特集 特集1 平成30年7月豪雨 1 平成30年7月豪雨 (1)概要  平成30年(2018年)6月28日以降、華中から日本海を通って北日本に停滞していた前線は、7月4日にかけて北海道付近に北上した後、5日には西日本まで南下して停滞しました。また、6月29日に日本の南で発生した台風第7号は、東シナ海を北上し対馬海峡から日本海に進みました。その後も7月5日から8日にかけて西日本に停滞した前線に向かって、南から暖かく非常に湿った空気が供給され続けたため、6月28日から7月8日までの総降水量は四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えたところがあるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となる量を観測し、西日本から東海地方を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となりました。  この大雨の期間に対応する平成30年7月上旬に、全国のアメダス観測所で観測された降水量の総和は、昭和57年以降の各旬の値と比較して最も多い値となりました。この期間に全国で降った雨の総量は、過去の豪雨災害と比べても極めて多いものであったと言えます。  この大雨により、高梁(たかはし)川水系小田川等の堤防決壊に伴う岡山県倉敷市真備町を中心とした大規模な浸水被害や、広島県広島市、呉市、安芸郡坂町等において多数発生した土石流等の土砂災害により、多くの人的被害が発生し、全国の死者224名、行方不明者8名に及び、豪雨災害としては平成に入って最悪の人的被害となりました。また、家屋の全半壊は約17,000棟、浸水家屋は約30,000棟に達しました※。このため、気象庁では、平成30年6月28日から7月8日に発生したこの豪雨について、「平成30年7月豪雨」と名称を定めました。 ※ 被害状況は「平成30年7月豪雨による被害状況等について」(内閣府、平成30年10月9日17時00分現在)による。 (2)平成30年7月豪雨をもたらした大雨の気象要因  7月5日から8日にかけて、西日本を中心に長期間かつ広範囲で記録的な大雨をもたらした気象要因は、次の3つと考えられます。 (A)多量の水蒸気を含む2つの気流が西日本付近で持続的に合流 (B)梅雨前線の停滞・強化などによる持続的な上昇流の形成 (C)局地的な線状降水帯の形成 (3)記者会見や防災気象情報の発表等による警戒の呼びかけ  気象庁では、大雨となる数日前から、記録的な大雨になるおそれがあり警戒が必要であることを、記者会見や全般気象情報等で積極的に呼びかけました。早い段階から防災気象情報を発表したことに加え、本格的な大雨となる前日の5日には気象庁本庁で記者会見を開催し、「記録的な大雨となるおそれ」という言葉で警戒を呼びかけました。さらに、6日午前中に実施した記者会見では、気象庁の持つ危機感を伝えるため、「今後、重大な災害の発生するおそれが著しく高くなり、大雨特別警報を発表する可能性がある。土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報などや、地元市町村の避難情報に留意し、早め早めの避難を。」と特別警報の発表にも言及し、一層強く警戒を呼びかけました。  更に、各地の気象台では、警報、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報等の防災気象情報を発表し、厳重な警戒を呼びかけるとともに、ホットライン等により気象台から直接危機感を伝えました。また、岐阜県、京都府、兵庫県、岡山県、広島県、鳥取県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県の1府10県に特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけました。 コラム ■平成30年7月豪雨における危険度分布の状況  気象庁では、災害発生の危険度の高まりを地図上に5段階で色分けして示す「危険度分布」を気象庁ホームページで公開※1しています。5段階の色のうち最大の危険度を意味する「濃い紫(極めて危険)」は、災害がすでに発生している可能性が高い状況であることを表しています。また、一つ手前の「うす紫(非常に危険)」は、今後数時間以内に「濃い紫」になることが予想されている状態を表しています。  平成30年7月豪雨で死者・行方不明者を伴った土砂災害が起きた場所の大雨警報(土砂災害)の危険度分布の状況を確認したところ、いずれも過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況を示す「濃い紫」が出現していました。 ※1 危険度分布は、土砂災害、浸水害、洪水の危険度をそれぞれホームページで公開しています。  また、平成30年7月豪雨時の矢野川(広島市安芸区)では、7月6日20時30分には洪水警報の危険度分布で「濃い紫(極めて危険)」が出現していました。その時の実際の映像でもその氾濫水によってすでに避難が困難な状況となっていたことが確認できました。このように「濃い紫」は災害がすでに発生している可能性が高いことを表しています。 コラム ■平成30年7月豪雨の局地的な特徴  平成30年7月豪雨では、7月5日から8日にかけて、東海地方から九州地方の広い範囲で断続的に大雨となり、総降水量が200ミリを超える地域が広範囲に及びました。この期間、さまざまな地域で線状降水帯※1が発生しており、合計で16個の線状降水帯が確認できました。  線状降水帯が発生していた地域では、激しい降水が持続した時間帯があり、周囲と比較して総降水量が多くなった地域がありました。それらの中には、線状降水帯による降水量が総降水量の50%を超えるところ(東海地方、中国地方、四国地方、九州地方)もありました。ただし、本事例の前年に発生した平成29年7月九州北部豪雨と比較すると、今回の豪雨ではより広い範囲で大雨になった一方で、線状降水帯による降水量の総降水量に占める割合は小さかったことがわかっています。(平成29年7月九州北部豪雨では、線状降水帯による降水量が総降水量の90%を超える地域がありました。)  今回の豪雨でみられた線状降水帯の中には、形成過程としてバックビルディング型※2の特徴を持つものがいくつかありました。また、線状降水帯を構成する積乱雲の高さは、広島県のケースのように高度9キロメートル程度のものもありましたが、四国・九州地方では高度15キロメートル程度まで発達したケースもありました。これらの線状降水帯は、大気下層に多量の水蒸気が流入するタイミングで形成されていました。 ※1 線状降水帯とは、次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度の強い降水をともなう雨域のことである。 ※2バックビルディング型とは、風上側(先端部)で新しい積乱雲が次々と発生し、それらが発達するとともに移動しながら線状に連なることで、線状降水帯を形成するメカニズムのことである。 2 防災気象情報の伝え方に関する検討会  平成30年7月豪雨において、気象庁では、防災気象情報の段階的な発表、市町村への支援、さらには記者会見を通じて早い段階から厳重な警戒の呼びかけを行いました。しかしこれらの情報発表や警戒の呼びかけや、市町村からの避難勧告等による避難の呼びかけが、必ずしも住民の避難行動につながらず、甚大な水害や土砂災害が広域に発生し、平成に入り最大の人的被害を伴う豪雨災害となりました。  大雨が予想された場合に危機感が住民や社会に確実に伝わり、避難等の防災行動につながっていくためには、関係機関との緊密な連携の下、防災気象情報の伝え方についてさらなる改善方策を検討する必要があります。  このことから、学識者に加え、報道関係者、自治体関係者、関係省庁による「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を開催しました。検討会は平成30年(2018年)11月から合計4回開催され、主に以下の4つの点について課題が示されました。 課題1 気象庁(気象台)や河川・砂防部局等が伝えたい危機感等が、住民等に十分に感じてもらえていない 課題2 防災気象情報を活用しようとしても、使いにくい 課題3 気象庁の発表情報の他にも防災情報が数多くあり、それぞれの関連が分かりにくい 課題4 特別警報の情報の意味が住民等に十分理解されていない  それぞれの課題について、平成30年12月26日に「防災気象情報の伝え方の改善の方向性と推進すべき取組」をまとめるとともに、平成31年3月29日に「防災気象情報の伝え方の改善策と推進すべき取組」(報告書)がとりまとめられ、避難等の防災行動に役立てていくための防災気象情報の伝え方について、今後気象庁が取り組むべき対応策が示されました。  ここではその主なところを紹介いたします(対応策の詳細は、報告書※を参照)。 ※https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/H30tsutaekata/H30_tsutaekata_kentoukai.html ① 気象庁(気象台)のもつ危機感を効果的に伝えていくために  防災気象情報は、市町村が発表する避難勧告等の発令を支援するための役割と、「状況情報」として住民が避難行動をとる前の段階の「マインド作り」「危機意識醸成」という役割の2つを担っています。  市町村を支援するための方策としては、平成29年度にとりまとめられた「地域における気象防災業務のあり方検討会」でも提言されたところですが、新たに「あなたの町の予報官」を配置して市町村に対するきめの細かい解説を行うほか、JETT(気象庁防災対応支援チーム)の体制強化や「気象防災アドバイザー」等の気象防災の専門家の育成や活用を一層促進していくこととしています。  また、住民自らが防災気象情報等をより一層活用できるようにするための方策としては、報道機関や気象キャスターとも連携し、防災気象情報等の平時からの理解促進の取組を一層推進すること、地域防災リーダー等への支援を強化し地域の住民が協力して避難行動を起こす「自助・共助」を促進する取組を一層強化すること、非常時における記者会見やホームページの充実やSNSの活用等の広報のあり方について順次改善すること、地元の気象台と河川事務所等の関係機関が連携し、地域に密着した情報発信を強化することなどを進めていくこととしています。 ② 防災気象情報をより一層活用しやすくするために  防災気象情報を活用しようとしても、情報の解像度が粗くわかりづらい、大雨時にはプッシュ型で情報を配信してほしい等の課題も指摘されました。このため、土砂災害の「危険度分布」を現行の5kmメッシュから1kmメッシュに高解像度化する取組や、リアルタイムの「危険度分布」に浸水想定区域や土砂災害警戒区域等の静的な情報も重ね合わせるようにする取組、「危険度分布」が示す危険度の高まりが確実に伝わるよう、市町村など希望者向けに通知する取組、「危険度分布」等の精度検証や発表基準の改善を適時に行い広く周知する取組等を、関係機関と連携して促進していくこととしています。 ③ 各種の防災情報を効果的に分かりやすくシンプルに伝えていくために  気象庁ではこれまでも防災気象情報の改善を行ってきたところですが、一方で、情報が多岐にわたり、危険度の上下関係がわかりづらい等の課題が指摘されました。中央防災会議「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の報告書で「警戒レベル」の導入の方針が示されたことから、土砂災害警戒情報や指定河川洪水予報に警戒レベルを明記する等により、各防災気象情報と警戒レベルの関係を分かりやすく整理して発表することとしています(右上表)。 ④ 特別警報について  特別警報は運用を開始して6年が経過し、その認知度は一定程度高まってきましたが、その意味するところやとるべき対応については、十分に浸透しているとは言い難い状況であることが指摘されました。大雨特別警報が有効に利用されるよう、位置づけや役割を改めて整理するとともに(右下表)、緊急時には状況に応じて早めに記者会見等で大雨特別警報発表の可能性について言及する取組を進めていくこととしています。また、大雨特別警報の精度向上に向けて、危険度分布の技術も活用した発表基準や指標の見直しも進めていくこととしています。  このような取組を通じて、関係機関と連携の上、気象庁は地域における防災対策の強化に努めてまいります。 コラム ■防災気象情報の伝え方改善に向けた気象庁への期待 防災気象情報の伝え方に関する検討会 座長 (東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター長 教授) 田中 淳  災害をもたらす自然現象の観測と予測の歴史は、災害に結びつきかねない切迫感をどう伝えるかという命題との戦いであったように思う。特に、警報発表後に切迫性の高まりをどう伝えるかを巡っていろいろな試みがなされてきた。  例えば、死者・行方不明者299人を出した1982年の長崎豪雨を受けて記録的短時間大雨情報が発表されるようになり、平成11年広島土砂災害を受けて土砂災害警戒情報の運用が始まった。危険度分布はひとつの有力な改善方向だと考えている。新たな情報発表だけではなく、とくに警戒が必要な内容が含まれている場合には警戒文の冒頭に「重要変更」と明示することや「これまでに経験したことのないような大雨」といった表現を用いるなど表現面での工夫もその一環であろう。  しかし、平成30年7月豪雨は、36年前の長崎豪雨に次ぐ多くの人的犠牲を生んでしまった。この豪雨災害を受けて開催された「防災気象情報の伝え方に関する検討会」では、ⅰ)「伝えたい危機感等が、住民等に十分に感じてもらえていない」、ⅱ)「防災気象情報を活用しようとしても、使いにくい」、ⅲ)「防災情報が数多くあり、それぞれの関連が分かりにくい」ならびにⅳ)「特別警報の情報の意味が住民等に十分理解されていない」の4点から改善方向を検討している。  これらの課題の改善に向けて、「あなたの町の予報官」の新規配置や「気象防災ワークショッププログラム」を通じた市町村支援や地域防災力向上への取り組み、土砂災害危険度分布の1kmメッシュ化、危険度分布とハザードマップとの重ね合わせ、大雨特別警報の精度向上などの技術的な取り組みが議論されている。これらの取り組みは、最新の科学技術を取りいれた技術基盤の確立と防災等の利用目的に応じた信頼できる分かりやすい気象情報の提供という気象庁のビジョンに示された車の両輪に応じたものである。個人的には、市町村と顔の見える関係構築を目指す「あなたの町の予報官」や居住環境が持つ脆弱性を伝える事前の情報と緊急時の現象の切迫性とを重ね合わせる試みには期待している。  ただ、これらの課題は、防災情報の根源的な問いかけそのものであり、一朝一夕に解決することは難しい。本質的な方向性を視野にいれての検討が求められる。その際、ひとつに被害とより向き合うことが求められるように思う。もちろん現在でも基準の設定に被害が反映されているが、被害の解像度をあげて住民の空振り感を逓減したり、広報時に災害モードに切り替えるために活用することは、防災情報として一般の活用を推し進める上で欠かせなくなっていくと思う。結果として住民やメディアが受け止める被害感覚を正すものは正し、寄り添うものはその被害感覚に目配りしていくべきだろう。  もうひとつに、防災情報の体系化を図る上で火山の噴火速報や記録的短時間大雨情報など実況を伝える情報の活用策が求められるように思う。実況情報は、避難としてとりうる行動の変更を求める情報であったり、気象条件が似ている周辺に注意を呼びかける機能を持つ。精度の高い情報が求められる中で、少なくとも避難に要する時間を考えれば、予警報等予測に基づく情報と実況情報とは時間的に近接してくることも予想される。もしそうであるならば、今一度、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に発表される警報と実況との関係性を整理しておく必要があるように感じる。 特集2 2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方 1 はじめに  我が国における気象業務は、気象庁の前身となる東京気象台で気象や地震の観測を開始して以降、「数値予報」の開始や「気象衛星ひまわり」による観測、「緊急地震速報」の発表開始など、絶えずその時代における最先端の科学技術を取り入れつつ発展を遂げてきました。現在では、気象庁や民間事業者等により最新の科学技術に基づき作成・提供される気象情報・データが、防災対応や一般社会、産業分野等における様々な場面で利活用されるなど、気象業務は大きな広がりを持っています。気象業務が災害予防、交通安全、産業の興隆等に寄与し続けていくためには、今後も観測・予測の更なる高度化に向けて前進するとともに、気象情報・データが自然・社会環境や時代に応じたニーズの変化等に対応して利活用されるための取組を継続していくことが必要です。  近年、「平成30年7月豪雨」等のような自然災害の激甚化や少子高齢化等の社会環境の変化が顕在化し、またICTの活用を様々な分野に広げた「Society 5.0 超スマート社会」が提唱されるなど、自然環境や社会情勢の変化、先端技術の発展等の気象業務を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。  このような自然環境や、社会の変化、先端技術の更なる進展を踏まえ、今後10年程度の中長期を展望した気象業務のあり方について審議すべく、交通政策審議会気象分科会(会長:東京大学大気海洋研究所 新野 宏 客員教授)が開催され、平成30年8月20日に提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方~ 災害が激甚化する国土、変革する社会において国民とともに前進する気象業務 ~」がとりまとめられました。ここでは、本提言について紹介します。 2 交通政策審議会気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」 (1)2030年の科学技術を見据えた気象業務の方向性  今後10年程度の自然・社会環境の変化、技術の更なる発展を踏まえて、一人一人の生命・財産が守られ、しなやかで、誰もが活き活きと活力のある暮らしを享受できるような社会(安全、強靭で活力ある社会)の実現のためには、気象業務の果たす役割が現在以上に高まると考えられます。  気象業務は、常に最新の科学技術を取り入れた観測・予測技術の絶えざる技術革新と、気象情報・データが、社会の様々な場面で必要不可欠なソフトインフラ、国民共有の財産として活用されるようにすることが重要です。  このため、気象業務の方向性として、観測・予測精度向上のための技術開発、気象情報・データの利活用促進及びこれらを「車の両輪」とする防災対応・支援の推進等について、取組を進めていきます。 (2)重点的な取組事項  2030年の科学技術を見据えた気象業務の方向性に沿って目指すべき姿を実現していくため、観測・予測の技術開発と気象情報・データの利活用促進の2点を重点的に進めることが重要です。加えて、技術開発と利活用促進はそれぞれ独立して取り組むべきものではなく「車の両輪」として一体的に推進する必要があり、特に、国民の生命・財産に直接関わる防災については、防災意識を社会全体で高めるとともに、気象業務の貢献においては、国の機関である気象庁が中核となって取り組むことが重要です。 ① 観測・予測精度向上のための技術開発 「気象・気候分野」と「地震・津波・火山分野」において、それぞれの社会的ニーズを踏まえ、2030年に向けた技術開発の具体的な目標を実現するための取組を推進していきます。  「気象・気候分野」については、現在の気象状況の把握から100年先の予測に至るまで、防災・生活・経済活動の様々な場面におけるニーズに応じた情報を提供できるよう、防災をはじめ社会における様々な気象サービスを根底から支える数値予報の精度の大幅な向上等を図るなど、観測・予測精度向上に向けた技術開発や基盤の構築を進めていきます。 「地震・津波・火山分野」については、情報が利用者の置かれている状況や取得手段に応じてタイムリーに活用されるよう、時々刻々と変化する現象の的確な把握・評価や今後の見通し等がわかりやすくきめ細かく提供していきます。また、情報の提供にあたっては、予測に技術的な困難性を伴うことを意識しながらも、関係機関の観測データや最新の調査研究成果等を最大限に活用し、監視・予測技術の向上や情報内容の充実、防災意識の向上に係る取組を進めていきます。 ② 気象情報・データの利活用促進  近年、進展するAI技術やIoTを活用し、一層多様化する社会的ニーズに対応したサービス創出やパーソナライズされた情報取得の動きが進みつつあります。これを踏まえて、気象情報・データが社会の様々なビッグデータと組み合わせて活用されるための流通環境の整備や、気象情報・データが防災や生活、経済活動等の社会の様々な分野で利活用されるための利用者の目線に立った「理解・活用」の支援・促進が重要となります。  このため、基盤情報としての気象情報・データの流通促進や、個人等のエンドユーザに対する発信強化など、より容易に取得・利活用できる環境を整えていきます。また、自治体や防災機関、事業者との対話・連携を通じて気象情報・データの「理解・活用」を促進するとともに、一般の方々に対する気象情報・データの利活用促進や、安全知識等に係る普及啓発によるリテラシー向上の取組を推進します。 ③ 防災対応・支援の推進  自然災害に対して「大災害は必ず発生する」との意識を社会全体で共有し、これに備える「防災意識社会」への転換に貢献していくことは、気象業務の大きな責務です。先端技術等を活用した技術開発を推進し、自治体の避難勧告等や住民の避難行動へ更に有効に活用されるよう気象情報・データを改善するとともに、自治体や関係省庁と連携して、気象情報・データ等を活用した避難勧告等や住民の避難行動を促進する取組を実施していく必要があります。  このため、観測・数値予報の精度の大幅な向上等による更なる高度化に努めるとともに、気象情報・データが防災の最前線に立つ市町村における緊急時の防災対応判断に一層「理解・活用」されるよう、地域の防災関係機関との連携を強化しつつ、平時・緊急時・災害後の一連の取組を推進します。さらに、安全確保行動の主体である住民が的確に行動できるよう、地域を支える関係機関や関係者と一体となり、効果的な取組を推進していきます。 (3)取組推進のための基盤的、横断的な方策  防災のみならず生活や経済活動等において気象業務が大きな役割を果たしていくことに向けて、重点的な取組を効果的に進めるための基盤的・横断的な取組として、定期的に科学技術の情勢や社会的ニーズを確認して、取組内容を不断の検証・改善していくことが重要です。また、気象庁だけでなく関係府省庁、大学等研究機関や民間事業者等との産学官連携、更には外国気象機関等との国際連携を推進しながら取り組むとともに、気象庁等の業務体制や技術基盤の強化について検討することも重要であり、これらを踏まえ、重点的な取組を推進していきます。 3 提言を受けた気象庁における取組の推進について  今後、提言において示された重点的な取組(2030年に向けた具体目標)の実現に向けて、気象庁全体で、具体的な取組を積み重ねて着実に推進していきます。また、社会情勢の変化や取組の進捗状況等を踏まえて、目標等についても適時に見直しを行い、社会的ニーズを踏まえた不断の検証・改善を進めていきます。 コラム ■2030年に向けた気象庁への期待 交通政策審議会気象分科会委員(東京大学名誉教授) 新野 宏  気象庁が発表する大気・海洋・地震・火山などに関する観測・予測情報は、私たち市民が災害から身を守り、快適な生活を送る上でも、政府や地方自治体が防災対策を行う上でも不可欠なものです。また、これらの情報は、航空・船舶・鉄道・道路などの交通、建築、農業、電力、食品や衣服などの製造・販売、レジャーなどに関わる多くの企業・団体でも幅広く利用されています。  この度、交通政策審議会気象分科会では、今後予想される環境・社会・科学技術の変化に対して気象業務はどうあるべきかに関する議論を重ね、観測・予測精度の向上のための技術開発の推進、気象情報・データの利活用促進、そしてこれらを両輪とする防災対応・支援の推進を3本の柱とする提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」をとりまとめました。  技術開発は、気象業務の根幹であり、国内外の大学等研究機関とも連携し、世界最先端の観測・予測精度を維持することが望まれます。中でも、気象予測に関しては、避難が難しい夜間になる前の豪雨予測の実現、タイムラインに沿った防災対策のために台風の5日予報を現在の3日予報の精度への向上、数週間先までの顕著現象の見通し予測、適応策立案に資する地球温暖化予測など、挑戦的な内容が盛り込まれています。地震・火山・津波に関しては、現象の把握と発生後の見通しなどに関する高精度の情報提供が望まれます。情報・データの利活用に関しては、人工知能を用いたビッグデータの幅広い分野での利用が進む中、なるべく多くの気象庁の情報・データは無論のこと、それ以外の機関の観測データも、防災に直結しないものについては、精度の情報等を付記して公開するなど、規制緩和を検討し、多様な目的での利用を可能とすることが望まれます。防災では、リードタイムと精度が向上した情報に関して、市民や防災機関と日頃から密接な連携・啓発普及活動を行いつつ、迅速かつわかりやすい形で提供することが望まれます。  2030年に向けて、気象庁が本提言の実現に向けて努力され、安全・強靱で活力のある社会の実現に、現在にもまして、貢献されることを期待しています。 特集3 平成を振り返る 1 はじめに  平成から令和へと新しい時代を迎えました。  明治8年(1875年)に気象庁の前身である東京気象台が観測を開始して以来、気象業務は140年以上に及ぶ歴史の中で着実な進歩を遂げてきました。平成の30年余りの間にも、社会情勢や科学技術、自然環境等が変化し、これらと密接に関係する気象業務も時代とともに変化しています。ここでは、平成における気象業務の歩みを簡単に振り返ります。 2 平成における気象業務の歩み (1)インターネットの普及と天気予報  かつて天気予報を入手する手段は主にテレビ、ラジオ、新聞といったものに限られていました。今日では、インターネットの発達、スマートフォンの普及、これらを背景とする各種サービスの発達とともに情報の流れは多様化し、天気予報はいつでも、どこでも、簡単にアクセスできるソフトインフラになっています。  このような流れの中、気象庁も平成8年(1996年)にホームページを開設し、今では多くの人々がインターネットを通じて天気予報をはじめとする様々な気象情報を入手しています。また、民間気象会社等の創意工夫により、多様化するニーズに合わせた天気予報が提供されるなど、天気予報も時代の流れとともに変化しつつあります。 (2)科学技術の進展 ① 震度観測と緊急地震速報 ~揺れをとらえ、揺れる前に知らせる~  科学技術の進展は著しく、今では当たり前と思えるようなことでも、30年前には存在しなかったものもあります。例えば、機械による震度の観測や緊急地震速報です。  今となっては信じ難いことですが、平成の初めまで震度の観測は体感で行っていました。我が国は平成3年に世界で初めて震度計の運用を開始しました。これにより客観的な観測が可能になるとともに、震度データが即座に収集されるようになり、テレビ等を通じて速やかに各地の震度が速報され、地震の揺れの状況を知ることができるようになりました。さらに時代は進み、平成19年には緊急地震速報の提供を開始し、揺れを事前に知ることができるようになりました。今ではスマートフォンの普及もあり、いつでも、どこでも緊急地震速報をはじめとする地震の情報を得ることが可能になっています。 ② スーパーコンピュータの性能向上 ~より速く、より詳細に、より先まで~  今では多くの家庭にパソコンがあり、性能も年々向上しています。天気予報はスーパーコンピュータを用いて計算されますが、30年前に使用されていたスーパーコンピュータの性能は、現在の一般家庭用のパソコンと比べても見劣りするものでした。スーパーコンピュータは約6年ごとに更新されており、そのたびに性能が飛躍的に向上し、日進月歩の天気予報を支えています。今では平成元年当時と比べると、あくまで理論上ですが、約3,000万倍の性能を有するまでになりました。これにより、より多くの計算を短時間でこなすことが可能となり、天気予報の精度向上はもちろん、5日先までの台風進路・強度予報、数ヶ月先までの予報といった高度な予報を実現しています。 ③ 気象衛星ひまわりの進化 ~日本の「いま」を鮮やかに~  平成2年12月2日に秋山豊寛さんが日本人初の宇宙飛行を行いました。平成6年には純国産ロケットH-Ⅱが打ち上げられ、平成11年に組み立てが開始された国際宇宙ステーションに若田光一さんをはじめとする日本人宇宙飛行士が滞在するなど、宇宙に関する技術等の進展は目覚しいものがあります。  気象衛星ひまわりの性能も大きく向上しました。平成元年当時に運用していたひまわり3号と、現在のひまわり8号、9号を見比べると、観測周波数帯(可視、赤外域などの数)は2から16に、観測頻度は1時間毎から10分毎に、分解能(可視)は1.25kmから0.5kmに向上しました。観測バンド数の増加により、ひまわり8号以降は、カラーによる観測画像を得ることが可能となりました。  これらの機能の向上により、台風や集中豪雨をもたらす雲等の移動・発達、また火山灰や海面水温等も高精度に把握できるようになっています。ひまわりは、今日も宇宙から日本の「いま」を見守っています。 (3)気象予報士の活躍と「気象ビジネス」の発展  今やテレビで気象予報士を見ない日はありませんが、この予報士制度が導入されたのは平成5年です。  天気予報は時に防災・減災に直結し、人命や財産に関わる情報です。技術的な裏づけのない予報が流布することで社会的混乱が生じるおそれがあることから、予報を行う際には一定の技術水準を担保することが必要です。このため、予報を行うには許可を受けることが必要とされ、気象予報士制度が生まれました。  現在では1万人以上が気象予報士として登録され、民間気象会社等が発表する天気予報を支えています。近年では、自治体等への防災気象情報の解説や防災知識の普及、気象データを生かしたビジネスの提案等、その活躍の場を広げています。  また、IoT、AI、ビッグデータ解析技術等の発展により、様々な社会経済活動における気象データの価値が注目されつつあり、その利用が広がっています。気象庁をはじめ産学官が連携し、気象データを利用した新たな「気象ビジネス」の創出、活性化や、そのための環境整備に取り組んでいます。 (4)相次ぐ災害と自然環境の変化  多くの自然災害が発生し、そのたびに新たな課題が見つかり、これを克服するための取組が模索されました。  台風や集中豪雨による災害は毎年のように発生しています。記憶に新しいところでは、昨夏の「平成30年7月豪雨」により甚大な被害に見舞われました。また、阪神・淡路大震災(平成7年)、東日本大震災(平成23年)をはじめとする地震、雲仙岳噴火(平成3年)、御嶽山噴火(平成26年)をはじめとする火山噴火も発生し、そのたびに甚大な被害に見舞われました。これらの自然災害における課題に対応するため、緊急地震速報(平成19年)や噴火警戒レベル(平成19年)、特別警報(平成25年)等の防災情報の運用が開始され、さらなる改善のため、不断の検討、技術開発が進められています。  平成は地球温暖化がもはや現実の問題であると認知された時代でもありました。1990年代以降、それまでに増して高温となる年が増え、昨年7月23日には熊谷市で歴代全国1位の気温41.1℃を記録しました。雨の降り方は実感を伴って変化しており、大雨や集中豪雨は観測データからも増加が確認されています。地球温暖化の影響は既に顕在化して新たなステージを迎えており、今後もさらなる影響の拡大が懸念されています。 3 平成から令和へ  我が国の人口は2050年には1億人を下回ると予想されており、異常気象の増加や、南海トラフ地震等の自然災害による甚大な被害が懸念されています。気象庁の発信する情報は、私たちの生活や社会活動と切っても切れないものであり、時代の流れに応じて進化し続けてきました。そして今、「令和」という新しい時代を迎え、AIやIoT等の技術革新は目を見張るものがあり、気象情報も更なる進化が期待されます。50年、100年後には、今では想像もつかない、新たな気象情報が実現しているかもしれません。 コラム ■平成 ー ながい坂を上り続ける気象庁 気象庁観測部計画課長 木村 達哉(平成元年入庁)  平成元年3月。初任地の街に列車が近づくと、湾の奥にセメント工場の高い煙突が見えた。高台にある測候所の屋上からは、湾口近くまでよく見通せた。気圧・視程・雲などを手動や目視で観測して端末から定時の通報を行うと、8インチのフロッピーディスクドライブがガチャガチャと音を立てた。夜勤明けの朝、ドラム状の筒に巻かれた地震計の記象紙を交換し、短波ラジオと巨大な湿式ファックスで判読し難い高層天気図や衛星画像を受信・描画させた。震度も体感によるものだったし、高感度の地震計が地震に反応してパチンという音を立てると時には地震計の針がインクを飛び散らせながら振り切れ、動悸が高まった。極度の緊張の中で験測結果を通報した。2年後から勤務した気象台では、県庁などへの警報の伝達を一斉同報の電話で行っていたが、緊張して早口になりすぎ、やり直したのが思い出される。それからいくつもの大きな災害があり、業務の改善は続いた。平成23年には初任地の街も津波に襲われた。  平成31年4月。上述の業務の大半が自動化・改善・近代化され、その測候所も使命を終えて久しい。気象庁も大きく姿を変え、自然がなお猛威を振るい続ける中で、さらなる気象予測精度の向上や情報の高度化に努めつつ地域防災に大きく踏み出し、また、気象データを他のデータと併せて産業にご活用いただくべく取り組んでいる。ひまわり画像は極めて鮮明になり、予報官はより高度な資料を用い、気象の監視や警報・予報の発表に余念がない。地デジ、ウェブサイト、スマホのアプリなどを通じ、多様で詳細な気象情報・データをご利用いただける時代が来たが、意図や効能を平易にお伝えしてそれらをフル活用いただけているかと言えば、まだ道半ば。物理法則に従う大気・海洋・大地。地球の複雑な地形などが現象の分析・予測・見通しを難しくし、人類の活動も大気などに影響を与える。不確実性がある中で目の前のリスクを国民・関係機関に伝える難しさには、今も変わりがない。  平成は、気象庁が必死の改善を繰り返しつつ、その情報を手に国民や関係機関に一層寄り添って歩むための模索を続けた時代だったのではないかと思う。気象庁は、これからもながい坂を上り続ける。 トピックス Ⅰ 自然のシグナルをいち早く捉え、迅速にお伝えするために トピックスⅠ-1 相次ぐ台風への対応  平成30年(2018年)の台風の発生数は29個、日本への接近数は16個で、そのうち5個が上陸し、いずれも平年を上回りました。平成30年の台風の主な特徴は以下のとおりです。 ○本土(北海道・本州・四国・九州)および沖縄・奄美への接近数はそれぞれ10個と13個で、ともに2位の多さ ○7個の台風が猛烈な強さ(最大風速毎秒54メートル以上)まで発達。台風の最大風速のデータがある1977年以降最多 ○7月に上陸した台風第12号は三重県に上陸後、西日本を東から西に横断した初めての台風 ○8月に9個の台風が発生。8月の発生数としては1960年と1966年の10個に次ぐ3位タイの多さ ○夏(6~8月)に18個の台風が発生。夏の発生数としては1994年と並び最多 ○9月に上陸した台風第21号は1993年の第13号以来25年振りに非常に強い勢力で上陸した台風  平成30年の台風第1号は1月3日09時に発生し、台風の統計を開始した昭和26年(1951年)以降、第1号の発生日時としては3番目に早い記録となりました。それ以降、平成30年に発生した29個の台風のうち、猛烈な強さまで発達した台風は7個で、台風の最大風速のデータがある1977年以降、1983年の6個を上回る最多記録となりました。猛烈な強さまで発達する台風が多くなったのは、台風が移動した海域の海面水温が高く、台風が発達しやすい環境であったことや、大気の上層と下層の風向・風速の差があまり大きくなく、台風の発達があまり抑制されなかったことなどによると考えられます。  夏(6~8月)には18個の台風が発生し、夏の発生数としては1994年と並ぶ最多タイとなりました。そのうち、8月には9個の台風が発生し、8月の発生数としては3位タイの多さとなりました。熱帯域の海面水温が高いことに加えて、モンスーンによる強い南西風がインド洋からフィリピン東方まで流れ込み、その北側で太平洋高気圧の南側を吹く東風との間で反時計回りの流れができることで、台風の発生しやすい状況になっていたためと考えられます。また、北太平洋中・東部で偏西風の蛇行が大きく、南に蛇行した部分が切り離されて低気圧性の渦となって南下、西進し、この渦も台風の発生を促したと考えられます。  平成30年は多くの台風が日本に接近・上陸し、本土(北海道・本州・四国・九州)および沖縄・奄美への接近数はそれぞれ10個と13個で、ともに2位の多さとなりました。フィリピンの東で発生したあと北西に進んで沖縄・奄美付近を通って大陸に進んだ台風や、北西に進んだあと太平洋高気圧のまわりを回って北上し、日本付近を北東方向に進んだ台風が多かったため、台風の日本への接近数が多くなったと考えられます。  平成30年に日本に上陸した最初の台風は第12号で、7月29日に三重県に上陸後、西日本を東から西に横断した初めての台風となりました。このような経路となったのは、太平洋高気圧と上層のチベット高気圧の張り出しにより台風の北上が抑えられたうえ、偏西風の蛇行で切り離された反時計回りの流れをもつ上空の渦が四国沖にあり、その北側を台風が東から西に進んだためです。  9月4日に徳島県に上陸した台風第21号は、1993年の第13号以来25年振りに非常に強い勢力で上陸した台風となりました。台風第21号は四国や近畿地方を中心に暴風や高潮等による被害をもたらしました。その後、9月30日に和歌山県に上陸した台風第24号では、南西諸島及び西日本・東日本の太平洋側を中心に暴風となり、これに伴い塩害による被害も発生しました。  今年の台風については第4部第1章も参照してください。 コラム ■記録的な暴風と高潮をもたらした平成30年台風第21号  気象研究所では、平成30年台風第21号が近畿・四国地方を中心に記録的な暴風と高潮をもたらした要因を調査しました。その結果、9月4日に紀伊水道及び大阪湾の沿岸域で観測した記録的暴風は、台風を押し動かす全体的な風速が強かったことと台風がコンパクトな構造だったため、台風の進行方向右側に強い南風が局在したことが要因であることがわかりました(左下図)。また、同日に大阪湾北部で発生した記録的な高潮は、この強い南風によって海水が北部の沿岸に吹き寄せられて起こりました。一方、大阪湾南部では、風が弱まった後にこの海水が湾内を南に戻る「副振動」によって、再び大きな高潮となったことが明らかになりました(右下図)。 コラム ■高潮予報とその利用  台風が接近すると、暴風による「吹き寄せ効果」と気圧低下による「吸い上げ効果」などにより、高潮が発生します。高潮の予報は、要因となる台風や低気圧の強さと進路の予報誤差を考慮して高潮の規模や発生のタイミングをコンピューターが計算し、台風や低気圧の実際の推移等を踏まえて暴風や高波によって海岸に海水がどれくらい吹き寄せられるか、台風の接近に伴って海水がどれくらい吸い上げられるかを予報官が判断して発表されています。  平成30年(2018年)9月22日にマリアナ諸島近海で発生した台風第24号は、強い勢力を維持して伊勢湾の北を通過することが予想され、気象庁は伊勢湾台風接近時の最高潮位を上回る予想潮位4.1メートルとして記録的な高潮のおそれに対する警戒を呼びかけました。しかし実際には、台風は予想より南を通過し、沿岸部では暴風が吹きませんでした。このため「吹き寄せ効果」が効かず、名古屋港の最高潮位は2.2メートルと、予想よりも2メートル近く低くなりました。高潮を正確に予想するためには台風の進路や中心付近の気圧の変化、周りの風の細かな変化を精度よく予想することが重要です。  海岸に近い所では高潮による浸水に備えて避難場所と避難経路を日頃から確認しておいてください。気象庁は、高潮が予想されるときには、高潮警報・注意報等を発表しますので、台風等の接近による大雨や暴風の始まる前に早めの行動をお願いします。 コラム ■台風予報の現状  台風は一つ一つに個性があり、大きさや強さ・進路・雨雲や風の分布が台風によって異なります。個性を生む要因としては、台風周辺の大気や海洋などの環境がそれぞれ異なることが考えられます。  気象庁では、台風の120時間先までの進路予報(予報円の中心と半径)、強度予報(中心気圧、最大風速、最大瞬間風速、暴風警戒域)を行っています。台風の進路予報の平均誤差は24時間後で約80キロメートル、48時間後で約150キロメートルです。この誤差を東京からの距離に例えると、80キロメートルは箱根町付近、150キロメートルは静岡市付近に相当します。台風の中心が東京、箱根、静岡のどこを通るかで、それぞれの場所で風や雨の様子が全く違うものになる可能性があります。  台風の強度予報の精度もまだ十分ではありません。台風は、一般的には台風の進路にあたる海洋の表層水温が高ければ水蒸気が豊富に補給され発達します。台風の発達の仕組みは複雑で、現在の技術ではまだ正確な予報は困難なことが多いのが実情です。  平成30年(2018年)8月3日に南鳥島近海で発生した台風第13号は、8月6日15時に発表した予報では、48時間後の8日15時には東経140度付近に達し、中心気圧970hPa、最大風速毎秒35メートルで、関東地方を北上する予想となりました。実際には、予報より50キロメートルほど東へずれて、千葉県外房沿岸から茨城県沿岸を北上しました。  気象庁は7日夕方時点では関東地方に大雨を予想しましたが、台風が上陸しなかったことから、発達した雨雲が陸上にかからず、大雨とはなりませんでした。9日6時の関東地方付近の雨雲を見てみると、台風の中心(銚子市付近)から東側の海上に存在し、陸上には発達した雨雲がほとんどかかりませんでした。  気象庁では、これら台風予報の誤差が大きくなった事例の分析等を進め、引き続き台風予報の精度を高める技術開発等の努力を重ねていきます。 トピックスⅠ-2 平成30年夏の記録的な高温  平成30年(2018年)夏は、太平洋高気圧とチベット高気圧の張り出しがともに強く、晴れて気温が顕著に上昇する日が多かったため、東・西日本を中心に記録的な高温となりました。  7月23日には熊谷(埼玉県)で、全国歴代1位となる日最高気温41.1℃を記録するなど、各地で40℃を超える気温が観測されました。猛暑日(日最高気温が35℃以上)となった地点も7月中旬以降急激に増加し、6~9月の猛暑日となった地点数の合計は、これまで最も多かった平成22年(2010年)を大幅に超えました。この記録的な高温を背景に、平成30年は、6~9月に全国で熱中症により救急搬送された人数の合計が平成22年以降で最も多くなりました(総務省消防庁による)。  このような状況の中、気象庁では、高温注意情報、高温に関する気象情報、高温に関する異常天候早期警戒情報など、高温に関する様々な情報を発表するとともに、7月13日と7月23日には、この記録的な高温と今後の見通しについて報道発表を行いました。この報道発表では、熱中症など健康管理に十分注意し、水分や適切な塩分補給などを心がけて欲しいこと、特に平成30年7月豪雨の被災地では、熱中症にかかるリスクがより高くなっていたことから、できる限りの対策を行って欲しいことをお伝えしました。  地球温暖化が進行する中、平成30年夏のようにこれまでに経験したことのない高温が、日本のどの地域でも発生しうると言えます。また将来地球温暖化が更に進行した場合、全国的に気温が上昇し、猛暑日のような極端に暑い日の日数が増加すると予測されています(気象庁「地球温暖化予測情報第9巻」)。気象庁では、今後も熱中症についての注意喚起に努め、適時的確な情報発表を行っていきます。 コラム ■地球温暖化が平成30年夏の高温に及ぼした影響  発生した異常気象に対して地球温暖化などの要因がどの程度影響を与えていたかを定量的に示すことをイベント・アトリビューションと呼びます。特に地球温暖化の影響に注目する場合、最先端の気候モデルを用いて、現実の世界と、産業革命以降の地球温暖化が起こらなかったと仮定した世界の二つの世界をコンピューター上に作り出し、それぞれについて異常気象の発生確率を比較する、という手法を用います。平成30年(2018年)7月の猛暑について、この手法を適用して比較したところ、現実の世界では、このような猛暑の発生確率は約20%と見積もられましたが、地球温暖化が起こらなかったと仮定した世界では、その発生確率がほぼ0%となり、人間活動による地球温暖化がなければこのような猛暑は起こり得なかったことが示されました。現在、世界各地で発生する異常気象を取り上げてイベント・アトリビューションが実施されていますが、「地球温暖化が無ければほぼ起こらなかった」という事例が見られるようになったのはここ数年のことです。地球は温暖化の新しいステージに差し掛かっているのかもしれません。 トピックスⅠ-3 相次ぐ被害地震  平成30年(2018年)は、最大震度5弱以上を観測した地震が11回発生し、中でも最大震度6弱を観測した6月の大阪府北部の地震と最大震度7を観測した9月の平成30年北海道胆振東部地震では、複数の死者が出るなど大きな被害が発生しました。 (1)2018年に発生した主な被害地震 ①平成30年6月18日の大阪府北部の地震  6月18日07時58分に、大阪府北部を震源とするM6.1の地震が発生し、大阪府北部で震度6弱を観測、また周辺の4府県でも震度5弱以上を観測しました。この地震ではブロック塀の倒壊などが発生し、死者6人、住家全壊18棟などの被害が生じました(平成30年11月6日現在、総務省消防庁による)。 ②平成30年北海道胆振東部地震  9月6日03時07分に、胆振地方中東部を震源とするマグニチュード(M)6.7の地震が発生し、北海道厚真町(あつまちょう)で震度7を観測したほか、北海道から中部地方の一部にかけて震度6強~1を観測しました。震央付近の地域では広い範囲で大規模な土砂災害が発生し、また札幌市では顕著な液状化現象もみられました。その後の活動を含めた一連の地震活動により死者42人、住家全壊462棟などの被害が生じ(平成31年1月28日現在、総務省消防庁による)、気象庁はこれら一連の地震活動の名称を「平成30 年北海道胆振東部地震」と定めました。気象庁が地震に対し名称を定めたのは、「平成28年(2016年)熊本地震」以来2年ぶりです。 (2)気象庁の対応  大阪府北部の地震や平成30年北海道胆振東部地震において、気象庁は緊急地震速報や地震情報等を発表するとともに、記者会見で今後の地震活動などについて注意を呼びかけました。また、気象庁防災対応支援チーム(JETT)を関係する市町村等地方公共団体に派遣し地震活動や気象状況について解説を行い、地方公共団体における防災対応を支援しました。さらに、気象庁ホームページに特設ページを設置し、地震回数表や気象支援資料を掲載し情報提供体制を強化しました。その他、気象庁では、これらの地震の地震動による被害状況や震度観測施設の状況を調査するため気象庁機動調査班(JMA-MOT)を派遣しました。 コラム ■可搬型の気象観測機器の設置による災害時等の観測体制の確保  気象庁では、大雨や土砂災害、地震災害、火山活動の活発化などによる自然災害や、それらに伴う電力・通信障害の影響により地上気象観測ができなくなる場合を想定し、可搬型の気象観測機器(下左図)を用いた臨時気象観測所を設置して、災害の復旧支援の活動や国民生活に対して適切な観測情報の提供を継続する体制を取っています。  可搬型の気象観測機器は、地域気象観測システム(アメダス)で使用されている気象観測機器と同等の性能を持ち、太陽光発電パネルによる独自電源も備えていることから、速やかに気象観測を開始できます。最近の設置例としては、平成30年北海道胆振東部地震による災害の状況を踏まえ、大きな被害を受け、二次災害も心配される地域の周辺における雨量観測体制を強化するため、平成30年(2018年)9月27日~11月20日の期間、北海道胆振地方の厚真幌内に臨時の雨量観測所を設置しました(下右図)。 トピックスⅠ-4 気象庁防災対応支援チーム(JETT)の活動  気象庁は平成30年(2018年)5月1日に気象庁防災対応支援チーム(JETT)を創設しました。気象台は災害が発生した、または発生が予想される場合に、あらかじめ定めた応援計画に基づき都道府県または市町村に気象台職員をJETTとして迅速に派遣します。JETTは、災害対応現場におけるニーズを把握しつつ、気象状況を解説するなど自治体の防災対応支援を実施します。  JETTの創設以降、平成30年6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震、西日本を中心に記録的な大雨となった平成30年7月豪雨、そして平成30年北海道胆振東部地震の対応のほか、台風の接近が予想された場合についても積極的にJETTの派遣を行いました。 コラム ■平成30年北海道胆振東部地震における気象台からの支援(北海道厚真町) 北海道厚真町総務課  平成30年9月6日午前3時7分に発生した胆振中東部を震源とする「平成30年北海道胆振東部地震」で、厚真町は北海道で初めて観測された震度7の激震に見舞われました。この地震により北海道全域が被災地となり、多くの地域で甚大な被害が発生しました。厚真町は地震動により3,230haにも及ぶ山腹崩壊で土砂崩れが発生し36名の尊い命が失われ、また、建物や社会基盤・生活基盤に甚大な被害を受けました。  発災後、札幌管区気象台や室蘭地方気象台からJETTが直ちに派遣され、9月7日から10月9日まで常駐していただきました。発災直後の初動段階では人命救助が最優先となることから、毎日、朝と夕方の2回、救助活動終結後は毎日1回、多くの機関で構成する関係機関調整会議の中で最新の気象情報をきめ細かく解説していただき、捜索活動や復旧活動などに役立てさせていただきました。また、個別に関係機関のニーズに合った気象情報を随時提供していただきました。  また、厚真町では大規模な土砂災害を受け、大雨に備えたタイムラインの作成を進めていました。そのような中、台風第24号・第25号の接近に伴い、台風が上陸した場合の土砂災害に備え、関係機関と連携し初めて「厚真地区緊急対応タイムライン」を運用しました。タイムライン運用会議では、テレビ会議システムを用いて室蘭地方気象台からいち早く今後の気象状況の説明をいただきながら、町の初期行動やその後の避難勧告等の発令などに素早い対応を執ることができました。  3月から4月にかけて、震災後初めての融雪期を迎えましたが、山腹崩壊がどのような影響を及ぼすかわかりませんでしたので、土砂災害などに備えたタイムラインの作成を気象台の意見をいただきながら各関係機関と協議を進めたところです。  終わりになりますが、大規模な自然災害を経験した厚真町は、復旧・復興作業を加速させ、災害に強くしなやかな町づくりの取り組みを進めているところです。関係機関の皆さんの温かいご支援と激励を賜り感謝申し上げますとともに、今後ともご協力くださいますようお願い申し上げます。 コラム ■西日本豪雨における気象台からの支援(広島県呉市) 呉市総務部危機管理課 課長 岩田 茂宏  平成30年7月の西日本豪雨では7月3日から7月8日にかけて降った雨は、市内に設置された気象庁の雨量計で24時間降水量が309ミリを観測し、当地点の観測史上1位を記録。また、広島県が設置した野呂川ダムの雨量計では、累計の降水量が677ミリに達しました。  この豪雨で、市内の各所で山腹崩壊を伴う土石流や崖崩れが発生し、25人の尊い命が失われました。また、河川の氾濫などで家屋や土地などに多くの被害を受け、現在もその爪痕は残っています。  今回の災害では、災害発生前から広島地方気象台とのホットラインでアドバイスをいただいていました。そして、発災直後にいち早く災害対策本部に常駐の予報官を派遣していただき、毎日数回の天候状況の解説やその後たびたび近づいた台風の予測など、災害対応や復旧に欠かせない情報を提供いただきました。さらに現在でも不安が残る地域などのため、気象支援資料の提供を続けてもらっており、行政のみならず住民の安心にも繋がっているところです。  今回の経験から、危機管理・防災体制の充実には、気象台等との連携がますます重要で、さらに気象状況によっては早くから気象の専門家の派遣などについても協議が必要だと思っています。  最後になりますが、今回の災害で多くの関係者の皆様にご支援をいただき感謝いたすとともに、今後ともご協力をお願いいたします。 コラム ■JETTのロゴマークを作成しました  JETTの活動における共通の目印を定め、自治体をはじめとする関係機関に親近感をもっていただくことを目的に、ロゴを作成しました。愛称「JETT」が持つ迅速性、推進力、読み解きといったイメージをテーマとしてロゴを作成しました。このロゴは、積乱雲(左上)、空(背景)、水(背景)、マグマ溜まり(右下)、断層運動(中央のズレ)を表現しています。 コラム ■市町村の防災業務を支援するチーム「あなたの町の予報官」  気象庁は、地域における気象、地震、津波、火山等の防災対応力の向上により一層貢献するため、各気象台が担当する府県内を複数の市町村からなる地域に分け、その地域毎に3~5名程度の職員を担当として割り当てる体制作りを順次進めています。  この担当チームは地域の実情をよく理解した「あなたの町の予報官」として、気象台が発表する各種の防災気象情報が持つ意味や利用・活用の方法について、市町村の立場に寄り添ってレクチャーするとともに、市町村が地域防災計画や避難勧告等の判断・伝達マニュアルを改定する際に協力していきます。また、関係機関と連携して、市町村等が実施する地域防災リーダーや一般住民を対象とした防災教育や安全知識の普及啓発にも協力していきます。  こうした取組を推進することにより、担当者同士の緊密な「顔の見える関係」を構築・強化することができ、チーム制という強みを生かして、市町村や気象台の担当者の一部が交代する際も切れ目のない的確な支援を継続的に行うことが可能となります。  緊急時には、平時に構築した「顔の見える関係」を生かして、「あなたの町の予報官」が中心となり、説得力を持った適時・的確な気象解説等を実施することにより、市町村の防災対応を支援しますが、災害の危険度・切迫度に応じて、必要であれば他の地域を担当するチームの応援を得るなどして、気象台の総力を挙げて対応します。 トピックスⅠ-5 平成30年冬の大雪を受けた情報の改善  平成30年(2018年)1月から2月にかけて各地で発生した大雪による災害、特に2月上旬の福井県を中心とした大雪において、幹線道路における大規模な車両滞留等による通行止めや農業施設の損壊等、社会的に大きな影響が生じました。このことを踏まえ、関係機関の防災対応を支援するための大雪に関する情報の内容や発表タイミングについて、各地の気象台では大雪事例の分析を行うとともに、関係機関にヒアリングを行うなど、気象台の抱いている危機感や切迫度を防災関係機関や住民へどう伝えるかという課題について検討を行いました。  これらの検討結果を踏まえ、大雪警報が対象としている現象を上回り、大規模・長時間の交通障害や孤立集落の発生を引き起こすおそれのある集中的な大雪に対して、以下のように府県気象情報で一層の警戒を呼びかけることとしました。 ① 重大な災害の発生する可能性が高まり、一層の警戒が必要となるような短時間の大雪となることが見込ま  れる場合に、「大規模な交通障害が発生するおそれ」があることなど、厳重な警戒を呼びかける(北陸地  方の各気象台で試行的に実施)。 ② 降雪が大雪警報の基準を大幅に上回る場合や、普段雪の少ない地域で大雪警報級の降雪が予想され、  一層の警戒が必要となる場合は、「不要不急の外出を控える」などを呼びかける(全国で実施)。  これらの情報は、防災関係機関において、大雪警報よりも一段上の対応をとる目安として活用いただくことを想定しています。  気象庁では、防災関係機関がとる大雪に対する対応を支援するため、防災関係機関からの意見を伺いつつ、引き続き気象情報の改善に取り組んでまいります。 トピックスⅠ-6 気候リスク低減と生産性向上に向けた2週間気温予報の提供開始  気象庁では、平成20年(2008年)に「異常天候早期警戒情報」の提供を開始し、2週間先までに顕著な天候が見込まれる場合に注意喚起を行ってきました。その後、各種産業分野の利用者からいただいたご意見や、近年の数値予報技術の進展を踏まえ、同情報の改善について検討を行い、令和元年(2019年)6月より新たな情報として「2週間気温予報」の提供を開始します。  これにより2週間先までの気温の推移を把握することが可能となり、熱中症や農作物被害に対して早めに対策をとることができます。また、小売分野等での販売計画や在庫管理、日常生活における旅行やイベントの検討、衣替えや冷暖房器具の準備などへの活用が期待されます。地球温暖化の進行により顕著な高温の発生頻度が増大し、また高齢化や人口減少に伴い生産性の向上が重要な課題となる中、これらの情報により幅広い分野における気候リスクの軽減と生産性向上が進むと期待されます。  2週間気温予報では、8~12日先の各日を中心とする5日間平均について、地域平均気温の階級及び代表地点の最高・最低気温を毎日予報します。気象庁ホームページでは、最近1週間の実況と向こう1週間の気温を日別で、その後2週間先までは各日を中心とした5日間平均の気温を一括で表示します。また、階級による色分けやグラフ化により、気温の変動を感覚的につかんでいただけるようにします。 トピックスⅠ-7 南海トラフ地震への備え  切迫性が指摘されている南海トラフ地震が発生した場合に想定される被害の甚大さを踏まえ、平成30年(2018年)12月25日に、政府の中央防災会議「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」が報告書を公表しました。また、平成31年(2019年)3月29日には内閣府(防災担当)から「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」が公表されました。南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、南海トラフ地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると評価される典型的な3つのケースについて、住民や企業等の防災対応の方向性及び最も警戒する期間等、防災対応の基本的な考え方がまとめられました。  具体的には、①南海トラフ地震の想定震源域内のプレート境界でマグニチュード(M)8.0以上の地震が発生した場合(半割れケース)には、地震を起こさなかった領域で引き続き大規模地震が発生する可能性があるとして最も警戒する期間は1週間を基本とし、地震発生後の避難では明らかに避難が完了できない地域の住民は避難、不特定多数の者が利用する施設等では施設点検を確実に実施する。②想定震源域内で①を除くM7.0以上の地震が発生した場合等(一部割れケース)には最も警戒する期間は1週間を基本とし、必要に応じて自主的に避難を実施することも含め日頃からの地震への備えを再確認する等、警戒レベルを上げる。③短期間にプレート境界で通常とは異なるゆっくりすべりを観測した場合(ゆっくりすべりケース)には、すべりの変化していた期間と概ね同程度の期間が経過し、新たな変化がないと評価されるまで、日頃からの地震への備えを再確認する等とされています。  気象庁では、南海トラフ沿いで発生した異常な現象の観測結果や分析結果について、平成29年(2017年)11月1日から当面の間、「南海トラフ地震に関連する情報」により発表することとしています。一方で、平成31年(2019年)3月に内閣府が公表した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応ガイドライン(第1版)」を踏まえ、気象庁は今後、これらの現象の観測結果や分析結果について、「南海トラフ地震臨時情報」及び「南海トラフ地震関連解説情報」として発表することとしました。なお、南海トラフ地震は、地震発生の可能性が高まった旨の情報を発表しても発生しない場合や、情報の発表がないまま突発的に発生する場合も考えられます。このため、日頃から南海トラフ地震への備えを実施しておくことが重要です。また、高層ビル等に影響を及ぼす長周期地震動の発生も懸念されることから、気象庁では、地震発生後の防災対応等に資する長周期地震動に関する観測情報をホームページで提供するとともに、高層ビル等に滞在される方の身の安全の確保やエレベーター等の制御に資する予測情報の提供に向けた準備を進めています。 コラム ■長周期地震動の観測・予測情報に期待すること 三菱地所株式会社 ビル運営事業部 ビル安全管理室長 大庭 敏夫  首都圏でのビル事業の開発並びに運営管理における地震対策の課題として、首都直下地震への対策に加え、切迫性が指摘されている南海トラフ地震など遠隔地で発生する巨大地震による長周期地震動への対策があげられます。首都直下地震については震源までの距離が近いため緊急地震速報の猶予時間が短く活用が難しいことは容易に想定されますが、その点、特に、南海トラフ地震などの遠隔地の地震では、気象庁で発表を計画されている長周期地震動に関する予測情報は猶予時間が長く有効に活用できると期待されます。当社では平成19年(2007年)の丸ビル再開発をはじめビルの超高層化を進めており、2027年の常盤橋再開発プロジェクトでは国内最高の高さ390メートルの複合施設竣工を計画しています。これらのビル超高層化に伴い長周期地震動の影響は益々大きくなることから観測・予測情報に対する期待は大きいです。具体的な活用法として、多くのビルで下階に位置する防災センターでは長周期地震動の状況を認識しにくくセンター要員の行動も後手となることから、本情報を活用することで事前周知が可能となり、利用者のパニック防止につなげられると考えます。また、エレベーターについては、現状の長周期センサーとシステム連動させることで閉じ込め防止をはじめ、揺れが発生する前に変位が少ない階へ移動することで走行路内での被害防止となり早期復旧に期待ができます。ビル利用者にとっても超高層ビルの縦移動の健全性は最重要課題であり早期復旧の期待は大きいと言えます。さらに、建設現場やゴンドラ等による高所作業における活用を図ることで更なる減災行動に期待ができます。 Ⅱ 長期の監視から地球の今を知り、将来に備えるために トピックスⅡ-1 気候変動に関する適応策への貢献  近年、猛暑や豪雨などの極端な気象現象は増加傾向にあり、地球温暖化の進行に伴い、今後さらに増加すると予測されています。こうした中、平成30年(2018年)に「気候変動適応法」が成立・施行され、国、地方公共団体、事業者、国民が一丸となって気候変動の影響を回避・軽減するため、適応策に取り組むこととなりました。  気象庁では、気候変動の影響を評価するための基盤となる気候変動に関する観測・監視(実態)や数値モデルによる将来予測(見通し)に関する情報を発表するとともに、地方公共団体への解説や講演会・ワークショップなどでの国民への普及啓発等により、気候変動適応への支援に取り組んでいます。また、様々な研究プロジェクトを推進する文部科学省と連携して「気候変動に関する懇談会」を立ち上げ、きめ細かく活用しやすい情報の提供やその活用に係る施策について総合的に検討しています。今後も地域の実情に応じた防災、農林水産業、健康などの様々な分野での対策に利用しやすいきめ細かい情報の一層の充実を図るとともに、関係省庁や地方公共団体と連携し、適応策の推進に積極的に貢献していきます。 コラム ■埼玉県における適応策への取り組み(埼玉県環境部温暖化対策課) 埼玉県環境部温暖化対策課 小林 健太郎  本県は、平成21年(2009年)に埼玉県地球温暖化対策推進条例を制定し、地球温暖化対策として「適応」を位置付け、同年に策定した地球温暖化対策実行計画にも「地球温暖化への適応策」を章立てするなど、全国に先駆けて適応策を推進しています。  平成24年(2012年)には庁内で適応を推進する体制として「適応策専門部会」を設け、関係各課との検討のもと、平成28年(2016年)に適応計画「地球温暖化への適応に向けて~取組の方向性~」を策定しました。  主な適応策の事例としては、コメの高温耐性品種「彩のきずな」の開発や、熱中症対策の一環として外出時の休憩所として店舗等に御協力いただく「まちのクールオアシス」などの取組が挙げられます。「彩のきずな」は日本穀物検定協会の2017年産米の食味ランキングで最高ランク「特A」を獲得し、暑さに強いだけでなく美味しいお米としての普及も進んでいます。  環境に関する先端の研究機関である埼玉県環境科学国際センターでは、温室効果ガス排出量の推計や適応策など、地球温暖化に関する研究を行っています。平成30年(2018年)12月に気候変動適応法が施行されたことに合わせ、同センターを「地域気候変動適応センター」として位置付けました。収集した気候等の実態に関する情報や将来予測に関する情報などを、県民・事業者等にも広く提供し、適応に関する理解の促進を図っていきます。  適応策推進の基礎となるのは様々な気象データであり、今後、更に気象庁との連携を密にして気候変動対策を進めていきたいと考えています。 コラム ■気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「1.5℃特別報告書」  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、平成30年(2018年)10月に「気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書」(1.5℃特別報告書)を公表しました(https://www.ipcc.ch/sr15/)。  この報告書は、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組であるパリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑える努力を追求」と決定されたことを踏まえ、気候変動枠組条約(UNFCCC)の要請により、IPCCが我が国からの4名を含む91名の専門家の協力を得て作成したものです。  報告書では、地球温暖化が現在の速度で進行すると2030年から2052年の間に1.5℃に達する可能性が高いと予測しています。また、気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることによって多くの気候変動の影響が回避・軽減できることが示されています。仮に気温が2℃上昇する場合、東アジアなどにおける強い降水現象によるリスクや熱帯低気圧に伴う強い降水が更に増えると予測されるとともに、生態系、食料システム及び健康システムへの影響への適応が困難になると予想されています。  この報告書は、今後の世界の気候変動対策の検討に役立てられます。 コラム ■「気候変動に関する懇談会」への期待 気候変動に関する懇談会会長(東北大学名誉教授)花輪 公雄  地球温暖化をはじめとする気候変動に対し、適応策を適切に講ずることで、影響の低減を図り、国民が健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とした「気候変動適応法案」が、平成30年(2018年)6月に、衆参両議院とも全会一致で可決成立した。この法案では、政府に適応計画を策定することを義務付けるとともに、各地方自治体も適応計画を策定することが努力目標として掲げられた。  この動きを受けて気象庁は「気候問題懇談会」を発展的に改組し、文部科学省とともに「気候変動に関する懇談会」を設置した。任務は,気候変動の実態と見通しについての最新知見を総合的に検討のうえ、取りまとめた情報を提供することで、我が国の気候変動対策の推進に資することにある。さしあたり、気候変動の実態と見通しに関する統一的な見解をまとめたレポートを2020年度に公表することを目標とし、懇談会の下に設置した「評価検討部会」で既に検討に入っている。  進行しつつある地球温暖化は長期の気候変化であるが、その影響は熱波や集中豪雨、あるいは台風などの極端な気象現象にも影響している。さらに海洋においても水位の上昇をはじめとし、海水の高温化・酸性化を通じて生態系への大きな影響も懸念されている。最新の知見を速やかに、そして地域に即し、きめ細かく提供することで、適切な適応策の策定に資することが求められる。本懇談会ならびに評価検討部会の役割は極めて大きいものがある。 コラム ■地球温暖化で変わりつつある日本の豪雨  日本では日降水量100ミリ以上の大雨を観測した日数が増加しており、これには地球温暖化の影響が懸念されています。平成30年(2018年)に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨も、地球温暖化の影響を受けていたのでしょうか。「もし近年の気温上昇がなかったら」と仮定し、平成30年7月豪雨のシミュレーションをすることで、この答えに近づくことができます。まず、現在の気候状態で今回の豪雨を再現すると、雨量はやや少なめですが、大雨のタイミングをよく再現できます。この結果と、近年の気温上昇がなかったと仮定して行ったシミュレーションとを比較すると、気温上昇がない仮定の場合では6.5%程度降水量が減少しました。6.5%と聞くと小さいと感じるかもしれませんが、無視できる数字ではありません。今回の豪雨では全国125地点で48時間積算降水量の記録を更新しました。もし、近年の気温上昇による降水量の増加分がなければ、記録を更新した地点は100地点を下回っていた可能性があります。地球温暖化はすでに日本の豪雨を変えはじめているのです。 トピックスⅡ-2 世界気象機関(WMO)による石垣島地方気象台の「百年観測所」の認定  世界気象機関(WMO)は、気候の監視にとって大切な、長期間にわたる質の高い気象観測データの意義と、そのような気象観測を着実に行っている観測所の重要性を世の中に広く知ってもらうため、「百年観測所」の認定を行っています。石垣島地方気象台は、明治29年(1896年)に、当時の中央気象台付属の石垣島測候所として正式に気象観測を始めて以来、これまで100年以上にわたり同じ場所で長く途切れることなく、質の高い気象観測を続けていることが評価され、平成29年(2017年)5月に我が国で初めて「百年観測所」として認定されました。石垣島地方気象台では、百年観測所の認定プレートを構内に設置して、平成30年12月5日の122年目の創立記念日に合わせて、除幕式を行いました。 Ⅲ 気象情報の活用により、より豊かな暮らしを実現するために トピックスⅢ-1 新たな気象ビジネスの誕生  近年のIoT、AI、ビッグデータ等に関する技術の発展により、多様な産業においてデータを収集・分析することが可能となってきています。また、国及び地方公共団体においては、官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)により保有するデータのオープンデータ化が進められており、産業界が利活用できるデータも増えつつあります。  数あるデータの中で、気象データについては、過去から現在までの観測データのみならず未来の予測データがあり、また、気象庁が作成・提供するデータのほか、民間気象事業者等が独自の分析・観測データによりユーザーのニーズに合わせて扱いやすいフォーマットで提供している詳細なデータなどがあるなど、用途に応じた様々なデータを入手することが可能となっています。  そのような中、産学官関係者の対話・連携の強化を図り、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、平成29年(2017年)3月に産学官の連携のもとで「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」が設立されました。WXBCでは、主な取り組みの一つとして、気象データをビジネスに役立てていただくため、データ理解力、IT活用力、ビジネス発想力を身につけられるようなセミナー等を東京及び地方都市で開催し、またもう一つの主な取り組みとして、気象データを提供する企業や気象データをビジネスに活用したい企業等の出会いの場として、平成30年(2018年)11月に「第1回気象ビジネスマッチングフェア」を開催しました。セミナー等は開催するたびに多くの方にご来場いただきました。また、気象ビジネスマッチングフェアには245名の方にご来場いただき、企業同士のマッチングが120組成立するなど、気象データの利活用への関心の高まりがうかがえました。  気象データの利活用への関心の高まりに合わせて、過去の気象データを様々な企業独自のデータと組み合わせて分析し、その関係性を用いてリアルタイムの気象の観測・予測データ等を用いる新たなビジネスが誕生しつつあります。例えば、電力分野での電力需要予測、アパレル分野でのコーディネートを提案するサービス、農業分野での生産プロセスの最適化、物流分野での販売機会ロス削減、観光分野でのダイナミックプライシングや地域の魅力的な観光資源活用への応用等の様々な産業分野での気象データの利活用の動きが見られます。  このような動きの拡大・加速を支援するため、気象庁では、ビジネスにおける気象データの有用性確認(仮説の検証等)のハードルを下げるべく、令和元年度(2019年度)に試行実験として、過去の気象データを機械が読みやすい形で提供する環境の構築を行います。また、気象データへの理解促進のため、例えば農業分野では「農業に役立つ気象情報の利用の手引き」を作成するなど、様々な産業分野における利用推進に取り組んでいます。  また、現在、気象予報に係る予報業務の許可等の制度についての検証と可能な見直しを進めており、気象データの利活用を促す環境整備にも努めています。 コラム ■小規模事業者こそデータの活用を! WXBC 新規気象ビジネス創出WG座長 村上文洋 (三菱総合研究所 社会ICTイノベーション本部 主席研究員)  気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)が設立されて2年が経ちました。この間、コンソーシアム全体や、新規気象ビジネス創出WG参加企業も増え、気象データに対する企業の関心の高さを感じています。  オープンデータ活用事例でよく取り上げられる「The Climate Corporation」の農業保険サービス(現在は、農業事業者支援サービスに転換)は、Googleを退職した人が設立したベンチャー企業ですが、アメリカ政府が公開している膨大な土壌情報、過去の農作物の収穫量や気象データを活用して独自のアルゴリズムで作物被害を予測し、農業保険料の算出に活用しました。  コンビニエンスストアチェーンでは、過去の売上データ、周辺のイベント情報、気象データなどから商品の売上予測を行い、これに基づき日々の発注量を決めています。  一方、小規模な飲食店や小売店でも、気象データを含む様々なデータを活用して、売上予測を行うところが出てきました。三重県伊勢市にある「ゑびや」は、市内で土産物屋と食堂を営む老舗ですが、過去の売上、気象データ(天気予報)、曜日、近隣の宿泊客数などから、翌日の来客者数を予測する「来客予測AI」を自社開発・導入することで、売上高、利益率、従業員の給与を大幅にアップすることができました。  様々なIT開発ツールやクラウドなどの開発・運用環境が安価に提供されるようになり、オープンデータでデータの入手・活用が簡単になったことが背景にあります。もはやIT活用は大企業だけのものではなく、むしろ現場の意見を直接システム開発に反映できる小規模な事業者のほうが、スピード感や柔軟性などの点で優っているかもしれません。気象データを、もっと多くの方々に使っていただくために、WXBCの活動が、その一助になればと思っています。 【参考文献】“老舗ベンチャー”ゑびや大食堂が「的中率9割」のAI事業予測をサービス化! ITビジネスに参入決断した「その理由」(CNET Japan) https://japan.cnet.com/extra/ms_ebiya_201710/35112861/ コラム ■農業分野での新たな気象データ利活用の始まり 株式会社ハレックス 常務取締役 足海 義雄  気象データを活用することで、天候による農作物へのリスクを減らすなどの取り組みが広がりつつある中、北海道浜頓別町の酪農家様から、「牧草を刈り取る際に霧で湿ってしまうと、牧草の品質が著しく低下し、大きな損害を受ける。なんとかして霧の予測を正確に行い、牧草の刈取り計画に役立てたい。」という相談がありました。雨の予報なら牧草の刈取り作業は行いません。しかし、霧は晴れ予報でも発生し、当社の熟練した気象予報士による判断を仰いだとしても、特定の牧草地での霧の発生予測は非常に難しいです。  そこで、WXBC会員の皆様及び気象庁様のお力添えを賜り、平成30年(2018年)3月に「霧プロジェクト」を発足。霧プロジェクト参加企業の皆様から様々な知見やご提案をいただき、センサーデータやライブカメラ映像、気象衛星画像の活用、さらには、人工知能を駆使し、特定の場所の霧予測が可能かの検討を始めました。昨年度は、主に数値予報データを用いて霧予測の可視化ツールの開発を試み、今年度は、参加企業様との連携を深めながら、更なる精度向上を目指しています。実証実験を繰り返しながら、特定の酪農家様のニーズに寄り添いお応えすることができたら、その実績を様々な分野に広げていきたいと考えています。霧プロジェクトの活動を通じ、気象データ利活用の価値をより多くの分野の方々にご認識いただけるよう、今後もWXBC会員の皆様及び気象庁様とともに活動を進めてまいります。 コラム ■笑顔を売る人が笑顔でいられる世の中に。地方の老舗食堂のIT事業 株式会社EBILAB 代表取締役CEO 小田島 春樹  サービス産業を見渡すと、価格競争や働き手の不足に頭を悩ます経営者や、過酷な労働環境や将来が見えない閉塞感に意欲をそがれているスタッフが沢山います。商売の基本である、「お客さまを笑顔にしたい」、「笑顔を売る人がもっと笑顔になれるように」という想いから、中小規模の飲食・小売店をはじめとするサービス産業のための経営支援AI「TOUCH POINT BI」を作成・提供しています。 「TOUCH POINT BI」では、時間別の来客数・年代比率・商品別販売数など、店舗のコンディションを可視化する様々なデータを自動で収集・分析して来客予想等を行うことで、人員配置の適切化や仕込み量のロス削減が可能になり、効率的で収益性の高い店舗運営をサポートします。「TOUCH POINT BI」にとって、天気や気温といった気象データは欠かせないデータの一部です。気象データは毎日のお客さまの来客数に影響を与えることは勿論のこと、よく売れるメニューにも大きく影響を与えています。  創業100年の老舗食堂である「ゑびや」では、2012年から先述の様々なデータを収集・分析しはじめ、平成29年(2017年)から「TOUCH POINT BI」を活用・実践しています。結果、7年間で売上高約4.4倍、客単価約3倍、米の廃棄約1/4と効率的で収益性の高い店舗運営を体現しました。また、スタッフの長期休暇取得率100%や残業ゼロも実現し、従業員満足度も向上させました。  みなさんも、気象データを商売の現場で存分に活用し、「商売」を「笑売」にしてみませんか? コラム ■気象データに付加価値を 株式会社ルグラン 共同CEO 泉 浩人  株式会社ルグランでは、気象ビッグデータを活用し、最適なコーディネートをレコメンドするファッションテックサービス「TNQL」(テンキュール)を提供しています。最大の特徴は、AIがユーザーの好みのスタイルを把握し、天気とユーザーの好みにあったコーディネートレコメンドを実現していることです。  TNQLは、気象データに「コーディネートを提案する」という付加価値をつけ、忙しい女性のサポートをするサービスです。  気象データから消費者の行動を予測することで、最適な商品や情報を販売・提供できる、天候ドリブンなマーケティングを可能にできます。これにより、企業がユーザー・消費者と毎日、対話ができるプラットフォームになり得ると考えます。  気象は社会の基本インフラとも言うべき、価値の高いデータです。気象データの意味を理解するだけではなく、さらに付加価値を付け、視覚化して伝える能力が求められている時代に突入していると思います。 コラム ■ひまわり8号のデータ利活用をテーマにセミナーを各地で開催しました  世界最高性能を有する「ひまわり8号」は、国内外における気象等の現象を高頻度・高解像度で観測しています。可視域・近赤外域・赤外域の計16バンドのセンサーで霧や黄砂の判別が容易になったほか、森林火災や火山の噴火・噴煙の様子までも捉えることができるようになりました。そして、ひまわり8号から得られた情報は、GISなど他のデータと重ね合わせることで、様々な産業界における新たな気象ビジネスの基盤となる情報となる可能性を含んでいます。  このひまわり8号のデータのビジネスへの利活用が一層進むよう、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)では、平成30年(2018年)度に、産学の気象情報利用者と連携して、東京をはじめ、札幌、仙台、新潟、大阪、福岡、那覇の6つの地方都市においてもひまわりの利活用に焦点をあてたセミナーを順次開催しました。セミナーでは、ひまわり8号のデータの活用事例として、地方特有の事例を参照しながら、霧や下層雲、積乱雲等の見え方のほか、RGB手法と呼ばれるデータの加工処理、データ取得の方法について紹介が行われました。いずれの会場も多数の参加があり、参加者同士の名刺交換・意見交換も行われ、業種をまたいだビジネスが生まれる種になったものと期待されます。 Ⅳ 最新の科学技術を導入し、気象業務の健全な発達を図るために トピックスⅣ-1 第10世代スーパーコンピュータの運用開始  気象庁では、より高精度の気象予測を行うために、第10世代となるスーパーコンピュータシステムを平成30年(2018年)6月5日から運用開始しました。このスーパーコンピュータは2台で構成され、平成30年6月現在の世界ランキング(TOP500による: https://www.top500.org/)で25、 26位の演算性能を持っています 。  更新後、1日4回計算を行う全球モデルのうち、午前3時、午前9 時、午後3 時を初期値とするプロダクトの予測時間を、84時間(3.5日)から132 時間(5.5 日)に延長しました(午後9時初期値のものは従前から264時間(11日)まで予測)。これにより、平成31年3月には、台風の強度予報(中心気圧や最大風速等)の予報期間を3日先から5日先まで延長しました。また、平成31年3月には、午前9時、午後9時に行うメソモデルの予測時間を51時間に延長し、朝5時発表の天気予報において明日の24時までの予報にメソモデルの結果を利用することができるようになるなど、天気予報のための数値予報資料の利用における一貫性が向上しています。さらに、メソモデルの予測時間延長と同時に、航空交通管理のための気象情報の改善のために、局地モデルの予測時間を10時間に延長しています。  令和元年(2019年)6月には、メソモデルで行うメソアンサンブル予報システムの運用を開始する計画です。メソモデルに対し、複数の客観的な予測結果を得られるため、予測が難しい気象現象の発生を確率的に捉えることが可能となります。例えば大雨や暴風など災害をもたらす激しい気象現象が発生する可能性について、一つのメソモデルの予測結果では把握できなくても、複数の予測結果を用いることによって、早い段階で把握することができるようになります。  今後も、台風の影響や集中豪雨の発生可能性等を早い段階から精度良く把握できるように、数値予報モデルの高度化など予報技術の向上に向けた改良等を行い、防災・日常生活・社会経済活動の様々な場面で幅広く利活用される各種気象情報の更なる改善に取り組んでいきます。 コラム ■2030年に向けた数値予報技術開発重点計画  気象庁は平成30年(2018年)10月に、気象・気候予測の根幹である数値予報の技術開発に関する「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」を策定・公表しました。これは、平成30年8月の交通政策審議会気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」(特集2参照)に示された気象・気候分野に関する課題に取組む計画にもなっています。この策定にあたっては、昨年度から開催している「数値予報モデル開発懇談会」において最新の科学的な知見に基づくご検討をいただきました。  気象庁は、この計画に基づき、数値予報の高度化・精度向上の取組を強力に推し進めてまいります。 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tecdev/nwp_strategic_plan_towards_2030.html 参照) トピックスⅣ-2 多様な観測データを高度に活用した気象技術開発の推進  気象庁では、従来の気象観測に加えて、静止気象衛星ひまわり8号・9号や二重偏波気象レーダーの導入など観測網の高度化を進めており、観測データの種類やデータ量を飛躍的に充実させています。  この多様な観測データを総合的かつ高度に活用するため、 平成30年(2018年)4月、気象技術開発室を設置し、面的な推計気象分布(天気・気温)の精度向上や二重偏波レーダーデータから雲内部の降水粒子の種類を判別するアルゴリズムの開発などを進めました。今後も、気象庁内外の研究開発機関とも連携しながら、面的な推計気象分布への新たな要素の追加やAIを活用した観測データの品質管理手法の開発など、最新技術も導入して、防災や経済活動をはじめ様々な分野で幅広く使っていただける新たな気象データを開発・提供してまいります。 コラム ■気象測器歴史館  茨城県つくば市にある気象測器検定試験センターでは、全国の気象官署で明治以降に使用した約150点の気象測器を展示する気象測器歴史館を、平成29年(2017年)8月にオープンしました。  展示品には、海外から輸入され、初期の気象観測に用いた晴雨計(気圧計)や温度計、日射計、さらに大正時代に高層気象観測に用いた観測機器など、他ではなかなか見ることのできない機器が数多く揃っています。  毎年、4月と8月に開催する一般公開日のほか、事前の申込みにより見学いただくことが可能です。実際に使用した歴史的価値のある様々な気象測器をご覧いただくとともに、気象観測技術の歴史を感じてみるのはいかがでしょうか。 【お問い合わせ先:気象測器検定試験センター、住所:つくば市長峰1-2、電話番号:029-851-4121】 コラム ■我が国の「質の高い」観測機器の海外展開支援の取組  我が国には優れた観測機器を製造する企業が多くあり、気象庁も日々の業務にそれらの機器を活用しています。我が国は成長戦略の一環として政府全体で日本の技術力・知見を生かした「質の高いインフラ」の輸出拡大を進めており、気象庁もこれら企業による海外展開の支援に取組んでいます。  日本の技術が世界をリードする一例として、今や気象観測には欠かすことの出来ない「気象レーダー」が挙げられます。日本のメーカー各社は、従来のものより“低ランニングコスト、安定運用、電波資源の有効利用”等の特長を持つ「固体素子気象レーダー」と呼ばれる気象レーダーの製造・販売を、世界に先駆けて開始しました。気象庁は、このような技術的に優れた観測機器の海外展開を支援するため、関係省庁とも連携した情報共有、海外要人とのミーティング機会の創出等に取組んでいます。また、観測機器の展開に併せて、海外気象機関への技術協力等を通じて各国が最新の機器を使いこなす能力の向上を図っています。  質の高い観測機器が世界に広く普及することは、各国における気象業務の質の向上にもつながります。我が国の経済成長だけでなく世界の気象業務の発展への貢献を目指して、気象庁はこの取組を更に進めていきます。 トピックスⅣ-3 ひまわり黄砂監視画像の提供開始  気象庁は、地方自治体や住民の皆様が効果的に黄砂対策をとることができるよう、気象庁ホームページにおいて、気象衛星ひまわりによる「ひまわり黄砂監視画像(トゥルーカラー再現画像、ダスト画像)」の新規提供を平成31年(2019年)1月から開始しました。1時間ごとの画像が掲載されますので、動画等で確認することによって黄砂の発生・飛来の様子を直観的により把握しやすくなります。人間の目で見たような色合いを再現するトゥルーカラー再現画像は、日中の黄砂監視において特に有用です。ダスト画像は、昼夜を問わず24時間連続的に利用可能で、黄砂領域が赤紫色で表現されます。  平成30(2018)年3月28日から29日にかけて日本付近に黄砂が飛来した際、28日15時のトゥルーカラー再現画像では、地上気象観測結果(上図、右の赤破線内)に対応して、大陸(黄河下流域)から日本海、北日本にかけて茶色の黄砂領域が見られました(上図、左の白破線内)。前日夜の27日21時のダスト画像では、中国東北区付近にある濃い黄砂領域を捉えることができました(下図、左の白破線内、右の赤破線内)。 「ひまわり黄砂監視画像」は、気象庁ホームページでご覧いただけます。 https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosa/himawari/ 第1部 国民の安全・安心を支える気象業務 序章 はじめに 1節 気象情報の流れ  気象庁は、気象・海洋や地震・火山などの自然現象を常に監視・予測し、的確な気象情報を提供することによって、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現することを任務としています。気象庁では、これらの自然現象に関する防災気象情報を、防災関係機関にオンラインで迅速に伝達すると同時に、テレビ・ラジオやインターネット等を通じて広く国民に発表しています。  気象庁が発表する大雨警報や津波警報などの防災気象情報は、様々な伝達手段を用いて防災機関や住民へ伝達されます。  例えば、気象庁では、防災気象情報をテレビ・ラジオ等の報道機関や気象庁ホームページなどを通じて住民へ提供しているほか、都道府県や消防庁を通じて市町村等防災機関に伝達しています。市町村からは、地域の実情に応じて防災行政無線や広報車の巡回、ケーブルテレビなどを用いて防災気象情報が周知されます。また、携帯事業者の協力を得て、緊急地震速報や津波警報、気象等及び噴火に関する特別警報を、該当する地域にいる一人ひとりの携帯電話に一斉に配信する「緊急速報メール」等を用いた伝達も行っています。さらに、最近では携帯電話やスマートフォンなどの各種アプリケーションを用いて、一人ひとりがその地域で必要な防災気象情報を手軽に手に入れることが出来るようになっています。  気象庁は、防災気象情報を防災機関や住民に効果的に伝達することにより、地域における防災力の強化や気象災害に伴う被害の防止・軽減を図っています。 2節 気象庁ホームページ  気象庁ホームページでは、大雨、地震・津波、火山噴火等に関する防災情報を掲載しています。掲載している防災情報には、警報・注意報や予報等を文字や表で伝えるものや、いつ、どこで洪水や浸水害発生の危険度が高まるのかがわかる「危険度分布」があります。また、これらの防災情報の解説や効果的な利用方法も合わせて掲載しています。平成30年(2018年)10月に、いま知りたい情報を分かりやすく表示するためトップページをリニューアルし、スマートフォン向けトップページも新設しました。気象庁ホームページは、日頃から防災情報の取得に有効に活用されており、1日で約1,800万ページビュー、特に、台風が接近している時などはアクセス数が増加し、5,000万ページビューを超えることもあります。 3節 防災情報提供センター  国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。  このウェブサイトからは、気象庁と国土交通省の各レーダーそれぞれの長所を活かして統合した雨の分布に、省内各部局及び都道府県などの雨量情報を重ね合わせて表示可能な「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。  また、携帯端末向けのホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)では、屋外などパソコンが使えないような場所でも、これらの災害・防災情報を入手できるようにしています。 第1章 気象の監視・予測 1節 気象の監視と情報発表 (1)気象等の特別警報、警報、注意報及び気象情報 ア.気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報の役割  気象庁は、大雨や暴風などによって発生する災害の防止・軽減のため、気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報(以下、「防災気象情報」)を発表しています。災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、まず数日前から気象情報を発表し、その後の危険度の高まりに応じて注意報、警報、特別警報を段階的に発表することで、市町村、都道府県、国の機関等の防災関係機関の活動や住民の安全確保行動の判断を支援しています。これらの内容や発表タイミングについては、平常時から防災関係機関との間で意見交換を行い、効果的な防災活動の支援となるよう努めています。特に「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について」報告においては、防災情報を5段階の警戒レベルにより提供することが提言されており、この警戒レベルへの対応も進めています。特別警報・警報・注意報及び気象情報には、以下のようなものがあります。  特に、大雨特別警報は以下のような位置づけ・役割を持っています。 イ.気象等の特別警報・警報・注意報 ○気象等の特別警報・警報・注意報の種類  現在、気象等の特別警報は6種類、警報は7種類、注意報は16種類あります。大雨・洪水・高潮の警報等は、それぞれ警戒レベルと対応しています。 ○気象等の特別警報・警報・注意報の発表区域と発表基準  気象等の特別警報・警報・注意報は、市町村単位で発表しており、災害発生に密接に結びついた指標(風速、潮位や後述の指数など)を用いて発表基準を設定しています。警報・注意報の基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査した上で、重大な災害が発生するおそれのある値を警報の基準に、災害が発生するおそれのある値を注意報の基準に設定しています。例えば、暴風警報の基準は「風速がこの値以上に到達すると重大な災害が発生するおそれがある」という値を設定しています。また、特別警報の基準は、数十年に一度という極めて希で異常な現象を対象として設定しています。そして、特別警報、警報、注意報は、基準以上に到達する現象(以下「特別警報級、警報級、注意報級の現象」)が予想されるときに発表します。  なお、強い地震により地盤がゆるんだり、火山噴火により火山灰が積もったりしている地域では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなります。このような場合は、通常よりも警戒を高めるため、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの基準を暫定的な値に引き下げて運用することがあります。 ○気象等の特別警報・警報・注意報及び早期注意情報(警報級の可能性)の発表  警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶおそれがあります。このため、警報級の現象が発生すると予想される時間よりも前(最大で6時間程度前)に警報を発表することとしており、警報の発表にあたっては危険な時間帯が一目で分かるよう、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯を赤色、黄色で示した時系列の表を付しています。また、警報級の現象が概ね6時間以上先に予想されている場合には、警報の発表に先立って警報に切り替える可能性が高い注意報を発表し、警報級の現象が予想される時間帯を明示しています。例えば、警報級の現象が翌日明け方に発生すると予想される場合には、あらかじめ夕方の時点で注意報を発表し、警報級の予想となっていることが一目で分かるように明け方の時間帯を赤色で表示して「明け方までに○○警報に切り替える可能性が高い」と記載しています。こうした、警報等の発表から現象発生までの猶予時間(リードタイム)は、警報等が防災関係機関や住民に伝わり安全確保行動がとられるまでにかかる時間を考慮して設けているものです。ただし、現象の予想が難しい場合にはリードタイムを十分確保できない場合もあります。  また、警報級の現象が5日先までに予想されているときには「早期注意情報(警報級の可能性)」を[高]、[中]の2段階で発表しています。警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶなど社会的影響が大きいため、可能性が高いことを表す[高]だけでなく、可能性が高くはないが一定程度あることを表す[中]も発表しています。なお、[高]や[中]が発表されていなくても、天候の急激な変化に伴って警報発表となる場合もあります。明日までの早期注意情報(警報級の可能性)は、警戒レベル1に対応します。 ウ.各災害に関する防災気象情報 ○土砂災害に関する防災気象情報  大雨によって土砂災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(土砂災害)【警戒レベル3相当】、土砂災害警戒情報等【警戒レベル4相当】を市町村単位で発表しています。このうち、土砂災害警戒情報は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときに、市町村長の避難勧告や住民の避難開始の判断を支援するために都道府県と気象庁が共同で発表しています。さらに、これらの情報が発表されたときに実際にどこで危険度が高まっているかを把握できるように、地図上で1キロメートル四方の領域(メッシュ)ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「大雨警報(土砂災害)の危険度分布(土砂災害警戒判定メッシュ情報)」を常時10分毎に更新しています(令和元年度出水期より5キロメッシュから1キロメッシュに高解像度化予定)。  大雨に伴って発生する土砂災害には、現在降っている雨の量だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量も深く関係していることから、土砂災害発生リスクの高まりを把握するに当たっては、60分間積算雨量とともに、雨が土壌中に浸み込んで溜まっている量を指数化した「土壌雨量指数」を用いています。  また、土砂災害発生の危険度を判断する設定の基準には、過去約25年分の土砂災害データを用いています。特に、土砂災害警戒情報の基準は「この基準を超えると、過去の重大な土砂災害の発生時に匹敵する状況となり、この段階では命に危険を及ぼす土砂災害がすでに発生していてもおかしくない」という基準を設定しています。大雨警報(土砂災害)の危険度分布では、この基準を超えると、5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫色)が出現しますので、この濃い紫色が出現する前の段階で避難を開始し、安全な場所への避難を完了しておく必要があります。  従って、土砂災害から命を守るためには、避難にかかる時間(約2時間)を考慮し、2時間先までに土砂災害警戒情報の基準に到達することが予測された時点で速やかに避難を開始する必要があります。大雨警報(土砂災害)の危険度分布ではこのタイミングで避難開始の目安となる「非常に危険」(うす紫色)【警戒レベル4相当】が出現し、速やかに土砂災害警戒情報が発表されます。さらに、高齢者等の方が避難を開始する目安となる大雨警報(土砂災害)については、避難にかかる時間を考慮して、土砂災害警戒情報よりも1時間程度早く発表できるような基準を設定しています。土壌雨量指数の2時間先までの予測値がこの基準に到達しているとき、大雨警報(土砂災害)の危険度分布では「警戒」(赤色)【警戒レベル3相当】が出現し、速やかに大雨警報(土砂災害)が発表されます。地盤が崩れやすく土砂災害が発生しやすい地域では、過去の土砂災害履歴に基づき土砂災害警戒情報等の基準が低く設定されています。この様に、土砂災害警戒情報等の基準には地質や地盤の崩れやすさの違いなども反映されています。  土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。崖や渓流の付近など、土砂災害によって命が脅かされる危険性があると認められる場所は、都道府県が土砂災害警戒区域や土砂災害危険箇所(以下「土砂災害警戒区域等」)に指定しています。土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、可能な限り早めの避難を心がけていただき、高齢者等の方は遅くとも大雨警報(土砂災害)の危険度分布で「警戒」(赤色)が出現した時点で、一般の方も遅くとも「非常に危険」(うす紫色)が出現した時点で速やかに避難を開始し、「極めて危険」(濃い紫色)に変わるまでに避難を完了しておく必要があります。 ○浸水害に関する防災気象情報  下水道等の排水能力を超えるような短時間の強い雨が降ると、周囲より低い窪地や道路のアンダーパス等に雨水が集まって家屋の床上浸水や道路冠水等が発生します。こうした浸水害の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(浸水害)【警戒レベル3相当】等を発表しています。また、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表し、浸水害等の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを迅速に知らせています。さらに、これらの防災気象情報が発表されたときや雨が強まってきたときに、どこで危険度が高まっているかを把握できるよう、地図上で1キロメートル四方の領域ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「大雨警報(浸水害)の危険度分布」を常時10分毎に更新しています。この危険度分布は、下水道等で排水しきれないほどの大雨が短時間で降ったことが原因で、河川の氾濫とは関わりなく発生する浸水害(いわゆる内水氾濫)の危険度の高まりを示しています。住宅の地下室や道路のアンダーパスは特に危険ですので、各自の判断で、こうした場所から離れ、屋内の浸水が及ばない階に移動する等の安全確保行動をとってください。 ○洪水害に関する防災気象情報  河川の上流域における降雨や融雪によって洪水害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に洪水注意報、洪水警報を発表しています。また、これらが発表されたときに実際にどの河川のどこで危険度が高まっているかを把握できるように、危険度の高まりに応じて、地図上で河川流路を概ね1キロメートルごとに5段階に色分けして表示した「洪水警報の危険度分布」を常時10分毎に更新しています。この危険度分布には「指定河川洪水予報」(後述)の危険度も重ねて表示しています。 ・中小河川の洪水害に関する防災気象情報  中小河川は、流域面積が比較的小さく、上流域に降った雨が河川に集まるまでの時間が短いため、短時間のうちに急激な水位上昇が起きやすい特徴があります。洪水危険度の急激な高まりに気付きにくいため、不意を突かれて逃げ遅れることのないよう早めの避難が必要となります。  中小河川であっても氾濫した際には家屋が押し流されたり、場所によっては浸水の深さが最上階の床の高さにまで達したりするおそれがあります。特に、山間部を流れる中小河川(山地河川)は、勾配が急で流れが速く、氾濫する前から水流によって川岸が削られて川沿いの家屋が押し流されるおそれがあるほか、氾濫した際も幅の狭い谷底平野に流路が限定されるため、谷底平野全体が川のようになって水かさが深くなりやすく、破壊力の大きな氾濫流が生じて家屋が押し流されるおそれもあります。こうした区域にお住まいの方は「洪水警報の危険度分布」を用いて早めの避難を心がけてください。「洪水警報の危険度分布」では、避難にかかる時間等を考慮して3時間先までの予測値を用いることで、実際に急激な水位上昇が起きるより前の早い段階から、洪水危険度の急激な高まりの見込みを事前に把握できるようにしています。また、上流地点に出現した危険度の高まりは、その後、下流に移動してくる傾向がありますので、上流地点の危険度も含めて確認することで、自らに迫る危険をいち早く覚知して早めの準備や判断ができます。ただし、5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫色)が出現した段階では、すでに氾濫した水により道路冠水等が発生して屋外への避難が困難となっているおそれがあります。中小河川の水位上昇は非常に急激なため、遅くとも「非常に危険」(うす紫色)【警戒レベル4相当】が出現した時点で、水位計や監視カメラ等で河川の現況も確認した上で、速やかに避難開始の判断をすることが大変重要です。また、危険度がそこまで高まっていなくても、自治体から避難勧告が発令された場合や河川管理者から氾濫危険情報が発表された場合には、速やかに避難行動をとってください。 ・大河川の洪水害に関する防災気象情報  大河川は流域面積が広く、氾濫が発生すると、大量の氾濫水で周辺の家屋が押し流され、浸水も広範囲にわたり、場所によっては深く浸水した状態が長期間継続します。  流域面積が大きく洪水により大きな損害を生ずる河川については、気象庁は国土交通省又は都道府県と共同で「指定河川洪水予報」を発表しています。発表する情報は、危険度の高まりに応じて「氾濫注意情報」、「氾濫警戒情報」、「氾濫危険情報」、「氾濫発生情報」の4つがあり、河川名を付して「○○川氾濫危険情報」のように発表します。これらの情報と警戒レベルとの対応を図にまとめました。  氾濫が発生したときに水流で家屋が押し流されてしまう場合や浸水の深さが最上階の床の高さまで達してしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある家屋等にお住まいの方は自治体の避難情報や河川の水位情報に留意するとともに、指定河川洪水予報の氾濫危険情報が発表された時点で家屋等からの立退き避難を開始し、浸水想定区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。  これら大雨による災害について、危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報、市町村の対応例、住民の方にとっていただきたい行動等の概要を図のようにまとめました。 ○高潮災害に関する防災気象情報  台風や低気圧等の接近に伴う海面の上昇により、高潮災害が発生するおそれがあると予想されるときには高潮警報【警戒レベル4相当】や高潮警報に切り替える可能性が高い注意報【警戒レベル3相当】、高潮注意報【警戒レベル2】を発表しています。これらの警報等には、市町村長による避難勧告等の発令区域の判断を支援するため、予想される最高潮位(高潮の高さ)の標高を記載しています。  高潮災害で命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水区域などをあらかじめご確認ください。高潮発生時に堤防を越えた波浪が家屋を直撃する場合や氾濫した水に家屋が押し流されてしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある区域にお住まいの方は、台風や急発達する低気圧の接近が予想されているときには、高潮注意報が発表されたら予想最高潮位の標高を確認し、お住まいの場所が命を守るために家屋等からの立退き避難が必要な場所かどうか確認するようにしてください。  さらに、高潮災害が起こるような台風等の接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外移動が困難となりますので、高潮警報を待つことなく暴風警報が発表された時点で避難を開始する必要があります。そして、暴風が吹き始める段階までには高潮注意報の予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外の安全な場所への避難を完了しておくことが大変重要です。なお、暴風警報は、暴風の吹き始める概ね3~6時間前に、暴風の吹き始める時間帯を明示して発表しています。 コラム ■警報が発表されるときってどんなとき? Q.大雨や洪水の警報が発表されるときってどんなとき? A.大雨や洪水の警報は、今後の雨によって重大な災害が発生するおそれのある時に発表します。気象庁は、平成29年(2017年)7月から、災害との結びつきが強い三つの「指数」(土壌雨量指数、表面雨量指数、流域雨量指数)の技術を活用して発表するようにしています。この「指数」は、地面に到達した後の雨水の動きを計算式で再現し、その土地がもともと持っている災害に対する弱さ(素因)も考慮して大雨による災害リスクの高まりを表しています。 Q.指数の技術の活用で警報は良くなったの? A.「指数」の技術を活用することで、大雨となっても災害が発生しにくい場所では必ずしも警報を発表する必要がないと判断できるようになり、大雨警報や洪水警報が発表されたときに災害が発生しないという状況(空振り)を大幅に減らすことができました。また、警報の適中率をさらに高められるよう、危険が相当に切迫したタイミングで大雨警報や洪水警報等を発表するよう抜本的に改善しました。大雨警報や洪水警報が発表されたときには、避難の準備をするなどの対応行動をとっていただく必要がありますが、これらの改善により、より行動を起こすに相応しい状況を示すようになりました。 Q.警報ってどのように使えばいいの? A.大雨警報や洪水警報は、「早期注意情報(警報級の可能性)」や大雨注意報、洪水注意報と合わせてご利用ください。警報を待ってから行動するのではなく、「早期注意情報(警報級の可能性)」が発表されたときに、警報の発表に備えて今後の見通しを積極的に収集することを始める等、事前に災害への心構えを高める、といった利用が有効です。特に、ハザードマップで示されているような土砂災害や洪水災害により命が脅かされる危険性が認められる場所にお住まいの方が確実に避難するためには、急に行動を迫られることのないよう、段階的に発表される防災気象情報を活用することが重要です。 Q.大雨によってどこで危険度が高まっているかもっと詳しく知るにはどうしたらいいの? A.平成29年7月から、「指数」の技術を活用して、土砂災害、浸水害、洪水発生の危険度が高まっている詳細な場所を地図上で5段階に色分けして示す大雨警報・洪水警報の危険度分布の提供を開始しました。実際に大雨警報や洪水警報が発表されたときには、スマートフォン等から「危険度分布」を確認することで、自分がいる場所とその周辺の危険度が高まっているかどうかを把握することができます。 エ.その他の防災気象情報 ○台風情報  気象庁では台風の動きを常時監視し、台風の実況や、その台風がいつ頃どこにどの程度の強さで接近するかを「台風情報」でお知らせしています。台風が存在する場合、台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と12時間先、24時間先の予報を3時間ごとに発表します。さらに、5日先までの24時間刻みの進路・強度予報を6時間ごとに発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。  台風の勢力は、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」で表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)を、「強さ」は最大風速を基準にして表現を使い分けています。  台風が我が国に近づき被害のおそれが出てきた場合には、様々な防災対策に利用できるよう、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、5日先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 コラム ■台風5日強度予報の運用開始  平成30年(2018年)6月にスーパーコンピュータシステムを更新することにより計算能力を向上させるとともに、最大風速や中心気圧など台風の強度を予測するための技術開発等を進めることで、平成31年3月14日より、それまで3日先まで発表していた台風強度予報を5日先まで延長して発表することとしました。これにより、台風予報は進路・強度ともに5日先までとなり、しかも、従来の3日先までの進路・強度予報と同じ発表時刻・発表頻度で発表します(台風1個の場合は、3時、9時、15時、21時の観測時刻の約50分後に、台風が複数個の場合は1個目を約50分後、2個目以降を約70分後に発表)。また、台風の暴風域に入る確率も、従来の3日先までから5日先まで延長しました。  台風5日強度予報の運用開始により、たとえば、4日先や5日先に台風が日本へ接近することが予想される場合、台風の接近が見込まれる地域では、台風の進路に強度の情報もあわせて参照することができ、台風接近時の防災行動計画(タイムライン)に沿った自治体等の防災対応を、これまでよりも早い段階からより効果的に支援することが可能となりました。 ○(全般・地方・府県)気象情報  低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを気象情報(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても気象情報(「高温に関する気象情報」など)として発表します。 コラム ■図形式地方気象情報の提供開始  気象庁では、自治体や住民の皆様の防災対応を効果的に支援するため、よりわかりやすい気象情報を提供するとともに、地域の防災関係機関や報道機関等とも連携して地域全体の気象防災力の向上に向けた取り組みを継続的に取り組んでいます。  その中で、これまで文章形式の情報のみであった全般気象情報や地方気象情報において、図形式の情報の提供を平成30年(2018年)6月より開始しました。注目点や今後の見通し、危険度の高まる場所や時間帯等の重要なポイントを、分かりやすい図や表などを用いた気象情報を提供することにより、台風の接近時などに広い範囲の気象状況から防災上重要なポイントを一目で把握出来るようになり、より納得感を持っていただける情報となっています。また、図や表を用いた気象情報には、最新資料へのリンク先を明記するなど、利用者の方々に使いやすい情報となるよう工夫して作成します。分かりやすい、使いやすい情報の提供により、関係機関や住民の皆様の効果的な防災対応を支援していきます。 ○記録的短時間大雨情報  大雨警報の発表中に、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表します。この情報が発表された地域では土砂災害や浸水害、中小河川の洪水害の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。  この情報が発表されたら、実際にどこで災害発生の危険度が高まっているかを大雨・洪水警報の危険度分布で確認してください。特に土砂災害警戒区域等、これらの災害で命に危険が及ぶおそれが認められる区域にお住まいの方は、地元自治体の発令する避難情報に留意し、速やかに安全確保行動をとってください。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、高解像度降水ナウキャスト) 「解析雨量」は、降水量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1キロメートル四方の細かさで解析します。「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱を考慮し、また数値予報の予測雨量も用いて、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測します。「解析雨量」と「降水短時間予報」は、素早い防災情報の発表に役立てるため、10分間隔で発表します。これに加えて、平成30年度に「降水短時間予報」の予報時間を15時間先まで延長しました。7時間先から15時間先までの各1時間雨量を5キロメートル四方の細かさで予測し、1時間間隔で発表します。  さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな雨量の予測情報を提供するのが「高解像度降水ナウキャスト」です。5分ごとの降水の強さと降水量の分布を250メートル四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1キロメートル四方単位)で予測するもので、情報は5分間隔で更新されます。また、30分後までの「強い降水域」や、竜巻・落雷の危険が高まっている「竜巻発生確度2又は雷活動度4」等の領域を1枚の画像に重ねて表示することができます。高解像度降水ナウキャストの解析・予測には、全国20カ所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁・国土交通省・地方自治体が保有する全国約10,000カ所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省のXRAIN(高性能レーダ雨量計ネットワーク)のデータも活用しています。また、最新の技術を用いて降水域の内部を立体的に解析することにより精度向上を図っています。 コラム ■「今後の雨」はじめました  気象庁は平成30年(2018年)6月より、気象庁ホームページで15時間先までの雨の分布予報を表示できる「今後の雨」の提供をはじめました。これまで提供していた「解析雨量・降水短時間予報」のページをより使いやすくするとともに、予報時間をそれまでの6時間先までから15時間先までに延長しています。「今後の雨」はパソコンやスマートフォンでアクセスすることができ(右図)、見たい範囲に自由に移動することや拡大・縮小して表示することができます(左下図)。 「今後の雨」は、例えば朝出かける前に夜までの雨の予報を確認して傘を持っていくか判断したり、夜寝る前に翌日午前中の予報を確認して外出時間を早めたりするなど、日常的に利用できます。また、台風接近時など大雨時の防災対応にも活用いただけます。例えば夜間から明け方に警報級の大雨により土砂災害が発生することが予想されている場合は、まだ明るい夕方のうちに翌朝までのお住まいの地域で大雨になる時刻や分布を確認して、避難準備の判断などに利用できます。雨が降り始めたら、「今後の雨」から切り替えられる「危険度分布」も確認するようにしてください(前頁右下図)。 「今後の雨」を日頃からこまめにチェックして、大雨の時などの緊急時にもすぐに使うことができるようにしておきましょう。 「今後の雨」:https://www.jma.go.jp/jp/kaikotan/ ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 ・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。竜巻発生確度ナウキャストは、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。  竜巻発生確度ナウキャストを利用することにより、竜巻などが発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況を詳細に把握することができます。竜巻注意情報は、天気予報と同じく各都道府県をいくつかに分けた地域に対して発表しており、竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた地域に加え、竜巻の目撃情報が得られて竜巻の継続や新たな竜巻の発生するおそれが高い状態が続くと判断した地域にも発表しています。竜巻注意情報が発表されたときには、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。雷ナウキャストは、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10分~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。 (2)天気予報、週間天気予報、季節予報  天気や気温は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいか、週末に予定している旅行ではどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。また、大雨や暴風といった命に危険を及ぼすような現象について、5日先までに発生が予想されるかどうかを「警報級の可能性」として天気予報や週間天気予報の発表に合わせて発表し、[高][中]という2段階でその可能性をお知らせしています。 ア.天気予報  天気予報は、毎日5時、11時、17時に発表しています。天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の3種類があります。 「府県天気予報」は、明後日(5時の発表では明日)までの風、天気、波の高さ、最高・最低気温、6時間ごとの降水確率を予報します。対象となる地域の1日ごとの天気をおおまかに把握する場合に適しています。 「地方天気分布予報」と「地域時系列予報」は、発表時刻の1時間後から向こう24時間(17時の発表では、向こう30時間)の天気などの分布を3時間刻みに予報しますので、府県天気予報よりも詳しい天気を知ることができます。  地方天気分布予報では、面的な分布が一目で分かるので、雨が何時ころにどの辺りで降るかといったことを、容易に把握することができます。  地域時系列予報では、対象となる地域の天気、風、気温の時間変化を知るのに便利です。 イ.週間天気予報  週間天気予報では、予報発表日の翌日から1週間先までの日々の天気、最高・最低気温、降水確率を、毎日11時と17時に発表しています。今日や明日の予報に比べ、さらに先の予報については、どうしても不確実性が大きくなります。週間天気予報では、その日の予報がどの程度信頼できるかという情報をお知らせするために、天気の信頼度と最高・最低気温の予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の予報での降水の有無について「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表す情報で、予報の信頼度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。例えば、平成30年(2018年)1月10日11時発表の島根県の週間天気予報では、14~16日は同じ曇り時々晴れという予報ですが、16日は14、15日よりも信頼度が低く、予報が変わる可能性が比較的高いことを示しています。また、気温の予測範囲は、2日目以降の気温の欄に(11~16)のように括弧を付して記述しています。実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。 ウ.季節予報  季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予報する異常天候早期警戒情報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、6か月先までを予報する暖候期予報・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、予報区単位で予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。異常天候早期警戒情報については、2週間程度先までの7日間平均気温や7日間降雪量が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表します。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また、地方季節予報で用いる予報区分は図のとおりです。なお、令和元年(2019年)6月には、異常天候早期警戒情報の提供を終了し、2週間気温予報及び早期天候情報の提供を開始します。 (3)その他の情報 ア.光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  気象庁は、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況(晴れて、気温が高く、風が弱いなど)が予想される場合には「スモッグ気象情報」や「全般スモッグ気象情報」を広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 イ.熱中症についての注意喚起  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。  平成27年度(2015年度)からは、高温注意情報(概ね35℃以上※の高温が予想される場合)の発表を5時頃から17時頃の間に随時発表するように、又、高温注意情報を発表した場合だけでなく概ね真夏日(最高気温30℃以上)が予想される場合にも日々の天気概況で注意を呼びかけています。さらに、令和元年(2019年)6月からは新たな情報として2週間気温予報の発表を開始し、2週間先にかけての気温を毎日予報するとともに、週に2回(原則として月曜日及び木曜日)、著しい高温が予想される場合は高温に関する早期天候情報を発表して注意を呼びかけます。  地方別、都道府県別の高温注意情報の発表状況、内容、気温予想グラフは気象庁ホームページで確認できます(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html)。また、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられますので、暑さを避け、水分をこまめに補給するなど、特に健康管理に十分気をつけてください。  ※一部の地域では35℃以外を用いています。 コラム ■気象庁ホームページ「最新の気象データ」の改善 ~特定期間や降雪等のデータを充実  気象庁ホームページ「最新の気象データ」では、今日と昨日の最高気温や降水量など、日ごとに集計したデータを、分布図や全国の上位10位までのランキング、観測史上1位の値を更新した地点の一覧表で確認することができます。  これらに加え、平成30年(2018年)に「特定期間の気象データ」として、大雨、台風などの際に一連の現象の始まりから終わりまで集計したデータの掲載を開始したほか、日ごとのデータの掲載期間も過去1週間分に延長しました。  更に、1、3、24、48、72時間降水量の他に6、12時間降水量も掲載するとともに、雪に関しては3、6、12、24、48、72時間降雪量の統計を過去に遡って新たに始め、そのデータを載せるなど、短時間や長時間にわたる気象状況の把握を可能としています。   大雨、台風、大雪などの時や毎日の気象状況の把握などにご活用ください。 気象庁ホームページ「最新の気象データ」 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/index.html 2節 気象の観測 (1)地上気象観測  気象台や測候所、特別地域気象観測所では、気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象現象を把握することを目的として、これらの気象官署を含む全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)により、降水量などを観測しています。このうち約840か所では、降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間を、また、豪雪地帯などの約320か所では、積雪の深さを観測しています。  地上気象観測により得られるデータは、防災気象情報の発表等に利用されるほか、ホームページなどを通じて広く提供されています。これらの観測データは、各観測地点における気温や降水量等の情報ですが、気象庁では、「今」の気象状況を、広がりをもった情報として見ることができるよう、「推計気象分布」を合わせて提供しています。推計気象分布は、アメダスの観測データに加えて、気象衛星ひまわりの観測データや解析雨量等を用いて気温と天気のきめ細かな分布を算出したものであり、観測点のない場所も含め、気象状況を面的に把握できるようになっています。 (2)レーダー気象観測  気象レーダーは、水平方向に回転するパラボラアンテナから電波を発射し、雨粒等によって反射されて戻ってくる電波を受信することで、どの位置にどのような強さの降水があるかを観測する装置です。気象庁は、全国20か所に設置した気象レーダーにより、我が国の陸上全域と周辺の海上における降水の分布とその強さを5分毎に観測しています。また気象レーダーは、反射されて戻ってくる電波のドップラー効果を利用して、風で流される雨粒や雪の動きを観測する機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の詳細な風の分布の把握に威力を発揮します。これらの観測成果は、気象庁ホームページ等で提供されるほか、天気予報や大雨警報などの気象情報の発表に利用されています。 コラム ■発電用風車と気象レーダーが共存するために  近年の気候変動問題への対応やエネルギー需給構造の変化を受け、世界的に再生可能エネルギーへの転換が進む状況にあり、我が国においても風力発電の導入が推進されています。この風力発電用の風車が気象レーダーのごく近くに設置された場合、レーダーの発した電波が風車で強く反射されることにより受信機が故障するおそれがあるほか、風車までの距離がある程度あっても、電波の遮蔽・散乱により遠方を観測できなかったり、偽の降水が観測されたりするなどの支障をきたす場合もあり、防災気象情報への影響が懸念される状況となります。  こうした事態を受け、世界気象機関(WMO)は、風車と気象レーダーとの距離に応じ、与える影響と風車の設置に関する指針を示しています(下表)。当庁もホームページやリーフレットを通じた情報提供・周知に努め、個別に相談に応じているほか、気象レーダーを設置している地域については、社会的な調整を要する地域として、環境省の「風力発電に係る地方公共団体によるゾーニングマニュアル」や「環境アセスメントデータベース(EADAS)」に掲載するなど、風力発電事業との共存を図る活動を行っています。  こうした取り組みを通じて、気象庁は、適時的確な防災気象情報の発表に求められる気象観測の信頼性を確保しつつ、再生可能エネルギーの導入施策と調和した対応を進めています。 (3)高層気象観測 ア.ラジオゾンデ観測  天気に影響する低気圧や高気圧などの予測を精度よく行うためには、これらの動きに大きく関連している上空の大気の観測が必要になります。このため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風を観測しています。  ラジオゾンデの観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。 イ.ウィンドプロファイラ観測  ウィンドプロファイラは、地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱されて戻ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を300メートルの高度間隔で10分ごとに観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。全国33か所に設置したウィンドプロファイラの観測データは、実況監視や数値予報に利用され、大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。 (4)静止気象衛星ひまわり  気象を観測する衛星には様々なものがあり、目的によって地球を周回する高度や軌道が異なります。赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上に位置する静止気象衛星は、地球の自転周期に合わせて周回する為、同じ地域を連続して観測できることが強みです。気象庁が運用している静止気象衛星「ひまわり」は、常に東経140度付近にあって、日本を含むアジア・太平洋地域の広い範囲を24時間、常時観測しており、特に海上の台風の監視などに不可欠な観測手段となっています。  気象庁は、昭和53年(1978年)の初号機の運用開始以来40年にわたって、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。現在は、世界最先端の観測機能を持つ「ひまわり8号・9号」が観測を行っています。「ひまわり8号・9号」の二機体制により、2029年までの長期にわたって安定した観測を継続することにより、国民の安全安心の確保や、アジア・太平洋地域の防災力の向上、気候変動の監視などに貢献します。  気象庁では、「ひまわり」のデータを使って雲や台風の解析などを行うほか、同じ地域を高頻度で常時観測できる「ひまわり」の利点を最大限に活かして、連続した複数枚の衛星画像から雲が移動する様子を解析することで、上空の風(風向・風速)を算出しています。この風のデータは、海上や山岳地帯、砂漠など地上の観測所が存在しない地域を含む広範囲で一様に算出可能であるため、数値予報の精度向上のためになくてはならないデータとなっています。「ひまわり8号」は、短い時間間隔で高い空間分解能の画像を撮影でき、また画像の種類も増えたため、従来よりも高い頻度、高い密度、多様な高度、高い精度で上空の風を算出できるようになり(右図)、これは台風の進路予報等の精度向上につながっています。  また、「ひまわり」の観測データは、黄砂や火山灰の監視、海面水温の算出や流氷の監視など幅広い用途に利用されています。さらに、これらのデータは日本のみならずアジア・太平洋地域を中心とした世界各国でも利用されています。  このほか、「ひまわり」にはデータを中継する通信機能があり、国内外の離島などに設置された観測装置で得られた気象データや潮位(津波)データ、震度データなどの収集に活用されています。 第2章 地震・津波と火山の監視・予測 1節 地震・津波の監視と情報発表  地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、地震や津波が発生した時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震・津波に関する情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 (1)地震に関する情報  気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所や大学の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さ(震度)を測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。 ア.緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨もあわせてお知らせします。緊急地震速報により、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。気象庁は、最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、地震動特別警報(震度6弱以上の揺れが予想される場合)・地震動警報に相当する緊急地震速報(警報)を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で強く揺れることを知らせたり、制御信号を発して機械を自動制御したりするといった個別のサービスを行っています。 イ.地震情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後に震度3以上を観測した地域をお知らせする「震度速報」のほか、震源の位置やマグニチュード、各地域や各市町村で観測された震度などをお知らせする「震源・震度に関する情報」など、観測データを基に順次詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるだけでなく、防災関係機関の初動対応や災害応急対策の基準としての役割があります。そのため、震度の観測においては地面の揺れを的確に観測できるよう検定に合格した震度計を使用し、設置方法等にも基準を設けています。また、地方公共団体の震度計についても同様の基準を満たすよう、地方気象台が技術的なアドバイスを行っています。さらに、高層ビル等における地震後の防災対応等に資するため、観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」を、気象庁ホームページで提供しています。 (2)津波に関する情報  気象庁は、地震により発生した津波が日本沿岸に到達するおそれがある場合には津波警報・注意報を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報として発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約410か所の観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されるとその観測結果を津波情報として発表します。 ○津波警報・注意報、津波予報、津波情報  海域で規模の大きな地震が発生し、地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすることで、津波が発生します。気象庁は、陸域で浸水などの重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置付けている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)を全国66に分けた津波予報区単位で発表します。なお、地震発生後、津波が予想されるものの災害が起こるおそれがない場合には、「津波予報」(若干の海面変動、0.2メートル未満)を発表します。  ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を精度よく求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで地震の規模を精度よく把握し、それに基づき予想される津波の高さを数値で示す津波警報を発表しなおします。  津波警報・注意報の発表後、沖合や沿岸の潮位データを監視して、津波警報の切替えや解除等の判断を行っています。加えて、沖合で津波を観測した場合には、間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を津波情報(沖合の津波観測に関する情報)で発表します。沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実を速やかに知らせるため、第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値を津波情報(津波観測に関する情報)で発表します。 (3)南海トラフ全域の地震活動とその周辺の地殻変動の監視と情報提供  南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖までの南海トラフ沿いのプレート境界で概ね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震です。前回の昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年)が起きてから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきていると考えられています。  政府の中央防災会議では、科学的に想定しうる最大規模の南海トラフ巨大地震について、震度分布と津波高の推計結果に基づく被害想定を実施しています。これによると、南海トラフ地震がひとたび発生すると、広い範囲で強い揺れと高い津波が発生し、甚大な被害が発生すると想定されています。  なお、南海トラフ地震の過去事例を見ると、その発生過程には多様性があることが知られています。過去には、宝永地震(1707年)のように駿河湾から四国沖にかけての領域で同時に地震が発生したり、隣接する領域で時間差をおいて地震が続発したりしています。安政東海地震(1854年)では約32時間後に安政南海地震(1854年)が発生し、昭和東南海地震では約2年後に昭和南海地震が発生するなど、隣接する領域で地震が続発する場合、その時間間隔にも差があります。  現時点では、地震の発生を確度高く予測することは困難ですが、南海トラフ地震により想定される被害の甚大さを考慮すると、被害を少しでも軽減する観点から、現在の科学的知見を防災対応に活かすことが重要です。南海トラフ地震については、プレート境界の固着状態に普段と異なる変化を示唆する地震活動や地殻変動などの現象が検知できれば、地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると評価することが可能だと考えられています。  このため、気象庁は、関係機関の協力を得て、南海トラフ全域の地震活動やその周辺の地殻変動の観測データを収集し、24時間体制で監視するとともに、南海トラフ沿いで発生した異常な現象の観測結果や分析結果について、平成29年(2017年)11月1日から当面の間、「南海トラフ地震に関連する情報」により発表することとしています。一方で、平成31年(2019年)3月に内閣府が公表した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応ガイドライン(第1版)」を踏まえ、気象庁は今後、これらの現象の観測結果や分析結果について、「南海トラフ地震臨時情報」及び「南海トラフ地震関連解説情報」として発表することとしました。 「南海トラフ地震臨時情報」では、情報の受け手が防災対応をイメージし、適切に実施できるよう防災対応等を示すキーワードを情報名に付記することにしています。また、「南海トラフ地震関連解説情報」では、地震活動や地殻変動の状況等を発表することにしています。 (4)地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用 「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、地震に関する調査研究を一元的に推進するため、総理府(現在は文部科学省)の特別の機関として地震調査研究推進本部(通称:地震本部)が設置されました。  また、同法に基づき、気象庁は、文部科学省と協力して、平成9年より地域地震情報センターとして大学や国立研究開発法人防災科学技術研究所等の関係機関からの地震観測データを収集・処理しています。これらの収集・処理されたデータは、地震本部の下に設置されている地震調査委員会で行われる各種の地震活動評価や、大学など関係機関での地震調査研究に活用されるだけでなく、気象庁の地震情報等の防災気象業務にも活用され、多方面で防災・減災に役立てられています。 2節 火山の監視と情報発表 (1)火山の監視 ア.111活火山と火山監視・警報センター  我が国には火山噴火予知連絡会により選定された111の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)に設置された「火山監視・警報センター」及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「地域火山監視・警報センター」(両者をまとめ、以下「火山監視・警報センター」という)において、活火山の火山活動を監視しています。活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された50火山について、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を的確に発表するために、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び監視カメラ等)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関)からのデータ提供も受け、24時間体制で常時観測・監視しています。  また、50火山以外の火山も含めて、火山監視・警報センターが現地に出向いて計画的に調査を行っており、活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するため観測体制を強化します。例えば、平成30年に草津白根山(本白根山)の火山活動が活発化したことに伴い、監視カメラや地震計を増設しました。火山監視・警報センターは、全国の活火山について、観測・監視の成果に基づき、火山活動の評価を行い、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して噴火警報を発表しています。 イ.火山活動を捉えるための観測網  噴火の前には、マグマや高温高圧の水蒸気が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加等)が起きます。こうした現象は先行現象と呼ばれます。  高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで、先行現象を捉えることができる場合があります。 ○震動観測(地震計による地震や微動の観測)  震動観測は、地震計により、火山体またはその周辺で発生する地震や微動を捉えるものです。地震や微動は、主に地下のマグマや火山ガス、熱水の活動等に関連して発生します。 ○空振観測(空振計による音波観測)  空振観測は、噴火等で生じる空気の振動を捉えるものです。天候不良等により監視カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震波形や空振波形により、噴火の発生と規模を検知することができます ○地殻変動観測(傾斜計、GNSS等による地殻変動観測)  地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計は山体の傾きを精密に観測することができます。また、GNSS観測装置は、複数のGNSS観測装置を組み合わせて2点間の距離の伸縮を計測することで地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動を評価するための重要な手段となります。 ○監視カメラによる観測  監視カメラにより、噴煙の高さ、色、火山噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測しています。気象庁では、星明かりの下でも観測できる高感度の監視カメラを設置しています。 ウ.現地調査  火山活動に変化がある場合は、現地に機動観測班を派遣し、現地調査を行うことにより、火山活動の正確な把握に努めています。また、全国の活火山について、平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱や火山ガスなど陸上からの観測やヘリコプターによる上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動の把握・評価に努めています。 ○熱観測  赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、温度の高まりなど熱活動の状態を把握します。 ○上空からの観測  関係機関の協力により、ヘリコプター等によって、カメラや赤外熱映像装置などを用いて、地上からでは近づけない火口内や地熱域等の様子(温度分布や噴煙の状況等)や火山噴出物の分布等を上空から詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。 ○火山ガス観測  火山活動により地表に噴出する火山ガスは、水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としています。気象庁では、二酸化硫黄の放出量は遠隔測定可能であるため、火山ガス放出量の指標として火山活動の評価に活用します。 ○噴出物調査  噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や火山噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 コラム ■火山用語の公開  平成26年(2014年)の御嶽山の噴火や平成30年の草津白根山(本白根山)の噴火など、火山に関する用語を聞く機会が増えていますが、火山に関する用語は一般の方にはなじみのない用語もあります。気象庁では、防災に関わる用語について、一般利用者の視点に立った明確さ、平易さ、聞き取りやすさの観点で、気象の分野では、天気予報や気象情報、解説等で用いる「気象庁が天気予報等で用いる予報用語」を定めています。火山についても、気象庁が発表する火山に関する情報を利用者に正しく理解して有効に利用して頂くため、「気象庁が噴火警報等で用いる用語集」を146語選定して、気象庁ホームページに公開しました(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/kazanyougo/mokuji.html)。今後も随時、用語の追加、見直し等を行っていく予定です。 (2)災害を引き起こす主な火山現象  災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 ・大きな噴石 噴火によって火口から吹き飛ばされる概ね直径20~30センチメートル以上の、風の影響をほとんど受けずに弾道を描いて飛散するものをいいます。 ・火砕流 噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象です。火砕流の速度は時速百キロメートル以上、温度は数百℃に達することもあります。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 ・融雪型火山泥流 火山活動によって火山を覆う雪や氷が融かされることで、火山噴出物と多量の水が混合して地表を流れる現象です。流速は時速数十キロメートルに達することがあり、谷筋や沢沿いを遠方まで流下することがあります。 ・溶岩流 溶けた岩石が地表を流れ下る現象です。流下速度は地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、比較的ゆっくり流れますので歩行による避難が可能な場合もあります。 ・小さな噴石・火山灰 小さな噴石は、噴火によって火口から吹き飛ばされる直径数センチメートル程度の、風の影響を受けて遠方まで流されて降るものをいいます。特に火口付近では、小さな噴石でも弾道を描いて飛散し、登山者等が死傷することがあります。火山灰は、噴火によって火口から放出される固形物のうち、比較的細かいもの(直径2ミリメートル未満)をいいます。風によって火口から離れた広い範囲にまで拡散します。火山灰は、農作物、交通機関(特に航空機)、建造物などに影響を与えます。 ・火山ガス 火山活動により地表に噴出する高温のガスのことです。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としています。火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒を発生する可能性があります。 (3)噴火警報と噴火予報  噴火警報は、噴火に伴って、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して全国の活火山を対象に発表します。  例えば、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。「噴火警報(居住地域)」は特別警報に位置付けられています。これらの噴火警報は、気象庁ホームページで掲載するほか、報道機関、都道府県等の関係機関を通じて住民等に直ちに周知されます。  また、火山活動の状況が静穏である場合、あるいは火山活動の状況が噴火警報に及ばないと予想される場合には「噴火予報」を発表します。 (4)噴火警戒レベル ア.噴火警戒レベルの考え方  噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、平成19年(2007年)12月から運用が開始されたものです。地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の「地域防災計画」に定められた火山で運用を開始しています。噴火警戒レベルが運用されている火山では、噴火警報・噴火予報に噴火警戒レベルを付して発表しています。  市町村等の防災機関では、予め合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 イ.噴火警戒レベルの設定と改善  平成27年(2015年)12月に施行された活動火山対策特別措置法の一部改正により、常時観測火山の周辺地域では、火山防災協議会の設置が義務付けられました。平成31年3月現在、43火山で噴火警戒レベルの運用が行われており、気象庁では、地元自治体等での具体的な避難計画の策定への助言を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の火山防災協議会と共同で進めていきます。 (5)降灰と火山ガスの予報  噴火警報以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 (6)火山現象に関する情報  そのほか、火山現象に関する情報を発表して、火山活動の状況等をお知らせしています。 (7)火山噴火予知連絡会  火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年(1974年)に発足した組織です。  連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究及び観測体制を整備するための検討を行っています。  連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。  全国の火山活動について総合的に検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、気象庁長官の招集による幹事会や臨時に部会を開催し、火山活動の総合判断を行います。 第3章 地球環境の監視・予測 1節 異常気象などの監視と情報発表 (1)異常気象の監視  気象庁は、世界中から収集した観測データなどをもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を常に監視し、週・月・季節ごとに、極端な高温・低温や多雨・少雨などが観測された地域や気象災害をとりまとめた情報を発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらす異常気象が発生した場合は、その特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表しています。  なお、気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会を開催します。異常気象分析検討会では、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て、最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。 (2)エルニーニョ/ラニーニャ現象等の監視と予測  エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えます。  気象庁では、エルニーニョ/ラニーニャ現象、西太平洋熱帯域とインド洋熱帯域における海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 2節 気候変動の監視・予測と情報発表  気象庁では、地球温暖化はじめ気候変動に係わる問題に対処するため、温室効果ガスの変動や、気温、降水量、海面水位等の長期的な変化傾向を監視して、気候変動の現状に関する情報として提供しています。また、地球温暖化に伴う将来の気候について、数値モデルで予測計算を行い、気候変動の将来予測に関する情報として提供しています。 (1)気候変動の監視  温室効果ガスの変動については、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスの大気中濃度の観測を行っています。国内3地点(綾里(岩手県大船渡市)、南鳥島(東京都小笠原村)、与那国島(沖縄県与那国町))で地上付近の温室効果ガス濃度を観測しているほか、北西太平洋域において、航空機による上空の温室効果ガス濃度の観測及び海洋気象観測船による洋上大気の二酸化炭素濃度の観測等を行っており、これらのデータを基に我が国周辺の温室効果ガスの変動を監視しています。  気温・降水量については、全世界の観測データ等を収集・解析し、世界の平均気温や降水量に関する情報として公表しています。また、国内の観測データをもとに、全国・地方対象に平均気温や降水量、猛暑日や大雨などの極端現象に関する情報を公表しています。  また、海面水位については、全国16か所の観測データをもとに、日本沿岸の海面水位の長期的な変化傾向を監視しています。  気象庁は、上記のような我が国と世界の観測に基づく大気や海洋の監視情報を「気候変動監視レポート」として毎年公表しています。 (2)気候変動の将来予測  気候変動の予測については、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴って、将来の気候がどのように変化するのかを数値シミュレーションモデルを用いて予測します。気象庁は、気温や降水量等に関する日本全国の予測結果を「地球温暖化予測情報」として数年ごとに公表しています。また、各地方の将来変化に関する予測情報も公表しています。 3節 海洋の監視と診断 (1)海洋の監視  地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。  気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどにより観測を実施しています。  海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  中層フロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、中層フロートを全世界の海洋に常時約3,000台稼働させ、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を実施しています。 (2)海洋の健康診断表  気象庁では、海洋気象観測船等による観測データに加え、地球観測衛星等の観測データを収集し、それらを基に、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しを気象庁ホームページで公表しています。海洋の状態を分析して平常時との違いなどを判断(診断)することから、当コンテンツは「海洋の健康診断表」という名称を用いており、この中で、地球環境に関連した海洋現象について、グラフや分布図を用いてわかりやすく解説しています。  令和元年(2019年)6月に、アイコン利用等により目的の情報にたどり着きやすいデザインを採用したページ構成にリニューアルします。 コラム ■「海洋の情報」の公開  令和元年(2019年)6月に、「海洋の健康診断表」の中からリアルタイムでの利用が想定される波浪、海水温、海流、海氷の最新の状況と予想の分布図を「海洋の情報」コンテンツとして集約します。  当コンテンツでは、ページ内の共通メニューにて表示する情報を簡単に切り替えることができます。  また、マウスやタッチパネル操作で表示範囲の移動や拡大・縮小が可能となっており、例えば、波浪の分布図では地球全体から日本沿岸までをスムーズに表示することができます。 コラム ■日本を取り巻く海の詳細な把握に向けて ~海の「天気予報」の最前線  気象庁では、平成13年(2001年)より、数値海洋モデルを用いて日本周辺の海流や水温を対象とした実況の監視、及び予測を行っています。これは、日々の天気予報の基となる数値予報の海洋版と見ることができるため、しばしば海の「天気予報」と呼ばれます。この海の「天気予報」により作成された海洋情報は、気象、水産、海運の関係者に活用されるとともに、漂流物予測などにも利用されています。  気象研究所では、新たな海の「天気予報」システムの開発を行っています。この新しいシステムでは、海洋モデルの水平解像度を現行の10キロメートルから2キロメートルに高解像度化するとともに、潮汐及び気圧による潮位変化や河川水をモデルに取り入れるなど、多くの改良が加えられています。このことにより、現行の数値海洋モデルで表現が不十分である沿岸域の水温や潮位変動を、高精度に表現することが可能となりました。また、予測を行うためには、観測データや直近の予報の結果を元に実況を解析して初期値を作成しますが、新しいシステムでは、4次元変分法と呼ばれる最先端の実況解析技術を導入しました。この4次元変分法の導入により、日本周辺の海洋の実況把握の精度が大きく向上することが確かめられています。  現在、気象庁では新しいシステムを実況の監視及び予測に導入する準備を進めており、今後、海洋情報の精度が向上する事が期待されます。また、気象研究所では、モデルや実況解析技術の更なる高度化に向けて、今後も研究を進めて行く予定です。 4節 海洋の監視と診断 (1)オゾン層・紫外線の監視と予測  上空のオゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生物を保護しています。気象庁は、国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果や、地球観測衛星のデータ等を解析して、オゾン層・紫外線の毎年の状況や長期変化傾向を監視しています。これらの観測・解析の成果は、気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護の取り組みなどに活用されています。  また、紫外線対策を効果的に行えるように、現在の紫外線の強さ(紫外線解析値)を毎時間提供し、当日または翌日の紫外線の強さ(紫外線予測値)を毎日提供しています。紫外線の強さは、有害紫外線の人体への影響度を示す指標(UVインデックス)を用いています。 (2)黄砂の監視と予測  黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上がった無数の細かな砂じんが、上空の風に乗って日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が発生すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、まれに交通障害の原因となり、全国的に大きな影響を与える場合もあります。  気象庁では、黄砂が日本の各地で広く観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページにおいて、黄砂の観測結果や静止気象衛星ひまわりによる黄砂監視画像、今後の見通しを毎日掲載しています。これら気象庁の提供する黄砂に関する情報は、環境省と気象庁が共同で運用する「黄砂情報提供ホームページ」(https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosateikyou/kosa.html)でも確認することができます。 (3)ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」と呼ばれています。都市化の進展に伴って、ヒートアイランド現象は顕著になりつつあり、熱中症等の健康への被害や、感染症を媒介する蚊の越冬といった生態系の変化が懸念されています。  気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離2キロメートル四方ごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」としてまとめ、平成16年度(2004年度)から公表しています。平成30年度(2018年度)は、「ヒートアイランド監視報告2017」を刊行し、関東、近畿、東海地方の三大都市圏を対象として、2017年8月のヒートアイランド現象による平均気温の上昇の実態等を示しました。 5節 地磁気観測  気象庁は茨城県石岡市柿岡に地磁気観測所をおき、女満別(北海道網走郡大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)、父島(東京都小笠原村)の計4地点で定常的な地磁気の観測を行っています。柿岡では大正2年(1913年)以来、高い精度の地磁気観測を続けており、東アジア・西太平洋地域を代表する重要な観測所のひとつとなっています。観測成果は、太陽と地球を取り巻く環境の監視、航空機及び船舶の安全運航の確保、無線通信障害の警報、火山噴火予知等に利用されています。  現在、方位磁針の指す向きは、東京付近で真北から7~8度西にずれています(このずれを偏角と言います)が、伊能忠敬が地図を作製した200年ほど前はほぼ真北を向いていました。このような長期的な変化は地磁気永年変化と呼ばれ、地球内部の対流に起因しています。地磁気の大きさや向きの分布は一様ではなく、また、地磁気の強弱は地表に到達する宇宙線の増減につながるため、地磁気観測は地球環境が宇宙から受ける影響を監視するためのひとつの手段となっています。  地磁気は短い時間スケールでも常に変化しています。太陽表面の爆発に伴って地磁気が激しく変化する磁気嵐などは、電波通信や送電システムの障害、人工衛星の運用トラブルなど社会生活に影響を与えるため、地磁気観測所では磁気嵐や地磁気活動状況等の情報を公開し、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が行う「宇宙天気予報」の精度向上に貢献しています。  また、火山を構成する岩石は磁気を帯びています。山体内部の温度上昇や圧力増加等により、その磁気は変化する性質があります。この性質を利用し、草津白根山等の活動的火山で地磁気観測を行って火山活動状況の変化を監視し、その観測成果を関係機関に提供しています。 第4章 交通の安全などのための取組 1節 航空の安全などのための情報  航空機が出発する前に立てる飛行計画では、目的空港の天候から空中での待機や代替空港への着陸の可能性を判断し、燃料の搭載量を決定します。また、上空の風や悪天域の予想から、飛行中乱気流による揺れの少ない高度や場所、燃料が節約できる高度や航空路、到着予定時刻などを決定します。  このように、航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けています。このため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。 (1)空港の気象状況に関する情報  航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国81空港において気象観測を行い、その成果を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットなどの航空関係者へ迅速に提供しています。また一部の空港では、この観測の全てを自動で行っています。  東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(低層ウィンドシアー)を監視しています。  さらに、東京・成田・関西の各国際空港においては、空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層ウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。低層ウィンドシアーは、離着陸する航空機の安全に影響することから、これらが観測された場合は、低層ウィンドシアー情報として直ちに管制官を通じてパイロットへ伝達されます。  また、雷監視システムにより雷が発する電波を受信し、その位置、発生時刻などを求めて情報を作成しています。作成した情報は航空関係者などに直ちに提供されます。 (2)空港の予報・警報に関する情報  航空機の飛行計画を立てる際には、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合に着陸する代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な30時間先までの「飛行場予報」を、国際定期便などが運航している37空港を対象として発表しています。飛行場予報は航空関係者へ提供され、航空機材の運用計画や地上作業員の安全確保などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港において、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及びその業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合は、「飛行場警報」を発表し、航空関係者に対して警戒を促します。  このほか、航空関係者に対して、各空港や航空路上の気象状況や今後の予想について解説などを行っています。 (3)上空の気象状況に関する情報 ア.空域の気象情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山灰の拡散状況などに関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を提供して、運航の支援を行っています。  さらに、平成26年(2014年)から、小型機の安全と効率的な運航の支援を主な目的として、下層空域の悪天を対象とした「下層悪天予想図」の提供を行っています。 イ.航空路火山灰情報  火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスが擦りガラス状になり視界が利かなくなったり、飛行場に堆積すると離着陸ができなくなったりするなど、航空機へ多様な影響を与えます。気象庁は、航空機の安全な運航を確保するために、東京航空路火山灰情報センターを運営し、火山噴火と火山灰の監視を行い、火山灰に関する観測・予測情報を「航空路火山灰情報(テキストと図情報)」として発表しています。 (4)航空気象情報を支える技術 ア.数値予報モデルを用いた精度向上  訪日外国人旅行者数を大幅に増やし、また、2020年東京オリンピック・パラリンピックを円滑に開催するため、首都圏空港の機能拡大が計画されています。これにより、首都圏空域における航空交通量はますます増加していきます。このような状況下で、もし予期しない強い横風や雷雨などの悪天によって着陸ができなくなる事態が発生した場合、たちまち多数の航空機が空中で待機したり引き返したりすることとなり、航空機の流れを円滑に保つことが極めて困難になります。このため気象庁は、緻密な数値予報モデル(局地モデル)を利用して、飛行場予報や空域の気象情報の精度向上に取り組んでいます。今後も、航空機の安全で効率的な運航により役立つよう、航空気象情報の更なる高度化を図ります。 イ.気象衛星データによる火山灰監視の高度化  東京航空路火山灰情報センターでは、静止気象衛星ひまわりの衛星画像を利用して火山灰の監視を行っています。ひまわり8号、9号は、これまでの静止気象衛星と比べ、高解像度・高頻度の観測が可能となり、観測画像の種類も増加しました。これらの新しい観測データを活用し、より迅速で的確な情報発表を目指していきます。 (5)航空交通管理に必要な気象情報  日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。また、東京国際空港及び新千歳空港においても、航空交通気象センターの予報官が、首都圏周辺及び新千歳空港周辺の空域のより詳細な気象情報の提供を行っています。 (6)ISO9001品質マネジメントシステムの導入  気象庁では、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)からの求めにより、航空機の安全及び経済的運航のため、航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入しています。これにより、継続的に適時適切な航空気象情報の提供に努め、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 2節 船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時での安全性の確保のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められるため、気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な航行を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報は、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋の船舶に提供するための通信手段として無線や通信衛星(インマルサット)による衛星放送などにより、さまざまな機関と協力して提供しています。 (1)沿岸防災のための情報  気象庁では、高潮・副振動・異常潮位・高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。  一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 (2)日本近海を対象とした情報  日本の近海については、沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12の地方海上予報区に分け、さらにそれぞれの海域を複数に細分した海域を対象に、地方海上予報・警報を発表しています。また、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  日本近海で操業する漁船向けには、台風、高気圧、低気圧、前線などの実況と予想、気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています(ラジオ天気図とも呼ばれています)。また、漁業用海岸局を通じて、天気概況や気象実況、海上予報・警報などを無線通信で提供しています。   これらの海上予報・警報を補足する情報として海上分布予報があります。24時間先まで6時間ごとの風、波、霧、着氷、天気の分布の予想図を提供しており、気象庁ホームページから見ることができます。 (3)外洋を対象とした情報  気象庁は北西太平洋など(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象として、低気圧や台風に関する情報や、海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。  この他に、低気圧や台風などの位置や海上警報の内容を掲載した実況天気図、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想を掲載した予想天気図や、台風、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況図や予想図を提供しています。これらは、短波の無線FAX放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)で提供しているほか、気象庁ホームページからも閲覧することができます。中でも実況天気図や予想天気図は、テレビなどにおける気象解説にも用いられており、広く親しまれています。 第5章 産業の興隆などのための取組 1節 気象データを活用した生産性向上に向けた取組 (1)はじめに  IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する 「第4次産業革命」により、社会的課題の解決や、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす、新たなビジネスの創出が期待されています。「未来投資戦略2017」では、「Society5.0」を目指す取組の一つとして、産学官による「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」(以下、WXBC)等を通じ、電力、観光、流通、保険、農業をはじめとする多くの産業分野での気象情報の利活用を促進し、新たな気象ビジネスを強力に創出することが謳われました。また、「未来投資戦略2018」では、インフラの建設・管理や産業活動において、気象データを用いたAIによる解析や予測を容易に行うことができるよう、令和元年度(2019年度)中に過去データをクラウドで提供するとともに、産学官によるWXBCの活動を通じて活用事例の創出・普及を図ることとしています。  さらに、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、気象情報の利活用の促進の一環として、産学官によるWXBCの取組や、基盤的な気象観測・予測データの公開を通じ、観光、物流、農業など様々な産業分野での気象情報の利活用を促進することとしています。 (2)産業界での気象データの活用状況 ア.ビッグデータ化する気象データ  気象庁は、日々自然現象の観測・監視を行うとともに、データの収集・解析・予測を経て、情報の作成・提供を行っています。気象データには、地域気象観測システム(アメダス)のデータ、天気予報、警報・注意報など、個々の容量は小さいものの日本全国に広がりデータの種類や数が多いものや、気象衛星データや数値予報データなど、面的・立体的(メッシュ状・3次元)な広がりを持ち、より高頻度・高解像度なデータで容量が大きいものがあります。  これらのデータは、機械判読に適した形式(XML形式、CSV形式等)や国際的ルールに基づいた形式(BUFR形式、GRIB形式等)で提供しており、データ自体は無償で、商用利用や二次配布に制限を設けていません。気象データは、オープン化された公的データであるとともに、まさにビッグデータと言えます。 イ.先端技術を用いた気象データの活用事例  近年のIoT、AI、ビッグデータ解析技術の発展により、多種多量なデータをリアルタイムで収集・蓄積・分析することが可能となってきており、利用者個々のニーズに即したサービスの提供や業務運営の効率化等により、新産業の創出や生産性の飛躍的向上等が期待されています。  また、気象は、個人の日々の行動や農業、製造、交通等の各種社会経済活動に大きく影響を与えていること、物理法則に基づいた予測が可能であること、さらに、そのデータはオープン化されたビッグデータであり、多様な現象を分析する際の基盤的データの一つとして活用される可能性があること等の特徴があります。  気象データを、POSデータ、SNSデータ、位置データ、農業関連データ等の多様なデータと組み合わせて分析することにより、生産・供給管理や需要予測等を行い、生産・製造・物流・販売等のサービス全体のプロセスの最適化を目指す取組が進み始めており、このような取組が今後さらに拡大していくことが期待されています。 ウ.気象データの活用状況と課題  上記のようなことを背景として、気象データの流通量は年々増加しています。平成27年版情報通信白書(総務省)における我が国企業のデータ流通量の推計においても、気象データの流通量は年々増加していることが示されています。  一方で、同白書において、企業等が分析に活用しているデータの種類を調査した結果によると、気象データを活用している企業の割合は1.3%と、その割合が小さいことがわかりました。  気象データは、前述のように先端技術や他データと組み合わせた活用による生産性向上に寄与できる潜在力があると考えられるものの、実際には使われてない「ダークデータ」ともいうべき状況にあると言えます。気象庁では、この課題を克服するためには、気象データを他データと併せて活用するビジネスの支援や、IoT・AI技術等を駆使し、気象データを高度利用した産業活動を実現する対話・連携を促進することが重要と考え、国土交通省生産性革命プロジェクト「気象ビジネス市場の創出」を通じた取組等を進めています。 (3)気象データの利活用促進による社会の生産性向上に向けた取組の推進 ア.国土交通省生産性革命プロジェクト「気象ビジネス市場の創出」  国土交通省では、我が国が人口減少時代を迎える中、経済成長の実現に向け、関係部局の緊密な連携の下に、生産性革命に資する国土交通省の施策を強力かつ総合的に推進するため、「国土交通省生産性革命本部」を設置し、省を挙げて様々な産業における生産性向上に取り組み、我が国経済の持続的で力強い成長に貢献しています。  気象庁は、ビッグデータの一つである気象データを分析している企業の割合が低い状況を、社会経済活動の生産性を高めることができる伸び代と捉え、「気象ビジネス市場の創出」に向けて前述の課題解決に向けた取組を実施し、新たな気象ビジネス市場の創出・活性化を強力に推進していきます。 ① 基盤的気象データのオープン化・高度化  気象データを活用した新たなビジネスを作り出す過程において、各企業が商品・サービス等を開発する際には、まずは気象データに触れ、理解することが必要となります。これまでも、気象庁には手軽に気象データに接することができる環境や、気象データの解説資料の提供に関する要望が多く寄せられていました。  要望を受けて、気象庁では、気象情報利用促進を図るため、気象庁ホームページに「気象データ高度利用ポータルサイト」を設けています。本ページには、気象庁が提供する各種情報を整理した「気象庁情報カタログ」、技術的な解説資料である「配信に関する技術情報」、アメダス観測データや1か月予報に関する気温予測データ(CSV形式)、数値予報データのサンプルファイル、気象庁の気象観測地点の位置情報や気象庁防災情報XMLで用いるコードが示す地域のGISデータ(シェープファイル形式)、気候リスク評価に関する調査・研究の結果についても公開しています。  WXBCの取組等を通じて利用者の意見を把握しつつ、上記取組の更なる推進や新たなデータの提供などの基盤的データのオープン化・高度化の取組を進めていきます。 ② 「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」の取組等を通じた、気象とビジネスが連携した気象データ活用の促進  産学官関係者の対話・連携の強化を図り、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、平成29年3月に、気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業界や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員としたWXBCが産学官の連携のもとで設立されました。会員数は、設立当初は215、平成31年(2019年)4月には600者を超えました。  WXBCでは、二つのワーキンググループ(WG)を設置しています(人材育成WG、新規気象ビジネス創出WG)。  人材育成WGでは、ビジネス発想力・気象データ理解力向上を目標に、気象データに関する概要や利活用方法のセミナーを、東京をはじめ、札幌・仙台・新潟・大阪・福岡・那覇でも開催し、気象データの情報・知見、気象ビジネス事例の共有に取り組んでいます。また、IT活用力向上を目指して、「気象データ分析チャレンジ!」と題して、気象データとオープンデータを掛け合わせてデータ分析を行う勉強会や気象庁の数値予報データを解析する勉強会も開催しました。  新規気象ビジネス創出WGでは、気象データ利用のビジネス事例の創出を目指し、気象データを提供する企業や気象データをビジネスに活用したい企業等の出会いの場としてマッチングイベントの開催、気象データがビジネスに有効に活用できることをビジネス側に伝えるための気象データのビジネス活用事例集の作成、気象データを用いた実証実験等に取り組んでいます。  また、産学官関係者が一堂に会する対話の場を設け、気象事業者と産業界のマッチングを図るものとして、「気象ビジネスフォーラム」を開催しています。平成31年2月28日に開催した第3回気象ビジネスフォーラムでは、気象ビジネス創出に向けた1年間の成果発表やWXBC会員企業による気象データを活用したビジネス事例の紹介のほか、WXBC会長の東京大学大学院 越塚登教授、AI研究のトップランナーである東京大学大学院 松尾豊特任准教授、気象×ファッションのサービスをAIも活用して提供している株式会社ルグラン 泉浩人共同CEO及び気象庁長官の4名により、気象ビジネスの展望に関するトークセッションが行われました。当日参加者は約430名にのぼり、WXBC会員企業等による気象に関する取組・サービスを紹介するブース展示も行われ、会場は熱気に包まれました。 イ.民間気象事業者等に対する支援  気象庁は、自らが保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、民間気象業務支援センターを通じて、気象サービスを提供する民間気象事業者等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間気象事業者が行う予報業務の基礎資料となる他、個別企業や個人のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動や社会サービスの基盤としても活用されています。  また、気象庁による数値予報等の予測技術の高度化に伴い、それを民間気象事業者に更に活用されるよう、気象庁では、民間気象事業者等を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会を開催しています。 (4)今後の取組に向けて  気象データは、既に様々な分野において利用が進んでいますが、今後のICTの発達等により、益々その重要性は増し、他のデータと併せた利用等が一層拡大していくことが期待されます。また、国土交通省では令和元年(2019年)を生産性革命「貫徹の年」としています。気象庁は、気象データの高度利用の拡大による産業活動の創出と活性化を一層推進するため、WXBCの活動が更に発展するよう支援するとともに、利用者との対話・連携を通じ、気象データのこれまで以上に利用しやすい形での提供や、利用しやすい環境の整備に取り組んでいきます。 2節 民間の気象事業  気象等の現象は、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接にかかわっており、国民及び産業界には気象情報に対する幅広いニーズが存在しています。また、近年では、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できるようになってきました。このような個々のニーズに応えるため民間気象事業者が活躍しており、今後、その役割はますます重要になってきます。  ここでは、民間気象事業者による適切な気象サービスの提供を支える、予報業務の許可制度や気象予報士制度について解説します。 (1)予報業務の許可制度  民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取組がなされていますが、サービスを利用する国民の側から見ると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。このため、民間気象事業者が気象や波浪、地震・火山等の現象の予報業務を行おうとする場合には、警報等の防災気象情報との整合性や国民の期待する正確な気象情報の提供を確保できるよう、気象庁長官の許可が必要です。  近年の観測・予測技術の進展等により民間で高頻度の降水短時間予報の提供が可能になり、また、研究開発の成果を公表するために予報業務許可を受ける研究機関が増えるなど、近年、予報業務の態様が変化しています。このことに対応するため、気象予報士の設置基準を一部緩和するなど、予報業務許可に関する規制の一部を見直す取組を進めています。 (2)気象予報士制度  予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技術を要することから、民間気象事業者が気象などの予報業務を行う際には気象予報士に現象の予想を行わせることが義務付けられており、これにより民間が行う予報の一定の技術水準を担保しています。国家資格である気象予報士になるためには、業務に必要な知識及び技能について試験を行う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受ける必要があります。気象予報士には平成31年(2019年)4月1日現在、10,407人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核となる技術者としてだけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発にも貢献しています。  なお、地震動と火山現象、津波の予報業務を行うときは、技術上の基準に適合した手法で現象の予想を行うことを義務づけることにより、予報の一定の技術水準を担保しています。 第6章 地域の防災力向上への取組  気象庁では、全国の気象台で、気象や地震などの観測・監視、予報・警報などの防災気象情報の発表・提供、解説などを行っています。その発信した情報などを防災・減災に繋げるためには、わかりやすい内容で適時に発信するとともに、情報の意味や意図が理解され十分に活用されるよう、「伝わる」「使われる」ための取組が極めて重要です。  このため、関係機関と連携協力し、防災の最前線に立つ市町村等への支援、実際の防災行動を行う住民等への普及啓発に取り組んでいます。 1節 地方公共団体の防災対策の支援  全国の気象台では、防災の最前線に立つ市町村等に対し、緊急時の防災判断に防災気象情報を的確に活用してもらうために、都道府県等と連携するなどして様々な取組を推進しています。  平時には、市町村が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、防災気象情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、地方公共団体の防災担当者に対する説明会や研修などで情報の活用について積極的に説明を行ったりしています。また、気象台長が管轄内の市町村長を定期的に訪問するなど、いざという時に的確な対応ができるよう信頼関係の構築に努めています。  さらに災害発生後には、顕著現象発生当時の対応について気象台と市町村等が共に振り返りを行うなどにより、防災・減災のための取組の内容を不断に見直すこととしています。 (1)大雨時の地方公共団体への協力  台風の接近など災害が発生するおそれがある場合には、地方公共団体等の防災関係機関に対して気象状況の説明を行い、事態の推移によっては電話等で気象状況や今後の見通しを積極的に伝え、地方公共団体の災害対策本部に気象台から直接出向いて説明するなど、気象台が持つ危機感を常に共有することで適切な防災対応につながるよう地方公共団体を支援しています。 (2)地震・津波・火山災害時の地方公共団体への協力  地震・津波の防災対応は、地震発生と同時に突然始まるため、事前の準備が最も重要です。そのため緊急時において気象庁の発表する防災情報が地方公共団体の防災判断に的確に活用されるよう、平常時において前述の防災情報の活用方法についてアドバイスを行うことなどに加えて、地方公共団体が行う総合防災訓練への参加、資料の提供や地震津波の知見に関する助言等の協力に取り組んでいます。また、地域防災計画、津波避難計画への助言も積極的に取り組んでいます。  その上で地震発生時には、地方公共団体や防災機関が行う防災対応を支援するため、速やかに地震や津波の情報を発表するほか、最大震度が4以上の地震が発生した場合あるいは津波注意報以上を発表した場合には、地震の概要や津波警報等の発表状況等、地震活動の状況把握に役立つ図表をまとめた地震解説資料(速報版)を地震発生から30分程度を目処に提供しています。さらに最大震度が5弱以上あるいは津波注意報以上を発表した場合等には、地震や津波のより詳しい状況等をまとめた地震解説資料(詳細版)を地震発生から1~2時間を目処に提供しています。その後、津波の推移や地震活動の状況に応じて、適時その続報を提供しています。また、状況に応じ、地方公共団体へ直接電話をかけたり災害対策本部等へ気象台職員を派遣したりして、警戒すべき事項等の詳しい解説を行っています。  火山の防災対応においては、平常時から内閣府や地元の火山防災協議会と連携して、地域の火山防災避難計画の実効性を高めるため、火山活動の状況に応じた地元関係機関の具体的な防災対応の流れについて整理・共有する取り組みを進めています。異常時には、迅速に噴火警報等の情報を発表し、現地調査のために火山機動観測班を派遣するとともに、地方公共団体や防災機関が行う救助活動や住民避難などの防災対応を支援するため、火山活動の解説を行う職員を派遣します。 コラム ■気象防災アドバイザー等の気象防災の専門家の活躍  気象庁では、地方公共団体の現状をよく理解したうえで防災気象情報を的確に解説し、地方公共団体の立場から地域の防災対応を的確に支援することができる人材の育成を目的とし、平成30年(2018年)2月から3月にかけて、気象防災アドバイザー育成研修を実施しました。  研修の講師には、気象庁職員に加えて他省庁や地方公共団体の職員及び大学の専門家を部外から迎え、3つのコース(防災基礎コース、防災気象情報コース及び実践コース)からなる計10日間の研修に、57名の方が参加しました。  研修を修了された方は、気象防災アドバイザーとして、様々な形で活動をしています。例えば、平成30年7月豪雨において、気象防災アドバイザーが地方公共団体においてアドバイスを行い、地方公共団体から早めの避難情報が発信され、人的被害(死者・けが人)をゼロとすることにつながったケースがありました。また、地元気象台と地方公共団体との連絡役や、気象防災に関する講演の講師など、各々の立場・役割に応じた方法を工夫しながら、気象防災に関する活動に取り組んでいます。  気象庁は、気象防災アドバイザー等の気象防災の専門家について、その有効性を広く知っていただき、地方公共団体の防災の現場での活動がさらに広がっていくよう努めてまいります。 1節 住民への安全知識の普及啓発 (1)地域防災力アップ支援プロジェクト  気象庁では、これまでも住民等を対象とした出前講座や講演会、リーフレットやDVDの作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んできました。平成30年7月豪雨などの近年の災害をきっかけとした、政府の有識者会議でも、住民等への自助・共助意識の啓発や防災教育の重要性が報告されています。このことを踏まえ気象庁では、様々な機関と連携・協力しながら、安全知識の理解や気象情報の利活用をより効果的に推進するための様々な取組に加えて、平時から地方公共団体の担当者と顔の見える関係を構築するとともに、地方公共団体の担当者を対象とした実践的な研修・訓練等の先進的な取組を「地域防災力アップ支援プロジェクト」として進めています。  気象庁では、今後も地方公共団体や関係機関と連携しながら、気象や地震などの自然現象に対して住民自らの判断で的確な防災行動がとれるような防災意識の醸成を目指し、安全知識の普及啓発に取り組んでいきます。また、防災の最前線に立つ市町村の防災担当者等が防災気象情報を理解・活用し、迅速な防災対応が取られるような環境づくりを実現するため、地方公共団体の支援に平時から取り組んでいきます。なお、多くの官署で参考となる取組については、全国の関係官署に共有し、効率的、効果的な活動に努めています。 (2)関係機関と連携・協力した普及啓発の取組  安全知識の普及啓発は、気象庁だけでは十分な効果を上げることはできません。このため、気象庁は、以下のような機関との連携・協力により、普及啓発の取組を進めています。  文部科学省、国土交通省水管理・国土保全局及び国土地理院とは、子どもたちや教職員を対象に防災教育の支援に取り組んでいます。  また、日本赤十字社とは、相互に協力してそれぞれが行う防災教育をはじめとする安全知識の普及啓発を一層充実し、継続的な活動とするため、平成26年(2014年)3月に「防災教育の普及等の協力に関する協定」を締結しています。これにより気象庁と日本赤十字社との連携だけでなく、全国の気象台と日本赤十字社の各都道府県支部が各地で協力して様々な普及啓発活動を行っています。 (一社)日本気象予報士会と平成22年度(2010年度)に立ち上げた連携事業「防災プロジェクト」を通じ、日本気象予報士会が出前講座等で使用する資料の作成支援や資料作成の基礎となる気象庁の最新技術や取り組みについて情報提供を行い、日本気象予報士会の普及啓発活動を支援しています。  さらに、災害や事故の発生を未然に防ぎ被害を軽減するため、防災・交通安全などの様々な啓発活動を行っている(一社)日本損害保険協会とは、同協会の「そんぽ防災Web」への資料提供や、「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」での気象庁長官賞の設置、同協会地方支部と地方気象台等との講演会の実施等の取組を進めています。 (3)地方公共団体職員向け気象防災ワークショップ  地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショッププログラムは、防災気象情報等を適切に理解・活用し、適切な避難に関する判断等に資するよう、市町村の防災対応をグループワーク形式により疑似体験していただくもので、平成30年(2018年)5月に気象庁ホームページにプログラムを公開し、活用を推進しています(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws2/index.html)。平成30年度は、のべ254地方公共団体から防災担当者が参加し、防災気象情報等の理解・活用方法について学びました。  本ワークショップで実施する防災気象情報を用いたグループワークを通して、地方公共団体職員には、現在提供されている防災気象情報の種類や意味をより深く理解していただき、避難勧告等の発令に関する検討・判断や、避難すべき居住者等に適切かつ確実な避難行動を促すための情報伝達等に役立てていただきます。さらに、気象台職員にとっても、実際に避難勧告等を発令するプロセスを疑似体験することにより、地方公共団体防災担当者が制約された時間の中で、様々な情報と状況から避難勧告等の発令をしていることを理解し、地方公共団体防災担当者への情報提供、助言の在り方を再考するきっかけとなっています。  加えて、平成30年7月豪雨の対応において、地域防災リーダーの活躍により被害が軽減された事例もあったことから、地域防災リーダー等の皆様にも本ワークショップへの参加を呼びかけております。 (4)気象庁ワークショップ「経験したことのない大雨 その時どうする?」  災害から身を守るためには、気象台から発表する警報や注意報等といった防災情報のタイミングや意味等を体系的に理解し、積極的に入手して利活用することが必要です。また、自宅周辺にある危険箇所の有無や住居の構造、家族構成等によっても必要な対応が異なるため、それぞれの状況に応じて、災害から身を守るための行動のシミュレーションを事前に行うことが有効です。  このため気象庁では、グループワーク等のコミュニケーションを活用し、深い理解を導くための能動的な学習プログラム「気象庁ワークショップ『経験したことのない大雨 その時どうする?』」を開発し、これを用いた普及啓発活動を全国の気象台で実施しています。  このワークショップでは、参加者は大雨による災害の種類と危険性、気象台から発表される防災情報の意味や発表のタイミング、入手方法、身近に潜む危険を知ることの大切さなどの安全知識のレクチャーを受けた後、数人のグループに分かれ仮想の街で大雨が降り続く中、気象台が発表する防災情報を活用してグループ毎に違う状況(周辺地形、住居構造、家族構成等)に応じた安全行動についてシミュレーションし、話し合ってまとめます。  平成30年度(2018年度)は、各地の気象台のほか、学校や大学、日本赤十字社・日本気象予報士会等の団体等によって自主的に開催され、全国で138回のワークショップが開催されました。参加者から「日頃、大雨の中での避難はかえって危険ではないかと感じていたが、『どのタイミングで』という設定はとても参考になった」、「避難情報の具体的な例が現実的な災害を想定できて役に立った」などの感想が聞かれ、アンケート結果からはワークショップに参加する前後で安全知識や防災対応力が向上するなど効果が認められています。  このワークショップの運営マニュアルやワークショップで使用する資料一式は気象庁ホームページでも公開されており、自由にご利用いただけます。(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws/) コラム ■火山防災知識向上に向けた東北運輸局との連携(仙台管区気象台)  仙台管区気象台では、東北運輸局観光部と連携し、火山周辺の観光協会等に対して火山防災知識の向上を図る取組を行っています。  平成30年度(2018年度)は東北運輸局が主催する東北6県の観光案内所や観光団体、交通事業者等が組織する協議会等において講演を実施しました。  講演では火山に関する防災情報や噴火警戒レベルに関すること等に加え、最近の健康志向を受けて増加する火山登山者向けにポータルサイトを設けて、各火山の活動状況や防災事項をまとめて公開していることを紹介しました。また、日本を訪れている外国人観光客が、火山だけではなく天気や地震・津波も含めた防災気象情報をどうすれば知ることができるかについても英語版気象庁ホームページ等を紹介して利活用を呼びかけました。  当台では、今後も東北運輸局や東北地方各県の観光部局、各火山防災協議会と連携して観光団体等への普及啓発の取組を進め、火山災害の防止・軽減に貢献していくこととしています。 コラム ■3.11 あの日の避難行動 ~命を救ってくれた防災教育~ 群馬大学 環境創生理工学科社会基盤・防災コース 4年(平成31年1月現在) 小笠原 舞  2011年3月11日午後2時46分。あの日、津波は一瞬にして大好きな街も希望も大切なものもすべてを奪っていきました。当時私は釜石東中学校の2年生でした。通っていた学校は10mを超える津波に飲み込まれましたが、地震後すぐに避難行動をとることで生き延びることができました。震災前、「大きな地震の後は必ず津波が来る。想定にとらわれずに高いところに避難しよう」そう教えてくれたのは、群馬大学の片田教授(当時)や金井准教授でした。小学生の時にお二人が講演に来てくださり、それまで知らなかった“津波”の存在や恐ろしさを知りました。また、過去に大きな津波がこの街を襲った事実、近い将来大きな地震が発生する可能性があることを知り、驚きとともに津波に対して恐怖感が芽生えたことを今でも覚えています。片田教授や金井准教授がきっかけで防災に関する様々な活動が小中学校で活発に行われるようになり、いつか来るかもしれない大地震に備えていました。  備えていたものの迎えたくなかったあの日、聞いたことのない大きな地鳴りが鳴り響いた後、立てないほどの激しい揺れが発生しました。渡り廊下は激しく揺れて天井が落下し、校庭からは水が噴き出していたそうです。揺れが収まるやいなや、率先避難者となり訓練通りに約1キロメートル離れたございしょの里へと一目散に走りました。そこに避難していた近所のおばあさんが「生まれてからここの山が崩れるのを見たことがなかった。みんな死ぬぞ。」と近くの崖崩れを見て言いました。ハザードマップでは浸水想定区域外でしたが、生徒も危険を察して万全を期し、さらに高台の介護福祉施設へと避難することにしました。幸いなことに、私たちが逃げたわずか5分後、約3メートルを超える津波がございしょの里に到達しました。介護福祉施設に全員が避難完了しそうな時、バキバキ、ゴォーと嫌な音が鳴り響きました。振り返ると見慣れた街並みはなく、黒い波が街を襲っている様子が目に飛び込んできました。信じられない光景に恐怖を感じながらも、全速力でさらに高い所にある国道へと走りました。「逃げろー!振り向くな!走れー!」大声で叫ぶ先生の声、生徒の泣き叫ぶ声、サイレンの音が鳴り響きました。津波は介護福祉施設の少し手前で止まり、避難してきた道路はがれきでいっぱいになっていたそうです。その後、少し距離のある体育館まで歩きました。地域の方も大勢避難していた為、足を延ばすこともできず限られたスペースの中で寒い夜を過ごしました。満足な食事もできず、家族の安否も分からなったので不安と恐怖で眠れませんでした。翌朝、「親戚や家族の方が亡くなった」という話を聞き、泣き崩れる生徒もいました。震災から二日目、異なる避難所へと移動する人、家族とともに避難する人など各自で行動しました。  震災の経験から防災教育の重要性を実感し、現在私は群馬大学で防災教育について学んでいます。地元の友人も故郷の復興・発展に携わるべくそれぞれの道で努力しています。私は、在学中にできた「災害に強い街を作り岩手県に貢献する」目標のもと、春から土木技師として活躍したいです。 第2部 気象業務を高度化するための研究・技術開発 1章 大気・海洋に関する数値予報技術 1節 数値予報とは  数値予報とは、計算機(コンピュータ)を用いて地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測するものです。具体的には、最初に地球大気や海洋・陸地を細かい格子に分割し、世界中から送られてくる観測データに基づき、それぞれの格子に、ある時刻の気温、風などの気象要素や海面水温・地面温度などの値を割り当てます。次に、こうして求めた「今」の状態から、物理学や化学の法則に基づいてそれぞれの値の時間変化を計算することで「将来」の状態を予測します。この計算に用いるコンピュータプログラムを「数値予報モデル」と呼んでいます。  数値予報を日々の予報作業で利用するためには、複雑かつ膨大な計算を短時間に行う必要があることから、高速なコンピュータ(スーパーコンピュータ)を活用しています。気象庁は昭和34年(1959年)にわが国の官公庁として初めて科学計算用の大型コンピュータを導入し、数値予報業務を開始しました。その後、数値予報技術や気象学などの進歩とコンピュータの技術革新によって高精度できめ細かな予報が可能となり、今日では数値予報は気象業務の基盤となっています。 2節 数値予報モデルの現状 (1)全球モデル、メソモデル、局地モデル  気象庁では予測対象にあわせて複数の数値予報モデルを運用しています。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルで、明後日までの府県天気予報、台風予報、週間天気予報や1か月予報、航空機や船舶向けなどの予報に利用しています。「メソモデル」及び「局地モデル」は、全球モデルより計算を行う格子を細かくし、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報や、飛行場予報・悪天予想図など航空機の安全運航のための気象情報の作成などに利用しています。 (2)季節予報モデルと長期再解析  1か月を超える時間スケールの予報では、大気の変動と海洋の変動は互いの影響を強く受けます。このため、3か月予報、暖候期予報、寒候期予報やエルニーニョ現象を予測する「季節予報モデル」には、大気と海洋の変動を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。  また、異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報をより的確に行うためには、過去の気候も出来るだけ正確に把握しておく必要があります。このため、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術により分析する「長期再解析」にて過去の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。長期再解析JRA-55では昭和33年(1958年)以降の気候データを作成し、平成26年(2014年)から利用しています。 (3)海に関する数値モデル  海洋の様々な現象を把握・予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」、「海氷モデル」といった各種のモデルが使われています。「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上における波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・注意報や、毎日の波浪予報、船舶向けの波浪図などに利用しています。「高潮モデル」は、海面気圧の変化と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、台風の接近時など高潮災害が危惧される場合に、高潮警報・注意報が発表されます。「海況モデル」は、黒潮や親潮等の日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、海面水温・海流1か月予報の発表、また水産業等でも使用されています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測して海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用し、海氷の範囲等を発表しています。 (4)物質輸送モデル  大気中の物質の変化や移動などを数式で表した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、紫外線などの監視と予測を行っています。「二酸化炭素輸送モデル」は、二酸化炭素の世界の大気中の分布状況を図示する情報の作成に利用されています。「黄砂予測モデル」は、大陸などでの黄砂の舞い上がり、風による移動、雨などによる地上への降下を考慮して、大気中の黄砂の量や分布を予測し、黄砂情報の作成に利用しています。「化学輸送モデル」は、オゾンやその変化にかかわる物質の風による移動、地上への降下、化学物質や光による反応を通じた変化などを考慮して、上空や地上付近のオゾン濃度を予測し、紫外線情報やスモッグ気象情報の作成に利用しています。 3節 数値予報の技術向上と精度向上  防災気象情報の的確な提供や天気予報の精度向上のためには、その基盤となる数値予報技術の向上が不可欠です。数値予報は、1節で述べたコンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によってたゆまぬ進歩を遂げてきました。気象庁では、最新の科学技術を取り入れ、数値予報のさらなる精度向上を図る取組を続けています。  その一つは、規模の小さい現象を予測するためにモデルの計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)と、下図に示すような大気、海洋、陸地で発生する様々な過程をより正確に再現する改良です。高解像度化によって計算量が大きく増えるため計算に要する時間が長くなりますが、その一方で、防災気象情報や天気予報で計算結果を用いるためには、所定の時間内に計算を終了させる必要があります。このため、膨大な計算を高速化する方法や、様々な過程を精度良くかつ効率的に計算する方法の開発に取組んでいます。更には、これらの過程はお互いに影響を及ぼし合っているため、それぞれの過程自体を精度良く扱うだけでなく、それらの相互作用についても考慮し、数値予報モデル全体として予測精度を向上させるための取組も行っています。  更に、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく数値予報モデルに取り込むためのデータ同化技術の高度化も併せて行っています。特に、ひまわりをはじめとする気象観測衛星や地球観測衛星などの人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する手法の開発・改良に重点的に取組んでいます。 4節 地球温暖化予測  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、5~7年おきに、気候変動に関する3つの作業部会(1:自然科学的根拠、2:影響・適応・脆弱性、3:緩和)で、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行い、その結果を評価報告書としてとりまとめています。これらの報告書は、国内外の地球温暖化対策に科学的根拠を与える重要な資料となっており、平成25~26年(2013~2014年)に最新であるIPCC第5次評価報告書が公表されました。次の第6次評価サイクルでは、ホーセン・リー議長をはじめとする新体制の下、各作業部会の報告書のアウトラインや執筆者が決定し、令和3~4年(2021~2022年)の報告書公表に向けて現在活動中です。世界の研究機関ではこのIPCCの活動にとって必要な地球温暖化予測の情報を提供するために、最新の気候モデルによる予測実験を実施しています。  気象研究所では、大気モデルと海洋モデルを結合した気候モデルに、エーロゾル、オゾンや炭素の循環を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しています。IPCC第6次評価報告書に向けてモデルの改良を終え、過去から現在に至る歴史再現実験や21世紀末までの将来予測実験を行っています。また、アジアをはじめとした地域的な気候表現を更に高精度化したモデル実験をもとに、台風の発生頻度や降水現象の将来変化などの研究を進めて、アジア各国の研究者による地球温暖化研究に貢献します。更に、日本域の詳細な地球温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化に伴う地域気候の将来変化を予測することにより、我が国の政府機関や地方公共団体などによる温暖化への適応策策定や立案に貢献していきます。 2章 新しい観測・予測技術 1節 気象レーダーを活用した積乱雲監視・予測の例 ~レーダー雷解析~  雷の発生には、「あられ」の生成が欠かせず、その生成には強い上昇流と、気温がおよそ-10℃以下となる高度まで積乱雲が発達することが必要です。その状態を気象レーダーの降水強度や数値予報データから判断するのがレーダー雷解析です。下図は平成30年(2018年)9月8日に関東北部で雷が発生した事例で、12時40分の気象レーダーの分布(左図)からレーダー雷解析で落雷の可能性が高い場所(中図、赤系ほど可能性が高い)を判断し、実際に10分後にその降水域で雷が観測されています(右図)。このレーダー雷解析の結果は雷ナウキャストで利用しており、今後二重偏波気象レーダーの導入により、雲内部の降水粒子(雨・ひょう・あられ等)を直接判別することで精度向上も期待されます。 2節 シチズンサイエンスによる雪結晶の高密度観測  首都圏では少しの雪でも交通等に甚大な影響が及びますが、その正確な予測は難しいのが現状です。首都圏における降雪現象の正確な予測や理解のためには、まず実態把握が不可欠であり、これまで詳細な観測例の少ない雪雲の特性(気温や水蒸気量、気流、雲・降水粒子特性)を明らかにすることが有効です。このため、気象研究所では、首都圏に雪を降らせる雲の特性を理解することを目的とし、市民から雪結晶画像に加えて天気などの気象状況の情報を募集する市民参加型の科学研究(シチズンサイエンス)を実施しています。  本研究では雪結晶の撮影にスマートフォンのカメラを採用し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やメールを用いた画像収集を行っています。スマートフォンのカメラで倍率を最大にして接写すれば雪結晶が判別可能であり、近年100円均一の小売店でも販売されている倍率約10倍の安価なスマートフォン用マクロレンズを使用すれば、より鮮明な雪結晶画像を撮影可能です。これらにより、ごく簡易な雪結晶観測手法を確立し、シチズンサイエンスとして効率的な観測データ収集を実現しました。この結果、平成28~29年(2016~2017年)冬季には、合計1万枚以上の雪結晶画像が得られました。このうち観測時刻や場所の情報があり、画像が鮮明で解析可能なものは73%でした。また、平成30年1月22日の関東での大雪事例では、1日で数万枚の雪結晶観測データが寄せられました。 「雪は天から送られた手紙である」(物理学者・中谷宇吉郎博士)といわれるように、雪結晶はその結晶が成長する雲の気温や水蒸気の量によって形が変化するため、地上で観測された雪結晶の形や状態を確認することで雲の性質を調べることができます。首都圏における降雪事例の解析の結果、雪結晶の時空間変化から雲内で雪結晶の成長する温度が変化したことを確認でき、雲粒付着の程度から上空の過冷却の水雲の動態についても議論が可能となったほか、雪雲の多層構造を推定することもできました。  このような時空間的に高密度に取得された雪結晶観測データを他の観測データなどと組み合わせることで、首都圏の降雪現象の実態解明にとどまらず、数値予報モデルの検証を通した降雪予測精度向上や、二重偏波レーダーを用いた降水種別判別手法の高精度化にも活用していきたいと考えています。平成31年2月からは、気象アプリ「空ウォッチ」を活用し、雪結晶画像や降雪現象の実態解明の研究に必要や気象状況の募集を開始しました。今後も観測事例の蓄積が必要であることから、引き続き降雪研究のための気象状況の情報提供にご協力をお願いします。 3節 平成29年台風第21号の航空機観測を用いた強度解析と予測実験  北西太平洋における台風の中心付近の直接観測は、米軍が航空機観測を中止した昭和62年(1987年)以降ほとんど行われていません。そのため、現在、洋上に存在する台風の強さは、衛星赤外画像を用いる手法などで推定されています。しかし、衛星画像から台風の強さを推定する手法は直接の観測ではないため、航空機観測に比べて不確実性が高いと考えられます。台風に伴う被害の想定や気候変動が台風の強さに及ぼす影響を調べる上で台風の強さの正確な観測は重要です。  このような学術的にも社会的にも大きな問題の解決に向けた第一歩として、名古屋大学・琉球大学・気象研究所では、科学研究費助成事業基盤研究(S)「豪雨と暴風をもたらす台風の力学的・熱力学的・雲物理学的構造の量的解析(代表:坪木和久教授(名古屋大学))」のもと、台風観測プロジェクト、Tropical cyclones-Pacific Asian Research Campaign for Improvement of Intensity estimations/forecasts (T-PARCII)を立ち上げ、平成29年(2017年)10月21~22日の2日間にわたり、台風第21号を対象に航空機観測を行いました(写真参照)。実施にあたっては、ドロップゾンデという観測機器を26個投下することにより、台風の眼の中や眼を取り囲む壁雲付近で、風速・気温・気圧・湿度を観測しました。  気象庁確定値(ベストトラックと呼ばれる主に衛星画像に基づいた事後解析による推定値)では、台風の強さの指標である中心気圧が10月21日15~18時(時刻は全て日本時間)に935hPa、10月22日9~12時に915hPaでした。一方、航空機観測データに基づくと、中心気圧は10月21日16時に925hPa、10月22日10時におよそ930hPaでした。両者の間にはそれぞれ10hPa、15hPa程度の差がありましたが、この差は1980年代中盤までに得られた航空機観測と衛星赤外画像に基づく推定値の差(13hPa)とほぼ同等程度でした。つまり、衛星画像を主とした推定手法に加え、航空機観測データを用いることによって、台風の強度推定を高精度化することが可能であると改めて確認されたことになります。  また、T-PARCIIプロジェクトにおける航空機観測を利用した予測と利用しない予測を比較する再予測実験を、スーパーコンピュータ「京」を用いて実施しました。その結果、航空機観測のデータを用いることにより、台風の進路や強雨の予測が改善することがわかりました。  平成30年(2018年)も台風第24号に対して航空機観測を実施しました。また、航空機から全球通信システム(Global Telecommunication System, GTS)に観測データをリアルタイムで送信し、国際的な台風解析・予報業務にも貢献しました。航空機観測の有効性を示すためには、今後さらに事例数を積み重ねる必要があります。T-PARCIIプロジェクトでは台風航空機観測を2020年度まで、年1回程度の頻度で実施する計画で、台風の強度推定、進路・強度予測の高度化に向けてさらに研究開発を進めていく予定です。 4節 スマート社会を支える台風予報の高度化のための研究・開発  20年前に比べると気象庁の台風進路予報の誤差は半分以下になっています(右図)。この背景には、観測データの拡充、スーパーコンピュータの性能向上、数値予報システムの高度化・高解像度化などがあります。平成27年 (2015年)には、客観的な手法で複数の予測結果を平均する、「コンセンサス予報」を導入して予報精度が大幅に向上しました。進路予報の不確実性を表す予報円に関しては、その円の大きさを動的に、そのときの気象状況に応じて決める手法について研究を行っています。「アンサンブル予報」と呼ばれる予報の不確実性を直に予測する技術を使いますが、気象庁のアンサンブル予報に加え、海外のアンサンブル予報も活用すると、より適切に予報円の大きさを表現できることがわかりました。  強度予報に関しては、残念ながら進路予報のような右肩下がりの予報誤差の減少は見られません。このような傾向は気象庁だけでなく海外の気象局による強度予報も同様で、また台風の発生する北西太平洋域だけでなく他の海域でも同様です。台風の強度変化のメカニズムの解明が十分ではないのが現状で、強度予報の改善は世界共通の課題です。気象庁では、気象研究所において米国の研究者の協力を得て一種の「機械学習」による台風強度予測手法の開発を行い(左図)、この手法を平成28年(2016年)から試験的に台風予報に使用してきました。この試験運用を通して、強度予報の精度が大幅に改善されることが確認できたため、平成31年3月からこの手法を正式に運用しています。同時に、台風強度予報の予報期間を3日先から5日先までに延長しました。  気象庁では、24時間以内に台風に発達すると予想される熱帯低気圧がある場合にその進路や強度の情報を発表しています。気象研究所では、アンサンブル予報と気象衛星「ひまわり」による台風の雲画像の解析結果を用いることで、2日先までの台風の発生確率を精度良く予測する手法を開発しています(次ページ左図)。更に、5日先までの台風の存在確率に関する新たな予測手法を開発し、その有効性を示しました(次ページ右図)。  これらの台風予報の高度化に関する研究は、気象災害に強いレジリエントな社会の構築、また多様化する気象情報を有効に活用する社会の構築に重要な役割を果たすことが期待されます。一方、さらなる予報精度の改善に向けた課題も、進路・強度・発生予報それぞれの分野で多く残されています。気象庁は、気象研究所を中心に、これらの課題に真正面から取組み、社会において防災気象情報がより効果的に活用されるスマート社会の実現に向けて研究・開発を進める計画です。 3章 地震・津波、火山に関する技術開発 1節 地震災害軽減のための技術開発  気象研究所では、大規模地震発生の切迫性が指摘されている、南海トラフ周辺のプレート境界における深部低周波地震やゆっくりしたすべりなどの様々な現象に対する検知・解析能力を高めるための研究を行っています(図)。また、大地震が発生した際に、その地震の規模やすべり範囲を早期に推定することにより、的確な災害対策に貢献する研究を行っています。  加えて、緊急地震速報の迅速化・精度向上の研究(コラム「揺れの数値予報」を参照)や、高層ビル等が大きく揺れる原因となる長周期地震動の予測精度向上のための研究を行っています。 コラム ■揺れの数値予報  気象研究所では、緊急地震速報の精度向上を目指した研究を行っています。従来の緊急地震速報は、地震が発生した場所と規模(マグニチュード)を迅速に把握するという手法に基づいていますが、この研究では、更に、揺れが伝わっていく状況を把握することにより、未来の揺れの分布を予測する手法を開発しています。この手法を用いると、揺れの状況を時々刻々と予測に反映できるため、精度の向上が期待できます。この手法は、天気の数値予報に似ているため、「揺れの数値予報」と呼んでいます。なお、この考え方の一部は、平成30年(2018年)3月から、「PLUM法」として気象庁が発表する緊急地震速報のシステムに組み込まれています。 2節 津波災害軽減のための技術開発  気象研究所では、津波警報等更新の精度向上を図るために、沖合でいち早く観測された津波波形データを使って沿岸に押し寄せる津波を即時に精度よく予測するための手法の開発を行っています。また、日本から遠く離れた外国で発生した津波(遠地津波)に対する津波警報等を適切なタイミングで解除するための津波の減衰過程の研究に取り組んでおり、南アメリカ沿岸で発生する遠地津波について過去の観測事例を調査してその推移予測の可能性を検討しています(図)。更に、明治29年(1896年)6月の明治三陸地震に代表されるような揺れは弱いにも関わらず大きな津波を発生させる地震や、地すべりのような地震以外の現象に伴う津波についても研究を行っています。 2節 火山の監視・予測のための技術開発  気象研究所では、火山活動の監視・予測技術の高度化のために、気象レーダーを用いた火山噴煙の観測技術の開発を進めています。平成28年(2016年)10月8日の阿蘇山の噴火では、噴き上げられた噴煙は高度10キロメートル以上まで到達し、広範囲に降灰や降礫(こうれき)が観測されました。  噴火発生時、この噴煙は気象庁の気象レーダーによって捉えられ、噴煙が上空の風に流され四国上空を通過する様子が確認されました(図)。この噴火事例では、気象レーダーによって噴煙の流される方向や高さを把握することができ、噴火の検知の可能性が改めて示されました。  また、気象研究所では、噴火による火山灰(礫)の拡散予測のための数値予報モデル(拡散モデル)の開発・改良も進めています。この予測では、日々の天気予報等のために計算されている風の予測結果を用いて、火山灰(礫)がどのように流されるかをスーパーコンピュータを用いて計算します。上述の阿蘇山の噴火の事例では、深夜の噴火であり、また気象条件も悪く噴煙の様子をカメラ等では捉えることができず、火山灰(礫)の拡散予測が困難な事例でしたが、気象レーダー観測の結果を用いると、火山灰(礫)が上空の風によって流される様子が精度良く再現されることを確認しています。  気象研究所では、今後も引き続き、レーダーを活用した噴火監視技術や火山灰(礫)の拡散モデルの開発・改良を進め、降灰の予測や大気中の火山灰の予測の精度を更に高めるための研究に取り組んでいきます。 コラム ■次世代の火山監視 - 先進的な気象レーダーで視た桜島噴火 -  気象研究所では、火山噴火を即時的に把握し、大気中の火山灰を予測するための研究を行っています。そのうちの一つが、先進的な気象レーダーを使った即時把握技術の開発です。  この研究では、Xバンドマルチパラメータレーダー(MRI-XMP)とKuバンド高速スキャンレーダー(MRI-Ku)という2つの研究用の気象レーダーを平成28年(2016年)3月に鹿児島県の桜島周辺に設置し、火山噴煙の観測を行っています。MRI-XMPは二重偏波レーダーと呼ばれるタイプのレーダーで、噴煙内部に含まれる火山灰の粒子の形や大きさに関する情報を得ることができます。MRI-Kuは、噴煙の立体的な形状を従来のレーダーと比較して5~10倍の頻度である約1分ごとに取得することができます。これらの情報は、火山噴火の際に気象庁が発表している降灰予報や航空路火山灰情報の元となる、拡散モデルの初期値(予測の最初の状態)を改善するための情報として有効です。  平成28年(2016年)4月29日17時17分に発生した爆発的噴火のMRI-XMPによる観測結果からは、噴煙から大きな粒子が落下することによって濃度が低下していく様子や、噴煙に含まれる粒子の形状が次第に扁平に変化していく様子が見えるなど、噴煙内部の状態の定性的な変化傾向は掴めてきています。しかし、降灰予報等の精度向上のためには、噴煙に含まれる火山灰の量をできるだけ正確に測定する必要があります。そのため、今後は噴煙内部の火山灰の定量的な推定手法について、研究・開発を進めていく予定です。 4章 大学や研究機関と連携した研究・技術開発  数値予報モデルをはじめとした気象や海洋、地震・火山・津波の監視・予測の技術を向上させるためには、各分野の最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学・研究機関や、諸外国の気象機関などとも情報や意見の交換を行いながら研究・技術開発を進めています。  国内の大学や研究機関とは、気象や海洋、地震・火山・津波のそれぞれの分野で合計170余りの共同研究や連絡会の運営を実施しています。いくつかの共同研究の成果は気象庁で活用されており、例えば、緊急地震速報の実用化も共同研究の成果のひとつです。  平成31年(2019年)1月から、気象観測・予測へのAI技術の活用に向けた共同研究を、理化学研究所革新知能統合研究センターと開始しています。これは、AI技術の導入によって、気象庁が発表する防災気象情報の根幹を支える気象観測・予測の精度を大きく向上させていくことを目指すものです。また、幅広い連携を目指した取組としては、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」という枠組を設けて、気象研究の発展、気象研究分野の人材育成及び気象業務の予測精度の向上を図っています。また、気象予測や数値シミュレーションのための数値予報モデルを利用する研究者に、気象庁が実際の予報に用いているモデルを貸与し、研究を促進しています。更に、毎年「気象庁数値モデル研究会」を開催するなど、大学や研究機関の研究者との交流を図っています。平成29年からは大学等研究機関の専門家による「数値予報モデル開発懇談会」を開催し、一層の連携強化を図っています。  この他、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学や研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を運営しています。平成30年3月には、強い寒気の影響で低温や大雪となった平成30年冬の天候について、要因を分析し、見解を公表しました。また「平成30年7月豪雨」の特徴と要因に関して気象庁が速報した報道発表では、検討会による事例解析の協力をいただいています。 コラム ■人工知能技術による気象予測への貢献 国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター 副センター長 上田 修功  約10年前、コンピュータサイエンス分野のノーベル賞と言われるチューリング賞を受賞したコンピュータサイエンティスト、ジェームス・ニコラス・グレイ博士が「データ集約型科学」を提唱し、これからの科学には新たな方法論「第4のパラダイム」の確立が必要であると主張されました。そして、10年経った現在では、ビッグデータから機械学習技術(深層学習技術)を用いてこれまで実現できなかった事が実現したというニュースを多方面で聞かれるようになりました。第4のパラダイムは、第3次人工知能(AI)ブームを到来させたと言えます。  理化学研究所 革新知能統合研究センター(理研AIP)目的指向基盤技術グループにおいても、日本が得意とする科学技術分野をAI技術により加速させることをミッションとして研究プロジェクトを推進しています。そして、この度、気象庁と連携して、気象庁が保有する気象観測・予測技術と理研AIPのAI技術を融合した高精度な気象観測・予測を目指す共同研究を開始します。気象学の専門家による気象モデルによる演繹的な解析技術と、気象モデルや実観測から得られる気象ビッグデータを土台とする帰納的なAI技術を融合することにより、高精度な観測、予測が実現可能になります。これは、これまで独立に研究されてきた物理モデルと統計モデルの融合とも言えます。  近年、我が国では台風や豪雨による被害が多発しています。高精度な観測と予測により人々に安心と安全を提供すべく、気象庁と一丸になって研究開発に邁進する所存です。 コラム ■気象研究コンソーシアム  近年の気象研究では、様々な観測データの同化や、アンサンブル手法による予測可能性など、高度にシステム化された研究が行われており、更なる気象学の発展のためには、大学、国立研究開発法人などの各研究機関と、気象現業システムを持つ気象庁とが連携して研究を進めていくことが不可欠です。  気象庁と公益社団法人日本気象学会では、我が国における気象研究の発展、大学等における気象研究分野の人材育成及び気象庁の気象業務の予測精度の向上を目的として、気象庁データの利用に関する枠組である「気象研究コンソーシアム」を運営しています。本コンソーシアムの参加メンバーは、気象庁が保有する、数値予報による解析・予測データや、気象衛星による観測に基づくデータ等の提供を受けることができ、各研究機関が進めてきた研究において、気象庁が持つ豊富なデータや現業で培われたさまざまな技術を活用することが可能になります。現在、気象・気候分野における予測技術の開発や、現象の解明のため、約50の研究課題が行われており、これらの研究が、気象庁による一層精度の高い気象情報の提供や、気象学の将来を担う人材育成につながることが期待されます。  最近の取組として、平成30年(2018年)2月より、気象庁レーダーデータ及び観測報デコードデータ(気象庁の数値予報に用いた地上、高層、航空、気象衛星等の観測データ)の提供を新たに開始しました。また、同年6月に閣議決定された統合イノベーション戦略に掲げられたオープンサイエンスや、同年10月に気象庁が公表した「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」(トピックスⅣコラム参照)を踏まえ、気象研究における更なるデータ利活用の在り方について議論を深めていきます。 第3部 気象業務の国際協力と世界への貢献  大気に国境はなく、台風等の気象現象は国境を越えて影響します。このため、精度の良い天気予報とそれに基づく的確な警報・注意報の発表のためには、国際的な気象観測データの交換や技術協力が不可欠です。また、気象分野のみならず、気候や海洋、地震・津波、火山分野においても国際協力が重要です。このため、気象庁は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心として世界各国の関連機関と連携しているほか、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1章 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  WMOは、世界の気象業務の調和的発展を目標として設立された国際連合の専門機関の一つです。世界気象会議(全構成員が出席)を4年毎に開催し、向こう4年間の予算や事業計画を審議するほか、執行理事会(世界気象会議で選出された37名が出席)を毎年開催し、事業計画実施の調整・管理に関する検討を行っています。我が国は昭和28年(1953年)の加盟以来、アジア地区における気象情報サービスの要として中心的な役割を果たしてきており、歴代気象庁長官は執行理事としてWMOの運営に参画しています。国際的なセンター業務を数多く担当するほか、気象庁の多くの専門家が専門委員会や地区協会の活動に貢献しています。  世界の国々が効率的な気象業務を行うためには、統一された方法による大気や海洋の観測、データの迅速な交換、高度なデータ処理に基づく気象情報の作成・提供が必要です。  例えば、気象庁はアジア地区を担当する地区測器センターに指名されており、各国の観測データの品質が保たれるよう、基準となる気象測器の管理や、気象測器の比較校正の支援及び保守等の指導を行っています。この活動は、各国における観測技術の向上に寄与するだけでなく、品質の良い観測データを得ることによって、気象庁が行う天気予報等の精度向上につながるものです。  観測データ等を国際的に迅速に交換するためには、全世界的な気象通信ネットワークが不可欠です。気象庁は、全球情報システムセンター(GISC東京)及びアジア地区通信中枢(RTH東京)として様々な気象・気候データを確実に流通させ、東アジア地域におけるデータ交換の中継を担っています。また、世界各国との技術協力や主に東南アジア地域を対象とした技術支援を通じて気象通信技術の高度化を推進し、観測データ等の効率的な国際交換・提供に貢献しています。  こうして収集した世界の観測データ等を活用して気象庁が作成したプロダクトは、再び気象通信ネットワークを通じて各国に提供され、各国が行う気象予測や防災活動のために利用されています。気象庁が、北西太平洋域の熱帯低気圧に関する地区特別気象センター(熱帯低気圧RSMC東京)として提供する情報もその一つです。責任領域内の熱帯低気圧について、解析や予報、予報の根拠、数値予測の情報等をリアルタイムに提供することで、同領域内の各国が行う解析・予報を支援しています。また、地区気候センター(Tokyo Climate Center)として、アジア太平洋地域における気候関連業務に関する技術協力を行うとともに、気候情報に関する研修セミナーの開催を通じて人材育成支援を行っています。  このほか、気象庁は温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)として、世界各地で観測された温室効果ガスのデータを収集しています。WDCGGで解析した温室効果ガスの世界平均濃度は、気候変動に関する国際連合枠組条約締約国会議(COP)の交渉などにおいて、重要な科学的根拠として用いられています。  このように、WMOの枠組みの下で行う国際協力は、気候変動対策をはじめとする国際的な取組に貢献しているほか、世界の観測データ等を確実に入手して精度の良い天気予報等を行い、我が国の防災に資するものです。また、開発途上国等の気象業務サービスの向上を支援することによって、海外で活動する日系企業や在外邦人の安全確保にも貢献しています。 コラム ■世界気象機関(WMO)邦人職員より 世界気象機関(WMO)事務局 開発・地区活動部アジア・南西太平洋地区室 計画管理官 山田 隆司(気象庁より派遣中)  WMOでは地域の特性に応じた気象業務の推進を図るため、6つの地区協会を設置し、各地区における気象業務推進のための活動に関する調整を行っています。各地区の当該活動を支援するためにWMO事務局には4つの地区室が設置されており、私が所属するアジア・南西太平洋地区室は6つの地区協会のうち2つの地区(アジア(35の国と領域)と南西太平洋(23の国と領域))を担当し、地区内の各国気象機関の能力向上支援のための調整業務を行っています。具体的には、地区内で開催される会議の準備・運営、会議での決定事項に沿った活動計画の策定、その実施に当たっての各国の気象機関やWMO事務局内の他部局との調整などです。  アジア・南西太平洋地区室はこれまでスイス・ジュネーブにあるWMO本部に置かれていましたが、地域により密着した活動の促進や地区内の気象機関や国際機関との更なる連携強化を目指して平成30年(2018年)9月にシンガポールに移転しました。  シンガポールは地域内各国へのアクセスもよく、あまり時差を気にせずに各国に電話連絡できるなどジュネーブ勤務と比較すると様々な点で便利になりました。今後はこの地理的な優位性を生かして、より近くなった各国気象機関の現状やニーズの把握に努め、これまでジュネーブからの参加が困難だった会議に出席するなどより多くの地域内の活動に参画できるものと期待しています。  気象庁はアジア太平洋地区において観測、予測、通信など様々な分野で地域中枢の役割を務めるとともに、地区内各国の気象機関の職員に対する人材育成・技術協力活動を積極的に行っています。アジア太平洋各国の気象機関の能力向上に向けて、今後も気象庁との連携を通じてWMOとしての使命を果たしていきたいと思っています。 コラム ■利用者のニーズに応じた気象観測の世界的な発展に向けて  今般のセンシングや情報通信に関する技術革新により、従来の気象観測のイメージとは異なる、新たな気象観測と呼べるものが芽生えています。社会には気温や気圧などを測るセンサーが溢れ、中には車に搭載されて移動するものもあるなど、観測場所のみならず観測時刻や精度もまちまちです。監視カメラの画像からは天気も判ります。このように気象観測を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。国内外の現状を見て行きましょう。  2018年10月に世界気象機関(WMO)の専門委員会のひとつである測器・観測法委員会(CIMO)の第17回会合と、気象・環境測器観測法に関する技術会合(CIMO/TECO-2018)がオランダ・アムステルダムで開催されました。CIMOは世界中の気象観測技術の向上や標準化を進めている委員会です。一連の会合では、「new data sources(新しいデータ提供元)」や「fit-for-purpose(目的に応じた観測)」というキーワードが頻繁に登場し、簡易な気象計やスマートフォンに搭載された観測装置によるデータなど、今般増大する新たな観測データの「利活用や目的に応じた観測」といった視点から活発な議論が交わされました(写真)。  これらデータは気象庁の業務にはまだ利用されていませんが、膨大な情報を持つ「ビッグデータ」であり、現在、気象庁を含む世界各国の気象機関で利活用のあり方にかかる調査が進んでいます。当面の利活用方法として、気温や雨の詳細な分布の把握や、峠の雪や濃霧など交通に影響する気象状況の把握に用いる方法などが想定されるほか、平成30年(2018年)8月20日にとりまとめられた交通政策審議会気象分科会の提言では、ウェブカメラの画像をAIで解析して天気の状況をリアルタイムで把握することや、さまざまな予測データとビッグデータとを組み合わせて、避難行動に資する情報として活用するなどの着想も示されています。  観測データを利用する際は、各々のデータの精度に応じた使い方をすることにより、各々の持つ情報を最大限に引き出すことが大事です。そのためにはデータの「品質の見える化」が重要であり、観測技術のみならず、品質管理や評価の技術を維持・発展させていく必要があります。  この品質管理の観点からは、観測位置や観測環境、校正状態などの「メタ情報」が観測値とセットで提供されれば、従来の観測点を基準とする高密度な観測網の構築も可能となり、観測精度やメッシュの細かさ、更新間隔などの選択肢の拡大を通じて、「利用目的に応じた活用」の裾野が広がることが期待されます。  観測データがさまざまな形で社会の役に立てば、新たなニーズが生まれ、さらなる技術革新につながります。気象庁は国内外の状況を踏まえ、引き続き、基準となる信頼性の高い観測データを提供する技術を維持・発展させるとともに、多様な観測データの「品質の見える化」を図ることにより、気象業務の発展に取り組んでまいります。 2章 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 (1)北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)地域リアルタイムデータベース   日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 (2)津波の警報に関する国際協力   北西太平洋における地震を監視し、津波を発生させるおそれのある大きな地震が発生すると、地震や津波に関する情報を速やかに周辺各国に通知するとともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています。 3章 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  国際民間航空機関(ICAO)は国連の専門機関の一つであり、国際民間航空業務の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAOの指定を受けて、航空路火山灰情報センター(VAAC)、熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4章 国際的な技術開発・研究計画との連携  気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。気象庁は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。  地球温暖化問題については、昭和63年(1988年)に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、気候モデルによる地球温暖化予測をはじめとする研究成果が評価報告書に盛り込まれる等、積極的に貢献しています。 5章 開発途上国への人材育成支援・技術協力について  気象庁は、開発途上国に対し、上で述べた様々な枠組みを通じ専門家派遣や研修等を実施しており、気象、海洋、地震・火山などの様々な分野における人材育成支援・技術協力を行っています。  こうした活動のうち、独立行政法人国際協力機構(JICA)課題別研修の一つである「気象業務能力向上」では、各国気象機関の職員を毎年8名程度、約3か月間にわたって気象庁にて受け入れ、気象庁職員が講師となり、気象業務に直結する技術の習得及び研修成果の母国での普及を目的として、講義・実習を行っています。受講者数は、研修を開始した昭和48年度(1973年度)以降、計77か国347名にのぼり、その多くは帰国後、母国の気象業務の発展に主導的な役割を果たしています。  また、平成27年度から29年度にかけ、世界最先端の気象衛星「ひまわり8号」の観測データの受信環境をWMO・JICAと連携して20か国に整備しました。併せて、気象庁職員を各国気象機関に派遣し、同観測データをより効果的に活用して気象現象等の監視・予測及び防災活動に役立ててもらえるように、気象衛星画像等の表示解析ソフトの使い方、実例を用いた解析など、可能な限り多くの講義や実習を行いました。本研修は各国から歓迎され、今後の研修も多く要望されています。  このほか、大雨による洪水や土砂災害等の被害が多く見られる東南アジア地域を中心に、気象レーダー利用に関する技術支援を行っており、平成30年(2018年)2月には、WMO及び東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携して、「気象レーダーデータ利用に関する研修ワークショップ」をタイで開催しました。東南アジアでは、気象レーダーを十分に気象現象の監視等に利用する技術を持たない気象機関が多いことから、気象庁をはじめとした我が国の専門家が講師となり、地域内10か国の気象機関から参加した30名に対してレーダーデータの精度向上技術等に関する研修を行いました。  気象庁では、様々な活動を通じて各国気象機関との協力関係を強化しながら、世界の気象防災の推進に貢献しています。 コラム ■2018年9月にインドネシアで発生した地震・津波災害を受けての国際協力  2018年9月28日19時02分頃(日本時間、以下同じ。)インドネシア・スラウェシ島付近でマグニ○チュード7.5の地震が発生し、これに伴う津波がパル等の沿岸域に来襲しました。インドネシア気象気候物理庁は同日19時07分に津波警報を発表しましたが、死者2,000人を超える甚大な被害が発生しました。この津波は、通常想定される地震活動による津波に加え、液状化による海岸沿いの土砂の海中への崩落や、海底での大規模な地すべり等の複合的な原因により発生したものと考えられています。  この災害を受け、インドネシアから日本に対し、地震や津波の観測・情報発表に係る技術支援の要請がありました。これを踏まえ、独立行政法人国際協力機構(JICA)は、2019年より、同国を対象とした「地震・津波観測能力向上プロジェクト」を実施することとしています。気象庁では、これに先立ち、2018年11月に地震・津波分野の専門家を現地に派遣しました。今後は、これまでに得られた地震・津波観測及び津波警報発表の経験や知見を踏まえ、本プロジェクトのもと、同国に対し地震・津波観測データの安定取得や利用の強化、津波警報の運用改善等に向けた技術支援を行う計画です。 コラム ■静止気象衛星「ひまわり」による国際協力~外国気象機関のリクエストに応じた観測を初めて実施~  気象庁では、外国気象機関からの要請があれば、静止気象衛星ひまわり8号による2.5分毎の機動観測(約1,000キロメートル四方)を行う「HimawariRequest(ひまわりリクエスト)」を平成30年(2018年)より実施しています。  平成30年10月15日、オーストラリア気象局からの要請に応じて、オーストラリア北部のダーウィン付近を対象に積乱雲の急発達の機動観測を実施し、画像データをオーストラリア気象局にリアルタイムで提供しました。これが、初めてのひまわりリクエストの実施になります。また、平成30年12月には、インドネシアからの要請に応じて、同国のクラカタウ火山監視のため機動観測を実施しました。  このように、ひまわりリクエストは、当該国における気象・火山災害リスクの軽減等に活用されます。平成31年1月末現在、アジア・太平洋地域の18の気象機関がこのひまわりリクエストの利用登録を行っており、今後の活用が期待されます。 コラム ■ひまわり8号はオーストラリア気象局の予報官の業務をいかに革新したか オーストラリア気象局研修センター 教官 ボードー・ゼシケ  海に囲まれた広大な国土を持つオーストラリアでは、地上の観測がまばらにしかありません。このため、オーストラリア気象局の予報官が質の高い予報を提供するためには静止気象衛星による観測データが極めて重要です。同局では、ひまわり8号のデータを2015年から利用しています。ひまわり8号では従来の静止衛星と比べて時間、空間の分解能及び観測バンドの数が飛躍的に向上し、同局の気象業務に大きな変革をもたらしました。ひまわり8号の飛躍的に向上した観測性能による効果を評価するため、同局の中で予報官を対象にアンケート調査が2017年に行われ、全予報官の約50%にあたる115人から回答がありました。以下に概要を紹介します。  第一に、ひまわりを以前よりも効果的に利用できるようになりました。ひまわりの観測が10分毎になり、地上の観測と同程度の観測頻度となったため、それらを容易に組み合わせて利用できます。予報官は、解像度が高く色彩豊かなひまわりの画像とプロダクトを利用することにより、災害をもたらす気象の発達段階だけではなくその要因についても、容易に把握できるようになりました。また、ひまわりの動画の速度を変化させることにより、メソスケールの気象の推移をこれまでになく深く理解できるようになりました。第二に、ひまわりの有用性が以前よりも大きくなり、予報作業の工程に変化をもたらしました。これにより予報官は「観測が第一、数値予報データはその次」という基本的な予報作業をより実践できるようになりました。例えば実際に、激しい雷雨をもたらす積乱雲が急速に発達し始める段階において、地上の観測データよりもひまわり8号のデータのほうがしばしば利用されています。第三に、ひまわり8号のデータは以前に比べ誤信号やノイズが少なく、画像の品質が高いため、予報官がより確信を持って現在の気象状況を解析できるようになりました。多くの場合、ひまわりの画像を確認することで、地上の観測による気象状況の理解が正しいかどうかの確証を得ることができます。これは、悪天候で緊張を強いられる予報官にとって負担の一つとなっていた現象理解の不確実性を減らすことになりました。第四に、より利用者のニーズに合った気象情報を提供することが可能となりました。予報官がひまわりの観測をより信頼できるようになることで、気象情報が改善され、利用者はより容易に意思決定できるようになります。ひまわりが観測する詳細な情報が、最新の予報や警報の迅速な提供を可能にしています。また、ひまわり8号のデータから作成した目を見張るようなインパクトのある動画は、予報官を満足させるとともに、一般の人々に気象情報を明確かつインパクトを持って伝えるため様々なメディアで利用されています。  オーストラリア気象局では引き続き、ひまわり8号によるデータを最大限、効果的に利用できるよう、継続的な研修、衛星画像に含まれる情報をカラーで可視化した「RGB画像」とその派生プロダクトの改良や新規開発、大容量データのスムーズな可視化といったデータ利用のための開発を行っていきます。 第4部 最近の気象・地震・火山・地球環境 1章 気象災害、台風など 1節 平成30 年(2018 年)のまとめ  2月3日から2月8日にかけて日本付近で強い冬型の気圧配置が続き、北日本から西日本の日本海側で断続的な雪となり、特に福井県福井市では昭和56年の豪雪以来の記録的な大雪となりました。この大雪によって、福井県や石川県で多数の車両の立ち往生が発生しました。  5月下旬から7月上旬にかけて、日本付近に停滞した梅雨前線や台風等の影響で、各地で大雨となりました。特に、6月28日から7月8日にかけては、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、この大雨によって各地で河川の氾濫や土砂災害等が発生し、死者数が200人を超える※甚大な災害となりました。気象庁は、この豪雨について「平成30年7月豪雨」と名称を定めました。  9月3日から5日にかけて、台風第21号は、西日本に上陸した後日本海へ進みました。台風第21号の影響で、暴風によりタンカーが関西国際空港連絡橋に衝突する事故や、高潮及び高波により関西国際空港の滑走路や兵庫県芦屋市等の住宅地で浸水被害が発生しました。  9月28日から10月1日にかけて、台風第24号は沖縄地方に接近した後、和歌山県に上陸し北東に進みました。台風第24号の影響で、広い範囲で暴風となり、関東地方では塩害による停電で鉄道の運休が発生しました。 ※被害状況は内閣府「平成30年7月豪雨による被害状況等について」(平成30年10月9日17時00分)による 2節 平成30 年(2018 年)の主な気象災害 ・強い冬型の気圧配置による大雪(2月3日~2月8日)  日本付近は、2月3日から8日にかけて強い冬型の気圧配置が続き、上空には非常に強い寒気が流れ込み続けました。この影響で、北日本から西日本の日本海側を中心に断続的に雪が降り、3日から8日にかけての期間降雪量が、石川県加賀市で177センチ、福井県福井市で144センチとなるなど、北陸地方を中心に、山地や山沿いに加え平野部でも大雪となりました。特に、福井市では、この期間の最深積雪が147センチ(7日15時)となり、近年では昭和56年(1981年)の豪雪以来の記録的な大雪となりました。 ・平成30年7月豪雨(6月28日~7月8日)  6月28日から7月8日にかけ、日本付近に停滞した梅雨前線や台風第7号の影響で暖かく非常に湿った空気が継続して流れ込み、総雨量が多いところで1,800ミリを超えるとともに、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位を記録するなど、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。  この大雨について、岐阜県、京都府、兵庫県、岡山県、鳥取県、広島県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県の1府10県に特別警報を発表しました。 ・台風第21号による暴風・高潮等(9月3日~5日)  台風第21号は、9月4日12時前に非常に強い勢力で徳島県南部に上陸した後、同日14時前に兵庫県神戸市付近に再上陸し、速度を上げながら近畿地方を縦断しました。その後、日本海を北上し、5日9時に間宮海峡で温帯低気圧に変わりました。  台風第21号の接近・通過に伴い、西日本から北日本にかけて暴風、高波、大雨となったほか、四国地方や近畿地方では顕著な高潮が発生しました  大阪府田尻町関空島(関西空港)で最大風速46.5メートル、最大瞬間風速58.1メートルとなるなど四国地方や近畿地方で猛烈な風を観測し、観測史上第1位を記録したところがありました。  大阪府大阪市で最高潮位329センチメートルなど、過去の最高潮位を超える潮位を観測したところがありました。 ・台風第24号による暴風・高潮等(9月28日~10月1日)  台風第24号は、9月28日から30日明け方にかけて、非常に強い勢力で沖縄地方に接近した後、北東に向きを変え、急速に加速しながら、30日20時頃に強い勢力で和歌山県田辺市付近に上陸しました。その後、東日本から北日本を縦断し、10月1日9時に日本の東で温帯低気圧に変わりました。  台風第24号の接近・通過に伴い、広い範囲で暴風、大雨、高波、高潮となりました。  鹿児島県奄美市笠利で最大風速40.0メートル、最大瞬間風速52.5メートルとなるなど、南西諸島及び西日本・東日本の太平洋側を中心に猛烈な風を観測し、観測史上第1位を記録したところがありました。  和歌山県串本町で最高潮位254センチメートルなど、過去の最高潮位を超える潮位を観測したところがありました。 3節 平成30年(2018 年)の台風  平成30年(2018年)の台風の発生数は平年より多い29個(平年値25.6個)でした。8月には9個の台風が発生し、台風の統計を開始した1951年以降、8月の発生数としては1960年と1966年の10個に次ぐ3位タイの多さとなりました。また、猛烈な強さ(最大風速54m/s以上)まで発達した台風は7個(第3号、第8号、第21号、第22号、第24号、第25号、第26号)で、台風の最大風速のデータがある1977年以降、1983年の6個を上回る最多記録となりました。  日本への接近数は平年より多い16個(平年値11.4個)でした。上陸数は、平年値2.7個より多い5個(第12号、第15号、第20号、第21号、第24号)でした。 2章 天候、異常気象など 1節 日本の天候  平成30年(2018 年)は、冬は全国的に気温が低く北陸地方中心に大雪となりました。春から夏にかけては東・西日本中心に記録的な高温となり、東日本では年平均気温も記録的に高くなりました。「平成30年7月豪雨」など全国各地で大雨が発生しました。  年平均気温は、東日本でかなり高く、北・西日本と沖縄・奄美で高くなりました。  年降水量は、北日本日本海側、西日本太平洋側でかなり多く、北日本太平洋側、東・西日本日本海側、沖縄・奄美で多くなりました。東日本太平洋側では平年並でした。  年間日照時間は、東・西日本、沖縄・奄美でかなり多くなりました。北日本では平年並でした。 2018 年の各季節の特徴は以下のとおりです。 ① 冬(2017年12月~2018年2月)は、日本付近に強い寒気の流れ込むことが多かったため、全国的に冬の平均気温は低く、特に西日本は平年差-1.2℃と過去32年間で最も低くなりました。北日本から西日本にかけての日本海側では発達した雪雲が日本海から盛んに流れ込み、北陸地方を中心に度々大雪になり、交通障害が発生しました。福井では、最深積雪が147cmに達し、37年ぶりに140cmを超えました。北・東日本太平洋側でも低気圧の影響で大雪になった日がありました。 ② 春(3~5月)は、期間を通して暖かい空気に覆われやすかったため、全国的に春の平均気温はかなり高くなりました。特に東日本は平年差+2.0℃と春としては1946年の統計開始以来最も高くなりました。東日本から沖縄・奄美にかけては、高気圧に覆われ晴れた日が多くなりましたが、北日本から西日本にかけては、低気圧の通過時には南から湿った空気が流れ込み大雨となる日もありました。春の日照時間は、東日本太平洋側と西日本、沖縄・奄美でかなり多くなりました。春の降水量は、北・東日本日本海側でかなり多くなりました。一方、沖縄・奄美ではかなり少なくなりました。 ③ 夏(6~8月)は、7月上旬に本州付近に梅雨前線が停滞し、南から大量の湿った空気が流れ込んだため、西日本中心に数日にわたり記録的な大雨となり、土砂災害や河川の氾濫など甚大な被害が発生しました(「平成30年7月豪雨」)。7月中旬以降は、太平洋高気圧とチベット高気圧の張り出しがともに強まり、多くの地方で梅雨明けがかなり早く、東・西日本中心に晴れて気温が顕著に上昇する日が多くなりました。7月23日には、熊谷(埼玉県)で日最高気温41.1℃を記録して歴代全国1位となりました。東・西日本は夏の平均気温がかなり高く、東日本では平年差+1.7℃と1946年の統計開始以来最も高くなりました。全国の気象官署153地点のうち48 地点で夏の平均気温の高い方から1位の値(タイを含む)を記録しました。一方、北日本日本海側は梅雨前線や秋雨前線の影響で、西日本太平洋側と沖縄・奄美は台風や梅雨前線の影響で記録的な大雨があったため、夏の降水量はかなり多く、沖縄・奄美では1946年の統計開始以来最も多くなりました。 ④ 秋(9~11月)は、日本の東海上で高気圧の勢力が強く、北からの寒気が南下しにくかったため、秋の平均気温は北・東日本で高くなりました。活発な秋雨前線と台風の影響で、秋の降水量は東日本から沖縄・奄美にかけて多くなりました。9月上旬には、台風第21号が非常に強い勢力で徳島県南部に上陸したのち近畿地方を北上しました。9月下旬には、台風第24号が沖縄地方に接近した後、和歌山県田辺市付近に上陸し、西日本から北日本を縦断しました。これらの台風の接近・通過に伴い、広い範囲で暴風、大雨、高潮、高波となりました。 2節 世界の主な異常気象  2017年秋に始まったラニーニャ現象が2018年春まで続きましたが、2018年は1年を通して世界各地で異常高温が発生しました(図中①②⑤⑦⑩⑪⑫⑭⑯⑲㉑㉓㉕㉖)。夏(6~8月)の3か月平均気温は、東日本で1946年以降最も高く、韓国、中国、米国南西部でも、それぞれ統計開始(それぞれ1973年、1961年、1895年)以降最も高くなりました。ヨーロッパ中部から南部では異常高温が発生した月が9か月あり(図中⑭)、北日本から中国北西部、ミクロネシア北西部から東南アジア北西部、中央アジア南部から南アジア南東部、北米南部から中米中部、オーストラリア東部から南部では異常高温が発生した月が6か月以上ある(図中⑤⑦⑩㉑㉖)など、北半球の夏を中心に世界各地で異常高温が発生しました。  ヨーロッパ南部から北アフリカ北西部では1~6月、8~10月に、米国北東部から南部では2月、5月、8~12月に異常多雨となりました(図中⑮⑳)。米国南部、北東部、北中西部の秋(9~11月)の3か月降水量は、1895年以降で1番目、2番目、3番目に多くなりました。一方、ヨーロッパ中部及びその周辺では、2月、5~11月にかけて異常少雨となりました(図中⑬)。  インド各地では6月から9月の大雨により(図中⑨)、合計で1,500人以上が死亡したと伝えられました(インド政府による)。東アフリカ北部から中部では、3月から5月の大雨や5月のトロピカル・ストーム「SAGAR」により(図中⑱)、合計で500人以上が死亡したと伝えられました(ルワンダ政府、欧州委員会、国連人道問題調整事務所による)。  オーストラリア南東部では、1~9月にかけて干ばつとなり(図中㉗)、農業収益への影響は1978年以降でみると2018年は2002~2003年の干ばつと並んで最悪だったと伝えられました(オーストラリア政府による)。ニューサウスウェールズ州の1~9月の総降水量は、同期間としては1900年以降で3番目に少なくなりました(オーストラリア気象局による)。  なお、以上の災害に関する記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)が共同で運用する災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関、国連機関の発表等に基づいています。 3節 世界と日本の平均気温  世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.73℃の割合で上昇しています。平成30年(2018年)の世界の年平均気温の基準値(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均値)からの偏差は+0.31℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降で4番目に高い値となりました。最近4年(平成27年(2015年)~平成30年(2018年))は、すべて歴代4位以内でした。  日本の年平均気温は、長期的には100年あたり1.21℃の割合で上昇しています。平成30年(2018年)の日本の年平均気温の基準値からの偏差は+0.68℃で、統計を開始した明治31年(1898年)以降で6番目に高い値となりました。 4節 大雨・短時間強雨  国内51観測地点における明治34年(1901年)~平成30年(2018年)の118年間の観測値によると、日降水量100ミリ以上及び200ミリ以上の大雨の年間日数は長期的に増加しています。  全国約1,300地点のアメダスによる昭和51年(1976年)~平成30年(2018年)の43年間の観測値によると、1時間降水量(毎正時における前1時間降水量)50 ミリ以上及び80ミリ以上の短時間強雨の年間発生回数は増加しています。1時間降水量50ミリ以上の場合、最近10年間(平成21年(2009年)~平成30年(2018年))の平均年間発生回数(1,300地点あたり約311回)は、統計期間の最初の10年間(昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年))の平均年間発生回数(1,300地点あたり約226回)と比べて約1.4倍に増加しています。ただし、大雨や短時間強雨の発生回数は年々変動が大きく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要です。 5節 大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、化石燃料の消費や森林破壊といった人間活動から生じ、地球温暖化への影響が最も大きな温室効果ガスです。大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は工業化(18世紀後半)以前は280 ppm※程度でしたが、人間活動により増加を続け、平成29年(2017年)には工業化前の1.5倍ほどの405.5 ppmに達しました。世界各地の観測データを緯度20度ごとに平均した二酸化炭素濃度のこれまでの変化を見ると、化石燃料が多く消費されている北半球で南半球より全般的に濃度が高くなっています。また植物の光合成活動などが原因で起こる季節による濃度変動も森林の多い北半球で大きくなっています。 ※ppm(ピーピーエム)は、大気中の分子100万個中にある対象物質の個数を表す単位です。 6節 その他の温室効果ガス  二酸化炭素の他に地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスとして、メタン、一酸化二窒素があります。これらも人間活動に伴い増加しており、大気中の濃度は工業化前の2.6倍、1.2倍にそれぞれ達しています。  また、エアコンや冷蔵庫で空気を冷却するために使われてきたクロロフルオロカーボン類(いわゆるフロン類:CFC-11、CFC-12、CFC-113など)には、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果があります。これらは生産や使用の規制により大気中の濃度が近年減少傾向にあります。一方、フロン類の代わりとして使用されているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC-22など)やハイドロフルオロカーボン類(HFC-134aなど)は、オゾン層を破壊しにくい(あるいは破壊しない)ものの、いずれも強力な温室効果ガスで、これらの大気中の濃度は増加を続けています。 7節 海面水温  平成30年(2018年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)までの30 年平均値からの差)は+0.22℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降では平成28年(2016年)、平成27年(2015年)、平成29年(2017年)に次いで4番目に高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間規模の海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100 年あたり+0.54℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間規模では、1970年代半ばから2000 年前後にかけて顕著な上昇が見られた後、2010年代前半までは停滞していましたが、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)まで3年連続で統計開始以降の最高記録を更新しました。その後平成30年(2018年)までの2年連続の下降には、平成29年(2017年)から平成30年(2018年)にかけて発生したラニーニャ現象も影響したと考えられます。  平成30年(2018年)の日本近海の海面水温は、日本の東や日本の南を中心に平年より高くなりました。1~2月は日本海や東シナ海を中心に平年より低い海域が広くみられましたが、3月には日本の東や日本の南で平年より高くなり、5月には東シナ海南部や沖縄の東、父島近海の広い範囲で平年よりかなり高くなりました。7月には北緯30度から北緯40度の間で平年よりかなり高くなり、9月は日本の東や東シナ海で平年より高くなりました。11~12月には日本周辺海域で平年よりかなり高い海域が広くみられました。紀伊半島の南から東海沖では、黒潮大蛇行の影響で平年よりかなり低い海域がしばしばみられました。三陸沖では、暖水渦の影響で平年より高い海域がみられましたが、12月には下層の冷水により平年より低い海域もみられました。 8節 海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から30年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1~2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成30年(2018年)まででみて、大気中で1年に1.9ppm、表面海水中で1年に1.7ppmの割合で増加しています。表面海水中の二酸化炭素濃度は大気と比べると年々の変動は大きいものの大気中の濃度同様に増加しています。 9節 オホーツク海の海氷  平成30年(2018年)から平成31年のオホーツク海の海氷域面積は、おおむね平年並で推移しました。シーズンの最大海氷域面積は119.74万平方キロメートルで、平年の102%でしたが、海氷域の広がりは平年より東に拡大した分布となりました。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり6.6万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の4.2%に相当)の割合で減少しています。 3章 地震活動 1節 日本及びその周辺の地震活動  平成30年(2018年)に震度5弱以上を観測した地震は11回(平成29年は8回)、震度1以上を観測した地震は2,179回(平成29年は2,025回)でした。国内で被害を伴った地震は4※回(平成29年は5回)でした。日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は17回(平成29年は9回)でした。また、日本で津波を観測した地震は1回でした(平成29年はなし)。  主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 ※平成30年9月6日以降に、北海道胆振地方で発生した一連の地震活動(「平成30年北海道胆振東部地震」)により生じた被害については1回として扱った。 2節 世界の地震活動  平成30年(2018年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は23回でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回でした。最も規模の大きかった地震は、8月19日にフィジー諸島で発生したMw8.2(気象庁による)の地震でした。海外の地震により日本で津波を観測した地震はありませんでした。  主な地震活動は表のとおりです。 4章 火山活動  平成30年(2018年)は、草津白根山(本白根山)、西之島、硫黄島、霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺、新燃岳)、桜島、口永良部島及び諏訪之瀬島の7火山で噴火が発生しました。このうち、口永良部島では、8月15日に噴火警報(居住地域)を発表し、噴火警戒レベルを4に引き上げました。これを含め、平成30年には、火山活動の推移に伴い、8火山に対し噴火警報を計26回発表しました。  平成30年の日本の主な火山活動は以下のとおりです。そのほかの最新の火山活動のとりまとめについては、気象庁ホームページに掲載している火山活動解説資料をご覧ください(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/monthly_vact.php)。 ○雌阿寒岳(北海道)  11月20日からポンマチネシリ火口の浅い所を震源とする火山性地震が増加し、23日には更に増加して振幅の大きな地震も多くなるなど火山活動が高まった状態となったことから、11月23日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。24日以降、火山性地震は減少し、地震活動が低調な状態となるなど、火山活動が静穏時の状態に戻る傾向がみられたことから、12月21日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○十勝岳(北海道)  5月29日以降、62-2火口付近の浅い所を震源とする火山性地震の一時的な増加や火山性微動が時々観測されました。11月22日には、継続時間が約27分間のやや長い火山性微動が発生し、火山性地震の一時的な増加がみられました。 ○秋田駒ヶ岳(岩手県、秋田県)  2月から8月にかけて低周波地震が発生しました。また、4月3日に振幅の小さな火山性微動が発生しました。火山性微動、低周波地震発生前後も含めて、傾斜計など地殻変動データに特段の変化は認められませんでした。女岳の山頂付近の噴気や地熱域に特段の変化は認められませんでした。 ○蔵王山(宮城県、山形県)  1月28日から2月8日にかけて火山性微動が6回発生しました。このうち1月30日14時18分に観測された微動の最大振幅は、平成22年(2010年)9月の観測開始以来最大となりました。また、傾斜計では、1月28日の微動発生に先行して、熊野岳の南方向が隆起する明瞭な地殻変動が観測され、その後も継続したことから、1月30日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。2月4日以降地殻変動に変化はなく、2月9日以降火山性微動は観測されなくなったことから、3月6日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○吾妻山(福島県、山形県)  7月22日に火山性微動が発生し、それ以降、傾斜計で大穴火口方向が隆起する傾斜変動が継続しました。また、9月15日に火山性微動が発生したことから、9月15日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。それ以降も火山性微動は繰り返し発生し、10月から11月にかけては多い状態で経過しました。火山性地震は8月中旬頃から増減を繰り返しながら多い状態で経過しました。GNSS連続観測では、5月頃から大穴火口付近の膨張を示す地殻変動が継続しています。監視カメラによる熱映像データの解析では、10月中旬頃から大穴火口及びその周辺で地熱域の拡大が認められています。3月から10月にかけての上空からの観測(陸上自衛隊東北方面隊の協力による)では、大穴火口北西で地熱域の拡大がみられ、新たな噴気を観測しました。5月から9月にかけての現地調査では、大穴火口北西や大穴火口外北側の地熱域でわずかな拡大がみられました。 ○草津白根山(白根山(湯釜付近))(群馬県)  4月21日から湯釜付近浅部を震源とする火山性地震が増加し、ほぼ同時期から湯釜浅部の膨張を示唆する地殻変動が認められ、湯釜近傍地下の温度上昇を示唆する全磁力変化が観測されたことから、4月22日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、地殻変動は8月下旬頃に概ね停滞し、全磁力変化は7月末頃から停滞しました。地震活動も9月上旬頃から静穏な状態で経過したことから、9月21日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。9月28日に湯釜付近浅部を震源とする火山性地震が再び増加したことから、9月28日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。火山性地震は9月30日以降減少しましたが、増減を繰り返しています。10月はじめ頃から、湯釜浅部の膨張を示唆する地殻変動が再び観測されています。GNSS連続観測では、平成30年(2018年)に入ってから草津白根山の北西もしくは西側深部の膨張を示唆する変化がみられていましたが、10月頃から停滞しています。現地調査や上空からの観測では、引き続き湯釜火口壁北側、水釜火口の北から北東側の斜面に地熱域が認められましたが、地熱域の広がりや温度に顕著な変化は認められませんでした。 ○草津白根山(本白根山)(群馬県)  1月23日10時02分頃に鏡池火口北側の火口列と西側の火口および鏡池火口底の火口列から噴火が発生したことから、23日に火口周辺警報を発表しました。この噴火の前後で、振幅の大きな火山性微動が09時59分から約8分間観測され、傾斜計では10時00分頃から約2分間で本白根山の北側付近が隆起し、その直後の数分間で沈降する変化が観測されました。主な噴出物は傾斜計で沈降が観測された時間帯に放出されたと考えられます。この噴火により、死者1名、重傷3名、軽傷8名の人的被害が生じました(「草津白根山の火山活動の状況等について」(内閣府、平成30年1月24日8時30分現在による))。噴火発生以降、火口付近ごく浅部で火山性地震が多発し、わずかな傾斜変動を伴う振幅の小さな火山性微動が24日と25日に発生しました。地震は徐々に減少し、5月頃からは少ない状態で経過していますが、6月から8月にかけてと10月下旬から12月上旬にかけて発生頻度が高まるなど、地震活動は継続しています。また、逢ノ峰付近でも時々地震が発生しています。現地調査や上空からの観測では、噴火した複数の火口周辺で地熱域等は認められませんでした。 ○浅間山(長野県、群馬県)  火山性地震は6月頃からやや少ない状態となり、浅間山の西側の膨張を示すと考えられる地殻変動も平成30年(2018年)に入ってから停滞しました。また、山頂火口からの噴煙や火山ガス(二酸化硫黄)の放出量も5月頃から少ない状態となったことから、8月30日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○焼岳(長野県、岐阜県)  11月と12月に焼岳の周辺の地震活動が活発化しましたが、地震活動に伴って、噴気活動や浅部の地震活動に変化は認められず、火山活動の活発化はみられませんでした。 ○ベヨネース列岩(東京都)  海上保安庁及び第三管区海上保安本部の観測によると、明神礁付近では、平成29年(2017年)11月を最後に変色水や気泡などは観測されていません。このことから、噴火が発生する可能性は低くなっていると判断し、10月31日に噴火警報(周辺海域)を解除し、噴火予報(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○西之島(東京都)  平成29年(2017年)8月中旬以降噴火が確認されず、火山活動が低下した状態が継続していたことから、6月20日に火口周辺警報(入山危険)を火口周辺警報(火口周辺危険)に引き下げました。7月12日に海上保安庁が上空から実施した観測で、再び噴火が確認され、13日には大きな噴石が火砕丘東側斜面に形成された新たな火口から500メートル程度まで飛散し、火砕丘の山麓部に長さ200メートルの溶岩流を確認したことから、7月13日に火口周辺警報(入山危険)を発表しました。7月下旬以降、噴火は確認されず、気象衛星ひまわりによる観測でも、西之島の地表面温度は周囲と変わらない状態となったことから、10月31日に火口周辺警報(入山危険)を火口周辺警報(火口周辺危険)に引き下げました。 ○硫黄島(東京都)  海上自衛隊硫黄島航空基地が9月12日午前に行った航空機による上空からの観測で、硫黄島南側の沿岸で、海水が海面から5~10メートルの高さまで噴出しているのが確認されました。このことから、海底噴火が発生したと推定されます。 ○阿蘇山(熊本県)  噴煙は白色で概ね500メートル以下で経過し、5月から10月にかけて夜間に火映を観測しました。中岳第一火口の火口底が湯だまりで満たされており、時折、噴湯を確認しました。火山性地震は、3月から5月にかけて一時的に減少しましたが、概ね多い状態で経過しました。微動の振幅は概ね小さな状態で、阿蘇山に特有の孤立型微動は3月以降増加し、4月下旬から6月上旬にかけて一時的に減少しましたが、概ね多い状態で経過しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、概ねやや多い状態で経過しました。 ○霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)(宮崎県、鹿児島県)  2月15日から浅い所を震源とする低周波地震が時々発生し、19日からは火山性地震が増加しました。また、活発な噴気活動や熱異常域の拡大及び温度の高まりが認められるなど、火山活動の高まりがみられたことから、2月20日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。4月19日の15時34分頃より火山性微動が発生し、15時39分頃に硫黄山の南側で噴火が発生しました。この噴火に伴い、噴火地点の周辺100メートル程度まで大きな噴石が飛散しました。このことにより、19日15時55分に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げました。19日21時頃まで周辺で噴気地帯の拡大が認められ、火山灰の噴出は20日06時30分頃まで継続しました。19日、20日に実施した上空からの観測(鹿児島県、九州地方整備局の協力による)では、硫黄山の南側に新たな噴気地帯が形成され、その周辺に火山灰が堆積し、黒灰色の泥水が断続的に噴出し、時折この飛沫が火口内に飛散していることを確認しました。4月26日18時15分頃には硫黄山の西側500メートル付近で一時的に火山灰が含まれる噴煙が上がる程度の噴火が発生しました。この噴火に伴う噴石の飛散は観測されませんでした。今後想定される噴火の規模をもとに、5月1日に噴火警戒レベルを3(入山規制)から2(火口周辺規制)に引き下げました。4月27日以降、噴火は発生していませんが、活発な噴気・熱泥噴出活動が続いています。また、5月下旬頃からは硫黄山の南側で湯だまりを確認し、大きさは拡大・縮小を繰り返しています。火山性地震は、5月下旬以降概ねやや多い状態で経過し、浅い所を震源とする低周波地震は少ないながらも引き続き発生しています。GNSS連続観測では、6月上旬頃から伸びの傾向が継続しています。また、平成30年(2018年)3月中旬以降霧島山を挟む基線が伸びに転じ、鈍化しているものの継続しています。これは霧島山の深い場所でマグマの蓄積が続いていると考えられます。 ○霧島山(新燃岳)(宮崎県、鹿児島県)  3月1日11時頃、平成29年(2017年)10月17日以来となる噴火が発生しました。噴火発生後に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が1日あたり5,500トンと急増したことから、3月1日に、火口周辺警報を切替え、火口から概ね2キロメートルの警戒が必要な範囲を3キロメートルに拡大しました。3月6日には平成23年(2011年)3月1日以来の爆発的噴火が発生し、7日にかけて34回断続的に発生しました。傾斜計で、6日9時頃からえびの岳付近の収縮と考えられる明瞭な変化が認められました。この付近は、平成23年の新燃岳の噴火に関与したマグマだまりがあると推定される領域です。また、火口内に新たな溶岩が蓄積しつつあることが確認され、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は7日に1日あたり34,000トンとさらに急増しました。3月9日には火口の北西側への溶岩の流下が観測されましたが、3月下旬頃にかけて流下速度は次第に遅くなり、4月中旬以降停滞しています。3月10日の爆発的噴火では、大きな噴石が火口の中心から1,800メートルまで飛散しました。今後、さらに噴火活動が活発になる可能性があると判断し、火口周辺警報を切替え、火口から概ね3キロメートルの警戒が必要な範囲を4キロメートルに拡大しました。その後、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が次第に減少し、火口内への溶岩の噴出が9日には概ね停止したとみられ、噴火活動のさらなる活発化が認められなくなったことから、3月15日に、火口周辺警報を切替え、火口から概ね4キロメートルの警戒が必要な範囲を3キロメートルに縮小しました。3月25日の噴火では、火砕流が火口縁から西側へ約400メートル流下しました。4月5日の噴火では、火砕流が火口縁から南東側へ約400メートル流下し、噴煙が火口縁上約8,000メートル上がりました。4月以降も時々噴火が発生しましたが、大きな噴石の飛散は火口から2キロメートル以内に留まりました。傾斜計では、6月以降、山体膨張を示す顕著な変化は観測されず、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量も1日あたり100トン以下で推移したことから、6月28日に噴火警戒レベルを3(入山規制)から2(火口周辺規制)に引き下げました。6月28日以降、噴火は観測されていません。火山性地震は11月中旬以降概ね少ない状態で経過しており、10月24日以降火山性微動は観測されず、火山活動が低下した状態が続いていることから、平成31年(2019年)1月18日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○霧島山(御鉢)(宮崎県、鹿児島県)  火口縁を超える噴煙は認められませんでした。御鉢の南西側が振動源と推定される火山性地震が、2月9日から16日にかけて一時的に増加し、継続時間の短い火山性微動も2回発生したことから、2月9日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、地震は少ない状態で経過し、2月10日以降、火山性微動は観測されなくなったことから、3月15日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○桜島(鹿児島県)  平成30年(2018年)の噴火は479回(平成29年:406回)、このうち爆発的噴火は246回(平成29年:81回)で、昭和火口での噴火は4回と前年(394回)に比べて減少し、爆発的噴火は発生しませんでした(平成29年:77回)。4月2日00時17分の噴火を最後に昭和火口では噴火は発生していません。南岳山頂火口の噴火活動は、3月~9月頃及び11月中旬以降は概ね活発な状態で、6月16日07時19分の爆発的噴火では、多量の噴煙が火口縁上4,700メートルまで上がり、火砕流が南岳山頂火口の南西側へ約1,300メートル流下しました。南岳山頂火口で火砕流を観測したのは平成29年3月25日の噴火で1,100メートル流下して以来でした。7月16日15時38分の噴火では、多量の噴煙が火口縁上4,600メートルまで上がり、大きな噴石が4合目まで達しました(南岳山頂火口の噴火により大きな噴石が4合目まで達したのは、平成24年7月24日の噴火以来)。平成30年の噴火は475回(平成29年:12回)、このうち爆発的噴火は246回と前年(4回)に比べて増加しました。  平成30年の火山性地震は3,811回で、前年(7,295回)に比べ減少しました。火山性微動の継続時間の年合計は約81時間で、前年(約290時間)に比べ減少しました。桜島島内の傾斜計、伸縮計による観測では、顕著な山体隆起を示す変化は認められず、一部の噴火の発生前に山体のわずかな膨張が、発生直後にわずかな収縮が観測されました。GNSS連続観測では、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部の膨張が続いています。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は噴火活動が活発な時期を中心に多く、特に、5月22日の観測では1日あたり6,200トン、12月12日は4,500トンと非常に多い状態となりました。鹿児島県の降灰量観測データをもとに解析した平成30年の総降灰量は、約191万トン(平成29年:約91万トン)でした。これらの活動状況から、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。 ○薩摩硫黄島(鹿児島県)  3月16日に火山性微動が発生し、3月19日には火山性地震が93回と増加したため、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。火山性地震は3月22日にも93回と再び増加しました。その後火山性地震は減少し、火山性微動も観測されなくなったことから、4月27日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○口永良部島(鹿児島県)  8月に入り、火口付近のごく浅い所を震源とする火山性地震や火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が増加していた中で、8月15日に新岳の西側山麓のやや深い場所を震源とする火山性地震が増加しました。地震の規模は最大でマグニチュード1.9(暫定値)とやや大きなものでした。この地震の震源は、平成27年(2015年)5月の噴火前(同年1月)に発生した地震と概ね同じ場所であると推定され、新たなマグマの貫入の可能性を示唆するとともに、今後、火山活動が更に高まる可能性があると判断し、8月15日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から4(避難準備)に引き上げました。8月16日以降、新岳の西側山麓のやや深い場所を震源とする火山性地震は観測されず、火口付近のごく浅い所を震源とする火山性地震や火山ガス(二酸化硫黄)の放出量も減少したことから、8月29日に噴火警戒レベルを4(避難準備)から3(入山規制)に引き下げました。以降、火山性地震は概ね少ない状態で経過していましたが、10月19日から再度増加しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は増減を繰り返しながら不安定な状態となっていました。10月21日に平成27年6月以来となる噴火が発生し、12月13日まで断続的に発生しました。一連の噴火では、噴煙が最高で2,100メートルまで上がりましたが、火砕流や噴石は観測されませんでした。12月18日16時37分に再び噴火が発生し、火砕流が火口から西側へ約1,000メートル流下するとともに、大きな噴石が火口から700メートルまで飛散しました。噴煙は、海抜約5,000メートルに達したことが確認されました。 ○諏訪之瀬島(鹿児島県)  御岳火口では活発な噴火活動が継続し、爆発的噴火は42回(平成29年:32回)でした。3月27日の噴火では噴煙が火口縁上2,200メートルまで上がりました(前年の最高2,800メートル)。概ね年間を通して夜間に火映を観測しました。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、集落で降灰を確認した日数は15日(平成29年:9日)でした。これらの活動状況から、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。 5章 黄砂、紫外線など 1節 黄砂  平成30年(2018年)の国内のいずれかの気象台や測候所で黄砂現象を観測した日数(黄砂観測日数)は11日でした。  日本への黄砂の飛来は、例年3月~5月に集中しています。この時期は、①東アジアの砂漠域のような黄砂の発生源となっている地域で地面を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した地面がむき出しで、砂じんが舞い上がりやすいこと、②大量の砂じんを舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通りやすい季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂の発生源となっている地域が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。  平成30年の月別黄砂観測日数は、4月は平年とほぼ同じでしたが、その他の月は平年を下回りました。 2節 オゾン層・紫外線  上空に存在するオゾンは、フロン等による大規模なオゾン層破壊の影響で、1980年代から1990年代半ばにかけて世界的に大きく減少しました。その後は、国際的なオゾン層保護の取り組みにより、わずかに回復しています。国内でも、つくばなどの地点で地上から上空までのオゾンの総量(オゾン全量)を観測していますが、同様な傾向が見られます。また、南極域では1980年代初め頃から上空のオゾン量が極端に少なくなる南極オゾンホールが観測されています。オゾン層破壊の指標である南極オゾンホールの平成30年(2018年)の面積は、成層圏の気温が例年より低かったため最近10年間の平均よりも大きくなりましたが、平成12年(2000年)前後の顕著に大きかった規模には拡大しませんでした。  紫外線の人体への影響度を示す紅斑(こうはん)紫外線量は、国内では観測を開始した1990年代初めから緩やかに増加しています。一般に、上空のオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線は増加しますが、この期間、国内ではオゾン量は減少していません。大気中の微粒子が減少して紫外線が地上に到達しやすかったこと、雲が少ない天候が多かったことなどが紅斑紫外線量の増加の原因と考えられています。 コラム ■南極オゾンホールの回復傾向  大気中のオゾン層破壊物質の濃度と南極の気象状況が、オゾンホールの規模に影響を与えます。オゾン層破壊物質は、生産規制等の効果により、世界的に1990年代半ば以降緩やかに減少しています。一方で、南極の気象状況は年々変動が大きいため、オゾンホールの年々変動も大きく、これまで回復傾向については述べることができませんでした。  しかし、平成30年(2018年)は、南極上空の成層圏(50hPa(高度約20キロメートル付近))の気温が低く、オゾン破壊を促進させる極域成層圏雲が発達しやすい気象状況であったにもかかわらず、平成12年(2000年)前後の顕著に大きかった期間ほどの規模にはオゾンホールは拡大しませんでした。また、オゾンホールの年最大面積の変化傾向を見ると、平成12年以降は統計的に有意な縮小傾向を示しています。これらのことを総合すると、南極オゾンホールは回復傾向にあると考えられます。  一方、大気中のオゾン層破壊物質の濃度は減少しているものの依然として高く、またオゾンホールの規模は大きい状態にあります。そのため、今後も監視を継続していくことが重要です。 3節 日射と赤外放射  気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。  世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、その後、2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。  日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。 全国気象官署等一覧 (平成31年4月1日現在) 気象官署名 郵便番号 所在地等 電話番号 気象庁 100-8122 千代田区大手町1-3-4 03-3212-8341 気象研究所 305-0052 つくば市長峰1-1 029-853-8552 気象衛星センター 204-0012 清瀬市中清戸3-235 042-493-1111 高層気象台 305-0052 つくば市長峰1-2 029-851-4125 地磁気観測所 315-0116 石岡市柿岡595 0299-43-1151 気象大学校 277-0852 柏市旭町7-4-81 04-7144-7185 札幌管区気象台 060-0002 札幌市中央区北2条西18-2 011-611-6127 函館地方気象台 041-0806 函館市美原3-4-4 0138-46-2214 旭川地方気象台 078-8391 旭川市宮前1条3-3-15 旭川合同庁舎 0166-32-7101 室蘭地方気象台 051-0012 室蘭市山手町2-6-8 0143-22-2598 釧路地方気象台 085-8586 釧路市幸町10-3 釧路地方合同庁舎 0154-31-5145 網走地方気象台 093-0031 網走市台町2-1-6 0152-44-6891 稚内地方気象台 097-0023 稚内市開運2-2-1 稚内港湾合同庁舎 0162-23-6016 仙台管区気象台 983-0842 仙台市宮城野区五輪1-3-15 仙台第3合同庁舎 022-297-8100 青森地方気象台 030-0966 青森市花園1-17-19 017-741-7412 盛岡地方気象台 020-0821 盛岡市山王町7-60 019-622-7869 秋田地方気象台 010-0951 秋田市山王7-1-4 秋田第2合同庁舎 018-824-0376 山形地方気象台 990-0041 山形市緑町1-5-77 023-624-1946 福島地方気象台 960-8018 福島市松木町1-9 024-534-6724 東京管区気象台 100-0004 千代田区大手町1-3-4 03-3212-8341 水戸地方気象台 310-0066 水戸市金町1-4-6 029-224-1107 宇都宮地方気象台 320-0845 宇都宮市明保野町1-4 宇都宮第2地方合同庁舎 028-633-2766 前橋地方気象台 371-0026 前橋市大手町2-3-1 前橋地方合同庁舎 027-896-1190 熊谷地方気象台 360-0814 熊谷市桜町1-6-10 048-521-7911 銚子地方気象台 288-0001 銚子市川口町2-6431 銚子港湾合同庁舎 0479-22-0374 横浜地方気象台 231-0862 横浜市中区山手町99 045-621-1563 新潟地方気象台 950-0954 新潟市中央区美咲町1-2-1 新潟美咲合同庁舎2号館 025-281-5873 富山地方気象台 930-0892 富山市石坂2415 076-432-2332 金沢地方気象台 920-0024 金沢市西念3-4-1 金沢駅西合同庁舎 076-260-1461 福井地方気象台 910-0857 福井市豊島2-5-2 0776-24-0096 甲府地方気象台 400-0035 甲府市飯田4-7-29 055-222-3634 長野地方気象台 380-0801 長野市箱清水1-8-18 026-232-2738 岐阜地方気象台 500-8484 岐阜市加納二之丸6 058-271-4109 静岡地方気象台 422-8006 静岡市駿河区曲金2-1-5 054-286-6919 名古屋地方気象台 464-0039 名古屋市千種区日和町2-18 052-751-5577 津地方気象台 514-0002 津市島崎町327-2 津第2地方合同庁舎 059-228-4745 成田航空地方気象台 282-0004 成田市古込字込前133 成田国際空港管理ビル内 0476-32-6550 東京航空地方気象台 144-0041 大田区羽田空港3-3-1 03-5757-9674 中部航空地方気象台 479-0881 常滑市セントレア1-1 0569-38-0001 大阪管区気象台 540-0008 大阪市中央区大手前4-1-76 大阪合同庁舎 第4号館 06-6949-6300 彦根地方気象台 522-0068 彦根市城町2-5-25 0749-23-2582 京都地方気象台 604-8482 京都市中京区西ノ京笠殿町38 075-823-4302 神戸地方気象台 651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-4-3 神戸防災合同庁舎 078-222-8901 奈良地方気象台 630-8307 奈良市西紀寺町12-1 0742-22-4445 和歌山地方気象台 640-8230 和歌山市男野芝丁4 073-432-0632 鳥取地方気象台 680-0842 鳥取市吉方109 鳥取第3地方合同庁舎 0857-29-1312 松江地方気象台 690-0017 松江市西津田7-1-11 0852-21-3794 岡山地方気象台 700-0984 岡山市北区桑田町1-36 岡山地方合同庁舎 086-223-1721 広島地方気象台 730-0012 広島市中区上八丁堀6-30 広島合同庁舎 4号館 082-223-3950 徳島地方気象台 770-0864 徳島市大和町2-3-36 088-622-2265 高松地方気象台 760-0019 高松市サンポート3-33 高松サンポート合同庁舎 南館 087-826-6121 松山地方気象台 790-0873 松山市北持田町102 089-941-6293 高知地方気象台 780-0870 高知市本町4-3-41 高知地方合同庁舎 088-822-8883 関西航空地方気象台 549-0011 大阪府泉南郡田尻町泉州空港中1番地 072-455-1250 福岡管区気象台 810-0052 福岡市中央区大濠1-2-36 092-725-3601 下関地方気象台 750-0025 下関市竹崎町4-6-1 下関地方合同庁舎 083-234-4005 佐賀地方気象台 840-0801 佐賀市駅前中央3-3-20 佐賀第2合同庁舎 0952-32-7025 長崎地方気象台 850-0931 長崎市南山手町11-51 095-811-4863 熊本地方気象台 860-0047 熊本市西区春日2-10-1 熊本地方合同庁舎 096-352-7740 大分地方気象台 870-0023 大分市長浜町3-1-38 097-532-0667 宮崎地方気象台 880-0032 宮崎市霧島5-1-4 0985-25-4033 鹿児島地方気象台 890-0068 鹿児島市東郡元町4-1 鹿児島第2地方合同庁舎 099-250-9911 福岡航空地方気象台 812-0005 福岡市博多区大字上臼井字屋敷295 福岡空港統合庁舎 092-621-3945 沖縄気象台 900-8517 那覇市樋川1-15-15 那覇第1地方合同庁舎 098-833-4281 宮古島地方気象台 906-0013 宮古島市平良字下里1020-7 0980-72-3050 石垣島地方気象台 907-0004 石垣市字登野城428 0980-82-2155 南大東島地方気象台 901-3805 沖縄県島尻郡南大東村字在所306 09802-2-2535 用語集 C COSMETS(Computer System for Meteorological Services)  気象資料総合処理システム。国内外の気象などの観測データを集信し、大気の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理をするための気象情報伝送処理システム(アデス)と、解析・予測をするためのスーパーコンピュータシステムから構成されている。 E EPOS(Earthquake Phenomena Observation System)  地震活動等総合監視システム。気象庁本庁及び大阪管区気象台において日本全国における地震や津波の観測データをリアルタイムで監視し、緊急地震速報、津波警報・注意報、南海トラフ地震に関連する情報や地震・津波に関する情報等を防災機関、報道機関等に迅速に発表するシステム。気象庁本庁では、東海・南関東地域の地殻変動観測データの監視も行っている。 G GFCS(Global Framework for Climate Services)  気候サービスのための世界的枠組み。気候変動への適応策をはじめとするあらゆるレベルの政策や意思決定に気候情報を活用し社会が気候リスク(気候によって影響を受ける可能性)を適切に管理し対応できるようにすることを目指す枠組み。世界気象機関(WMO)等が推進している。 GISC(Global Information System Centre)  全球情報システムセンター。WMO 情報システム(WIS)において世界の気象通信網の中核をなし、気象に関する各種データの交換や資料の管理を行う。気象庁はWMO からの指名を受け、世界に先駆けて平成23年8月から運用を開始した。 GNSS(Global Navigation Satellite System(s))  GPS(全地球測位システム)をはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称。人工衛星を用いて位置を決定するシステムで、一般にはカーナビゲーションシステムへの利用でなじみ深い。高い精度での位置決定が可能な GNSS を用いることにより、地震あるいは火山現象などに伴う地殻変動の観測やラジオゾンデによる高層観測に利用している。また、大気中の水蒸気により電波の遅延が生じることを利用して、このシステムから得られる水蒸気に関する情報を数値予報に活用している。 GTS(Global Telecommunication System)  全球通信システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、気象資料の国際的な交換、配信を行うために構築された全世界的な気象通信ネットワーク。 I ICAO(International Civil Aviation Organization)  国際民間航空機関。昭和19年(1944年)の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づいて設立された、民間航空に関する国際連合の専門機関の一つ。 IOC(Intergovernmental Oceanographic Commission)  政府間海洋学委員会。昭和35年(1960年)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)内に設立された機関。海洋と沿岸域の性質と資源に関する知識を深め、その知識を加盟国における海洋環境の管理と持続可能な開発、保護及び政策決定プロセスに適用するために、国際協力を推進し、関連の研究やサービス及び能力開発のプログラムを調整している。 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)  気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により、昭和63年(1988年)に設立された。各国の科学者や専門家で組織され、気候変動の(1)自然科学的根拠、(2)脆弱性・影響・適応策、(3)緩和策の評価を行い、報告書をとりまとめている。その報告書の内容は、地球温暖化に関する条約交渉の際などに、共通認識の情報として取り扱われている。 J JETT(JMA Emergency Task Team)  → 気象庁防災対応支援チーム(JETT:JMA Emergency Task Team)参照 L LIDEN(Lightning Detection Network System)  雷監視システム。雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステム。 N NEAR-GOOS (North-East Asian Regional Global Ocean Observing System)  北東アジア地域海洋観測システム。全球海洋観測システム(GOOS)の北東アジア地域プロジェクトであり、参加各国が行った海洋観測のデータなどを即時的に国際交換するためのデータベースを運用している。日本、中国、韓国、ロシアが参加している。  GOOS は全世界の海洋の環境や変動を監視してその予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際的な計画であり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)、世界気象機関(WMO)などが共同で推進している。 P PLUM 法(Propagation of Local Undamped Motion 法)  緊急地震速報の震度予測に用いる手法のひとつ。震源の位置や規模の推定を行わず、観測された揺れの強さから直接、予測地点の震度を推定する。「予測地点の付近の地震計で強い揺れが観測されると、その予測地点も同じように強く揺れる」という考え方に従っている。 W WMO(World Meteorological Organization  世界気象機関。世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25年(1950年)に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26年(1951年)に国際連合の専門機関となった。平成31年(2019年)4月1日現在、186か国と6領域が構成員として加盟している(日本は昭和28年(1953年)に加盟)。事務局本部はスイスのジュネーブに置かれている。 ア アデス  気象庁本庁及び大阪管区気象台に設置された気象情報伝送処理システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理を行っている。 アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)  全国約1,300か所に設置した無人の観測所で、気温や降水量などを自動的に観測するシステム。アメダスはこのシステム(地域気象観測システム)の英語名の頭字語である。 アルゴ計画  世界気象機関(WMO)及び国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)などの協力の下、国際的な枠組みにより、世界の海洋を常時観測するシステムとして中層フロート(チの項を参照)を全世界の海洋に投入して(平成31年4月現在、約3900台)、気候に大きく影響する海洋の状況をリアルタイムに把握することを目的として実施されている。アルゴとは、ギリシャ神話に出てくる船の名前(Argo)にちなんだもの。 アンサンブル手法  初期値に含まれる誤差や数値予報モデルが完全ではないことにより生じる、予測結果の不確実性に関する情報を、多数の予測計算から抽出する方法。初期値の誤差を考慮する手法を「初期値アンサンブル手法」、数値予報モデルの不完全性を考慮する手法を「モデルアンサンブル手法」と呼ぶ。気象庁では初期値アンサンブル手法とモデルアンサンブル手法の両方を用いている。 イ 異常潮位  高潮や津波とは異なり、比較的長期間(1週間から3か月程度)継続して、潮位が平常より数十センチメートル程度高く(もしくは低く)なる現象。原因は、気圧配置・海水温・海流の変動など多岐にわたり、これらが複合して発生すると考えられている。 ウ ウィンドシアー(wind shear)  大気中の2地点で風の強さや向きが異なる状態のことで、風の空間的な急変域をいう。航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要とされている。 ウィンドプロファイラ(wind profiler)  電波を地上から上空に向けて発射し、主に乱流に起因する空気屈折率の不均一によって後方に散乱された電波を受信し、処理することにより、観測点上空の風向・風速を測定するレーダー。 エ エーロゾル(aerosol)  大気中に浮遊している固体あるいは液体の微粒子。地表や海洋から舞い上がるものや、工業活動によって排出される煤煙などがある。太陽光の吸収・散乱や雲の生成などに影響する。 エルニーニョ現象  太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象で、数年おきに発生する。ひとたびエルニーニョ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。 オ オゾンホール(ozone hole)  フロンガスなどのオゾン層破壊物質の排出により、1980年代初めから南極域で春季にあたる9、10月頃を中心に成層圏のオゾン量の顕著な減少が観測されるようになり、この現象は、南極大陸を中心にオゾン層に穴のあいたような状態となることからオゾンホールと呼ばれている。 温室効果ガス  地表面から放出される赤外線を吸収して大気を暖める効果(温室効果)をもつ気体(ガス)の総称。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがある。このうち、水蒸気を除くガスは人間活動に伴って増加しており、地球温暖化の原因物質として知られている。 カ 解析雨量  アメダスや自治体等の雨量計による正確な雨量観測と気象レーダーによる広範囲にわたる面的な雨の分布・強さの観測とのそれぞれの長所を組み合わせて、より精度が高い、面的な雨量を1キロメートル格子で解析したもの。 海洋の酸性化(海洋酸性化)  大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収することにより、海洋の水素イオン濃度指数(pH)が長期間にわたって低下する現象。現在の海水は弱アルカリ性(海面においてはpH 約8.1)を示しているが、二酸化炭素は水に溶けると酸性としての性質を示し、pH を低下させる。大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けていることから、海洋はさらに多くの二酸化炭素を吸収することになるため、より酸性側になることが懸念されている。 海流  海洋のほぼ決まった場所をほぼ定常的に流れる大規模な流れ。代表的なものに日本の南岸を流れる黒潮や北大西洋のメキシコ湾流がある。 火映  高温の溶岩や火山ガス等が火口内や火道上部にある場合に、火口上の雲や噴煙が明るく照らされる現象のこと。一般的には夜間に観察される。 火砕流  噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象のこと。火砕流の速度は時速数百キロメートル以上、温度は数百℃に達することもあり、破壊力が大きく、重要な災害要因となりえる。 火山ガス  火山活動により地表に噴出する高温のガスのこと。噴火によって溶岩や破片状の固体物質などの火山噴出物と一体となって噴出するものを含む。「噴気」ともいう。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分とする。火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒等を発生する可能性がある。 火山性微動  火山体またはその周辺で発生する火山性地震よりも継続時間の長いもの。振動の始まりと終わりがはっきりしない。地下のマグマや火山ガス、熱水などの流体の移動や振動が原因と考えられるものや、微小な地震が続けて発生したことによると考えられるものがある。火山活動が活発化した時や火山が噴火した際に多く観測される。 火山噴火予知連絡会  火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年に設置された。この連絡会は、学識経験者及び関係機関の専門家から構成されており、気象庁が事務局を担当している。 火山礫(れき)  噴火によって噴出される噴石や火山灰などの固形状の物質は大きさによって分類されており、そのうちの一つ。直径が2~ 64ミリメートルのものを指す。なお、直径が64ミリメートルより大きいものを「火山岩塊」、2ミリメートルより小さいものを「火山灰」と呼んでいる。 活火山  概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山(火山噴火予知連絡会によって、平成15年(2003年)に定義)のこと。日本には111の活火山がある。 キ 気候モデル  気候を形成する大気、海洋、陸面などの諸因子を数値モデル化し(それぞれ大気大循環モデル、海洋大循環モデル、陸面モデルという)、これらを組み合わせコンピュータで計算して気候を予測する数値予報モデル。 気象庁防災対応支援チーム(JETT:JMA Emergency Task Team)  近年相次ぐ災害をふまえて、地方公共団体の防災対応への支援を強化すべく、気象庁が平成30年5月に創設したチーム。災害が発生した場合または災害の発生が予想される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等へ気象庁職員を派遣し、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえ、防災気象情報等の「読み解き」の支援や市町村長が避難勧告等を行う際の助言等、地方公共団体や各関係機関(自衛隊、警察、消防等)の防災対応を支援する。なお、気象庁防災対応支援チームは国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の一員である。 気象防災アドバイザー  地方公共団体の防災の現場で即戦力となる人材の育成を目的に気象庁が開催した「気象防災アドバイザー育成研修」を受講した気象防災の専門家。 気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC:Weather Business Consortium)  産業界における気象データの利活用を一層推進するとともに、IoT・AI 技術を駆使し、気象データを高度利用した我が国における産業活動を創出・活性化するため、平成29年3月7日に産学官連携で設立された。事務局は気象庁が担っている。 緊急地震速報  地震波は主に2種類の波があり、速いスピード(毎秒約7キロメートル)で伝わる波をP波、伝わるスピードは遅い(毎秒約4キロメートル)が揺れは強い波をS波という。緊急地震速報は、P波とS波の伝わる速度の差を利用して、震源に近いところにある地震計がP波を検知すると、震源の位置や地震の規模、震度等を瞬時に計算して予想し、S波が伝わってくる前に強い揺れが来ることをお知らせするもの。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨あわせてお知らせする。 ク 空振  噴火などによって周囲の空気が振動して衝撃波となって大気中に伝播する現象のこと。空振が通過する際に建物の窓や壁を揺らし、時には窓ガラスが破損することもある。火口から離れるに従って減速し音波となるが、瞬間的な低周波音であるため人間の耳で直接聞くことは難しい。 クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons)  塩素、フッ素、炭素からなる化合物で、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果がある。代表的なものとして CFC-11、CFC-12などがある。フロン類ともいう。 ケ 傾斜計  地盤の傾斜を精密に計測する機器のこと。火山体直下へのマグマの貫入等により山体の傾斜変化が観測されることがある。 コ 黄砂  アジア域の砂漠地帯(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠)や黄土高原などから舞い上げられた砂塵が、上空の強い風によって東方へ輸送され、徐々に降下する現象。日本における黄砂現象は、春先から初夏にかけて観測されることが多く、空が黄褐色に煙ることにより、一般にもよく知られた現象である。現象が著しいときは、視程の悪化により交通機関へ影響を与える場合がある。 シ 地震計  地震動を計測する機器。複数の観測点における、地震波が到達した時刻や地震波の振幅などから、地震の発生場所、深さ、規模(マグニチュード)が推定できる。 地震動  地震波が地表に到達したときの地面の揺れ。 地震波  地下で生じる岩盤の破壊は、ある面(断層)を境に互いがずれるように起こる。これを断層運動といい、それに伴い地震波が生じる。地震波は、地球の内部を伝わる縦波(P波)と横波(S波)、地球の表面に沿って伝わる波(表面波)に大別できる。 震源  断層運動の際に、岩石の破壊(ずれ)が始まり地震波を発生させた最初の地点。震源域は、断層運動により地震波を発生させた領域全体を指し、断層運動によって生じた岩石の破壊面とほぼ同じである。震源域の長さ(差し渡し)は、マグニチュード7の地震で数十キロメートル程度、マグニチュード8では100キロメートルを超えることがある。 震度  地震動の強さを表す尺度であり、地表での揺れの程度を意味する。震度は揺れの強い方から「7」、「6強」、「6弱」、「5強」、「5弱」、「4」、「3」、「2」、「1」、「0」の10段階の階級で表現する。一般に、地震の震源域に近い場所ほど震度は大きく、またマグニチュードが大きい地震のときほど、各地の震度は大きくなる。 震度計  地震動を計測し、観測地点における震度(計測震度)を自動的に算出する機器。計測震度の算出には、計測した地震動の加速度の振幅や周期等を用いる。 深部低周波地震(微動)  深さ約30~ 40キロメートルで発生する、周波数の低い(周期の長い)波が卓越する地震のことを言う(P波やS波が明瞭でなく震動が継続するものは「深部低周波微動」と呼ばれる)。長野県南部~日向灘にかけてのプレート境界では、深部低周波地震(微動)が見られる。 ス スーパーコンピュータシステム  数値予報モデル等による解析・予測および静止気象衛星(ひまわり)に代表される衛星データ処理に用いるスーパーコンピュータを中核としたシステム。 数値予報  物理の法則に基づき、将来の気温、気圧、風などの大気や海洋の状態を数値として予測する技術。この計算には、膨大な演算処理が必要であるため、スーパーコンピュータが使われる。計算に用いられるプログラムを数値予報モデルと呼ぶ。 セ 静止気象衛星  赤道上空約35,800キロメートルの高さにあって、地球の自転と同一周期で地球を周回しながら、常に地球上の同じ場所の気象観測を行う衛星。我が国の「ひまわり」のほか、米国のGOES、欧州のMETEOSAT などが運用されている。 静止気象衛星「ひまわり」(Himawari)  気象庁の運用する静止気象衛星「ひまわり」8号及び9号を指す。従来の「ひまわり」という和名の愛称を受け継ぎ、8号及び9号から英名も「Himawari-8」「Himawari-9」とした。「ひまわり」8号及び9号の気象観測機能は、「ひまわり」6号及び7号と比べ、画像分解能が向上、観測間隔が短縮、画像の種類が増加し、防災のための監視機能を強化すると共に、気候変動や地球環境の監視機能も強化する。8号を平成26年(2014年)に、9号を平成28年(2016年)に打ち上げ、2機あわせて15年間の観測を行う。 成層圏  対流圏と中間圏の間にある大気圏。昭和36年(1961年)に世界気象機関(WMO)は、「対流圏界面(高さ6~ 18キロメートル)と成層圏界面(50~ 55キロメートル)との間にあり、一般に気温が高さとともに高くなる領域」と定義した。 世界気象機関  → WMO(World Meteorological Organization)参照 全磁力  地磁気の強さのこと。岩石磁気(磁性)は、温度や応力によって変化するため、地下の岩石の温度や応力状態の変動に伴って地上の全磁力が変化する場合がある。日本付近の火山では火口直下で温度が上昇すると、全磁力値が火口の北側で増加し、南側で減少する。 タ 台風  北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のもの。 高潮  台風や発達した低気圧などに伴う気圧降下による海面の吸い上げ効果と風による海水の吹き寄せ効果のため、海面が異常に上昇する現象。 竜巻  積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きで、漏斗状または柱状の雲や、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴うことがある。地上では、収束性や回転性を持つ突風や気圧降下が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。 チ 地磁気永年変化  主に地球内部の鉄やニッケルの対流の変化によって生じる数年から数十年以上の時間スケールでの緩やかな地磁気の変化。数万年から数十万年ごとに地磁気の南北が逆転している。 中層フロート(アルゴフロート)  海面から深さ2,000メートルまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測し、そのデータを人工衛星経由にて通報する観測機器。アルゴ計画(アの項を参照)において主要な観測機器として用いられている。中層フロートから通報されたデータは、直ちに気象データ交換のための全球通信システム(GTS)を通じて国際的に交換され、海水温予測やエルニーニョ現象の監視・予測などの気象・海洋業務に利用されている。 潮位  基準面から測った海面の高さで、波浪など短周期の変動を除去したもの。 長周期地震動  大きな地震が発生したときに生じる、周期が長い揺れ。長周期地震動により、高層ビルは大きく長時間揺れ続ける。また、長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、地震が発生した場所から数百キロメートル 離れたところでも大きく長く揺れることがある。長周期地震動による大きな揺れにより、家具類が倒れたり・落ちたりする危険に加え、大きく移動したりする危険がある。 長周期地震動階級  長周期地震動の揺れの大きさの指標で、高層ビルの高層階における人の行動の困難さの程度や家具類等の移動・転倒などの被害の程度から区分したもの。揺れの大きい方から「階級4」、「階級3」、「階級2」、「階級1」の4段階で表現する。 ツ 津波  海底下の浅いところで大きな地震が起きると、海底が持ち上がったり下がったりする。その結果、周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に急激に持ち上がったり下がったりし、それにより発生した海面の変動が波として周囲に広がっていく現象。津波が陸地に近づき水深が浅くなると、速度は遅くなるとともに、津波の高さは急速に高くなる。 テ データ同化技術  気象台などが行う地上気象観測や高層気象観測のように、ある決まった時刻に行われる観測に加えて、衛星観測のように特に観測時刻が定まっていない観測など、様々な観測データを数値予報の「初期値」(予測計算を開始する時刻の気温や風速などの大気の状態を表す物理的な数値)として活用するための手法。 ト 東海地震  過去の大規模な地震の発生間隔などから、駿河湾から静岡県の内陸部のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、いつ発生してもおかしくないと考えられているマグニチュード8クラスの海溝型地震。日本で唯一、防災対策に結びつけられる短期直前予知の可能性があるとされてきた。ただし、現在の科学的知見によれば、東海地震についても、地震の発生を確度高く予測することは困難であると考えられている。 ナ 南海トラフ地震  駿河湾から日向灘沖にかけての南海トラフ沿いのプレート境界を震源域として発生する大規模な地震。概ね100~ 150年間隔で繰り返し発生しており、昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年)が起きてから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきていると考えられている。発生する地震の震源域には多様性があると考えられており、従来想定されてきた東海地震の震源域も含まれる。 南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会  気象庁が南海トラフ全域を対象として地震発生の可能性を評価するにあたって、有識者から助言いただくために開催する。学識経験者(現在は6名)から構成され、異常な現象を観測した際に開催する臨時の会合と、毎月開催する定例の会合がある。 ネ 熱帯低気圧  熱帯または亜熱帯地方に発生する低気圧の総称。低気圧域内の最大風速がおよそ毎秒17メートル未満で台風に満たないものを指すこともある。 ハ ハザードマップ(hazard map)  ある災害に対する危険な地区が記入されている地図。火山噴火、地すべり、山崩れ、洪水、高潮、土石流、なだれなどの現象に対して、それぞれ作成されている。 波浪  海面の波のうち、風によって引き起こされるものの総称。その場所で吹いている風によって起った「風浪」と、他の場所で風によって生じた波がその場所まで伝わって来た「うねり」がある。 ヒ ひずみ計  地下の岩盤の伸び・縮みを非常に高感度で観測する装置。気象庁では、南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まったと評価されるようなプレート間の固着状態の変化を示唆する地殻変動を捉えることを目的として、地下数百メートル程度の深さに円筒形のセンサーを埋設し、周囲の岩盤から受ける力によって変形する様子を極めて高い精度で検出し、監視している。センサーには、変形による体積の変化を測定する体積ひずみ計と、水平面内の方位ごとの変形の量も測定できる多成分ひずみ計がある。 ヒートアイランド現象(heat island phenomenon)  人工的な熱の排出や、人工的な地表面及び建築物の増加により、都市の気温が周囲よりも高い状態になる現象。等温線が都市を丸く取り囲んで、気温分布が島のような形になることから、このように呼ばれる。 フ プレート  地球表面を覆う厚さ数10キロメートルから100キロメートル程度の固い岩石の層。地球表面は大小合わせて十数枚のプレートで覆われており、日本周辺は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの4枚のプレートが接する境界に位置している。 噴火警戒レベル  火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)」と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標のこと。噴火警報、噴火予報に付して発表する。各火山の地元都道府県等が設置する火山防災協議会で検討を行い、噴火警戒レベルに応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の地域防災計画に定められた火山で運用を開始する。 噴火警報  噴火に関する重大な災害の起るおそれのある旨を警告して行う予報のこと。生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生が予想される場合やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に火山名、警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)等を明示して発表する。噴火警戒レベルを運用している火山では、噴火警戒レベルを付して発表する。 噴火速報  登山者や周辺の住民に対して、噴火の発生を知らせる情報のこと。火山が噴火したことを端的にいち早く伝え、身を守る行動を取っていただくために発表する。 噴石  気象庁では、噴火によって火口から吹き飛ばされる防災上警戒・注意すべき大きさの岩石を噴石と呼んでいる。火山に関する情報では、防災上の観点から、「大きな噴石」および「小さな噴石」に区分して使用している。 マ マイクロバースト  積乱雲等の冷たく重い空気の塊が上空から降りて地表付近で弾けるように発散する現象。強い低層ウィンドシアーを起こす現象の一つであり、航空機の離着陸に大きな影響を与える。周囲への吹き出しが4キロメートル未満のものをマイクロバースト、4キロメートル以上のものをマクロバーストとも呼ぶ。 マグニチュード(magnitude)  地震(断層運動)の規模の尺度。一般に M という記号で表され、観測された地震波をもとに算出される。Mの値が1大きくなると地震のエネルギーは約 30倍になる。 ミ 民間気象業務支援センター  気象庁は、予報業務許可事業者その他民間における気象業務の健全な発達を支援し及び産業、交通その他の社会活動における気象情報の利用促進を図るため、「民間気象業務支援センター」を指定できることになっている。現在、(一財)気象業務支援センターが気象庁長官よりその指定を受けている。 ユ 有害紫外線  紫外線の中でも特に、波長280~ 315ナノメートル*の紫外線(B 領域紫外線、UV-B)は、オゾンによる吸収が大きいことからオゾン層の破壊の影響を最も強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、一般に有害紫外線と呼ばれている。オゾン層破壊に伴い、地上に到達する有害紫外線量の増加による皮膚がん、白内障など健康被害の増加が懸念されている。 *:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1(10億分の1メートル) ヨ 4次元変分法  数値予報モデルが短時間(例えば3時間程度)に予測する、風、気温、降水量などの様々な物理量と、地上の様々な場所や時刻に実際に観測される物理量との差が最小になるようにするデータ同化技術。空間(3次元)の観測値の分布に加えて、時間的な分布も考慮されることから 4次元と称される。 ラ ライダー(lidar : Light Detection and Ranging)、ドップラーライダー  レーザー光の短いパルスを大気中に発射し、雲、エーロゾル、大気分子からの散乱光を受信することによりそれらの濃度の高度分布を遠隔測定する装置のことをいう。レーザーレーダーとも呼ばれる。また、ドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えた装置をドップラーライダーという。 ラジオゾンデ(radiosonde)  センサーと無線発信器を一体とした気象測器のこと。水素又はヘリウムを詰めた気球に吊して上空に飛揚し、気圧・気温・湿度・風など大気の状態の測定に使用する。 ラニーニャ現象  エルニーニョ現象(エの項を参照)とは逆に、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低くなり、その状態が1年程度続く現象で、数年おきに発生する。ひとたびラニーニャ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。 レ レーダー(radar:Radio Detection and Ranging)、ドップラーレーダー、二重偏波気象レーダー  パルス状の電波を大気中に発射し、雨粒や雪からの反射波を受信することにより降水の水平分布や高度などを遠隔測定する装置のことをいう。また、降水の分布や強さなどの観測に加え、電波のドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えたレーダーをドップラーレーダーという。さらに、水平方向と垂直方向に振動する電波(水平偏波、垂直偏波という。)を用いることで、雲の中の降水粒子の種別判別や高精度な降水の強さの推定が可能なレーダーを二重偏波気象レーダーという。 「気象業務はいま2019」の利用について    「気象業務はいま2019」に掲載されている図表・写真・文章(以下「資料」といいます。)は、第三者の出典が表示されているものを除き、資料の複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用できます。ただし、以下に示す条件に従っていただく必要があります。 利用の際は、出典を記載してください。 (出典記載例) 出典:気象庁「気象業務はいま2019」より 資料を編集・加工等して利用する場合は、上記出典とは別に、編集・加工等を行ったことを掲載してください。また編集・加工した情報を、あたかも気象庁が作成したかのような様態で公表・利用することは禁止します。 (資料を編集・加工等して利用する場合の記載例) 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