計算を行い、気候変動の将来予測に関する情報として提供しています。


(1)気候変動の監視

 気象庁では、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスの大気中濃度の観測を行っています。国内3地点(綾里(岩手県大船渡市)、南鳥島(東京都小笠原村)、与那国島(沖縄県与那国町))で地上付近の温室効果ガス濃度を観測しているほか、北西太平洋域において、航空機による上空の温室効果ガス濃度の観測及び海洋気象観測船による洋上大気の二酸化炭素濃度の観測(第3節参照)を行っており、これらのデータを基に我が国周辺の温室効果ガスの変動を監視しています。

大気中の温室効果ガス観測網国内の大気中二酸化炭素濃度の経年変化

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 上図に示される二酸化炭素等の温室効果ガスの濃度の増加の影響で地球温暖化が進行し、それに伴い、雨の降り方等も変化します。このような気候の変化を監視し、気候変動対策の基盤情報として提供するため、全世界の観測データ等を収集・解析し、その成果を世界の平均気温や降水量の長期的な変化傾向に関する情報として公表しています。また、地球温暖化に伴う国内の気候の変化を監視するため、長期的な観測データ等をもとに、全国・地方を対象に平均気温や降水量、猛暑日や大雨などの極端現象の長期的な変化傾向に関する情報を公表しています。

世界の年平均気温偏差の経年変化(1891?2019年)

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 気象庁では全国の検潮所で観測された海面水位データをもとに、日本沿岸の海面水位の長期的な変化傾向を監視しています。日本沿岸の海面水位は、1906~2019年の期間では上昇傾向は見られないものの、1980年代以降、上昇傾向が見られ、この期間でみると、日本沿岸の海面水位の上昇率は世界平均の海面水位の上昇率と同程度になっています。

 IPCC海洋・雪氷圏特別報告書(2019年)(トピックスⅡ-2参照)では、世界平均の海面水位は最近の数十年加速化して上昇しており、今後も上昇速度が増加しながら続いていき、100年に1度発生していた高潮が、2100年頃には毎年どこかで起こるようになるとの予測が示されています。

 日本の沿岸でも将来的に海面水位が上昇し、顕著な高潮による災害の頻度が増す可能性もあることから、今後も引き続き海面水位の監視を行うとともに、継続して海面水位に関する情報を公表します。

日本沿岸の年平均海面水位の経年変化

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 気象庁は、上記のような我が国と世界の観測に基づく大気や海洋の監視情報を「気候変動監視レポート」として毎年公表しています。


(2)気候変動の将来予測

 気候変動対策を講じるためには、将来の気候の状態を予測した情報が必要です。気象庁は、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴って、将来の気候がどのように変化するのかを数値シミュレーションモデルを用いて予測し、気温や降水量等に関する日本全国の予測結果を数年ごとに「地球温暖化予測情報」として公表しています。最新の予測情報は、平成29年(2017年)に公表した「地球温暖化予測情報第9巻」です。ここでは、将来の温室効果ガス濃度が最も高くなる想定、すなわち地球温暖化の影響が最も大きくなる想定で、21世紀末の日本の気温や降水量、猛暑日や大雨の頻度等の変化を予測しています。防災分野をはじめとした各分野の気候変動対策に活用されることが期待されます。また、気温の上がり方や雨の降り方の変化は地域によって異なりますので、同様の気候変動の予測データに基づいて、各地方の将来変化に関する予測情報も公表しています。

21世紀末頃の日本の年平均気温の将来変化

コラム 地球温暖化に伴うアジアモンスーン地域の降水変化

 日本を含むアジアの多くの国の気候は、大陸・海洋間の温度差から生じるモンスーン(季節風)の影響を強く受けています。夏になると、地上付近では海洋から大陸に向けて水蒸気を多く含んだ風が吹きこみ、大陸やその周辺では大量の雨が降ります。モンスーンは豊富な水資源をもたらす一方で時に水災害をもたらすため、モンスーン地域における降水の将来予測は重要な課題です。ここでは、世界の多数気候モデルによる将来予測(第5期結合モデル相互比較実験)データに基づいて、地球温暖化に伴うアジアの降水の将来変化とその要因分析をした結果について紹介します。

 気候モデルの予測によると、温室効果ガスの排出削減対策をとらない場合、21世紀末の雨季の平均降水量は、日本を含む東アジアでは8%(3~17%)増加、南アジアでは13%(7~18%)増加すると予測されています※1。大雨強度※2については、東アジアでは19%(9~33%)増加、南アジアでは22%(12~48%)増加すると予測されており、平均降水量と比べて大きな増加率となっています。アジアのモンスーン地域では世界のモンスーン地域よりも増加率が大きい点が特筆されます。また、温室効果ガスの排出削減対策を十分にとる場合、各指標の変化は温室効果ガスの排出削減対策をとらない場合よりも大幅に小さいことが分かります。 

 地球温暖化が進行すると、モンスーンは全般的にやや弱まりますが、大気中の水蒸気量が増加するため、海洋から大陸に向かう水蒸気量は増えて、モンスーン地域の降水量は全般的に増加します。ただし、モンスーンの変化には地域性があり、アジアでは、大陸・海洋間の温度差増大によるモンスーン強化の働きにより、降水量の増加率は大きくなります。また、大雨のような短期現象の変化では、水蒸気量増加の影響が卓越するため平均降水量に比べて増加率がより大きくなります。

 日本を含むアジアのモンスーン地域では、今後ますます水災害への備えが必要になるでしょう。

※1 値は多数の気候モデルによる将来予測の中央値と不確実幅で、20 世紀末に対する 21世紀末の値の増加率。

※2 雨季最大5日間降水量

モンスーン地域の降水変化

3節 海洋の監視

 地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。

 気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船やアルゴフロートなどによって海洋の観測を実施しています。

 海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩など))の高精度な観測を実施しています。

海洋気象観測船による観測

 アルゴフロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携してアルゴフロートによる観測を実施しています。

 気象庁では、収集したこれらの観測データなどを用いて、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しを気象庁ホームページの「海洋の健康診断表」や「海洋の情報」で公表しています。

アルゴフロートによる観測アルゴフロートの分布状況

4節 環境気象情報の発表

(1)オゾン層・紫外線の監視と予測

 上空のオゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生物を保護しています。気象庁は、国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果や、地球観測衛星のデータ等を解析して、オゾン層・紫外線の毎年の状況や長期変化傾向を監視しています。これらの観測・解析の成果は、気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護の取組などに活用されています。

日本国内のオゾン全量年平均値の経年変化

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 また、毎日の生活の中で紫外線対策を効果的に行えるように、気象庁ホームページにおいて、翌日までの紫外線の強さの実況値・予測値を毎日提供しています。紫外線の強さは、有害紫外線の人体への影響度を示す指標(UVインデックス)を用いています。

気象庁ホームページで発表している紫外線情報の例

(2)黄砂の監視と予測

 黄砂現象とは、東アジアの砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)や黄土地帯から強風により吹き上げられた多量の砂じん(砂やちり)が、上空の風に乗って運ばれ日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が発生すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、まれに交通障害の原因となり、全国的に大きな影響を与える場合もあります。

平成22年3月21日の大阪市内の黄砂(右上は翌22日の様子)

 気象庁では、黄砂が日本の各地で広く観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページにおいて、黄砂の解析予測図や気象衛星ひまわりによる画像ご覧いただけます。これら気象庁の提供する黄砂に関する情報は、環境省と気象庁が共同で運用する「黄砂情報提供ホームページ」からも確認することができます。

黄砂に関する気象情報黄砂解析予測図(地表付近濃度)ひまわり黄砂監視画像(トゥルーカラー再現画像)

コラム 黄砂解析予測図の提供開始

 気象庁では、黄砂の飛来に関して注意喚起するための気象情報として、黄砂についての観測、予測分布図及び気象衛星ひまわりの監視画像を気象庁ホームページにて提供しています。

 令和2年(2020年)1月から、黄砂の前日の飛来状況から3日先の予測までを連続的かつ面的に表示する「黄砂解析予測図」の提供を開始しました。

黄砂解析予測図

 さらに、これまで日本とその周辺だった表示対象領域を、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠といった主な黄砂発生源を含む範囲に拡張しました。このことにより、黄砂の発生・飛来の状況を早期から時間を追って広範囲に把握できるようになりました。

 この「黄砂解析予測図」は、気象庁と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立大学法人九州大学が共同で開発を進めてきた、気象衛星ひまわり8号・9号のエーロゾル観測データを黄砂解析予測モデルで活用する新しい手法の実用化により、従来よりも高精度で黄砂の分布を解析・予測することが可能となりました。

黄砂解析予測図(地表付近濃度)

(3)ヒートアイランド現象の監視・実態把握

 都市化の進んでいる東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、アスファルトやコンクリート等に覆われた地域(人工被覆域)の拡大とそれに伴う植生域の縮小や人間活動で生じる熱の影響で、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」と呼ばれています。都市化の進展に伴って、ヒートアイランド現象は顕著になりつつあり、熱中症等の健康への被害や、感染症を媒介する蚊の越冬といった生態系の変化が懸念されています。

 気象庁では、全国の大都市の気温や熱帯夜日数等の長期変化傾向や、関東・近畿・東海地方等の大都市圏におけるヒートアイランド現象に関する都市気候モデルを用いたシミュレーション結果等、ヒートアイランド現象の実態と最新の科学的知見を気象庁ホームページにおいて公表しています。

名古屋の熱帯夜日数の変化(1931~2018年)

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ヒートアイランド現象のシミュレーション結果

5節 地磁気観測

 気象庁は茨城県石岡市柿岡に地磁気観測所を置き、女満別(北海道網走郡大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)、父島(東京都小笠原村)の計4地点で定常的な地磁気の観測を行っています。柿岡では大正2年(1913年)以来、高い精度の地磁気観測を続けており、東アジア・西太平洋地域を代表する重要な観測所のひとつとなっています。観測成果は、太陽と地球を取り巻く環境の監視、航空機及び船舶の安全運航の確保、無線通信障害の警報、火山噴火予知等に利用されています。

地地磁磁気気永の年成変分化(柿岡)地磁気の成分

 現在、方位磁針の指す向きは、東京付近で真北から7~8度西にずれています(このずれを偏角と言います。)が、伊能忠敬が地図を作製した200年ほど前はほぼ真北を向いていました。このような長期的な変化は地磁気永年変化と呼ばれ、地球内部の対流に起因しています。地磁気の大きさや向きの分布は一様ではなく、また、地磁気の強弱は地表に到達する宇宙線の増減につながるため、地磁気観測は地球環境が宇宙から受ける影響を監視するためのひとつの手段となっています。

 地磁気は短い時間スケールでも常に変化しています。太陽表面の爆発に伴って地磁気が激しく変化する磁気嵐などは、電波通信や送電システムの障害、人工衛星の運用トラブルなど社会生活に影響を与えるため、地磁気観測所では磁気嵐や地磁気活動状況等の情報を公開し、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が行う「宇宙天気予報」の精度向上に貢献しています。

地磁気活動状況(地磁気観測所ホームページ)

 また、火山を構成する岩石は磁気を帯びています。山体内部の温度上昇や圧力増加等により、その磁気は変化する性質があります。この性質を利用し、草津白根山等の活動的火山で地磁気観測を行って火山活動状況の変化を監視し、その観測成果を関係機関に提供しています。


火山活動に伴う地磁気の変化

4章 交通の安全などのための取組

1節 「空の安全」に欠かせない気象情報


 航空機は大気中を飛行しており、空港での離着陸時を含め常に気象の影響を受けます。上空で乱気流に遭遇すると激しい揺れに見舞われることがあり、滑走路上の見通しが悪かったり横風が強かったりすると、安全に着陸できないことがあります。このように、安全性、快適性、定時性及び経済性が求められる航空機の運航のためには、気象情報が必要不可欠です。

 これらの気象情報は管制機関や航空会社等の多くの関係者に正確に伝わることが重要です。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)と世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象サービスを行うとともに、国内航空のための独自の気象サービスも実施しています。

気象情報を利用するパイロット

(1)空港の気象状況の変化を捉える

 航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国76空港において気象観測を行い、その成果を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットなどの航空関係者へ迅速に提供しています。また一部の空港では、この観測の全てを自動で行っています。

空港に整備する気象観測測器の配置例

 東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(低層ウィンドシアー)を監視しています。


空港気象ドップラーレーダーとライダー

 さらに、東京、成田、関西の各国際空港においては、空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層ウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。低層ウィンドシアーは、離着陸する航空機の安全に影響することから、これらが観測された場合は、低層ウィンドシアー情報として直ちに管制官に通知し、パイロットへ伝達されます。

 また、雷監視システム(LIDEN)により、全国30の空港にその検知局を設置し、中央処理局において日本周辺の空域を対象に雷の位置、発生時刻などの情報を作成しています。作成した情報は航空関係者などへ直ちに提供しています。

空港気象ドップラーレーダーの観測例

コラム 空港低層風情報の提供

 空港低層風情報(ALWIN)は、航空機が着陸する経路に沿った各高度の風向風速を示した気象情報です。着陸時に風向風速が変化する高度がわかるため、航空機の安全運航に役立てられています。

 ALWINは気象庁と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発したもので、東京国際空港、成田国際空港及び関西国際空港の情報を航空会社等へ提供し、航空会社では着陸する航空機のコックピットに共有する等して利用しています。ALWINによる風向風速の算出には、空港気象ドップラーレーダー、空港気象ドップラーライダー及び風向風速計の観測データを用います。

東京国際空港におけるALWINの例

(2)空港の安全と経済的な運航のために

 航空機の飛行計画を立てる際には、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合に着陸する代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程、天気などの詳細な30時間先までの「飛行場予報」を、国際定期便などが運航している38空港を対象として発表しています。航空関係者へ提供される飛行場予報は、航空機材の運用計画や地上作業員の安全確保などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港において、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及びその業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合は、「飛行場警報」を発表し、航空関係者に対して警戒を促します。

空港の予報の発表例

 このほか、航空関係者に対して、各空港や航空路上の気象状況や今後の予想について解説などを行っています。また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)に対しては、気象庁の航空交通気象センターより、航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。

空港の予報・警報を作成する現場

(3)飛行中の航空機の安全を守るために

ア.空域の気象情報

 飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷、火山の噴煙等に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を提供して運航の支援を行っているほか、小型機の安全と効率的な運航の支援を主な目的として、下層空域の悪天を対象とした「下層悪天予想図」の提供を行っています。

国内悪天予想図の発表例

コラム 航空気象用積乱雲情報・霧監視プロダクトの提供

 気象庁では、ひまわり8号の観測データを利用して、航空機の安全運航に役立つ様々な気象情報(プロダクト)を作成・提供しています。ここでは、積乱雲と霧に関するプロダクトについて紹介します。積乱雲によって短時間の大雨や雷、突風などが発生する場合がありますが、飛行機に落雷すると機体に損傷を与える可能性があり、また、突風などの気流の乱れは航空機の運航に大きな影響を与えます。さらに、航空機の安全な離着陸には空港周辺の見通しが良いことが必要ですが、空港周辺で霧が発生すると、見通しが悪くなり、離着陸ができなくなる場合もあります。このため、これらの現象を的確に把握することは、航空機の運航において非常に重要です。

 積乱雲に関するプロダクト(積乱雲情報)については、平成24年(2012年)にひまわり6号の高頻度観測を利用して提供を開始し、現在はひまわり8号の多種類で高頻度な観測データを利用して提供をしています。積乱雲情報は「積乱雲域(発達した積乱雲のある地域)」、「積雲急発達域(1時間以内に急発達するような地域)」及び「中下層雲不明域(衛星から中下層の雲が見えない地域)」の3種類の雲情報で構成されています。

 また、霧監視プロダクトは霧の有無を示す情報で、平成31年(2019年)3月より日本周辺の領域を対象として提供しています。霧の有無の判定には、ひまわり8号の観測データだけでなく、数値予報モデルの地上付近の気温や湿度の情報も利用して精度を高めるようにしています。

 これらのプロダクトは、「航空気象情報」のページ(https://www.data.jma.go.jp/airinfo/index.html)で閲覧することができます。

 気象庁ではこれからも、航空機の安全運航のために、最新の技術を取り入れたプロダクトを作成・提供していきます。

積乱雲情報プロダクトの表示例霧監視プロダクトの表示例

イ.航空路火山灰情報

 火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスがすりガラス状になり視界が利かなくなったりするなど、航空機へ多様な影響を与えます。気象庁は、航空機の安全な運航を確保するために、東京航空路火山灰情報センターを運営し、火山噴火と火山灰の監視を行い、火山灰に関する観測・予測情報を「航空路火山灰情報(テキストと図情報)」として発表しています。

航空路火山灰情報(火山灰拡散予測図)の例

(4)より役立つ情報提供を目指して

ア.数値予報モデルを用いた精度向上

 訪日外国人旅行者数を大幅に増やす政府の目標達成のため、首都圏空港の機能を強化する等の取組が進められています。こうした取組によりさらに増大する航空交通需要に対応するために、気象庁は航空気象情報の更なる高度化を図っています。

 例えば、もし予期しない強い横風や雷雨などの悪天によって空港に着陸ができなくなる事態が発生した場合、たちまち多数の航空機が空中で待機したり引き返したりすることとなり、航空機の流れを円滑に保つことが極めて困難になります。このため気象庁は、緻密な数値予報モデル(局地モデル)を利用して、飛行場予報や空域の気象情報の精度向上に取り組んでいます。

緻密な数値予報モデルに基づく航空気象プロダクト

イ.気象衛星データによる火山灰監視の高度化

 東京航空路火山灰情報センターでは、静止気象衛星ひまわりの衛星画像を利用して火山灰の監視を行っています。ひまわり8号・9号は、これまでの静止気象衛星と比べ、高解像度・高頻度の観測が可能となり、観測画像の種類も増加しました。これらの新しい観測データを活用し、より迅速で的確な情報発表を目指していきます。

気象衛星ひまわり8号で観測した桜島の火山灰(令和元年(2019年)9月16日10時30分頃)

(5)ISO9001 品質マネジメントシステムの導入

 気象庁では、ICAOやWMOからの求めにより、航空機の安全及び経済的な運航のため、航空気象部門にISO9001に準拠した品質マネジメントシステムを導入しています。

 ICAOやWMO、航空気象情報の利用者からのニーズは、時代の流れや技術の進歩とともに変化していくことから、品質マネジメントシステムの仕組みの下、適時適切な航空気象サービスを提供し続けられるように努め、また、誤りを低減・防止する取組や情報内容の充実といった改善を重ねることにより利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。


2節 船舶の安全などのための情報

 船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性の確保のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められるため、気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な運航を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報を、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋の船舶に提供するための通信手段として無線や通信衛星(インマルサット)による衛星放送などにより、さまざまな機関と協力して提供しています。

船舶向け気象情報の種類と提供方法

(1)日本近海を対象とした情報

 日本の近海については、沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12の地方海上予報区に分け、さらにそれぞれの海域を複数に細分した海域を対象に、地方海上予報・警報を発表しています。また、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。

 日本近海で操業する漁船向けには、台風、高気圧、低気圧、前線などの実況と予想、気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています(ラジオ天気図とも呼ばれています。)。また、漁業用海岸局を通じて、天気概況や気象実況、海上予報・警報などを無線通信で提供しています。 

 これらの海上予報・警報を補足する情報として海上分布予報があります。24 時間先まで6時間ごとの風、波、霧、着氷、天気の分布の予想図を提供しており、気象庁ホームページから見ることができます。

地方海上予報・警報の発表海域区分海上分布予報(風向・風速)の例

(2)外洋を対象とした情報

 気象庁は北西太平洋など(概ね赤道から北緯60 度、東経100 度から180 度に囲まれる海域)を対象として、低気圧や台風に関する情報や、海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。

 この他に、低気圧や台風などの位置や海上警報の内容を掲載した実況天気図、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想を掲載した予想天気図や、台風、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況図や予想図を提供しています。これらは、短波の無線FAX放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)で提供しているほか、気象庁ホームページからも閲覧することができます。中でも実況天気図や予想天気図は、テレビなどにおける気象解説にも用いられており、広く親しまれています。

海上悪天24時間予想図と、日本周辺の予想天気図の例

(3)沿岸防災のための情報

 気象庁では、高潮、副振動、異常潮位、高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を活用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。

 一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。

潮位と波浪の情報(情報の流れ)

5章 産業の興隆などのための取組

1節 生産性向上に向けた取組

(1)はじめに

 IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」により、社会的課題の解決や、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす新たなビジネスの創出が期待されています。

 また、「成長戦略フォローアップ」(令和元年(2019年)6月21日閣議決定)では、Society5.0が目指す経済発展、社会課題の解決の実現に向けて、都市の管理や産業活動などにおいて気象データを用いたAIによる分析を容易に行うことができるよう、ニーズの高い気象データの提供とともに、気象データ利活用のための人材育成の仕組みについて「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」(以下「WXBC」という。)の活動を通じて検討を進めています。さらに、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和元年(2019年)6月14日閣議決定)では、気象情報の利活用の促進の一環として、産学官によるWXBCの取組や、基盤的な気象観測・予測データの公開を通じ、観光、物流、農業など様々な産業分野での気象情報の利活用を促進することとしています。

 このように、様々な産業活動における気象データの利活用が注目されています。


(2)産業界で進む気象データの活用

ア. ビッグデータである気象データ

 気象庁は、日々自然現象を観測し、収集したデータを解析することにより、状況の把握や予測を行い、様々な情報を作成・提供しています。気象データには、アメダス、天気予報、警報・注意報など、個々の容量は小さいものの多くの領域や地点に分かれているデータや、気象衛星データや数値予報データなど、面的・立体的(メッシュ状・3次元)な広がりを持つ容量の大きいデータがあります。近年の気象観測・予測技術の高度化に伴い、データが高頻度・高解像度になったり、新たなデータが追加されてきたりしています。

 例えば静止気象衛星「ひまわり8号・9号」は、搭載されたセンサーのバンド数が16バンド、観測間隔も10分ごと(日本域は2.5分ごと)と、観測の種類や頻度において世界最高水準の機能を有しています。そのデータ量は1日分で数百GBに達し、前世代の静止気象衛星に比べて飛躍的に増加しています。また、令和元年(2019年)6月には2週間気温予報、11月には解析積雪深・解析降雪量など、農業、小売、物流等の様々な業種での利活用が想定される新たな気象データの提供が開始されています。

 気象データは、オープン化された公的データであるとともに、まさにビッグデータと言えます。


イ. Society5.0における気象データ

 Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)です。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、我が国が目指すべき未来社会の姿として、第5期科学技術基本計画において、初めて提唱されました。

 Society5.0 では、フィジカル空間のセンサーから膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、この膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAI が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされ、これまでにはできなかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります。

これまでの情報社会とSociety5.0

 気象データが、社会における様々なビッグデータや、Society5.0における先端技術と組み合わせて活用されることにより、様々な産業分野で高度な利活用が進み、経済活動等におけるイノベーションが可能となります。例えば、交通分野では道路状況に応じた自動運転等の安全で快適な交通の確保、海上・航空における安全で効率的な運行、太陽光発電や風力発電等を考慮した的確な需給計画、製造や物流、小売業における最適なバリューチェーンの展開、超省力・高生産の農業やスマート農業など、交通や農林水産業、インフラ、物流・小売、観光等の様々な産業分野において多様なサービスが創出され生産性の向上が実現します。

Society5.0における気象データ

ウ. 気象データの活用の状況と課題

 気象庁では、令和元年度(2019年度)に産業での気象データの利活用実態を調査するため、様々な産業の10,000社を対象としたアンケート調査を行いました。その結果、回答のあった企業のうち約7割が事業活動に気象の影響を受けていることがわかりました。また、そのうち約半数は影響を受けることを認識していても気象に応じた事業活動の変更を行っておらず、変更を行っている企業も、大半が経験と勘をもとにしたもので、気象データを定量的に分析してサービスを変更する等の事業運営を行えている企業は全体の約1割と多くないことがわかりました。気象データが十分に企業で活用されていない課題として、気象データを扱える専門的な人材の不足や気象データの利活用方法がわからないこと等が挙げられ、気象データの利活用に関しては大きな伸びしろがあることがわかりました。

 気象庁では、このような課題を克服し、企業における気象データの利活用を促進するため、「気象ビジネス市場の創出」に取り組んでいます。具体的には、基盤的気象データのオープン化・高度化に取り組みつつ、WXBCと連携して、気象データを扱える人材育成のためのセミナー開催とともに、気象データの利活用に関して提言・助言等を行える専門技術者の育成や確保の仕組みについても検討を進めています。また、全国各地でのセミナー等を通じて気象データを利活用した気象ビジネスの普及啓発や、気象ビジネスの創出・強化のため企業間マッチングの場の提供等にも取り組んでいます。


(3)気象データ利活用促進による社会の生産性向上に向けた取組の推進

ア. 基盤的気象データのオープン化・高度化

 気象庁では、気象情報の利活用を促進するため、気象庁ホームページに「気象データ高度利用ポータルサイト」を設けています。このページには、気象庁が提供する各種情報を整理した「気象庁情報カタログ」、技術的な解説資料である「配信資料に関する技術情報」、アメダス観測データや1か月予報に関する気温予測データ(CSV形式)、数値予報データのサンプルファイル、気象庁の気象観測地点の位置情報や気象庁防災情報XMLで用いるコードが示す地域のGISデータ(シェープファイル形式)、気候リスク評価に関する調査・研究の結果についても公開しています。特に「配信資料に関する技術情報」については、令和元年度(2019年度)に、これまでのものを整理し、利用者が容易に最新の技術的な解説資料を得られやすくする工夫を行いました。引き続き、利用者の意見を把握しつつ、これらの取組の更なる推進や新たなデータの提供等の基盤的データのオープン化・高度化の取組を進めていきます。


イ. 「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」と連携した気象データ利活用の促進

 産学官関係者の対話や連携を強化して、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、平成29年(2017年)3月にWXBCが設立されました。気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業界や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員とし、会員数は、設立当初は215、 令和2年3月には800者を超えるなど順調に増えています。

 WXBCでは、二つのワーキンググループ(WG)を設置しています(人材育成WG、新規気象ビジネス創出WG)。人材育成WGでは、ビジネス発想力・気象データ理解力向上を目指し、気象データに関する概要や利活用方法に関するセミナーを全国各地で開催するとともに、気象データとオープンデータを掛け合わせてデータ分析を行う勉強会等を開催しています。新規気象ビジネス創出WGでは、気象データを利活用したビジネス事例の創出を目指し、企業等の出会いの場としてマッチングイベントの開催、気象データの利活用方法を紹介した「気象データの利活用事例集」の作成に取り組んでいます。

 特に、前述の課題に応えるべく、両WGと気象庁が連携して、実務に役立てられるような、気象データと他のデータを組み合わせた分析を行う人材の育成について検討しています。どのような人材をどのように育てるか等について、産業界のニーズを踏まえつつ、早期に実現できるよう取り組んでいます。

 また、産学官関係者が一堂に会する対話の場を設け、気象事業者と産業界のマッチングを促すものとして、「気象ビジネスフォーラム」を毎年開催しており、令和2年(2020年)2月4日に第4回気象ビジネスフォーラムを開催しました。今回のフォーラムでは、気象データを活用したビジネス事例の紹介のほか、今後の気象ビジネスの展望に関して気象データとの付き合い方をテーマとして、産学官によるトークセッションが行われました。また会場では、WXBC会員企業等による気象に関する取組・サービスを紹介するブース展示も開催し、参加者間の活発なビジネス交流の場となりました。フォーラムの参加者は約400名にのぼり、会場は熱気に包まれました。

気象ビジネスフォーラムの様子

ウ. 民間気象事業者等に対する支援

 気象庁は、自らが保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、民間気象業務支援センターを通じて、気象サービスを提供する民間の事業者(以下「民間気象事業者」という。)等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間気象事業者が行う予報業務の基礎資料となるほか、個別企業や個人のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動や社会サービスの基盤としても活用されています。

 また、気象庁による数値予報等の予測技術の高度化に伴い、それを民間気象事業者に更に活用されるよう、気象庁では、民間気象事業者を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会を開催しています。

 観測・予測技術の進展等により民間でも高頻度の降水短時間予報の提供が可能になり、また、研究開発の成果を公表するために予報業務許可を受ける研究機関が増えるなど、近年、予報業務の態様が変化しています。制度面からもビジネス利用を促進するため、「気象業務法施行規則」や「予報業務許可等に関する審査基準」の一部を令和元年(2019年)6月に改正し、気象予報士の設置基準を一部緩和するなど、予報業務許可に関する規制の一部を見直しました。


コラム 気象ビジネス推進コンソーシアムの活動に参加して


 WXBC新規気象ビジネス創出WG副座長
 菅波 潤
 (富士通(株)DSSBG 事業推進統括部業務支援部シニアマネージャー)


 WXBCが設立され3年、会員数は800を超え、未だ増加の勢いは衰えません。デジタルトランスフォーメーション(DX) に向けた気象データへの期待の大きさの表れだと思います。

 昔から気象は、農業・漁業・小売・航空・保険など様々な分野で重要な情報として活用されてきました。なぜ今、あらためて気象データへの期待が高まっているのでしょうか?背景として、IoTセンサー等により取得できるデータが増え、AI等の先端技術によりこれらのビッグデータを扱える環境が整い、ロボットやドローンや自動運転等の活用の場が増えてきたことがあります。それに加えて、気象データの強みは、「過去の蓄積」と「現在の状況」がしっかりある上で、「未来の予測」であることです。時空間的に揃ったデータが確実に配信され、絶えず精度向上されていること、これが他のデータに比べ圧倒的に期待される要因だといえます。

 ビジネスで大事なのは儲けを生み出す「先手」です。未来が判れば先手が打てます。諺「風が吹けば桶屋が儲かる」を例に、どうすればよいかを見てみましょう。桶屋が常に強風を見越して大量の在庫を抱えていては、強風が吹かなかった際、仕掛金や保管費の増大、劣化品処分の発生などで大損です。かといって在庫がないと、強風特需に対応できず他社の後塵を拝します。強風が吹くことを事前に予測できれば、生産計画、在庫確保、先手を取った桶提供までを実現し儲けることができそうです。しかし、強風といってもどんなものでしょう。どの位の瞬間風速や平均風速なのか、どの位の広さで発生したのか、どの位の時間継続したのか、風向の変化によるものなのか等が関係しそうです。加えて、その前後の湿度や地面の状態(表面雨量指数や土地利用情報)等も土埃発生に関係しそうですね。

 このように因果関係のある説明変数(気象データなど)と目的変数(目に障害を与えるほどの土埃の発生)の関係性を「過去の蓄積」からAI等で分析できると、KKD(勘と経験と度胸)に頼らず「現在の状況」をもとに客観的な需要予測が「未来の予測」として実現できます。ただし、「未来の予測」は完璧ではありません。どの位前にどの位の精度で当てられるか、を考える必要があります。例えば、寒暖候期予報で事業計画、3か月予報で仕入計画、1か月予報で生産計画を立て、そして、週間予報、天気予報と必要に応じて竜巻発生確度ナウキャストなどで稼働調整を行う、といった形です。また、外れるリスクも確率的に定量化できるため、リスクヘッジ検討も具体化しやすくなります。このように桶屋さんは、気象データを活用したDXで先手を取り、利益拡大ができそうですね。

 諺からの例示でしたが、気象データにはまだまだ沢山の種類と組み合わせがあり、より高度な利活用が可能です。しかし、時空間的なデータの種類とその量の多さ故、扱いの難しさがあります。そのため、WXBCでは気象データの利用方法などのセミナーや勉強会を開催しスキルアップを図り、気象データを活用したビジネス強化・創出のための会話と実践ができるようになると確信しています。

 私たちは、WXBC創設の初年度よりそのための共創の場をご提供してきております。DXの要といえる気象データの活用をこれからも支え、みなさんと一緒に邁進したいと考えています。


2節 民間の気象事業

 気象等の現象は、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接に関わっており、国民及び産業界には気象情報に対する幅広いニーズが存在しています。また、近年では、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できるようになってきました。このような社会情勢を踏まえた多様なニーズに応えるため、様々な民間気象事業者が活躍しており、今後、その役割はますます重要になってきます。

 ここでは、民間気象事業者による適切な気象サービスの提供を支える、予報業務の許可制度や気象予報士制度について解説します。


(1)予報業務の許可制度

 気象等の情報は国民の生活に深く関わりがあり、社会の混乱を防ぐため、民間気象事業者から提供される情報は技術的に裏付けられたものである必要があります。そこで、民間気象事業者が気象、波浪、地震動、火山、津波の現象の予報業務を行う場合は、事前に施設、要員、技術上の基準等を審査する予報業務許可制度を設けており、様々な事業者が許可を取得しています。

 気象庁では、観測・予測技術の進展や社会情勢の変化に応じて予報業務許可に関する規制の一部を見直す取組を進めており、令和元年(2019年)には民間気象事業者による高潮の予報も可能となりました。


(2)気象予報士制度

 気象、波浪、高潮の現象の予想を行うには、数値予報資料の解釈など高度な技術を要します。このため、民間気象事業者がこれらの予報業務を行うためには、予報に必要な知識や技能を問う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受けた気象予報士に現象の予想を行わせなければなりません。また、気象予報士には、報道等を通じた解説や住民を対象とした防災講演会に加え、気象データの分析を経営に生かすビジネス分野での活躍も期待されています。令和2年(2020年)4月1日現在、10,693人が気象予報士として登録されています。

気象予報士の登録者数の推移

CSVファイル[1KB]


 なお、地震動、火山、津波の予報業務については、気象予報士ではなく技術上の基準を定めています。民間気象事業者が予報業務を行うためには、この基準を満たす必要があります。


6章 地域の防災力向上へ向けた取組

 中央防災会議は、「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の報告書(平成30年(2018年)12月26日公表)において、これまでの「行政主導による防災対策強化」という方向性を根本的に見直し、住民が「自らの命は自らが守る」意識を持って自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援することで、「住民主体の取組強化」による防災意識の高い社会の構築を目指すとしています。

 気象庁では、全国の気象台で気象や地震などを観測し、予報・警報などの防災気象情報を発表、解説するとともに、情報の意味や意図が十分に理解され活用されるよう「伝わる」、「使われる」ための様々な取組を、地方公共団体及び関係省庁の地方出先機関等と一体となって推進しています。


1節 災害に備えた平時の取組

(1)実際の防災行動を行う住民等への普及啓発

 住民が「自らの命は自らが守る」意識を持つためには、住民自身が、平時から「災害リスクを正しく知ること」、「リスクに応じた避難行動を考えておくこと」が重要です。このため気象庁では、住民等を対象とした出前講座やリーフレット等の作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んでいます。しかし、自治会等が組織した自主防災組織だけでも全国に約16万5千も存在し、気象庁だけではやれることに限りがあることから、様々な機関と連携した取組を進めています。

 例えば、文部科学省、国土交通省及び国土地理院と共同で、教科書・教材出版社を集めた説明会を開催するほか、各地の教育委員会や、「気づき、考え、実行する」を目標に掲げて活動する日本赤十字社等と連携し、児童生徒や教職員を対象とした防災教育の普及に努めています。また、防災・地球環境を含む気象知識の教育・普及に取組む一般社団法人日本気象予報士会や、防災・交通安全などの様々な啓発活動を行っている一般社団法人日本損害保険協会等とも連携し、地域住民等を対象とした防災知識の普及啓発にも取り組んでいます。さらには、自治体が行う防災知識の普及啓発活動に積極的に関わるとともに、その活動を支援するため、気象予報士等の専門家をリスト化し都道府県及び市町村へ共有するなどの取組も進めています。

 その他、学校や自主防災組織等の各種活動で自由にご利用いただけるよう、防災教育に使える副教材・副読本を対象年齢別、現象別、形態別、作成者別に整理して気象庁ホームページ(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/fukukyouzai/index1.html)で公開しています。そのなかには、グループワーク形式で状況に応じた安全行動をシミュレーションする「気象庁ワークショップ『経験したことのない大雨その時どうする?』」のように、参加者が「受け身(一方的に『聴く側』)」とならないよう、積極的に参加し、脳をアクティブにして学べる教材も含まれています。

中学校での出前授業

(2)防災の最前線に立つ市町村等への支援

 住民に対する避難勧告等の発令など災害時の現場での意思決定は市町村長の責務です。平時における災害リスク等の住民周知や、緊急時における避難場所の開設なども市町村の役割となっています。このため、市町村が避難勧告等を発令する判断力や平時からの災害への対応力を底上げすることが非常に重要になってきます。

 これらを支援するため、気象庁では地方公共団体職員に対して、防災気象情報を活用し、避難勧告等の発令など災害発生時の市町村の防災対応を疑似体験していただく「気象防災ワークショップ」を、関係機関と連携し積極的に開催しています(詳細は気象庁ホームページで公開 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws2/index.html)。令和元年度(2019年度)は、のべ706市町村から防災担当者が参加し、防災気象情報を理解しその活用方法を学んでいただきました。

気象防災ワークショップ開催風景

 加えて、市町村等の活動をより一層支援するため、地域ごとの専任チーム「あなたの町の予報官」を割り当てる体制づくりを順次進めています。さらに、気象予測に関する高度な技術と防災の知見を兼ね備えた「気象防災アドバイザー」を育成(平成29年度事業)し、市町村等の防災対応能力向上に活用いただけるよう広報活動を進めています。


コラム 「あなたの町の予報官

 気象台が担当する府県内を複数の市町村からなる地域に分け、その地域ごとに3~5名程度の職員を担当として割り当てる体制作りを順次進めています。

 この担当チームは地域の実情をよく理解した「あなたの町の予報官」として、市町村の立場に寄り添って、市町村が地域防災計画や避難勧告等の判断・伝達マニュアルを改定する際に協力していきます。また、関係機関と連携して、市町村等が実施する地域防災リーダーや一般住民を対象とした防災教育や安全知識の普及啓発にも協力していきます。

あなたの町の予報官

 こうした取組を推進することにより、担当者同士の緊密な「顔の見える関係」を構築・強化することができ、チーム制という強みを活かして、市町村や気象台の担当者の一部が交代する際も切れ目のない的確な支援を継続的に行うことが可能となります。

 緊急時には、平時に構築した「顔の見える関係」を活かして、「あなたの町の予報官」が中心となり、説得力を持った適時・的確な気象解説等を実施することにより市町村の防災対応を支援しますが、災害の危険度・切迫度に応じて、必要であれば他の地域を担当するチームの応援を得るなどして、気象台の総力を挙げて対応します。


2節 災害時の市町村等の防災対応を支援する取組

 気象台では、平時に蓄積した知見等を十二分に活用し、防災気象情報が市町村の防災対応の判断に活かされるよう、現象の推移に応じて台風説明会を実施することなどにより、警戒を呼びかけます。

 また、災害の発生が予想される場合などにおいては、気象台の危機感を直接市町村長へ伝えるため、気象台長よりホットラインを実施し、市町村が発令する避難に関する情報へ助言しています。加えて、JETT(気象庁防災対応支援チーム)を災害対策本部等へ派遣し、気象の見通しなどを解説することにより、災害対応に当たる関係機関の活動を支援しています。


コラム 気象庁防災対応支援チーム(JMA Emergency Task Team:JETT)

 気象台は災害が発生した、または発生が予想される場合に、あらかじめ定めた応援計画に基づき都道府県または市町村に気象庁防災対応支援チーム(JETT)として気象台職員を迅速に派遣します。

 JETTは、災害対応現場におけるニーズを把握しつつ、気象状況を解説するなど自治体の防災対応支援を実施します。

 JETTの創設以降、平成30年7月豪雨、平成30年北海道胆振東部地震、令和元年房総半島台風(台風第15号)、令和元年東日本台風(台風第19号)などの災害に対して積極的にJETTの派遣を行い、これまで延べ2,800人日を超える職員を各地の自治体に派遣しました。

JETTによる気象解説

3節 次の災害に備えて

 緊急時の対応について更なる改善を進めていくためには、気象台がどのような情報提供や解説を行い、それらの技術上の限界はどうだったのか、また、市町村がそれらの情報を防災対応の判断にどのように活用できたのか等、当時の状況やお互いの対応について、気象台と市町村等が共同で振り返ることが大切です。気象台ではこの「振り返り」についても、積極的に実施しています。

 このような「振り返り」の作業を通じ、市町村等と気象台がお互いをより深く知り、具体的な課題を共有し、対応の流れや内容について実効的な工夫を検討することで、平時、緊急時を問わずお互いの取組改善に活かし、地域全体の気象防災力の向上につなげていきます。


コラム 地域防災の責務を果たすために ~市町村の活動に『気象予報士』の活用を~


 長野県伊那市総務部危機管理課(令和2年1月現在)
 吉田 桂子


 伊那市は、南アルプスと中央アルプスに挟まれ、天竜川やその支川の三峰川(みぶがわ)をはじめとする多くの中小河川の浸食・堆積により形成された複雑な地形をしています。これまで多くの土砂災害や水害に遭ってきました。私は、昭和57年・58年の台風で2年続けて自宅を濁流に流されそうになりました。川が決壊し道路や田畑は削り取られ、流木や土砂が人里を襲いました。この災害で同級生は家を失い、集落移転で引っ越しました。復旧工事が進むなか、仮設の歩道を歩いて通学したことは忘れられません。令和元年の台風第19号による大雨は、当時の状況を彷彿とさせるものだったのです。

 台風が伊那市に近づく時、いつもなら山岳にぶつかりながら勢力を落とします。しかし今回の台風は、海面水温の高い海上で大量の水蒸気を蓄え、今までにない大型で強い勢力を維持したまま伊那市に近づいてきました。「猛烈な雨域は南アルプスを越える。経験したことがないことが起こる」と直感し、緊張が走りました。気象庁は異例の早さで記者会見を開き『大雨特別警報』発表の可能性に言及しました。『気象予報士』の資格を持ち、市の危機管理課に所属している私は、甚大な災害の発生を想起し危機感をつのらせました。大雨は、台風が伊那市に接近する半日前から激しく降り続きました。そして、伊那市に初めて『大雨特別警報』が発表される事態となりました。三峰川の上流では、24時間600ミリを超える記録的な大雨となり、この川にある美和ダムが、流れ込んだ水量をそのまま放流する「異常洪水時防災操作」を行うとの通知が入った時は慄然としました。私は、気象観測・予測資料や防災気象情報、河川事務所やダム管理所など関係機関からの情報をもとに、災害をイメージし対応にあたりました。対応が後手に回る事は避けなければなりません。改めて、身近にどのような災害リスクがあるのか認識し、資料や情報を読み解く力の重要性を痛感しました。

 近年、風水害の危険性は、ある程度予測できるようになりました。地元気象台はきめ細かい情報提供に努め、不明な点は丁寧に解説してくれます。しかし、市町村は、気象情報を住民の命に直結する避難情報等の発令判断に活用しようとしているのです。予測される現象のパターンは複数存在するのが一般的です。予測と実際の現象にはズレが生じるので、それにいち早く気づき、速やかに必要な判断をしなければなりません。そのためには、市町村の職員にも、住民の皆さんが持っている以上に、気象の資料や情報を読み解く知識が必要だと思います。

 市町村などの自治体に『気象予報士』がいると、周囲の職員もテレビ等では得られない、詳しい気象解説に触れる機会が多くなります。気象の知識が広まり対応できる職員が増えると、住民の安全安心に資する適切かつ速やかな応急対応だけでなく、住民への防災知識の普及啓発活動の拡大が期待されます。地域に係る防災の責務は市町村にあります。風水害は、更に激甚化、広域化、頻発化するといわれています。市町村の職員だけでなく、住民の皆さんにも、気象情報や避難に関する情報、取るべき避難行動についてまだまだ知っていただく必要があります。市町村全体の防災能力底上げのため、是非ひとつでも多くの市町村で『気象予報士』の活用を進めてほしいと思っています。私自身も『気象予報士』としての知識を、なお一層業務に役立たせたいと考えています。

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