気象業務はいま 2014 は じ め に  気象庁は、重大な災害の危険性が著しく高まっている場合に、新たに「特別警報」を発表し、最大限の警戒を呼び掛けることとし、この運用を平成25年8月30日に開始しました。  この1年も多くの自然災害が発生し、夏を中心とした高温や渇水、さらに大雨の頻発など、極端な天候になりました。特に、平成25年7月から8月にかけては、山陰地方や東北地方で特別警報に相当する大雨を3回記録し、9月には台風第18号の大雨で「特別警報」を初めて発表しました。さらに、10月には台風第26号の大雨により伊豆大島で大規模な土砂災害が発生し、多くの人命が失われました。また、関東地方をはじめ各地で、竜巻等による突風被害が発生しました。  これらの災害により犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、多くの被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。  今回の特集は「特別警報の開始と新たな気象防災」とし、特別警報について説明するとともに、その発表事例や平成25年11月に実施した防災気象情報の認知度調査結果を紹介します。このほか、気象をはじめ、地震・津波、火山、地球環境に関し気象庁が発表する各種の情報を解説しています。  今後とも技術開発を進め、気象庁が発表する情報の質や精度の向上に努めるとともに、これが気象庁からの一方的な情報提供に止まるのではなく、多くの関係機関との連携・協力を進めて、情報の利活用を促進するとともに、普及啓発の取り組みも引き続き進めていくこととしています。  多くの方々が本書に目を通され、気象業務への皆様のご理解が深まりますとともに、各分野で活用されることを期待します。 平成26年6月1日 気象庁長官 西出 則武 特集 特別警報の開始と新たな気象防災 1特別警報の開始  気象庁は、平成25年(2013年)8月30日から、新しく「特別警報」の運用を開始しました。  特別警報は、大津波や居住地域に影響を及ぼす火山噴火、数十年に一度の豪雨が予想されるなど、「重大な災害の起こるおそれが著しく大きい」場合に発表し、気象庁として最大限の危機感・切迫感を伝達するものです。特別警報を発表する場合は、対象とする地域ではこれまで経験したことのないような非常に危険な状況にあることから、周囲の状況や市町村から発表される避難指示・避難勧告などの情報に留意し、ただちに命を守るための行動をとる必要があります。  この「特別警報」の導入に伴って、「重大な災害が起こる恐れがある」場合に発表している「警報」や、「災害が起こる恐れがある」場合に発表している「注意報」等の役割が変わった訳ではありません。特別警報が発表されない中で重大な災害が発生することも少なくありませんので、「特別警報が発表されるまでは安全」というわけでは決してありません。例えば、大雨の場合は、気象情報・注意報・警報・特別警報などを、時間を追って段階的に発表します。特別警報が発表される前の警報や注意報などが発表された時点で、大雨や暴風など気象に関する災害のおそれがある危険な地域においては避難準備や避難など早め早めに安全確保のための行動をとる必要があります。  いざというときに一人ひとりが慌てず適切に命を守る行動がとれるよう、危険な箇所の把握、避難場所や避難経路の確認、そして水や食料の備蓄やラジオの常備など、日頃からきちんと備えをしておくことが重要です。 (1)特別警報の概要 ア.特別警報導入の背景  平成23年(2011年)は、3月11日には東日本大震災が、9月上旬には紀伊半島等で土砂災害等をもたらした台風第12号による甚大な災害が発生しました。台風第12号では、気象庁は、警報やそれを補完する様々な情報を発表していました。しかし、災害発生の危険性が通常の警報発表時よりも著しく大きいことが住民や地方自治体に伝わらず、適時的確な防災対応や住民自らの迅速な避難行動に十分には結びつきませんでした。  気象庁では、これらを教訓として、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に、その危険性をわかりやすく住民や地方自治体等に伝えるために、気象業務法を改正して特別警報を導入しました。 イ.気象業務法改正の概要  今回の気象業務法の改正による、特別警報の導入に関するポイントは以下の3点です。 @気象庁は、大津波や数十年に一度の豪雨が予想されるなど、重大な災害の起こるおそれが著しく大き い場合にその旨をわかりやすく伝える「特別警報」を実施すること(法第13条の2第1項) A特別警報の発表基準を定める際には、都道府県及び市町村から意見を聴くこと(法第13条の2第2項) B特別警報の通知を受けた都道府県は市町村に直ちに通知し、通知を受けた市町村は住民等に対する 周知の措置を直ちにとること(法第15条の2第2項及び第4項)  特別警報に相当する過去の代表的な事例は右図の通りです。特別警報導入のきっかけとなった、東日本大震災による大津波や、平成23年台風第12号による土砂災害に加え、伊勢湾台風による高潮、全島避難を要した三宅島の噴火等があります。 ウ.特別警報の種類、対象となる現象  特別警報は、大雨*、暴風、暴風雪、大雪、高潮、波浪、津波、火山噴火、地震動(地震の揺れ)の9つの現象に対して発表します。  これらの中で大雨、暴風、大雪、高潮などの気象等に関連する現象については、大雨特別警報など「○○特別警報」という名称で発表します。一方で、津波、火山噴火、地震の揺れについては、それぞれにこれまでの大津波警報、噴火警報(居住地域)、緊急地震速報の震度6弱以上のものを特別警報と位置づけていますが、それぞれ「大津波警報」、「噴火警報(居住地域)」、「緊急地震速報」の名称を引き続いて用いて発表します。 (2)特別警報発表時に住民の方にとっていただきたい行動  特別警報は、気象庁から都道府県、消防庁、警察庁、NTTなどの機関を通じて市町村に伝達され、市町村により住民等に周知の措置がとられます。また、放送事業者等の様々な機関の協力を得て住民等に伝えられます。  住民の方々は、地域によって状況は異なりますが、テレビ、ラジオ、防災行政無線、広報車、携帯電話等のメール、気象庁のホームページなどを通じて特別警報の発表を知ることができます。  住民の方々は、自分が住んでいる市町村に特別警報が発表をされたことをお知りになった場合には、次のような行動をとっていただきたいと考えています。  気象等に関する特別警報の場合、まず、当該市町村が避難勧告等を発令しているかを確認し、既に発令している場合にはそれに従って直ちに避難場所に避難することです。そうでない場合は身の回りの安全を確認し、市町村などからの情報に注意することが重要です。しかし、すでに大雨が降っているような状況下で、道路が冠水している等により、外を歩くことが非常に危険な状態になっている場合もあります。そのような場合は、土砂災害の危険地域では、土砂崩れに巻き込まれないよう、崖など急傾斜地から少しでも離れた頑丈な建物に直ちに退避したり、家の中でも崖から離れたより頑丈な部屋に移動する方が、危険性が低くなります。浸水害や高潮の危険地域では、周囲より標高の高い場所や、建物の中のより高い階ほど安全であるといえます。命を守るための最善の行動とは、人それぞれの置かれた周囲の環境や気象状況などにより異なります。日頃から、様々な状況に応じた最善の行動について考えておくとともに、実際に特別警報が発表された場合には、周囲の状況に気をつけて落ち着いて速やかに行動することが重要になります。  上述のとおり、特別警報発表時には既に避難が困難な状況になっている場合も考えられます。より確実に命を守るためには、特別警報の発表を待つことなく、時間を追って段階的に発表される注意報・警報などの最新の気象情報や、自治体からの避難に関する情報に注意し、周囲の状況に応じて早め早めに行動することが大切です。 (3)特別警報の発表基準と客観的な指標  特別警報の発表基準は以下のとおりです。  気象等(大雨、暴風、高潮、波浪、暴風雪、大雪)の特別警報の発表は、降雨量や降雪量が数十年に一度程度と予想される場合、または、数十年に一度程度の台風や同程度の温帯低気圧に伴い暴風等が予想される場合に行います。この「“数十年に一度”の現象に相当する指標」は気象庁ホームページで公開しています。  大雨特別警報の場合は、数十年に一度の大量の大雨が広い範囲で降る場合に発表します。具体的には次の@、Aのいずれかを満たすと予想され、かつ、更に雨が降り続くと予想される場合を指標とします。@48時間降水量及び土壌雨量指数*において、50年に一度の値以上となった5キロメートル格子が、共 に府県程度の広がりの範囲内で50格子以上出現 A3時間降水量及び土壌雨量指数において、50年に一度の値以上となった5キロメートル格子が、共に 府県程度の広がりの範囲内で10格子以上出現(ただし、3時間降水量が150ミリ以上となった格子 のみを対象とする)  ここで、「50年に一度の値」とは、日本全国を5キロメートル間隔で設定した地域(格子)ごとに平成3年から22年までの20年間の観測データを用いて、50年に一回程度の頻度で発生すると推定される降水量(左図)及び土壌雨量指数を算出した値のことです。  左図は静岡県周辺における50年に一度の3時間降水量を示しており、その値は、焼津市では144ミリであるのに対し、西伊豆町では208ミリであるなど、地域によって異なります。  暴風、波浪及び高潮については、台風などの低気圧の強さを指標に、特別警報を発表します。具体的には、伊勢湾台風級(中心気圧930ヘクトパスカル以下又は最大風速毎秒50メートル以上。ただし、沖縄地方、奄美地方及び小笠原諸島については、中心気圧910ヘクトパスカル以下又は最大風速毎秒60メートル以上。)の台風や温帯低気圧が来襲する地域に対し、特別警報を発表します。この台風などの低気圧の強さを指標とした場合、個々の現象ごとに特別警報と(特別警報でない)警報とを分けて発表するのではなく、大雨も含めて各現象全ての警報を特別警報として発表します。これは、様々な種類の災害が同時にあちこちで発生しうる危機的な状況であることを伝えるためです。なお、暴風特別警報に相当する暴風に雪を伴う場合は、暴風雪特別警報になります。また、大雪特別警報については、昭和38年1月豪雪などを参考にして、50年に一度の積雪となり、かつ、その後も警報級の降雪が丸一日程度以上続くと予想される場合を指標としました。  地震、津波、火山噴火については、それぞれ、震度6弱以上の大きさの地震動が予想される場合(緊急地震速報のうち震度6弱以上が予想される場合)、高いところで3メートルを超える津波が予想される場合(現行の大津波警報)、居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が予想される場合(現行の噴火警報(噴火警戒レベル4以上)及び噴火警報(居住地域))が特別警報となります。  平成25(2013年)年は、特別警報の運用が開始される前から甚大な気象災害に見舞われました。7月28日に山口県・島根県、8月9日に秋田県・岩手県、8月24日に島根県で発生した記録的な大雨により、河川の増水や住宅の浸水、土砂災害等の災害が発生しました。これら3回の大雨事例について、気象庁は特別警報の開始前ではありましたが、大雨特別警報発表に相当する事態として、緊急の記者会見を行い厳重な警戒を呼びかけました。  特別警報の運用開始後の9月16日には、台風第18号に伴う大雨により各所で河川の氾濫や土砂災害等が発生しました。その際、福井県、滋賀県及び京都府に対して初めて特別警報を発表しました。  一方で、10月16日の台風第26号の接近に際して、特別警報の基準には該当しなかったものの、伊豆大島では狭い範囲で猛烈な雨が数時間降り続いたことにより大規模な土砂災害が発生しました。  ここでは、台風第18号及び、台風第26号の事例について、大雨や被害の状況、同事例に際しての防災気象情報の発表等の気象庁の対応状況、これらの事例を踏まえて認識した課題や対応策について示します。また、台風第18号における特別警報発表後に実施した「防災気象情報の認知度調査」の結果についても紹介します。 (1)平成25年の甚大な大雨災害 ア.台風第18号に伴う大雨災害(大雨特別警報を初めて発表した事例) @大雨の状況と気象庁の行った対応  9月13日9時に小笠原諸島近海で発生した台風第18号は、発達しながら日本の南海上を北上し、潮岬の南海上を通って、16日8時前に暴風域を伴って愛知県豊橋市付近に上陸しました。その後、台風は速度を速めながら東海地方、関東甲信地方及び東北地方を北東に進み、16日21時に北海道の南東の海上で温帯低気圧となりました。  台風の接近・通過に伴い、四国地方から北海道にかけての広い範囲で大雨となり、特に近畿地方では、9月15日から16日までの総雨量が9月の月降水量平年値の2倍を超える記録的な大雨となったところがありました。  この台風第18号により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、岩手県、福島県、福井県、三重県、滋賀県、兵庫県であわせて死者6名、行方不明者1名の人的被害が生じました。また、四国地方から北海道の広い範囲で損壊家屋1,500棟以上、浸水家屋10,000棟以上の住家被害が生じたほか、停電、電話の不通、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等の交通障害が発生しました(被害状況は、平成25年10月11日18時00分現在の内閣府のとりまとめ及び平成25年10月7日10時00分現在の国土交通省のとりまとめによる)。  気象庁では、9月13日から「台風に関する気象情報」を発表し、大雨の予想される地方に対して、土砂災害、河川の増水、氾濫、低地の浸水等への厳重な警戒を呼びかけるとともに、暴風、高波、高潮についても厳重な警戒を呼びかけました。さらに、9月14日16時45分には記者会見を行い、台風の接近に伴う大雨や暴風などに対して強く警戒を呼びかけました。  また、台風による影響が予想された、西日本から北日本にかけての各地の気象台では防災関係機関や報道機関等を対象に気象状況や台風の進路予想等の解説を行いました。さらに、台風の接近に伴い、大雨、暴風等の各警報や土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報、記録的短時間大雨情報等の防災気象情報を発表し厳重な警戒を呼びかけました。  三重県や奈良県等の太平洋側に比べて平年の降水量が少ない福井県、滋賀県及び京都府では、16日未明には15日からの降水量が9月の月降水量平年値を上回る地域も発生し、大雨特別警報の指標を上回ることが見込まれたことから、気象庁は、16日05時05分に大雨特別警報を福井県、滋賀県及び京都府に発表しました。気象庁本庁では同日06時10分に記者会見を行い、「これまでに経験したことのない大雨となっていること」「自治体の避難勧告等の情報に留意しつつ、可能であれば避難所へ避難すること、外出するのが既に危険な状況の場合は家屋の中で安全なところへ退避すること」など、最大級の警戒を呼びかけました。各地の気象台でも、自治体へホットラインにより直接電話連絡し、特別警報などの情報発表状況や今後の見通しを解説する等、気象台の危機意識を伝えました。  雨や風がおさまった後も、自治体の災害対策本部への職員派遣や、政府調査団による現地調査への参加、関係省庁災害対策会議での気象状況等の説明、さらには自治体の災害応急活動等を支援するために、災害時気象支援資料の提供を行う等、災害への対応と1日も早い復旧のための支援を行いました。  気象研究所では、今回の台風の発達とそれに伴う近畿地方の大雨の発生要因を調査し、その結果について平成25年10月7日に報道発表を行いました。 A自治体への調査  台風第18号に伴う大雨により初めて特別警報を発表した福井県、滋賀県及び京都府の全市町村に対して、今後の防災気象情報の運用や市町村との連携、周知広報にかかる課題等について把握することを目的として、ヒアリング調査を実施しました。  主な調査結果を以下に記します。 ○特別警報を受けた自治体の防災対応としては、避難勧告・指示等の発令の判断の後押しとなった、発令領域拡大の判断に活用できた、屋外が既に危険な状況と考えられるため、避難勧告・指示等の発令はしなかったなどの対応が見られました。一方で、特別警報発表時に、市町村が住民に対してどのように呼びかけるべきかわからない、という意見もありました。 ○特別警報の発表基準等については概ね理解されていましたが、府県内において既に警報が発表されている市町村がすべて特別警報の対象自治体となるという運用について、気象庁から十分に説明できていなかったこともあり、理解されていない面もみられました。 ○特別警報については、気象業務法により市町村から住民に対する「周知の措置」が義務となっていることは、すべての市町村において認識されていました。しかし、一部の市町村においては、雨風が強い中で特別警報の伝達に伴う混乱を危惧した、避難所設営を優先した、等の理由により「周知の措置」が取られていませんでした。気象台では特別警報の趣旨を改めて説明し、今後は「周知の措置」を取ることについて理解を得ました。 ○ほとんどの市町村で地域防災計画や避難勧告等のマニュアルへの特別警報に関する記載はなく、今後改訂する予定とのことでした。 B課題と対応  本ヒアリング結果を踏まえて、気象庁では、以下の点などを重点的に取り組む事項としました。 ○特別警報に関する周知等 ・大雨特別警報は、特に異常な現象を高い精度で予測することが重要ですので、現在の予測技術の観点等から広域に大雨が予想された場合に限って大雨特別警報の発表が可能であることへの理解を求めてまいります。 ・大雨特別警報の発表を待たないで、時間を追って段階的に発表される気象情報・注意報・警報等を活用して、早め早めの防災対応をとっていただくことが重要ですので、この点も含めた普及啓発を強化します。 ○防災気象情報の避難情報等への活用 ・気象庁も積極的に検討に参画し、内閣府において改訂が進められた「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)」(平成26年4月作成)の試行に伴い、時間を追って段階的に発表する警報等の防災気象情報がより効果的に活用されるように、各地方整備局の河川事務所や都道府県など関係機関とも協力して、全国の気象台より市町村に対してマニュアルや地域防災計画の改訂等に際して助言するとともに普及啓発を推進していきます。 イ.台風第26号に伴う伊豆大島の大雨災害(早め早めの対応を可能とする情報提供の重要性) @大雨の状況と気象庁の行った対応  10月10日21時にマリアナ諸島付近で発生した台風第26号は、発達しながら日本の南海上を北上し、大型で強い勢力のまま、16日明け方に暴風域を伴って関東地方沿岸に接近しました。その後、台風は関東の東海上を北上し、16日15時に三陸沖で温帯低気圧に変わりました。  この台風の接近に伴い、15日と16日を中心に、関東地方や東海地方を中心とした西日本から北日本の広い範囲で大雨や暴風となり、特に東京都大島町では、24時間の降水量が800ミリを超える記録的な大雨となりました。  この台風により、東京都大島町では大規模な土砂災害が発生し、死者35名、行方不明4名の甚大な被害が生じました。また、各地でも土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、大島町を含め、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県であわせて死者39名、行方不明者4名の人的被害が生じ、中国地方から北海道の広い範囲で住家の損壊が生じました。そのほか、停電、電話の不通、水道被害、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等による交通障害が発生しました(被害状況は、平成25年11月25日17時00分現在の内閣府のとりまとめによる)。  気象庁では、10月14日から「台風に関する気象情報」を発表し、大雨や暴風等が予想される地方に対して、土砂災害、河川の増水、氾濫、低地の浸水等への厳重な警戒を呼びかけるとともに、高波、高潮についても厳重な警戒を呼びかけました。さらに、15日10時45分には記者会見を行い、台風の接近に伴う大雨や暴風等に対して警戒を呼びかけました。  また、台風の接近が予想された地方の各地の気象台では台風説明会を開催するなど、自治体や防災機関等に対して台風の予想進路や今後予想される気象状況などを説明しました。 コラム 台風接近時の台風説明会(東京都気象情報連絡会の例)  台風が東京都に影響を及ぼす可能性がある場合、東京都が開催する気象情報連絡会において、気象庁は台風の進路や防災事項などについての説明を行います。同連絡会は、東京都の防災センター災害対策本部室等で実施され、都の防災関係部局の担当者が出席するほか、東京都のTV会議システムを通して、説明の映像、音声が都内の各区市町村に中継されます。  右の写真は、台風第26号が関東地方に再接近する前日の平成25年10月15日に実施した連絡会の様子です。また、その後も、大規模な土砂災害が発生した大島町への台風第27号等の接近が予想されたことから、10月23〜25日にかけて連日連絡会が開催され、台風の説明を行いました。  連絡会においては、台風の予想進路や特徴、今後の雨、風、波、高潮の状況や注意、警戒を要する期間、各種情報の発表や警報・注意報解除のタイミングなどを中心に説明します。また、防災情報提供システムや防災機関専用のホットラインの活用などについても説明します。  気象庁ではこうした台風についての説明会を全国各地の気象台が実施し、自治体等の防災対策を支援しています。 ○伊豆大島での記録的な大雨  東京都大島町では、台風第26号による雨が、15日午前中から降り始めました。雨は台風の接近に伴って徐々に強まり、16日未明からは1時間100ミリを超える猛烈な雨が数時間降り続きました。雨は16日朝まで降り続き、アメダス大島では24時間の降水量が800ミリを超え、10月の月降水量平年値の2倍を超える記録的な大雨となりました。  気象庁は、大島町に対して、15日11時30分に大雨注意報、17時38分に大雨警報、18時05分には東京都と共同で土砂災害警戒情報を発表して注意・警戒を呼びかけました。猛烈な雨が降り続いた16日未明には、記録的短時間大雨情報を3回発表し、大雨に対する厳重な警戒を呼びかけました。また、15日23時30分頃から3回にわたり、尋常でない気象状況であることを東京都及び大島町へ電話によるホットラインで直接伝えました。  気象庁では、自治体の災害応急活動の支援や二次災害の防止等のため、甚大な被害となった東京都大島町へ東京管区気象台及び気象庁予報部の職員を派遣し、二次被害の防止や避難判断に向けた気象解説や、避難・判断マニュアルの作成支援を行いました。また、災害応急活動等を支援するための災害時気象支援資料の提供や、政府調査団の一員として現地調査に参加、関係省庁災害対策会議での気象状況等の解説等を行いました。さらに、大島町では大規模な土砂災害により、山腹に土砂が堆積しているなど、土砂災害の危険性が通常より高いことから、大島町の大雨警報・注意報、土砂災害警戒情報の発表基準を引き下げて10月18日より運用し、その後の大雨に備えました。  また、気象研究所では、今回の大雨の発生要因を調査し、その結果について平成25年12月2日に報道発表を行いました。 A課題と対応  今回の事例を教訓として改めて重要なことは、伊豆大島の一部地域で狭い範囲ではあるが800ミリを超えるような激甚な大雨について現在の予測技術では事前に高い精度で予測することができないことから、自治体等の防災関係機関と住民の方々に、時間を追って段階的に発表される一連の防災気象情報をその都度活用いただき、早め早めに防災対応に活かしてもらうことです。  気象庁では、記録的な大雨により甚大な災害となったことから、島しょ部の大雨に対しての改善等を緊急にとりまとめました。具体的には、注意報、警報の発表の後、気象状況をより確実に伝達するために、島しょ部において50年に一度の記録的な大雨が観測された際には、気象台長等と自治体の首長等責任者との間でホットラインを使って、危機感をお伝えすることとし、それを含め、段階的に発表される気象情報を活用して早め早めの対応をとっていただくよう取り組むこととしました。さらに、住民へ広く周知頂くために、危機感を伝える短い文章で表現する気象情報も発表することとしました。更には、島しょ部における大雨の監視を強化するために、雨量計を増設しました。  特別警報については、重大な災害が発生するおそれが著しく大きいことを、確度の高い情報として発表することが重要と考えています。そのため、本事例のような島しょ部など狭い範囲での猛烈な雨の際には、段階的に発表している注意報や警報などを活用し、早め早めに避難などの対応を取っていただくことが重要です。 コラム 平成25年台風第26号の豪雨に伴う伊豆大島の土砂災害に係る気象庁の対応 政府現地災害対策室等での活動  災害発生後、気象庁では、10月18日より大島町役場に設置された政府現地災害対策室等へ東京管区気象台より職員を派遣しました。現地災害対策本部では、毎日定期的に会議等が開催され、これらの会議には、政府、東京都、大島町の関係者が出席し、捜索等の応急活動について情報共有や意思決定が行われました。  気象庁から派遣した職員の主な任務は、捜索等の応急活動の支援し二次災害を防止するために気象の見通しや警戒事項を説明することです。応急・復旧活動が進められている中、19日から26日にかけては低気圧や台風第27号による大雨が予想されたことから、避難勧告等の判断を支援するため予想雨量や雨のピークとなる期間など気象解説を行いました。大島町では、気象の見通しや国土交通省による土砂災害危険箇所の緊急点検結果等を踏まえ、19日に島内の一部に避難勧告、25日には全島に避難指示・勧告を発令しました。また、気象庁では、大島町が今回の土砂災害により土砂災害の危険性が高い状態となっている地域の避難基準とその際の町民のとるべき行動を策定するにあたり、技術的な助言を行いました。  12月7日に大島町の主催により、避難誘導の要となる警察、消防団、自主防災組織班長、民生委員、婦人会等を主な対象として、「警戒を要する区域」「大島町における土砂災害に対する避難等の基準」の住民への周知を目的とした住民説明会が開催されました。この説明会には気象庁予報部から職員を派遣し、以下について重点をおいて説明しました。 ・大島町が行う避難勧告等の判断には、気象庁が段階的に発表する大雨注意報、警報や東京都と 共同で発表する土砂災害警戒情報が密接にかかわっていること。 ・日頃から地域の危険箇所、避難場所や避難経路の確認、大雨時等には大島町からの避難等に関 する情報やテレビ等から伝えられる防災気象情報に注意を払う必要があること。 ・危険箇所近くや避難に時間のかかる方などは、周囲の状況に応じた早め早めの対応・行動が重要 であること。  出席された住民の方からは、「早めの避難をすることが一番の防災と思う。」「避難をして、それが空振りであったとしても、『無事で良かったね』と言って帰る。そんなことが普通になって安心して住める大島が良いと思う。」等、今回の災害経験を踏まえた意見が寄せられました。 コラム 台風第18号、第26号による大雨の詳細なメカニズム  気象研究所では、平成25年台風第18号と台風第26号に伴って発生した記録的な大雨の発生要因について迅速かつ詳細な調査を実施し、報道等を通じて公表しました。 【台風第18号】  台風第18号が大雨をもたらした主な要因として、 @平年よりも高い海面水温 A台風とジェット気流の相互作用 B日本海からの湿潤空気の流入 があげられます。  9月中旬の日本の南海上は平年よりも海面水温が1〜2度程度高い状態となっており、台風の勢力が発達・維持する状況でした(要因@)。台風が最も発達したのは、海面水温が高い領域ではありませんでした。「これは、台風が日本付近上空のジェット気流に接近することで、台風の北側で上昇気流が強められたためと考えられます(要因A)。これは台風が温帯低気圧の性質に構造が変化する初期の特徴です。このように台風の構造が変化しているときには、台風の進行方向に向かって右側よりも左側で大雨になりやすくなっています。  紀伊半島南部の大雨は、太平洋上の非常に湿った空気が台風周辺の循環によって紀伊半島に向かって流れ込むことで生じましたが、近畿地方など日本海側の大雨は、平年より高い海面水温だった日本海南部の下層の湿った空気が、台風に伴う北よりの風で日本海側の地域に継続的に流入していたことも要因でした(要因B)。 【台風第26号】  台風第26号は、伊豆大島に24時間で800ミリを超える大雨をもたらしました。この主な要因として、 @温帯低気圧の性質への構造の変化 A局地的な前線の形成 B伊豆大島の地形による降水の強化 があげられます。  台風第26号の日本接近時は第18号の接近時よりさらに温帯低気圧の性質への構造の変化が進んでおり、第18号と同じく台風の進行方向に向かって左側(本事例は北側)で大雨になりやすい構造になっていました(要因@)。  さらに、伊豆大島で大雨となった10月16日00時〜06時には、関東平野や房総半島の強い降水域から吹き出した冷たい空気と、台風の周辺から流入した暖かい空気がぶつかり合うことで局地的な前線が形成され、維持されていました。この前線の北側の冷たい空気の層に、東から流入した非常に湿った空気が乗り上げて積乱雲が発生し、伊豆大島を横切って線状の降水帯が形成・維持されていました。この降水帯で積乱雲が継続的に発生し、伊豆大島に大雨をもたらしました(要因A)。  また、アメダス地点の「大島」と「大島北ノ山」で雨量を比較すると、約4kmしか離れていないにもかかわらず、降水量に大きな違いがありました。台風中心の北側にあたる伊豆大島では北風が卓越していましたが、伊豆大島の地形と地表面による摩擦のため風下に当たる「大島」地点の方が、「大島北ノ山」地点よりも北風が弱くなっていました。このことから、「大島北ノ山」地点の方が上空の雨滴は風に流されやすかったために、雨量は少なかったと考えられます。(要因B)。  なお、これらの調査はその結果をリアルタイムで提供できるわけではありませんが、今後の台風による大雨の予測精度の向上につながると期待できます。 (2)防災気象情報の認知度調査  気象庁では、平成25年8月30日の特別警報の運用開始、及び台風第18号に伴う同年9月16日の特別警報の初めての発表を受けて、今後の特別警報の運用、利活用の促進や周知・広報に資するため、平成25年11月に、特別警報の認知度や、特別警報や警報を見聞きした際の対応等に関する調査を全国の男女2,800人を対象に行いました。その結果は以下のとおりです。 @特別警報の認知の状況  「特別警報」という言葉を見たこと・聞いたことがある人の割合は回答全体の62.3%でした。平成25年8月30日の特別警報の運用開始以前に知っていた人は24.6%でしたが、その後、地方自治体や報道機関等の協力による周知・広報や9月16日の初めての特別警報の発表により認知が進んだと思われます。しかし、まだ4割近くの人が認知していません。 A特別警報や警報の意味、とるべき行動に関する理解 ○特別警報や警報の意味  人々が特別警報の意味をどのように捉えているかを見ると、回答者全体では、57.6%の人が、アンケートよりも前に特別警報を知っていた人に限ると75.2%の人が「警報の中でも最大級の危険を示す警報である」であると正しく理解しています。  年代別にみると、50代以上は6割は正しく回答していますが、年代が下がるにつれて正しく理解している割合が下がり、20代では半数を割っています。  一方、特別警報と災害発生の関係性については、特別警報は「重大な災害の起こるおそれが著しく大きいことを警告する情報」であると正しく認識している人は41.3%と半数を割っています。 ○特別警報や警報を見聞きした時の行動  次に、大雨特別警報や警報を見聞きした場合の行動について調査しました。(下図)では、住んでいる市町村に大雨特別警報が発表された場合の行動を選択肢(複数回答)から選んだ結果です。特別警報・警報ともに、8〜9割程度の人が「外出を控える」、「市町村からの避難の情報に注意する」といった災害を意識した行動をとると回答しました。「持出品の準備や確認をする等、避難の準備をする」と回答した人が、大雨特別警報の場合で58.7%にのぼっていますが、このような行動は、特別警報を待たずとも、警報や注意報の段階から意識していただきたいことです(活用方法について、「災害から命を守るために(大雨の場合)」(9ページ)参照)。特別警報だけに注目するのではなく、時間を追って段階的に発表される一連の防災気象情報を活用していただくことの重要性が、十分に伝えられていないことが分かります。 B特別警報の有用性に関する評価  最後に特別警報がどのように評価されているかを見てみます。特別警報は被害の軽減に役立つかを聞いたところ、「大いに役に立つと思う」が31.7%、「ある程度は役に立つと思う」まで含めると88.3%が役に立つと回答しました。大雨特別警報が始めて発表された平成25年9月の台風第18号の例では、前節で述べたとおり、特別警報を市町村の防災活動に活かすための様々な課題が明らかになりましたが、特別警報が発表された京都府、滋賀県、福井県においても約9割の人が、特別警報は被害の軽減に役立つと回答しました。 Cまとめ  今回の調査により、特別警報の運用開始まで準備期間が短かったにも関わらず、特別警報を多くの人に知っていただけたことが分かりました。ただし、年齢層が若くなるにつれて認知率が低くなりました。今後さらに、国民一人ひとりに特別警報を浸透させる取り組みが必要です。また、特別警報を見聞きした時、災害発生の危険性を実際より低く認識してしまう傾向も明らかとなりました。気象庁では、今回の調査結果も踏まえ、特別警報をはじめとする防災気象情報の意味や活用方法についての周知・広報に取り組みます。  災害から身を守るためには、状況に応じて具体的な判断・行動に移る必要があります。今回の調査により、期待される防災気象情報の活用方法と人々の意識の間にギャップがあることが明らかになりました。状況に応じた判断・行動に移るためには、普段から自宅の周辺などの危険箇所や避難場所・避難ルートを確認しておくといった事前の備えが必要です。その上で、周囲の状況や自治体が発表する避難に関する情報、防災気象情報に注意し、必要に応じて速やかに避難することが重要となります。特別警報だけに注目するのではなく、警報や注意報の段階から早め早めの行動に心がけることが重要です。気象庁は、災害対策における地方自治体との連携を強化するとともに、住民が自らの判断で状況に応じた的確な行動をとることのできるような防災意識の醸成・啓発に努めます。また、災害発生の危険性の把握が容易にでき利用者の取るべき行動と結びつく情報発表のあり方を検討していきます。 (3)命を守るための防災気象情報の活用  これまで見てきたように、災害から身を守るためには、時間を追って段階的に発表している警報等の防災気象情報を活用していただき、早め早めに避難などの対応をとっていただくことが重要になります。  また、特別警報は、警報の発表基準をはるかに超えるような現象が予想されるときに発表される情報です。一方、警報、注意報、気象情報といった防災気象情報の位置づけは変わりありません。これらの防災気象情報は、例えば、台風の接近により風雨が強まる場合のように、現象の進行に合わせて発表される情報の種類が変わっていきます。こうした活用を促進していくために、特別警報を始めとする気象庁の発表している防災気象情報について、その意味するところを市町村の防災担当者はもとより、住民の方にも理解していただけるように、気象庁では、より一層の周知・広報に取り組みます。このような活動では、地方自治体等の防災関係機関はもちろんのこと、教育委員会や学校、日本赤十字社といった住民への指導的な役割を担う機関と連携・協力しながら効果的に推進していきます(第1部1章6節「地域の防災力向上への取り組み」参照)。  一方、気象庁では、防災気象情報の改善に向けた努力も続けています。学識経験者、地方自治体、放送機関等から構成される「防災気象情報の改善に関する検討会」を平成24年度より開催して、防災気象情報が地方自治体の防災活動や住民の防災行動により一層有効に活用されるように、防災気象情報のあり方と改善の方向性について検討を進めてきました。検討会で示された方向性に沿って、各種の防災気象情報を再整理し、より利用者にわかりやすく、取るべき行動に結びついた防災気象情報の体系となるよう見直しを検討しています。主な改善のポイントとしては、注意報・警報・特別警報等の段階的な情報に、大雨等による災害リスク・危機感の高まりを数値(レベル)で付す気象警戒レベルの導入があります。これにより、これから起こる事態や取るべき行動の把握が容易になり、より適切な防災活動に繋がると期待できます。また、より地域を絞った災害発生の危険性の把握が容易になるように、警報などを補足するような格子点情報(メッシュ情報)の提供を一層進めることも検討しています。 コラム 特別警報からレベル化へ  2013年の気象情報に関する最大のトピックスは「特別警報」だったと言って過言でないでしょう。特別警報は、2013年1月上旬にはじめて一部で報じられ、5月に改正された気象業務法の中に盛り込まれ、8月30日から運用が開始されました。制度設計から事前周知に時間をかけることが一般的な防災気象情報としては、異例の短期間での運用開始となりました。運用開始後約2週間の9月16日、福井県、滋賀県、京都府のほぼ全域に大雨特別警報が初めて発表され、これが2014年3月時点で、唯一の発表例となっています。ただし、運用開始前の7月28日には山口・島根県内、8月9日に秋田・岩手県内、8月24日に島根県内で「記録的な大雨に関する気象情報」が発表され、これは運用開始後であれば大雨特別警報に相当する情報である旨が気象庁の会見でコメントされました。  筆者は気象庁と協力し、特別警報運用開始約3ヶ月後の11月下旬に、9月に大雨特別警報が出された福井県、滋賀県、京都府と、特別警報を経験していない静岡県の在住者を対象にアンケート調査1)を行いました。これによると、「大雨特別警報という情報を見たり聞いたりしたことがある」という回答は、最も多い滋賀県では86.2%に上り、最も少ない静岡県でも65.3%となりました。同じ調査で土砂災害警戒情報についての質問では、「見たり聞いたりしたことがある」が77.2〜64.6%であることなどと比較すると、運用開始直後にもかかわらず、特別警報という「言葉」自体は、かなり周知が進んだと言ってよさそうです。  一方、特別警報という言葉の周知が進んだことはよいが、課題も見られました。10月16日、台風第26号の接近に伴い伊豆大島を中心に記録的な豪雨となり、同町のみで死者・行方不明者39人という大きな人的被害を生じました。この時には大雨特別警報は出されませんでした。大雨特別警報は「広い範囲で数十年に一度程度発生する大雨」の際に発表する情報として設計されており、ごく狭い範囲で発生した伊豆大島の豪雨では基準を満たさなかったためです。この豪雨の後、「狭い範囲の豪雨でも特別警報を出すべき」(発表条件の緩和)という声が上がりましたが、筆者には賛同できません。特別警報は、見逃しは生じ得るが空振りは基本的にない、つまり発表されたら必ず大きな被害が生じる時に出される情報を目指して設計されていると考えられます。発表条件の緩和は、この大きなメリットを無くしかねません。  また、気象庁は「防災気象情報の改善に関する検討会」2)を設置し、2013年9月に防災気象情報のレベル化(5段階程度の数値による警報等の表現法)を軸とした、情報体系の整理が提言されたところです。この提言を受け、1、2年後に防災気象情報の体系が整理される方向が見えてきています。それを目前に、個別的な事例の教訓「だけ」に対応した局所的な制度改変を行うことは、果たして良いことでしょうか。  そもそも、特別警報だけが防災気象情報ではありません。現に本事例でも、土砂災害警戒情報、記録的短時間大雨情報が発表され、台風に関する情報も含め、けっして「不意打ち」型の豪雨ではありませんでした。「特別警報が出なかったから対応できなかった」という考え方が出てくるのは、情報を受け止める側が「特別警報待ち」に陥り、他の防災気象情報が軽視されてしまったことの表れかもしれません。まずは、特別警報という情報の性質、使い方について情報発信者、情報利用者の間で意識共有することが重要でしょう。  特別警報に限らず、防災気象情報は、個々人の行動を具体的に指南するものではありません。現在、当該の地域が気象現象の面から見て非常に厳しい状況になっていることを伝える情報です。この情報を受けて取るべき具体的な行動は、個人の居る場所、生活形態などによって大きく異なります。個々の地域の災害特性を理解した上で、防災気象情報を参考にすることが必要です。  特別警報のような、「極めて厳しい状況である」ことを明確に伝える情報を気象警報の体系中に導入することは必要だと筆者も考えていました。しかし、特別警報が結果的に拙速に導入せざるを得なかったことは、残念だったと言わざるを得ません。このような中でも特別警報という言葉の周知が思いのほか進み、さらに、そのあり方について厳しい意見が寄せられたことは、このような情報に対する期待があることを示唆しているとも考えられます。次の段階の、防災気象情報のレベル化に当たっては、この情報をどのように使うのか、という位置付けを明確にした上で、広い視野からの体系的な設計が行われることが望まれます。 引用文献 1)静岡大学防災総合センター牛山研究室:防災気象情報に関するアンケート(2013年11月実施・大雨特別警報等)報告書, http://www.disaster-i.net/notes/131212report.pdf, 2013. 2)気象庁:防災気象情報の改善に関する検討会, http://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/H24johokaizen/H24jouho_kaizen_kentoukai.html, 2013. トピックス 1.9月に全国で大きな被害をもたらした竜巻について  気象庁では、竜巻等の突風による被害が発生した場合に、気象庁機動調査班(JMA-MOT)として被災地に職員を派遣して調査を行い、竜巻やダウンバーストなど突風の種類を特定し、その強さ(藤田スケール)や、被害の幅及び長さ等を取りまとめて公表しています。  2013年9月は、JMA-MOT による突風調査を開始した2007年以降の平均の1.7倍にあたる合計17個の竜巻が全国で確認され、なかには大きな被害をもたらすものもありました。9月2日には、藤田スケールでF2(風速で毎秒50〜69メートル)の強さの竜巻が発生しました。竜巻は、埼玉県から茨城県にかけて19キロメートルにわたって移動し、住家の屋根が飛ばされるなど大きな被害が多数発生しました(図)。  竜巻が発生した場合には、他の地域でも竜巻が発生することがしばしばあります。9月15日から16日にかけては、台風第18号が接近するなか、和歌山県、三重県、栃木県、埼玉県、群馬県で計10個の竜巻が確認されたほか、宮城県と北海道でも突風による被害が生じました(表)。一つの台風の接近に伴い発生が確認された竜巻の個数としては、1961年の統計開始以来歴代1位です。 コラム 竜巻に関する普及啓発の取組みが有効だった事例  平成25年7月に東京都の荒川河川敷で落雷による人的被害が発生したことから、関東地方主体に保育園運営や保育士派遣などを行っている会社(株式会社日本デイケアセンター)から気象庁に「雷から子どもたちを守るためにはどうしたらよいか」という問い合わせがありました。  東京管区気象台では、この問い合わせを受けて、保育施設の管理者等に対し、出前講座「急な大雨・雷・竜巻から身を守るために」を実施し、「雷や竜巻からどう身を守るか」や「ホームページを利用した降水・雷ナウキャストなど気象情報の確認方法」等について説明しました。元々の問い合わせは雷に関するものでしたが、雷が発生する気象状況においては、竜巻や急な強い雨に対しても備える必要があるため、これらをまとめて説明したものです。  出前講座の情報は各保育施設に共有され、各保育施設では、子どもたちの散歩や屋外活動前などに気象庁のHPで、気象状況をチェックするようになり、保護者向けの「ほいくだより」に発達した積乱雲による災害から身を守るための記事を掲載するなどの対応をとったとのことです。  特に、越谷市の保育施設では、9月の竜巻発生の際、窓から黒い竜巻を見つけた保育士が、出前講座の際の知識も生かし、子どもたちを部屋の奥に誘導し、テーブルや布団で囲むようにして竜巻が遠ざかるまで待機するという対応行動ができたとのことでした。  気象庁は今後とも、こうした出前講座などを通して、防災知識の普及啓発に努めていきたいと考えています。 2.平成25年(2013年)夏の日本の極端な天候と日本近海の海況  平成25年(2013年)の夏は全国的に高温で、特に、西日本では夏(6〜8月)の平均気温が昭和21年(1946年)の統計開始以降で第1位の高温となりました(平年差+1.2℃、これまでの記録は平成6年(1994年)の+1.1℃)。また、高知県四万十市江川崎では8月12日の日最高気温が41.0℃となり、我が国の日最高気温の高い記録を更新しました(これまでの記録は平成19年(2007年)8月16日に埼玉県熊谷と岐阜県多治見で観測された40.9℃)。  夏の降水量は東北地方と本州の日本海側で多く、特に、東北地方ではたびたび大雨に見舞われた7月の降水量が統計開始以降で最も多くなりました(平年比182%)。また、山口、島根、秋田、岩手の各県の一部の地域では、記録的な大雨となりました。アメダスによる猛烈な雨(1時間降水量80ミリ以上)のこの夏の観測回数は昭和51年(1976年)以降の夏で3番目に多くなりました。一方、東・西日本太平洋側と沖縄・奄美の一部では降水量が少なく、九州南部・奄美地方では7月の降水量が統計開始以降で最も少なくなりました(平年比11%)。  夏の日本の天候を支配する太平洋高気圧(下層の高気圧)とチベット高気圧(上層の高気圧)は、7月以降ともに平年と比べて優勢でした。特に、太平洋高気圧は西への張り出しの強い状態が続き、沖縄・奄美や西日本では勢力が非常に強くなりました。これらの高気圧がともに優勢となった一因は、海面水温がインドネシアやフィリピン周辺で平年よりかなり高くなる一方、中・東部太平洋赤道域で平年より低くなったことにより、アジアモンスーン域(東南アジアや南アジア)の広い範囲で積雲対流活動が平年と比べて非常に活発になったことによるとみられます。  この結果、西日本を中心に全国的に暑夏となり、また、高気圧に覆われやすかった東・西日本太平洋側と沖縄・奄美は少雨となりました。一方、東北地方や日本海側の地域では西に強く張り出した太平洋高気圧の周縁を吹く暖かく湿った空気が流れ込みやすくなり、このことが大雨の要因になったと考えられます。さらに、偏西風の蛇行に伴って上空に寒気が流入するときがあり、そのため大気の状態が不安定になったことも大雨を降りやすくしたとみられます。  太平洋高気圧の西への張り出しが強かったことに関連し、8月の日本近海の海面水温は平年よりかなり高くなりました。特に、四国・東海沖や東シナ海北部では8月の平均値としては昭和60年(1985年)以降の統計で最も高くなりました。これは、高気圧に覆われて日射量が平年より多くなったことに加えて、四国・東海沖では風が平年より弱く、大気への蒸発や下層の冷たい海水との混合が平年より少なかったこと、東シナ海北部では海面に接する大気が顕著に暖かく湿っていたために大気への蒸発による熱の放出が平年より少なかったことが要因と考えられます。  また、山陰から北陸地方の日本海沿岸では、8月中旬以降、潮位が平常と比べて15センチメートル程度高くなる状態が続く「異常潮位」が発生しました。これに伴って、気象庁の潮位観測地点のうち、富山、舞鶴、境、西郷及び浜田では8月の月平均潮位が観測を開始して以降で最も高くなりました。これは、対馬暖流や暖水渦が沿岸近くにあったことや、太平洋高気圧の周縁を吹く南西風が日本海側で卓越し、海面付近の暖かい海水が沿岸側に寄せられたことにより、沿岸付近の海洋内部の水温が高くなって海水が熱膨張したことが一因と考えられます。なお、海面付近の海水は風との摩擦及び地球の自転の効果で風向きに対して右に運ばれることから、南西風は海水を南東方向に移動させる効果があります。 コラム 長期再解析JRA-55の完成  過去の気候を再現したデータセットである長期再解析は、気候系の監視及び異常気象分析検討会での基礎資料、季節予報のための平年値、過去再予報を利用した数値予報モデルの開発、エルニーニョ監視・予測、海況解析やオゾンの解析など、気象庁内の幅広い業務に活用されています。また、気候情報の一般への普及をはかるため、理科年表への世界の年降水量分布図の提供や、日本科学未来館のジオコスモス等の展示へのデータ提供等を行っています。これらの業務や普及には、これまで(一財)電力中央研究所と共同で実施し、平成17年度に完成した長期再解析(JRA-25)を用いてきましたが、よりきめ細かく高精度で対象期間の長い長期再解析がさまざまな業務の高度化に必要であることから、学識経験者の助言のもと、平成25年(2013年)3月に気象庁55年長期再解析(JRA-55)を完成させました。  JRA-55は、平成21年(2009年)12月時点の数値解析予報技術と品質管理された過去の観測データを用いて、昭和33年〜平成24年(1958年〜2012年)の気候を均質かつ高精度に再現した長期再解析です。JRA-25 [対象期間は昭和54年〜平成16年(1979年〜2004年)]と比較して、より長い期間の気候変化の解析が可能となっただけでなく、古い観測データの品質管理や衛星観測データのシステム変更に起因する誤差の軽減技術導入や、気象庁気象衛星センター、(独)宇宙航空研究開発機構及び欧州気象衛星開発機構をはじめとする、各機関で再処理された衛星データを利用したことにより、大幅に品質が向上しました。気象庁では、これまでJRA-25を使ってきた各種業務に加え、日本周辺の気候変動の解析や高潮事例の調査など様々な業務にもJRA-55を活用し、気候情報をはじめとする各種情報の高度化や、季節予報の精度向上を通じた気候リスク管理の普及を進めていきます。  平成25年10月には、大学等の研究者へのJRA-55データの公開を開始しました。50年以上の高品質の気候データとして海外の数値予報センターや内外の研究コミュニティからの期待も大きく、JRA-25以上に研究での活用が進み、気象庁の技術開発等への更なる還元が期待されます。また、風力発電や太陽光発電といった、再生可能エネルギー発電施設の立地選定等での活用も期待されています。 コラム 沖縄島北部で見られたサンゴの白化  沖縄美ら島財団では、沖縄島北部に位置する沖縄美ら海水族館の前のサンゴ礁で、1988年から25年にわたりサンゴ群集のモニタリングを行っています。2013年8月に、調査地の浅い水深帯で大規模なサンゴの白化が観察されました。他にも沖縄島各地、久米島、宮古島、石垣島のサンゴ礁で次々と白化が報告され、サンゴ礁生態系への影響が心配されました。  サンゴの白化とは、サンゴという動物の中にすむ単細胞藻類(褐虫藻)が失われ、透明になったサンゴの軟組織を通して白い骨が透けて見える状態のことです。白化が起こる原因は高・低水温、強光などの環境ストレスです。ストレスがなくなれば体内の褐虫藻が再び増えサンゴは回復しますが、サンゴは体内の褐虫藻が光合成で作り出した栄養に頼って生きているので、白化が長く続くと衰弱し、死んでしまいます。  気象庁の発表によると、8月9日以降の沖縄周辺海域の海面水温は31℃以上を記録しました。昨年のサンゴの白化はこの高水温が原因ではないかとの見解が多いようです。私たちの調査地では白化は長く続かず、追跡調査によって白化の状況や経過を詳しく調べたところ、海水温が低下した10月以降にほとんどのサンゴの回復が見られました。  “サンゴの白化”という言葉が広く知られるようになったのは、大規模な白化現象が起こった1998年からです。この時、今までにないサンゴの大量死が世界各地で報告されました。エルニーニョ現象に伴って、各地のサンゴ礁域が夏季に高水温となったことが原因だと言われています。1998年から15年が経過した今も、沖縄のサンゴ群集は白化前の状態には回復していないのが現状です。  1998年に比べると被害は大きくないものの、サンゴの白化現象は2001、2003、2007年にも報告され、白化が起こる頻度が高くなっています。地球の気候が温暖化傾向にある現在、サンゴ礁で何が起こっているのかを継続して調査し、速やかに情報を公開することがますます必要になってくるでしょう。沖縄美ら島財団では、今回の白化を広く知らせるために、調査地点の情報や状況写真とともにホームページに掲載しています(http://okichura.jp/sango/index.html)。  さらに重要なことは、専門機関との連携です。生物データだけでなく、詳細な海洋環境データを合わせて状況を把握し、その原因を解明することが環境保全へのアクションへと繋がります。 今後も、2013年10月に発足した沖縄気象台の地球環境・海洋課と協力し、沖縄の海で何が起こっているのかを広く発信していきたいと思います。  3.気候変動の見通しと対応 (1)IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書   〜気候変動に関する最新の自然科学的知見の公表〜  平成25年(2013年)9月23日〜26日、スウェーデン・ストックホルムにおいて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第36回総会及び第1作業部会第12回会合が開催され、IPCC 第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の政策決定者向け要約が承認されるとともに、報告書本体が受諾されました。  IPCCは、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的に、昭和63年(1988年)に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された国連の組織です。第1作業部会では、気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価を行い、気象庁は第1作業部会の担当省庁として、報告書の原稿執筆や最終取りまとめにおいて積極的な貢献を行ってきました。また、本報告書には気象庁が実施してきた地球環境の観測・解析結果や地球温暖化の予測結果の論文も多く採用されました。今後、本報告書は「気候変動に関する国際連合枠組条約」をはじめとする、地球温暖化対策のための様々な議論に科学的根拠を与える重要な資料として利用されます。  本報告書には、世界平均地上気温及び深層を含む海水温の上昇、海面水位上昇、雪氷の融解等の状況から、気候システムに温暖化が起きていることに疑いの余地がないこと、人為起源の温室効果ガスの増加など人間活動による影響が20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である可能性が95%以上であることなどがまとめられました。また将来については、21世紀末(2081年から2100年)における平均気温の上昇量は、1986年から2005年までに比べ、緩和型の低位安定化シナリオでは約1.0℃(可能性が高い予測幅:0.3℃〜1.7℃)である一方、非常に高い温室効果ガス排出量となる高位参照シナリオでは約3.7℃(同:2.6℃〜4.8℃)と予測しています。  気象庁ホームページでは、IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約の日本語訳を掲載しています。(http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html) (2)日本海海洋気象センターの設立  平成25年10月1日、舞鶴海洋気象台は66年余りの歴史に幕を閉じ、地球環境・海洋部海洋気象課の組織として日本海海洋気象センターが京都府舞鶴市に新設されました。これまで海洋気象台で実施していた海洋気象業務は管区・沖縄気象台に移管され、予報業務や気候業務等との連携を深めることにより、気象防災や海洋気象の機能強化が図られます。一方で、日本海は閉鎖的な特殊な海洋であり、一括継続的に調査を行っていくことが重要であるため、日本海海洋気象センターでは、主に日本海の海洋気象業務に関する調査及び技術開発を行っています。  日本海南部の表層には、黒潮水を主な起源とし、対馬海峡を通って流入する暖かい水が広がっています。その大部分は津軽海峡を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通ってオホーツク海に流出します。この暖かい水の流れを対馬暖流と呼んでいます。冬季には、シベリアや中国大陸から、乾いた非常に冷たい北西の季節風が吹きますが、この風が日本海の上空を吹く間に海面から熱や水蒸気の補給を受けて暖かく湿った風へと変わり、雪雲が作られます。この雪雲が日本列島の脊梁山脈にぶつかり日本海側の山沿いの地方に多量の降雪をもたらします。もし、日本海がすべて陸地であったならば、冬季の日本海側の地方はもっと寒く、乾燥した気候になっていると考えられます。  このように日本海は我が国の気候に大きな影響を与えていますが、地球温暖化や、周期的な自然変動による影響などにより海面水温が上昇していることが気象庁の解析により明らかになっています。その大きさは日本海中部では100年あたり1.72℃、日本海南西部では1.26℃と見積もられていて、太平洋側も含めて日本の近海で平均した1.08℃や世界全体の海で平均した0.51℃より大きな値になっています。また、気象庁の海洋気象観測船によって1960年代より継続されている観測結果から、日本海の深層においても水温が上昇するとともに、海水に溶けている酸素の量が減少していることが分かってきました。  日本海海洋気象センターは、日本海の海面水温や対馬暖流、深層水等の変化を監視するとともに関連する海洋気象情報を発表しています。また、数値モデルの開発や検証、高潮・高波等の顕著現象のメカニズム解明に向けた調査研究を行うことによって気象庁が発表する防災情報の改善に寄与して参ります。 4.極端気象に関する最新の研究  近年、気象災害がテレビ・新聞等の報道で多く取り上げられています。特に平成25年(2013年)は、大雨、台風、竜巻等の激しい突風による災害が多く発生しました。このような気象災害につながるまれな現象を極端気象といいます。気象庁は、気象研究所を中心に極端気象に関わる様々な研究を行なっています。  その1つが平成22年度から気象庁及び気象研究所が防災科学技術研究所、東洋大学などと共に取り組んでいる「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」(TOMACS)です。TOMACSは、極端気象の発生機構を明らかにして早期に検知・予測する手法を開発し、防災・減災への実用化に向けた社会実験を行うことを目的とした研究です。局地的大雨や竜巻等の激しい現象をもたらす積乱雲を対象に、前例のない非常に密な観測や予測実験等を行なっており、極端気象の発生・発達のメカニズムの解明や予測技術の改善につながる最先端の研究として国内外から注目されています。  本研究は平成25年に国連の専門機関である世界気象機関(WMO)の世界天気研究計画が認証する国際的なプロジェクトとなり、平成25年12月4日から5日にかけて、国際ワークショップを防災科学技術研究所との共催で気象研究所において開催しました。このワークショップには、観測技術、ナウキャスト、数値予報モデル等を専門としている国内外の研究者が多く参加し、極端気象に関する最先端の研究成果や技術情報が共有されました。これらはTOMACSにとどまらず、広く極端気象に関連した研究に反映されることが期待されます。  また、理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の能力を防災・減災のために用いる文部科学省の補助金事業「HPCI戦略プログラム分野3 防災・減災に資する地球変動予測」の研究開発課題においても、気象研究所は海洋研究開発機構等と共同で集中豪雨や竜巻等の現象を高精度に予測するための研究にも取り組んでいます。  その研究の一環として、平成24年7月九州北部豪雨の予測実験を行ないました。この実験では、毎日の天気予報で使用しているものと同じ数値予報モデルを用いましたが、数値予報を行なう上で重要な要素の1つである初期値(計算を開始する際の気象の状態)を作成する手法を変えました。その結果、熊本県から大分県にかけての大雨の予測が大きく改善されました。また、初期値を微小に変化させたものを多数作成して、それぞれ数値予報を行なうことで、強い雨が降る確率を定量的に求めた場合についての検証も行われています。  ここで示した結果は、「京」の大きな計算能力を用いた研究によるもので、直ちに実用化できる訳ではありませんが、将来的な集中豪雨の予測の改善につながることが期待されます。今後、手法をさらに改良するとともに他の豪雨事例についても研究を続け、予測手法の信頼性などを調べる予定です。 コラム 地球温暖化による強い竜巻発生の将来変化  地球温暖化に伴い、日本では21世紀末の春から秋にかけて、強い竜巻が2〜3倍発生しやすくなる、との計算結果が出ました。計算には、平成19年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から発表された気温上昇予測の複数のモデル結果を用いて、そのモデルで予想された海面水温の上昇や二酸化炭素が倍増するという条件を用いました。強い竜巻とは、竜巻の強さを分類した藤田スケールでF2以上の竜巻です。  理由は、地球温暖化で海面水温が上昇し、それに伴い大気下層の温度も上昇して下層の水蒸気量が増え、積乱雲が現在より発達しやすくなると考えられるためです。 5.気象観測体制の強化  気象庁は、現行の静止気象衛星「ひまわり7号」の後継機として、「ひまわり8号」を平成26年度に打ち上げ、平成27年夏季から運用を開始する予定です。また、「ひまわり9号」を平成28年度に打ち上げて、平成29年度には2機体制での運用を開始する予定です。  現在の「ひまわり」では30分ごとに観測を行いますが、次期衛星では10分ごとに東アジア・西太平洋地域の全範囲を観測し、それと並行して日本域や台風付近などの領域を2.5分ごとに観測します。また、画像の解像度も2倍に向上し、画像の種類も現行の5種類から16種類へ大幅に増加します。これにより、台風や大雨をもたらす積乱雲の状況を、より詳細かつ早期に捉えることができます。  例えば、連続で観測した画像から雲や水蒸気の動きを捉えて、上空の風の分布を算出することができますが、短い時間間隔で観測した画像を利用することで、よりきめ細かく精度よく風を算出する技術を開発しています。下に示す左図は現行衛星の通常の観測データ、右図は現行の待機衛星「ひまわり6号」により特別に5分ごとに観測したデータから算出した台風付近の風の分布です。右図の方が、きめ細かい風の分布が得られていることが分かります。こうした新たなデータは、台風の進路予測などの精度向上に役立つと期待されています。 (2)上空の風を観測するウィンドプロファイラの更新整備  気象庁は、上空の風向・風速を測定する観測装置であるウィンドプロファイラを全国33か所に設置し運用しています。平成25年度に機能向上及び老朽化対策として平成23年度に整備した2か所(仙台・若松)を除く31か所の装置を更新しました。  平成25年度に更新した装置は、電波の送信電力が大きくなり、より上空の風を観測することが可能になりました(下図「ウィンドプロファイラの観測例」参照)。  ウィンドプロファイラで得られる観測データは、数値予報に利用され、局地的大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。また、台風や前線に伴う強風などの監視にも役立てられています。全国33か所のウィンドプロファイラでより上空の風を連続的に観測することで、豪雨や豪雪などの局地的な気象災害の要因である「湿った空気(湿度が高い空気)の流れ」を捉え、数時間先の大雨の予測の精度向上に大きく寄与するものと期待されます。  また、鉛直方向に風が大きく変化している所では乱気流が発生する可能性があるため、上空の風に関する情報を航空関係者に提供しています。観測能力が向上したウィンドプロファイラから得られる観測データの重要性は、ますます高まっています。 6.火山災害対策のいま (1)富士山の火山防災対策の動き ア.富士山火山防災対策協議会の設立  富士山は宝永4年(1707年)に大噴火し、大量の火山灰により家屋の倒壊や農地が耕作不能となるほか、江戸(東京)をはじめ関東の広範囲に降り、長期にわたって土石流が続くなど、大きな被害をもたらしました。  その後約300年間、噴火は発生していませんが、平成12年(2000年)から平成13年(2001年)に山体直下の深部で低周波地震が多発する活動があったことで、富士山が改めて活火山であると認識され、富士山の噴火に備えた火山防災対策の検討が始まりました。平成16年(2004年)に国等防災機関が「富士山火山防災マップ」を作成し、平成18年(2006年)に中央防災会議で「富士山火山広域防災対策基本方針」が公表され、防災対策の基本的な方針がまとめられました。また、平成19年(2007年)に気象庁は段階的な防災行動に対応する噴火警戒レベルの運用を開始しました。  このような検討の進展を踏まえて、山梨県、静岡県及び神奈川県の三県では、富士山の噴火で広域的な住民避難が必要になることから、平成24年(2012年)6月に三県、国及び関係市町村等で構成する「富士山火山防災対策協議会」(以下、協議会)を設置し、具体的な避難計画等の検討を開始しました。 イ.協議会の事業計画  協議会では、「計画」、「訓練」、「啓発」の3つの事業を行うこととしています。「計画」では、「富士山火山広域防災対策基本方針」を基に、降灰や小さな噴石、融雪型火山泥流などの新たな知見を加えた、避難等の基本的な考え方を広域避難計画にとりまとめ、平成26年(2014年)2月に公表しました。具体的な対策は、今後検討が行われます。また、国・地元防災関係機関による現地での合同会議の運営についても検討されています。「訓練」を、広域避難計画の実効性を検証するために行うこととしています。平成26年(2014年)10月には三県、協議会構成機関及び地元住民による合同訓練が予定されています。「啓発」では、三県の自治体職員を対象とした火山災害に関する専門的な研修を行うことなどを検討しています。 ウ.広域避難計画の概要  広域避難計画は、「富士山火山広域防災対策基本方針」を基に、噴火発生が予想される場合は、「第1次・第2次避難対象エリア」を「警戒が必要な範囲」として、噴火警戒レベル3(入山規制)又は、4(避難準備)を発表し、このエリアの住民等は避難準備等の防災対応を行います。噴火が発生した場合は「第3次避難対象エリア」までを「警戒が必要な範囲」として、噴火警戒レベル5(避難)が発表され、第1次から第3次までの避難対象エリアの住民等は避難することになります。特に溶岩流では、噴火口の位置が確認され、溶岩流の流域を特定出来る場合には、山肌の起伏から「第1次〜第3次避難対象エリア」を溶岩流の流域を17に区分した「ライン」を特定し、溶岩流の状況に応じて、段階的に避難対象地域を拡大することになります。 エ.他火山の火山防災の取り組みへの波及効果  富士山の広域避難計画は、静岡・山梨・神奈川三県の広範囲に渡る大勢の住民を対象とするもので、世界に類を見ない壮大なものとなります。富士山の避難計画をモデルとして、各火山でも大規模な噴火の備えとして具体的な避難計画策定へ向けた取り組みの進捗が期待されます。 コラム 富士山が噴火したときの火山灰はどこへ?  気象庁では、火山灰による被害を防止・軽減するため、平成20年3月から、広範囲に降灰の影響があると推定される火山噴火が発生した場合に降灰予報を発表しています。また、内閣府の広域的な火山防災対策に係る検討会は、平成25年5月に大規模火山災害対策への提言をしました。  気象研究所では、宝永噴火と呼ばれる宝永4年(1707年)に富士山で発生した大規模噴火と同じ規模の噴火が発生したときの降灰分布をシミュレートしました。  冬は上空を流れる偏西風の影響を強く受けるため、他の季節と比べて短時間で火山灰が関東地方へ到達し、富士山の東側にあたる静岡県東部、神奈川県を中心に大量の火山灰が積もる予測結果となりました。この結果は、冬に発生した宝永噴火当時の降灰分布と似ています。  一方、夏は上空を流れる偏西風が弱まり、さらに台風などの季節特有の現象の影響で、降灰は冬場とは反対の方向に広く拡散される結果となりました。  これらは一つの例であり、噴火時の風向風速によって降灰の分布が大きく変わるため、そのときの風向風速を考慮して降灰予報を発表する必要があります。  このような降灰シミュレーションの結果は、火山防災計画の検討に活用され、住民の避難行動を助けることへの貢献が期待されています。 (2)降灰予報の高度化 ア.降灰予報とその改善  火山の噴火による降灰は広い地域に様々な被害や影響を及ぼします。気象庁では、これら降灰による被害を防止・軽減するため、平成20年(2008年)3月から降灰予報を発表しています。  現在の降灰予報は、6時間先までの降灰予想範囲を提供するもので、降灰量の情報は含まれていません。火山の噴火による降灰の被害については、建物倒壊、交通障害、ライフラインや農林・水産業への被害、呼吸器系疾患など多岐にわたり、被害の程度も分野ごと降灰量ごとに異なることが知られています。このため、降灰量の予報は防災上、必要なものになっています。  近年、気象庁気象研究所による降灰の量的予測の研究が進む等、降灰量の予測に向けた技術的な進展が図られつつあることから、気象庁では降灰予報を高度化し、降灰量の予測を含めた降灰予報(量的降灰予報)の運用に向けて、準備を進めています。  平成24年(2012年)に、浅間山、霧島山及び桜島周辺等の近年降灰を経験している人を対象とした降灰予報のニーズ調査を行い、また、有識者と関係機関から構成される「降灰予報の高度化に向けた検討会」を設置して、降灰予報を防災情報として適切な内容とするため、降灰予報としての方向性について提言をいただきました(「降灰予報の高度化に向けた提言」(http://www.jma.go.jp/jma/press/1303/29a/teigen.pdf))。 イ.量的降灰予報  提言をいただいた量的降灰予報の特徴は以下のようなものです。 @ 降灰予報は、噴火の前後や時間経過に応じて求められる内容が異なることから、噴火のおそれがある火山周辺の住民が計画的な対応行動をとれるようにするための“噴火前の情報”、火山近傍の住民が噴火後すぐに降り始める降灰や小さな噴石に対する対応行動をとれるようにするための“噴火直後の速報”、火山から離れた地域の住民も含め降灰量に応じた適切な対応行動をとれるようにするための“噴火後の詳細な予報”の3種類の情報として発表します。 A 降灰予報は、降灰量が社会活動に影響があると予想された場合に発表する必要があることから、噴火後の予報は、予想される最大降灰量が基準値を超えた場合に発表し、風に流されて降る小さな噴石の落下範囲の予測も盛り込みます(現在の降灰予報は、降灰量の予測ができないことから、一定以上の噴煙高度が観測された場合に発表しています。) B 降灰量の状況、その影響、必要な対応行動をわかりやすく住民へ伝えるために降灰量の階級を導入します。  気象庁では、量的降灰予報の発表に必要なシステム整備を行い、平成26年度中の運用開始を目指しています。この運用開始に向けて、噴火活動の活発な桜島をモデルケースとして、地元自治体等の協力を得て情報の試験的な提供を行うとともに、情報内容や発表基準等の改善を図っています。 7.フィリピンの台風第30号による高潮災害とフィリピン気象局への技術支援  平成25年(2013年)11月4日9時(日本時間)にミクロネシア・チューク諸島の南で発生した台風第30号は、西に進みながら次第に勢力を強め、7日21時にはフィリピンの東の海上で中心気圧が895ヘクトパスカルまで発達しました。8日にはフィリピンを横断して南シナ海へ抜け、同国の各所に甚大な被害をもたらしました。  フィリピンでは、フィリピン大気地球物理天文庁(Philippine Atmospheric, Geophysical and Astronomical Services Administration:PAGASA)が、気象観測・予報や警報などを通じた自然災害の軽減や国民生活の向上などの責務を負っています。一方、気象庁は、世界気象機関(WMO)の枠組みの下で北西太平洋の熱帯低気圧に関する地区特別気象中枢(RSMC)に指名され、PAGASAをはじめとする域内の国家気象機関が行う熱帯低気圧の解析・予報業務を支援するために、台風の解析・予報、気象衛星画像、数値予報資料、高潮予測資料などの即時情報の提供を行ってきています。さらに、台風第30号のフィリピンへの接近に際しては、PAGASAに対して高潮予測の専門家による技術的助言などの臨時対応を行いました。  台風の接近などに際して的確な気象警報・情報を発表し、それらが防災活動に有効に活用されるようにするためには、平時から開発途上国等の気象機関の能力向上を図ることが重要です。このため当庁では、国際協力機構(JICA)とともに実施する集団研修「気象業務能力向上」やWMOのRSMCとして毎年実施している予報官研修に、これまでにPAGASAよりあわせて20名近い研修生を受け入れてきたほか、気象庁の高潮予測モデルを提供して必要な訓練を実施するなど、PAGASAの技術力向上を支援してきました。このような技術協力の成果として、今回PAGASAでは気象庁が提供した高潮予測モデルを活用して台風第30号に対する高潮予測を行い、同庁の情報発表に活用されました。それにもかかわらず大きな被害が生じたことから、フィリピンが得た経験と教訓についてWMO等が進める調査に、当庁も専門家の派遣などを通じて協力していきます。  この他に、日本はJICAを通じ、気象レーダー等の無償供与や専門家の派遣等の技術協力プロジェクトをPAGASAに対して実施しており、当庁はこのような支援に専門家の立場から協力しています。気象庁は、PAGASAをはじめとする開発途上国の気象機関に対し、今後とも同様の取り組みを通じてその業務や能力向上を支援し、各国での気象災害の軽減に貢献していきます。 8.雪の予報の難しさについて  平成26年(2014年)2月の関東甲信地方は、8日から9日、14日から15日と短期間の間に2回の記録的な大雪となりました。1回目の大雪では千葉市で33センチと観測記録を更新する積雪深となり、2回目の大雪では甲府市114センチ、前橋市73センチ、熊谷市62センチなど関東甲信地方の各地で観測記録を更新する積雪深となりました。  どちらの大雪も「南岸低気圧パターン」とよばれる気象状況によって発生したものですが、「南岸低気圧パターン」では気温のわずかの差により、雨になるか雪になるか、雪となっても積雪が増えるか増えないかが変わるため、雪の予報は難しくなります。  東京(大手町)では2回の大雪で、積雪の深さの最大値がまったく同じ27センチとなりましたが、実況経過を見ながら2回の大雪の間にどのような違いがあったのか比較してみます。左図は1回目の大雪、右図に2回目の大雪についての東京(大手町)の1時間降水量、1時間降雪量、気温のグラフです。ここで、1時間降水量は雪と雨を併せて雨に換算したら何ミリになるか、1時間降雪量はその前の1時間で積雪深が何センチ増えたかということを意味しているものです。  2月8日の雪は気温がほぼ氷点下で降っており、降水量1ミリが積雪1センチの増加をもたらすような状況となり、総降水量31ミリで積雪の深さの最大値が27センチとなっています。このときの雪は地面に積もった雪が風に吹かれて舞い上がるような軽い雪となっていました。  一方、2月14日から15日の場合は、8日に比べ気温はやや高い状況で、総降水量96ミリで、積雪の深さの最大値が27センチとなっています。雪が降った期間は14日5時過ぎから15日2時ごろまでで、以降は雨となっています。もともと比較的気温が高いときに降る雪は水分を多く含んでいるため「湿った重い雪」となりやすいことに加え、15日の関東地方では明け方ごろから雪が雨に変わったため、積もった雪が雨を吸い込みシャーベット状となったことで一段と重さが増加しました。このため、車庫やビニールハウスなどは屋根に水を多く貯めたのと同じ状態になり、重さに耐え切れずに倒壊した被害が多く発生しました。  ところで、雪の予報を行う際に考えなければならない気象条件は、大きくわけて3つあります。  1つ目の条件は、雪のもととなる降水をもたらす雪雲が流れ込んでくるか、あるいは発生するかということです。日本海側では寒気が日本海上空を渡って来る際に、海面から発生する水蒸気を材料に雪雲を発生させることによって雪が降りますが、その雪雲は山地にさえぎられて太平洋側には流れ込みにくいため、太平洋側に雪をもたらす雪雲の多くは南の海上を通過する低気圧によってもたらされます。南側の沿岸部を通る低気圧という意味で「南岸低気圧パターン」という表現が用いられています。  2つ目の条件は、地上から上空までの全層で気温が低いかどうかということです。夏場の一時期を除き、上空の雲の中での降水は一般に雪です。この雪が解けずに地上まで届くと雪になり、落下してくる途中に0℃以上の暖かい空気の層があるとそこで解けて雨となります。雪が解ける際に周囲の空気を冷やす効果もありますので、南岸低気圧で雪が降るかどうかという状況においては気温の予想はかなり難しいものがあります。14日の例では気温が1℃程度では積雪はなかなか増えず、0.5℃以下になると積雪が毎時間増えていますが、少し気温が上がり0.5℃を超えるようになると雪が雨に変わっています。  3つ目の条件は、雪雲からの降水の量が多いか少ないかということです。低気圧の発達、進路やスピードが降水量に影響し、多い場合は大雪となる可能性が高くなりますし、少ないとそうはなりません。  気象庁においては、予報官がこれらの気象条件について、多くの資料を分析して総合的に判断を行っています。大雪が予想される場合には、事前に「大雪に関する気象情報」等の発表を行い、大雪の可能性が高くなってきたときには、大雪注意報、大雪警報の発表を行って皆様に注意や警戒を呼びかけ、さらに状況に応じて気象情報を発表して状況を解説しています。先に説明したように、南岸低気圧に伴う大雪の予想には技術的にいろいろと難しい面がありますが、今後も予報精度を向上させるため取り組みを続けていきます。 第1部 気象業務の現状と今後 第1章 国民の安全・安心を支える気象情報 1.気象の監視・予測 ア.特別警報・警報・注意報などの防災気象情報  気象庁は、大雨や暴風、高波などによって発生する災害の防止・軽減を目指し、特別警報や警報、注意報などの防災気象情報を発表しています。さらに、情報の内容や発表タイミングの改善に向け常に防災関係機関や報道機関との間で調整を行い、効果的な防災活動の支援を行っています。 ◯防災気象情報の種類と発表の流れ  都道府県や市町村等の自治体や国の防災関係機関が適切な防災対応をとることができるよう、また、住民の自主避難等の判断に資するよう、発生するおそれがある気象災害の種類や程度に応じて特別警報・警報・注意報を発表します。また、顕著な現象の発生する1日ないし数日前から気象情報を発表し、現象の予想や観測データについても随時、気象情報を発表して、気象状況を解説します。特別警報・警報・注意報及びそれらを補完する気象情報には、以下のようなものがあります。 ○特別警報・警報・注意報 ・特別警報・警報・注意報の種類  現在、気象等に関する特別警報は6種類、警報は7種類、注意報は16種類あり、発表されることの多い時期で分けると、概ね次のようになります。 ・警報・注意報の年間を通じた発表回数の割合  それぞれの警報・注意報について、年間の発表回数に占める季節ごとの割合でみると次のようになります。 ・警報等の発表区域と発表基準  警報等は、市町村長が行う避難勧告等の防災対応の判断や住民の自主的な避難行動をよりきめ細かく支援するため、市町村ごとに発表しています。災害の特性は地域によって異なることから、警報等のそれぞれの種類や対象区域ごとに災害と雨量などの関係に基づき発表基準を定めています。そのなかでも、特別警報の基準は、数十年に一度という極めて希で異常な現象を補捉するよう定めました。  また、大規模な地震の発生により地盤が脆弱となっている可能性の高い地域や、火山噴火により火山灰が堆積した地域、大雨等により大規模な土砂災害が発生した地域の周辺では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなりますので、都道府県などと調整の上、大雨警報などの発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。例えば、平成25年台風第26号や「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」により、大雨警報・注意報の基準を引き下げて運用した市町村がありました。 ・大雨に関する警報等の特徴  大雨に伴い警戒が必要な土砂災害や浸水害に対しては大雨の警報等を、洪水害に対しては洪水の警報等を発表します。さらに大雨特別警報や大雨警報では、主に警戒を要する災害が標題からわかるよう「大雨特別警報(土砂災害)」、「大雨警報(浸水害)」のように発表しています。警報や注意報では、発表状況や警戒すべき事項、予想される気象状況に関する量的な予報事項などを簡潔に記述しています。特に、予想される気象状況については、現象の開始時刻、終了時刻、ピーク時刻、最大値などを箇条書きで記述しています。注意報から警報に切り替える可能性が高いときには、前もって注意報の中で、「○○(いつ)までに××警報に切り替える可能性がある」と明示しています。 ○土砂災害警戒情報  土砂災害警戒情報は、都道府県と気象台が共同で発表する情報で、大雨警報(土砂災害)等が発表されている状況で、大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう市町村ごとに発表します。 ○土砂災害警戒判定メッシュ情報  土砂災害警戒判定メッシュ情報は、実況及び予測に基づいて、2時間先までの土砂災害の危険度を5キロメートルメッシュ毎に階級表示した分布図です。この分布図により、土砂災害発生の危険度の高い地域をおおよそ把握することができます。  避難勧告、自主避難等の判断に際しては、この情報だけでなく、土砂災害警戒区域なども合せて、総合的に判断する必要があります。  なお、利用にあたっては、土砂災害警戒情報や大雨警報(土砂災害)等は気象状況等を総合的に判断して発表しており、これらの発表状況と一致しない場合があることに留意して下さい。 ○指定河川洪水予報  防災上重要な河川について、河川の増水や氾濫に対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、国が管理する河川は国土交通省水管理・国土保全局と気象庁が、都道府県が管理する河川は都道府県と気象庁が、共同して指定河川洪水予報を発表しています。気象庁は気象(降雨、融雪など)の予測、水管理・国土保全局や都道府県は水文状況(河川の水位または流量)の予測を担当して、緊密な連携のもとで洪水予報を行っています。洪水予報の標題は、洪水の危険度の高い順からそれぞれ「はん濫発生情報」「はん濫危険情報」「はん濫警戒情報」「はん濫注意情報」を河川名の後に付加したものです。また、洪水の危険度と水位を対応させて数値化した水位危険度レベルを情報に記載するなど、わかりやすい情報を目指しています。 ○台風情報  台風がいつ頃どこに接近するかをお知らせするのが「台風情報」です。この情報は、様々な防災対策に利用できるよう、台風が我が国に近づくにつれてきめ細かく頻繁に発表します。  気象庁は台風を常時監視しており、通常は3時間ごと(00、03、06、09、12、15、18、21時)に台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と最大3日先までの予報を、観測時刻の約50分後に発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。更に、3日先以降も台風であると予想される場合には5日先までの進路予報を6時間ごと(03、09、15、21時)に行い、観測時刻から約90分後に発表します。  台風の勢力を示す目安として、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」を表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)、「強さ」は最大風速を基準にして表現を使い分けています。  台風が我が国に近づき、被害のおそれが出てきた場合には、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、72時間先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 ○(全般・地方・府県)気象情報  低気圧や前線などの災害をもたらす原因となる気象の状況と今後の推移、雨・風などの観測の実況と今後の見通し、防災活動上の留意事項などを「気象情報」(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点をわかりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても「気象情報」(「高温に関する気象情報」など)として発表します。 ○記録的短時間大雨情報  現在の降雨がその地域にとって希な激しい現象であることを周知するため、数年に一度の猛烈な雨を観測した場合に「記録的短時間大雨情報」を府県気象情報として発表します。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、降水ナウキャスト)  「解析雨量」は、雨量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1キロメートル四方の細かさで解析し、30分間隔で発表します。  「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱や数値予報の予測雨量などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測し、30分間隔で発表します。  さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな予測情報を提供するのが「降水ナウキャスト」です。気象レーダー観測と同じ5分間隔で、1時間先までの5分ごとの降水強度を、1キロメートル四方の細かさで予測し、発表します。 ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 ・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。「竜巻発生確度ナウキャスト」は、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10〜60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。「竜巻発生確度ナウキャスト」を利用することにより、竜巻が発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況を詳細に把握することができます。竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた県などには「竜巻注意情報」を発表します。この段階では既に竜巻が発生しやすい状況ですので、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。「雷ナウキャスト」は、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10分〜60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1〜4で表します。このうち活動度2〜4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。 コラム 目撃情報を活用した竜巻注意情報の改善について 気象庁では、平成26年度に、目撃情報を活用した竜巻注意情報の発表を開始する予定です。  竜巻注意情報は、竜巻が起こりやすい気象状況になっていることを知らせ、注意を喚起するための情報です。竜巻は非常に局地的な現象であるため、気象レーダー等の観測網では竜巻そのものを捉えることは困難です。そのため気象庁では、気象レーダー等の観測データを用い、竜巻等の突風を起こしやすい積乱雲の特徴であるメソサイクロン(※)を監視するとともに、竜巻が起こりやすい大気の状態を表す指標を数値予報から計算し、両者を組み合わせて竜巻発生の可能性を予測することで竜巻注意情報の発表を行っています。  気象庁では、平成25年9月に埼玉県などで発生した竜巻災害を受けて開催された竜巻等突風対策局長級会議において、竜巻の目撃情報を活用した竜巻注意情報の改善方策について検討を行いました。  竜巻を目撃したという確かな情報が得られたならば、目撃された竜巻への注意喚起に利用することができるように思われるかもしれませんが、日本の竜巻は寿命が短いため、多くの場合目撃された竜巻そのものに対しての注意や避難に役立てることは困難です。  しかし、過去の事例を検証した結果、一度竜巻が発生すると、数時間以内に周辺で別の竜巻が発生することが比較的多く、目撃情報を活用して発表した時の竜巻注意情報は、目撃されてから10分程度で竜巻注意情報を発表できると仮定すると、通常の発表に比べ3倍程度高い適中率(約15%)となることがわかりました(「竜巻等突風対策局長級会議」報告別添6 平成25年12月)。このように、目撃情報を基に情報を発表できれば、次に発生する竜巻への備えに有効な情報になります。  このため、気象台が竜巻の目撃情報を受けた場合には、竜巻の発生地域を一次細分区域(県を2〜7に分割した区域)で明示した竜巻注意情報を発表し、次の竜巻が発生する可能性が一層高まっていることを伝え、注意を喚起することを平成26年度に開始する予定です(「竜巻等突風対策局長級会議」報告別添5 平成25年12月)。  竜巻は監視や予測が困難な現象ですが、引き続き監視・予測技術の開発や更なる情報の改善に取り組んでいきます。 ※メソサイクロン: 発達した積乱雲中に発生する直径数キロメートルの空気の渦 イ.天気予報、週間天気予報、季節予報  天気は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいかや、週末に予定している旅行はどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。 ○天気予報  今日から明後日までの天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の三つの種類があります。  「府県天気予報」は、一日の天気をおおまかに把握するのに適しています。  「地方天気分布予報」は、天気などの面的な分布が一目でわかるので、例えば府県天気予報で「曇り時々雨」となっていた場合、雨がどの地域でいつごろ降るのかといったことを把握するのに適しています。  「地域時系列予報」は、ある地域の天気や気温、風の時間ごとの移り変わりを知るのに便利な予報です。 ○週間天気予報  週間天気予報は、発表日の翌日から1週間先までの毎日の天気、最高・最低気温、降水確率を、1日2回、11時と17時に発表しています。週間天気予報のような先の予報になると、今日や明日の予報に比べて予報を適中させることが難しくなります。このため週間天気予報では、天気については信頼度を、気温については予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の降水の有無について、「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表し、予報の確度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。気温の予測範囲は、「24℃〜27℃」のように予想される気温の範囲を示しており、実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。これらの情報によって、例えば同じ晴れ時々曇りという予報でも、どれくらいの確度の予報かを知ることができます。 ○季節予報  季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予測する異常天候早期警戒情報、1か月先まで予測する1か月予報、3か月先までを予測する3か月予報、6か月先までを予報する暖・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、予報区単位で予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。なお、「異常天候早期警戒情報」は、2週間程度先までの7日間平均気温や7日間降雪量が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表されます。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また地方季節予報で用いる予報区分は図の通りです。 コラム 大雪に関する異常天候早期警戒情報の開始  「異常天候早期警戒情報」が対象とする現象として「大雪」を平成25年11月より追加しました。  本情報は、日本海側の地方を主な対象としており、概ね1週間後からの7日間に、冬型の気圧配置に伴って数日以上にわたって雪が多く降り続くと予想される場合に発表します。この発表基準は、「その期間」において「10年に1度」程度の降雪量になる可能性が大きい場合ですが、情報を検討する「その期間」が冬の期間に26回ほどあるため、冬の期間中に平均して2〜3回は本情報が発表されることになります。  本情報が発表されると10例中8例程度は平年より多い降雪量となりますので、道路や屋根雪等の早期の除雪や排雪の実施や事前準備の策定、農業施設の補強や枝折れ防止など、さまざまな雪害に対する対策に役立てていただきたいと考えています。 コラム アパレル・ファッション業界における気候リスク管理  気象庁では気候の影響を受けやすい産業分野での1か月予報などを活用した気候リスク管理(猛暑や寒波などによって受ける影響を軽減あるいは利用すること)を促進するため、利用者との連携により気候リスク管理の成功事例を創出し、普及させる取り組みを行っています。  昨年度は、(一社)日本アパレル・ファッション産業協会(以下、JAFIC)の協力を得て、アパレル・ファッション分野における調査を行いました。アパレル分野は気候の影響を受けやすいものの、その定量的な評価は行われていませんでした。今回の調査で販売数と気象との関係を分析したところ、コート・ニット帽・サンダル・肌着などの様々な商品で、販売数が大きく伸びる気温があること、週程度の気温の上下動に応じて販売数が変動すること、近年の9月の残暑の影響が秋物衣料の販売に大きな影響を与えていること、販売シェアと気温の変動に明瞭な関係が見られること、などが確認されました。また、これらの分析結果に基づいた2週間程度先の気温予測を利用した対策について、過去数年間の実際の予測事例を用いた検討を行いました。その結果、例えばロングブーツは平均気温20℃付近で売り上げが伸び始める関係が見られることから、2週間先に20℃を下回る可能性が高いことが予想された場合には、@ブーツの供給や店舗展開を積極的に実施する、A色やサイズなどの欠品をなるべくしないよう、こまめな在庫補充を行う、B商品の必要な気温になる予報が出ていることを客にわかりやすく説明するなど、アパレル側の担当者から店頭での販売促進を中心とした実施可能な対応策が示されました。すでに、このような取り組みを実際に強化したアパレル会社もあります。  今後、本調査結果の普及のために、引き続きセミナーを実施するとともに、他分野でも同様の調査も行い、多くの分野での気候リスク管理の成功事例の創出と普及を図っていきます。 ウ.船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められます。  このため、日本近海や外洋を航行する船舶向けに、海上における風向・風速、波の高さ、海面水温、海流などの予報や強風・濃霧・着氷などの警報を、通信衛星(インマルサット)による衛星放送、ナブテックス無線放送、NHKラジオ(漁業気象通報)などにより提供しています。 ○日本近海に関する情報  日本の沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12に分けた海域ごとに、低気圧などに関する情報とともに、天気や風向・風速、波の高さなどの予報、強風・濃霧・着氷などの警報を発表しています。これらの予報や警報などは、地方海上予報や地方海上警報として、ナブテックス無線放送(英文・和文放送)によって日本近海を航行する船舶に提供しています。ナブテックス無線放送では、これらの予報や警報に加えて、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  主に日本近海で操業する漁船向けには、台風、高・低気圧、前線などの実況と予想、陸上や海上における気象の実況情報を、漁業気象通報としてNHKラジオを通じて提供しています。また、天気概況や気象の実況情報、海上予報・警報などを、漁業無線気象通報として漁業用海岸局を通じて提供しています。  さらに、海上の警報の内容も記述した実況天気図や、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想も記述した予想天気図(海上悪天24時間予想図、同48時間予想図)、台風(120時間先までの進路予報及び72時間先までの強度予報)、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況や予想などの図情報を、短波放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)により提供しています。 ○外洋に関する情報  「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、気象庁の責任分担海域である北西太平洋(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象に、緯度・経度で地域を明示して、低気圧や台風に関する情報とともに海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。 エ.その他の情報 ○光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  晴れて日射が強く、風が弱い等、光化学スモッグなどの大気汚染に関係する気象状況を、都道府県に通報しています。また、光化学スモッグが発生しやすい気象状況が予想される場合には、「スモッグ気象情報」や翌日を対象とした「全般スモッグ気象情報」を、広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 ○熱中症についての注意喚起  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。 (2)気象の観測・監視と情報の発表 ア.アメダス(地域気象観測網)  気象台や測候所では気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。これらの気象官署を含めた全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)として、降水量を観測しています。このうち約840か所では、降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間の観測を、また、豪雪地帯などの約320か所では積雪の深さの観測を行っています。 イ.レーダー気象観測  全国20か所の気象レーダーによって降水の観測を行い、大雨警報などの気象情報の発表に利用しています。気象レーダーは、パラボラアンテナから電波を発射し、雨などによって反射された電波を受信することにより、どの位置にどの程度の強さの降水があるかを把握することができます。各地のレーダーの観測結果を組み合わせることにより、日本の陸域とその近海における降水の分布と強さを5分ごとに観測しています。また、降水の分布と強さに加え、電波のドップラー効果を利用して風で流される雨粒や雪の動きを観測できるドップラー機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の高度15キロメートルまでの詳細な風の分布の把握も行っています。 ウ.高層気象観測  低気圧などの大気の諸現象は、主に、地上から十数キロメートル上空までの対流圏において発生しています。また、その上にある成層圏において発生する現象も、対流圏の気象現象に大きく関連しています。気象庁では、これら上空の気象現象を捉えるため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30 キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風について観測しています。  高層気象観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、高層気象観測の観測資料は対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。 エ.ウィンドプロファイラ観測  ウィンドプロファイラは地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱してはね返ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を10分毎に300メートルの高度間隔で連続して観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。ウィンドプロファイラで得られる観測データは、数値予報に利用されるほか、実況監視にも利用されており、局地的大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。  平成25年度には、全国31か所の機器の更新整備を行い、観測機能の向上を図りました(43ページのトピックス5(2)を参照)。 オ.静止気象衛星観測  我が国は、現在まで35年以上にわたって、静止気象衛星「ひまわり」による気象観測を行ってきました。平成22年(2010年)7月からは「ひまわり7号」による観測を実施しています。  静止気象衛星の最大の利点は、同じ地域を常時観測できるという点です。東経140度付近の赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道にあって、地球の自転周期に合わせて周回することにより、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を、24時間常時観測することができます。特に観測地点が少ない洋上の台風の発生・発達の監視に不可欠の観測手段です。  「ひまわり」の観測データは、大雨・突風をもたらす積乱雲の監視にも利用されています。下図は現行の待機衛星「ひまわり6号」により特別に5分ごとに観測した画像ですが、数十分の間に山形県付近で積乱雲が急激に発達する様子がよく分かります。  右上の図の「ひまわり」画像では、白い雲のほかに、朝鮮半島の西の海上に灰色の部分(青い丸で囲った部分)が見られますが、これは大陸から飛来している黄砂を捉えたものです。  右下の図の「ひまわり」画像では、オホーツク海に白い流氷が見られます。連続で観測した画像を解析することで、流氷の動きを捉えることができます。図の例では、流氷がオホーツク海を南下して、北海道に向かってくる様子が分かります。  このほかにも、衛星観測データは上空の風の分布の算出、海面水温の監視、上空の火山灰の監視などに幅広く利用されています。また、「ひまわり」の観測データは、アジア・太平洋を中心とした世界各国の気象機関でも利用されています。  「ひまわり」にはデータを中継する通信機能もあり、国内外の離島などに設置された観測装置の気象データや潮位(津波)データ、国内主要地点の震度データなどの収集に活用されています。  気象庁は、次期衛星として、「ひまわり8号・9号」をそれぞれ平成26年度(2014年度)、平成28年度(2016年度)に打ち上げることを計画しています(トピックス5「気象観測体制の強化」参照)。次期衛星では観測機能が大幅に向上するため、台風の状況や大雨・突風をもたらす積乱雲の状況を、より詳細かつ早期に捉えることができると期待されています。気象庁では、次期衛星で得られる観測データの利用技術についても開発を進めているところです(第1部第2章第2節(3)「次期静止気象衛星の打ち上げに向けた技術開発(129ページ)」参照)。 カ. 潮位・波浪観測  気象庁では、高潮・副振動・異常潮位及び高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。  一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 (3)異常気象などの監視・予測 ア.異常気象の監視  気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  気象庁では、世界中から収集した観測データ等をもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を監視して、極端な高温・低温や大雨・少雨などが観測された地域や気象災害について、週ごとや月ごと、季節ごとにとりまとめて発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらした異常気象が発生した場合は、特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表し、気象庁ホームページでも公表しています。 例えば、平成25年は、5月〜6月上旬のヨーロッパの大雨に関する情報等を発表しました。  さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会(写真)を開催し、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。例えば、平成25年は、夏の日本の極端な天候に関する臨時の異常気象分析検討会を9月2日に開催し、分析結果を発表しました(34ページのトピックス2を参照)。 イ.エルニーニョ・ラニーニャ現象の監視と予測  エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の中央部から南米ペルー沿岸にかけての広い海域で、海面水温が平年より高い状態が、数年おきに半年から一年半程度続く現象です。一方、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象をラニーニャ現象と呼びます。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態が日本や世界の天候に影響を与えていることが、近年明らかになってきました。  気象庁では、エルニーニョ・ラニーニャ現象や、西太平洋熱帯域・インド洋熱帯域の海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 (4)気象庁の基盤情報システムとインターネットを通じた情報発信  気象庁では、国内外の関係機関から気象などの観測データを収集し、これを解析、予測することで、特別警報・警報・注意報などの防災気象情報を作成し、防災関係機関や報道機関を通して広く国民に伝達しています。観測データの収集や情報伝達、解析や予測には気象資料総合処理システム(COSMETS)を使用しています。気象資料総合処理システムは解析や予測を担うスーパーコンピュータシステムと通信機能を担う気象情報伝送処理システムの2つのシステムで構成されています。スーパーコンピュータシステムは、世界各地の観測データ、気象衛星(ひまわり)の観測データなどを使って気圧や気温など大気の状態を詳しく解析し、さらに解析結果から物理法則に基づくモデル計算により大気の今後の変化を予測します。気象情報伝送処理システムは、最新の地上・高層気象観測や気象レーダー観測のデータ、沿岸波浪計や潮位計、船舶などによる海洋観測のデータ、震度観測データなどのほか、都道府県などが行う雨量観測や震度観測などのデータを収集しています。また、世界の気象機関が協力して運用する全球通信システム(GTS)の通信中枢として関係国と観測データの交換を行っています。これらの観測データ、解析・予測の情報、地震・津波や火山に関する情報を、国内の気象官署や防災関係機関、外国の気象機関などに提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間の気象事業者や報道機関などに提供しています。各気象台との情報伝達経路となる国内の基盤通信網の2重化に加え、東日本と西日本にそれぞれ中枢を持つ気象情報伝送処理システムの相互バックアップ機能により、大規模災害時にも安定して各種観測データの収集や予報、防災情報などの伝達を継続できるように信頼性の向上を図っています。 ○WMO情報システム(WIS)  WMO情報システム(WIS:WMO Information System)は、気象に関するデータやプロダクトなどの情報を国際的に効率よく交換・提供するために、WMOが新たに構築中の基盤情報網です。従来のGTSに各種気象情報を統合し、統一された情報カタログを整備することで検索やアクセスが容易になり、気象情報の有効活用が図られています。  WISは、中核となる全球情報システムセンター(GISC:Global Information System Centre)、各種気象情報を提供するデータ収集作成センター(DCPC:Data Collection or Production Centre)、各国気象局など(NC:National Centre)から構成され、気象庁はWMOからGISCと8つのDCPCに指名されています。  気象庁は、世界中のデータやカタログの管理・交換を行うGISCの運用を、世界に先駆けて平成23(2011)年8月から開始しました。その後平成24(2012)年12月までに中、独、英、仏のGISCが運用を開始し、将来的には15ヶ所のGISCでWMO各地区をカバーする計画となっています。  気象庁は第地区のカンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスおよび第」地区ながら台風などで連携の強いフィリピンをGISC東京の責任域国とし、WISに関する技術支援を積極的に行い、国際貢献と我が国の国際的プレゼンスの向上を図っています。 ○気象庁ホームページ  気象庁ホームページ*では、気象庁の組織や制度の概要、広報誌などの行政情報をはじめ、気象の知識などの情報を提供するとともに、天気予報や気象警報・注意報、地震、津波などの防災情報を掲載しています。平成25年(2013年)は、1日当たり約1,600万ページビュー、多い時には5,200万ページビュー(平成23年(2011年)9月21日台風第15号が接近した時)のアクセスがありました。  さらに利用しやすいページを目指し、平成26年(2014年)3月にトップページ*をリニューアルしました。新たに地域別にまとめた気象庁提供の防災気象情報リンク集を設けました。また、災害が発生している地域に気象庁が支援する情報について、右上の「重要な情報」欄にまとめています。 * http://www.jma.go.jp/jma/index.html ○防災情報提供センター  国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため「防災情報提供センター」というウェブサイト**を開設しており、その運営を気象庁が担当しています。  このウェブサイトからは観測機関が異なる雨量情報を一覧できる「リアルタイム雨量」や異なるレーダーそれぞれの長所を生かして統合した「リアルタイムレーダー」をはじめ、災害情報や河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の防災に関する情報を容易に入手することができます。  また、携帯端末向けホームページ***も開設し、気象警報、竜巻や降水のナウキャスト情報などの気象情報のほか、津波警報や潮位情報等が屋外などパソコンが使えないような場所でも防災情報を入手できるようにしています。 ** http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/ *** http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html 2.地震・津波と火山に関する情報 (1)地震・津波に関する情報の発表と伝達  地震による災害には、主に、地震時の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、その発生時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震及び津波の情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 ア.地震に関する情報  気象庁は、全国約290か所に設置した地震計や、(独)防災科学技術研究所等の関係機関の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さを測る震度計を全国約660か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や(独)防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に、地震発生時には次の情報を発表しています。 @緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、地震動特別警報(震度6弱以上の揺れが予想される場合)・地震動警報に相当する緊急地震速報(警報)を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上、または最大予測震度が3以上である場合等には緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で知らせたり、機械を制御する信号を発したりする個別のサービスを行っています。 A観測した結果を整理した情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度(揺れの強さ)などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後には、震度3以上が観測されている地域を示す「震度速報」を、その後、震源の位置や震度3以上を観測した市町村名など、観測データの収集にあわせて詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道される他、防災関係機関の初動対応の基準や災害応急対策の基準として活用されています。 イ.津波に関する情報  気象庁では、地震により日本沿岸に津波が到達するおそれがある場合には津波警報等を発表するとともに、津波情報で津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを発表します。また、津波警報等を発表した場合には、沿岸及び沖合に設置した津波観測施設を用いて津波の状況を監視しています。監視には、気象庁が設置した全国約90か所の津波観測施設に、関係機関が設置した施設も加えた、全国約230か所からのデータを活用しています。このうち沖合については、ケーブル式海底水圧計や、GPS波浪計に加え、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の後に気象庁が整備したブイ式海底津波計を整備し、津波の監視に活用しています。これらの監視の結果、津波を観測した場合には、津波情報でその観測結果を発表します。 @津波警報・注意報、津波予報、津波情報  地震と同時に発生する地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすると、津波が発生します。気象庁は、海域で規模の大きな地震が発生し、陸域へ浸水するなど重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には津波警報(高さ1〜3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置づけられている大津波警報(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害の起こるおそれのある津波が予想される場合には津波注意報(高さ0.2〜1メートル)をそれぞれの津波予報区ごとに発表します。大津波警報・津波警報・津波注意報を発表した場合には、津波の到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報などを津波情報で発表します。  ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、3分程度では地震の規模を正確に求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。巨大地震が発生した場合でも、地震発生から15分ほどで正確な地震の規模を把握し、それに基づき津波警報を更新し、予想される津波の高さを数値で発表しなおします。  なお、地震発生後、津波が予想されても災害が起こるおそれがない0.2メートル未満の高さの場合には、津波予報(若干の海面変動)を発表します。   津波警報等の発表後、沖合で津波を観測した場合には、その観測ポイントにおける第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を沖合の津波観測に関する情報で発表します。また、沿岸で津波を観測した場合には、第一波の到着時刻、最大の高さなど、観測状況を津波観測に関する情報で発表します。  ただし、大きな津波が予想されているなかで、それまでに観測されている津波の高さが予想されているものよりも低い場合に、その高さの数値を津波観測に関する情報等でそのまま伝えることは、今回の津波が小さいという誤った安心感を与え、津波からの避難の妨げになる恐れがあります。そのため、観測された津波の高さが予想よりも十分に低い場合は、数値を発表せず「観測中」という言葉で発表します。 コラム 緊急地震速報の発表状況  気象庁では、平成19年10月より緊急地震速報を広く一般の皆様に対して発表しています。緊急地震速報には、最大震度5弱以上の揺れを予想した場合に震度4以上を予想した地域に対して発表する「警報」と、最大震度3以上またはマグニチュード3.5以上と予想した場合に発表する「予報」があります。平成25年12月までの発表回数(対象となった地震の数)は警報139回、予報8,095回となっています。  平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震以降、日本付近では地震活動が非常に活発になり、緊急地震速報の発表回数が激増しました。現在は震災直後に比べると比較的落ち着いていますが、それでも震災以前より発表回数が多い状態が続いています。  緊急地震速報の発表状況を県別にみると、東北地方太平洋沖地震の余震がたびたび発生している東日本で相対的に発表回数が多くなっています。そのようななか、平成25年4月13日の淡路島付近を震源とする地震では、西日本を中心とする16府県に緊急地震速報(警報)を発表し、そのうち10府県では初めての警報発表となりました。  緊急地震速報の発表開始以降、岩手・宮城内陸地震(平成20年)や東北地方太平洋沖地震などの地震の際に、緊急地震速報によって強い揺れの前に工場の機械や列車等を停止できた、迅速に身を守る行動をとることができた等、緊急地震速報が役に立ったという事例が報告されています。一方で、直下型の地震で緊急地震速報が強い揺れに間に合わない事例や、東北地方太平洋沖地震以降に余震が多発する中で、ほぼ同時に複数個所で発生した地震を一つの大きな地震と見なして過大な震度を予測するなど、緊急地震速報(警報)の内容が適切とはいえない事例がありました。このような事例を含めて、緊急地震速報には以下のような特性や技術的限界があります。気象庁では、新たな地震観測データの活用などを通して、緊急地震速報のより迅速・確実な発表に向けて引き続き努力していきます。 質問箱 長周期地震動階級とは何ですか?  地震が起きると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生します。長周期地震動とは、ゆっくり繰り返す長い周期(概ね1.5秒〜8秒程度)の地震動のことです。マグニチュードの大きい地震ほど長周期の波を発生し、長周期の波は短周期の波に比べて伝わる間に減衰しにくいため遠くまで伝わります。また、大都市では柔らかい堆積層が平野を厚く覆っているため、長周期の揺れが地表でより増幅されます。近年、大都市圏を中心に住居の高層化が進むなど、高層ビルに居住または滞在する人は年々増加しています。高層ビルは長周期の揺れに共振しやすい固有周期(揺れやすい周期)を持っているため、長時間大きく揺れ続けます。  気象庁が、地震発生後直ちに震度情報で発表する震度は、地表面付近の比較的周期の短い揺れの強さを表す指標で、高層ビルの高層階における長周期の揺れの程度を表現するのに十分ではありません。概ね14〜15階建以上の高層ビルを対象として長周期地震動の揺れの大きさの指標を4つの階級に区分した「長周期地震動階級」を新たに導入し、階級ごとに地震時の人の行動の困難さの程度や、家具や什器の移動・転倒などの室内の状況を記述した「長周期地震動階級関連解説表」を取りまとめました。  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、東京湾岸では長周期地震動階級4、中部地方や近畿地方でも長周期地震動階級2〜3に相当する揺れがそれぞれ観測されています。  長周期地震動階級は、地震計の観測データから求めたものであり、その場所に高層ビルがあれば高層階でどのような揺れになるかを推計したもので、周辺の高層ビル等における建物内の被害状況把握の参考になります。ただし、個々の高層ビル等の特性や地盤条件まで考慮しているものではありません。また、高層ビルの中でも、階や場所によって揺れの大きさが異なり、特に、建物の頂部の揺れ方は、発表した長周期地震動階級よりも大きくなる場合もあることに注意が必要です。  気象庁では、高層ビル等における地震後の防災対応等の実施に資するため、長周期地震動に関する情報について検討を進めており、平成25年3月28日からは、地震が発生した際に観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」の提供を気象庁HPにて試行的に開始しました。 ウ.東海地域の地震・地殻変動の監視と情報提供  東海地震は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域とし、いつ発生してもおかしくないと考えられている大規模な地震で、現在、科学的な直前予知の可能性がある地震と考えられています。東海地震はプレート(地球表面を覆う厚さ数十〜百キロメートル程度の岩石の層)同士の境界で起こる地震です。プレート境界の一部は普段は強くくっついています。東海地震の前にはこの領域の一部が少しずつすべり始め、最終的に急激に大きくずれて強い揺れを発生させ東海地震になると考えられています。この少しずつすべり始める現象を「前兆すべり(プレスリップ)」といいます。東海地震の予知は、この前兆すべりに伴う地盤の伸び縮み(地殻変動)を捉えることで行います。気象庁は、東海地震の発生を予知し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺に展開された地震計やひずみ計などのデータを収集し、この地域の地震と地殻変動を24時間体制で監視しています。  気象庁は、観測データに異常が現れた場合、地震等の専門家から構成される地震防災対策強化地域判定会(判定会)を開催し、東海地震に結びつくかどうかを3段階からなる「東海地震に関連する情報」で発表します。防災機関等はこの情報内容に応じた段階的な防災対応をとります。  ただし、前兆すべりが小さい場合など、必ずしも前兆現象を捉えることができず、上記の情報を発表できないまま東海地震が発生することもありえます。 質問箱 ひずみ計とは?  ひずみ計とは、地下の岩盤の伸び縮みを非常に高感度で観測できる観測装置です。直径15センチメートル程度の縦穴を数百メートル掘削し、その底に円筒形の検出部を埋設しています。地下の岩盤は、周囲からの力を受けて、ごくわずかですが伸び縮みします。ひずみ計は、その検出部が岩盤と同じように変形することで、岩盤の伸び縮みを検出します。その精度はきわめて高く、岩盤の伸び縮みを10億分の1程度の相対変化まで検出します。この相対変化は、小中学校にあるプール(長さ25メートル・幅10メートル・深さ1.5メートル程度)に水を満たし、直径1センチメートルのビー玉を入れた時に生ずる、ごくわずかな水面の上昇でも検出できる精度です。 エ.地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用 「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、政府の特別の機関として地震調査研究推進本部が設置されました。この地震調査研究推進本部が策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて、気象庁は文部科学省と協力して、平成9年より大学や(独) 防災科学技術研究所などの関係機関から提供された地震観測データを処理することにより、我が国やその周辺で発生する地震活動の詳細な把握が可能となりました。  気象庁では、これらの結果を地震情報に活用するとともに、地震調査研究を推進するため、地震活動の評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会や大学など関係機関へ提供しています。 コラム 南海トラフの巨大地震と首都直下地震について  駿河湾から九州にかけての南海トラフのプレート境界では、過去に約100〜150年間隔でマグニチュード8級の巨大地震が繰り返し発生しています。昭和19年(1944年)の東南海地震や昭和21年(1946年)の南海地震後の経過時間から、今世紀前半にもこの地域のどこかで巨大な地震の発生するおそれがあると考えられています。  首都を含む南関東地域では、大正12年(1923年)に発生した関東大地震などマグニチュード8級の地震は200年から400年間隔で発生していると考えられることから、当面の間は発生する可能性が低いものの、地下で3枚のプレートがせめぎ合う複雑な構造で地震活動も活発であるため、マグニチュード7級の地震の切迫性が指摘されています。  中央防災会議において平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の教訓を基に2つの地震への対策等について検討を進めています。南海トラフの地震に対しては、平成25年5月に中央防災会議により「南海トラフ巨大地震対策について」がとりまとめられました。また、平成25年(2013年)11月には「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が制定され、これらを踏まえた計画等が策定される予定です。首都直下地震に対しては、平成25年(2013年)12月に中央防災会議により新たな被害想定等が公表されました。また、平成25年(2013年)11月には首都直下地震対策特別措置法が制定され、これらを踏まえた計画等が策定される予定です。  気象庁では、南海トラフ地震や首都直下地震による強い揺れや津波による被害の防止・軽減に向けて、津波警報や緊急地震速報の精度向上とともに、長周期地震動の予報などに取り組んでいます。 (2)火山の監視と防災情報 ア.火山の監視 @110活火山と火山監視・情報センター  我が国には110の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「火山監視・情報センター」において、これらの活火山の火山活動を監視しています。110の活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山については、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を適確に発表するために、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び遠望カメラ)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関等)からのデータ提供も受け、火山活動を24時間体制で常時観測・監視しています。  また、47火山以外の火山も含めて、各センターの「火山機動観測班」が現地に出向き計画的に現地調査を行っており、火山活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するために観測体制を強化しています。特に噴気活動の活発化・拡大がみられている弥陀ヶ原(富山県)や地震活動が活発化している八甲田山(青森県)については、現地に臨時の地震計などを設置して火山活動を24時間体制で監視しています。  全国の活火山について、観測・監視の成果を用いて火山活動の評価を行い、噴火の発生が予想された場合には「警戒が必要な範囲」(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)を明示して噴火警報を発表しています。 A火山活動を捉えるための観測網  火山噴火の前には、マグマや高温高圧の水蒸気が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、火山性微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加など)が起きます。  こうした現象は前兆現象と呼ばれ、高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで捉えることができます。 ○震動観測(地震計による火山性地震や微動の観測)  震動観測は、地震計により、火山体内部で発生する微小な地震(火山性地震や微動)をとらえるものです。 ○空振観測(空振計による音波観測)  空振観測は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるものです。天候不良等により遠望カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震記録や空振記録等より、噴火の発生と規模をいち早く検知することができます。 ○地殻変動観測(傾斜計、GNSS等による地殻変動観測)  地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計では火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえることができ、また、GNSS観測装置では、他のGNSS観測装置と組み合わせることで火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動の推移を予想(評価)するための重要な手段となります。 ○遠望観測(遠望カメラ等による観測)  遠望観測は、定まった地点から火山を遠望し、噴煙の高さ、色、噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測するものです。星明かりの下でも観測ができる高感度の遠望カメラを設置しています。 B現地調査  気象庁では、噴火時等には必要に応じて火山機動観測班を派遣して観測を行い、火山活動の正確な把握に努めています。また、24時間体制で監視している47火山以外の活火山も含め、火山機動観測班が平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱やガスなど陸上からの観測やヘリコプター(関係機関の協力)による上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動把握・評価に努めています。 ○熱観測  赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、熱活動の状態を把握します。 ○上空からの観測  関係機関の協力により、カメラや赤外熱映像装置を用いて、地上からでは近づけない火口内の様子(温度分布や噴煙の状況)や噴出物分布を詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。 ○火山ガス観測  火口から放出される火山ガスには、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれています。気象庁では、小型紫外線スペクトロメータ(COMPUSS)という装置を用いて二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用します。 ○噴出物調査  噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 コラム 平成25年度桜島構造探査  火山体構造探査は、発破により人工地震を発生させ、その地震波形を多数の地震計で観測し、解析することにより火山体の地下構造を推定し、地下のマグマの状態などを明らかにしようとするものです。平成6年度から大学が中心となり、気象庁も参加・協力して全国の火山で実施されています。  これまで霧島山、雲仙岳、磐梯山、阿蘇山、伊豆大島、岩手山、有珠山、北海道駒ヶ岳、富士山、口永良部島、浅間山、桜島の12火山において実施されてきました。  平成25年度は桜島において、姶良カルデラのマグマだまりの中央部を含む構造の変化を検出することを目的に桜島島外2か所、島内9か所の掘削孔で発破による人工地震を発生させ、既設観測点及び多数の臨時設置の地震計で観測を行いました。  観測は北海道大学、秋田大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、九州大学、鹿児島大学および気象庁が協力して行いました。  今後も全国の火山を対象に計画的に実施される見込みです。 イ.災害を引き起こす主な火山現象  火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 ・大きな噴石 爆発的な噴火によって火口から吹き飛ばされる大きな岩石等(概ね50センチメートル以上の岩石)は、風の影響を受けずに弾道を描いて飛散して短時間で落下し、建物の屋根を打ち破るほどの破壊力を持っています。大きな噴石による被害は火口周辺の概ね2〜4キロメートル以内に限られますが、過去、登山者等が死傷する災害が発生しており、噴火警報等を活用した事前の入山規制や避難が必要です。 ・火砕流 高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失させる極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十から百数十キロメートル、温度は数百℃にも達します。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 ・融雪型火山泥流 積雪期の火山において噴火に伴う火砕流等の熱によって斜面の雪が融かされて大量の水が発生し、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する現象です。流下速度は時速60キロメートルを超えることもあり、谷筋や沢沿いをはるか遠方まで一気に流下し、大規模な災害を引き起こしやすい火山現象です。積雪期の噴火時等には融雪型火山泥流の発生を確認する前にあらかじめ避難が必要です。 ・溶岩流 マグマが火口から噴出して高温の液体のまま地表を流れ下るものです。地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、流下速度は比較的遅く基本的に徒歩による避難が可能です。 ・小さな噴石・火山灰 噴火により噴出した小さな固形物で、粒径が小さいほど遠くまで風に流されて降下します。小さな噴石は10キロメートル以上遠方まで運ばれ降下する場合もありますが、噴出してから地面に降下するまでに数分〜十数分かかることから、火山の風下側で爆発的噴火に気付いたら屋内等に退避することで身を守れます。火山灰は、時には数十から数百キロメートル以上運ばれて広域に降下・堆積し、農作物の被害、交通障害、家屋倒壊、航空機のエンジントラブルなど広く社会生活に深刻な影響を及ぼします。 ・火山ガス 火山地域ではマグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素等の様々な成分が気体となって放出されます。ガスの成分によっては人体に悪影響を及ぼし、死亡事故も発生しています。 ウ.噴火警報 @噴火警報の対象範囲  気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報を発表しています。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して発表します。 A噴火警報の名称  噴火警報は、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」(又は「火口周辺警報」)、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」(又は「噴火警報」)として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。  これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されると直ちに住民等に周知されます。  噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。なお、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合に発表する「噴火警報(居住地域)」を特別警報として位置づけています。 エ.噴火警戒レベル @「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」  噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、防災関係機関と調整の上、順次運用しており、噴火警報に付して発表されます。  国の火山防災の基本方針を定めた「防災基本計画(火山災害対策編)」に基づき、各火山の地元都道府県等は、「火山防災協議会(都道府県、市町村、気象台、砂防部局、火山専門家等で構成)」を設置し、平常時から噴火時の避難について共同で検討を行っています。「火山防災協議会」における検討を通じて、避難開始時期や避難対象地域をあらかじめ設定することにより「噴火警戒レベル」の設定を行い、避難開始時期、避難対象地域、避難先、避難経路・手段を定める具体的で実践的な「避難計画」の策定を行います。さらに、「避難計画」に基づく避難訓練の実施や避難計画の住民への周知も「火山防災協議会」で行われます。  「噴火警戒レベル」が運用されている火山では、「火山防災協議会」で事前に合意された設定に基づき、気象庁は「警戒が必要な範囲」を明示して、避難計画と一体的に噴火警報(噴火警戒レベルを含む)を発表します。市町村等の防災機関では、合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 A噴火警戒レベルの設定と改善  噴火警戒レベルは、平成19年12月に16火山で運用開始以降、平成26年4月現在、30火山に運用を拡大してきました。  気象庁では、今後も常時観測を行っている47火山を中心に、火山防災の進捗と活性化に向けた取り組みを踏まえ具体的な避難計画の策定を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の関係機関と共同で進めていきます。 オ.降灰と火山ガスの予報  噴火警報等で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 カ.火山現象に関する情報  噴火警報や上記の予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等をお知らせしています。 キ.火山噴火予知連絡会  火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年に設けられた組織です。連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究および観測体制を整備するための検討を行っています。  連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。  定例会を年3回開催し、全国の火山活動について総合的に検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、気象庁長官の招集による幹事会や臨時部会を開催し、火山活動の総合判断を行うほか、火山の活動評価に関する資料の収集・解析を行うため、機動的な総合観測班を設置し現地に派遣します。 コラム IAVCEI 2013(国際火山学地球内部化学協会の2013年学術総会)  平成25年7月20日から24日にかけて、鹿児島市において、IAVCEIの2013年学術総会(IAVCEI 2013)が開催されました(日本火山学会主催、鹿児島県及び鹿児島市共催)。  IAVCEIは、1927年に設立され、現在世界60カ国700名以上の火山学者が委員を務めるほか、56カ国に連絡員を持つ、世界でも有数の火山学に関する国際科学機関です。  学術総会は、IAVCEIが、火山学に関連する学術研究の成果発表・討論会を通して、国際的な火山研究の発展、火山研究の成果の普及や情報発信を行うことを目的として、ほぼ4年ごとに開催している国際会議です。日本では、1981年に東京・箱根で開催されて以来2回目です。  今回の学術総会は、Forecasting Volcanic Activity(火山活動の予測)をテーマに、約40カ国から約1000人が参加し、4つのシンポジウム、37のセッションに分かれて、口頭、ポスター併せて1200を超える発表、意見交換が行われました。また、会場では、気象庁を含めた火山観測機関、大学、観測機器メーカー等の展示ブースが設置されました。期間の中日には、霧島山、桜島、指宿地域(開聞岳、池田・山川、等)への巡検が行われたほか、本総会に関連して、開催前後の巡検、8つのワークショップ、20を超えるミーティングが別途開かれました。  気象庁からは、本庁、福岡管区気象台、鹿児島地方気象台、気象研究所及び地磁気観測所の火山業務の担当者が参加して、近年の霧島山新燃岳や桜島の活動等の関連する発表を行ったほか、会場内に設置した展示用ブースで気象庁の火山業務を紹介し、本総会に出席した各国の研究者と情報交換を行いました。 3.地球環境に関する情報 (1)地球温暖化問題への対応 ア.気温や海面水位の監視と地球温暖化に伴う気候などの将来予測  気象庁では、気温や海面水位の長期的な変化傾向を監視して、地球温暖化の現状に関する情報を提供しています。また、将来の気候を数値モデルによって予測し、地球温暖化に伴う気候の変化に関する予測情報を提供しています。  世界の平均気温については、全世界の千数百か所の観測所における観測データや海面水温データを収集して、長期的な変化傾向を監視しています。また、日本国内の気象庁の観測点のうち、都市化の影響が少なく、特定の地域に偏らないように選定した15か所の観測データをもとに、日本の年平均気温の長期的な変化傾向を監視しています。  さらに、海面水位については、潮位や地盤変動の観測から得られたデータに加え、海洋気象観測船で観測した水温・塩分のデータや、人工衛星から観測された海面高度データをもとに、海洋の数値モデルも活用して海面水位の変動の実態を分析して、地球温暖化による海面水位の上昇について情報を発表する計画です。  気候変化の予測については、今後の世界の社会・経済の動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオに基づいて、日本周辺の気候をきめ細かくシミュレーションできる気候モデルを用い、21世紀末頃における我が国の気温や降水量などの変化を計算しています。得られた予測結果は、地球温暖化予測情報として作成しており、平成25年(2013年)3月に「地球温暖化予測情報第8巻」を発表しました。  気象庁は、これらの業務を通じて、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が平成25〜26年(2013〜14年)に公表した第5次評価報告書にも貢献しています。 コラム 国内の3観測地点で二酸化炭素濃度の月平均値が400ppmを超える  気象庁は、世界気象機関(WMO)の推進する全球大気監視(Global Atmosphere Watch : GAW)計画の一環として、岩手県大船渡市綾里、東京都小笠原村南鳥島、沖縄県八重山郡与那国島の国内3地点において、大気中の二酸化炭素濃度の観測を実施しています。このうち綾里では、平成24年(2012年)3月の月平均値が401.2ppmとなり、昭和62年(1987年)の観測開始以降初めて400ppmを超える値を記録しました。また、綾里以外の地点についても年々増加し、平成25年(2013年)4月の月平均値が、それぞれ400.5ppm(南鳥島)、403.5ppm(与那国島)となり、国内3つの観測地点すべてで400ppmを超えました。400ppmを超えたことによって直ちに大きな影響が出るわけではありませんが、最新の研究(IPCC第5次評価報告書)によると、2100年までに世界平均の二酸化炭素濃度が538ppmになるシナリオで、世界の平均気温が1.1〜2.6℃上昇するという結果が示されており、今後も濃度の変化を監視することが重要です。 コラム 海洋による二酸化炭素吸収量  海洋は、産業活動によって排出された二酸化炭素を吸収し、大気中の二酸化炭素の増加を抑えて、地球温暖化の進行を緩和しています。一方、海洋中に二酸化炭素が蓄積されることで、海洋酸性化が進行し、海洋生態系への影響が懸念されます。このため、海洋による二酸化炭素の吸収量の変化は、地球温暖化や海洋酸性化などの地球環境の監視・予測に重要です。  気象庁では、海洋気象観測船(凌風丸及び啓風丸)の観測結果や、国際的な海洋観測データをもとに、全球の海洋による二酸化炭素の吸収量を求めました。その量は、平均で1年あたり19億トン炭素であり、近年増加傾向にあります。河川から流入する7億トン炭素(IPCC, 2013)も考慮すると、海洋は1年あたり26億トン炭素の二酸化炭素を吸収していることになり、2000年代の人為起源二酸化炭素排出量の平均(約90億トン炭素/年)の約3割に相当する量の二酸化炭素を、海洋が吸収していることになります。(海洋の健康診断表:http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/index.html)。 (2)環境気象情報の発表  気象庁では、オゾン層保護に資する情報のほか、黄砂や紫外線対策に役立つ情報の提供を行っています。 ア.オゾン層・紫外線の監視と予測  気象庁は、自ら実施している国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果に加え、収集した地球観測衛星のデータ等も利用して、オゾン層破壊の実態を調査解析しています。これらの観測・解析の成果は、オゾンや紫外線の長期変化傾向などの調査結果も含め気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護対策などの資料として活用されています。  また、毎日の生活の中での紫外線対策を効果的に行えるように、有害紫外線の人体への影響度を示す指標であるUVインデックスを用いた紫外線の翌日までの予測情報を気象庁ホームページで毎日発表しています。 イ.黄砂の監視と予測  黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上がった無数の細かな砂じんが上空の風に乗って日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が飛来すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、濃度が高くなるとまれに交通障害の原因となる場合があります。  気象庁では、黄砂が日本の広域にわたって観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページには毎日の黄砂の観測・予測結果を掲載しています。なお、環境省と共同で「黄砂情報提供ホームページ」を運用し、黄砂に関する観測から予測まで即時的な情報を簡単に取得できるようにしています。 ウ.ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京や大阪などの大都市圏では、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」として知られています。ヒートアイランド現象による大都市圏での夏季の著しい高温は、熱中症の増加や光化学オキシダント生成の助長などを通じて人々の健康への被害を増大させることが懸念されています。  気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離2キロメートルごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」として平成16年度(2004年度)から公表しています。平成25年度は、関東、東海、近畿地方の三大都市圏を対象に、都市化による8月平均気温への寄与として評価したヒートアイランドの強さが年によって変動すること等を示しました。 (3)海洋の監視と診断 ア.海洋の監視  地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。  気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどによって海洋の観測を実施しています。  海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  中層フロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、中層フロートを全世界の海洋に常時約3,000台稼働させ、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を実施しています。 イ.海洋の健康診断表  気象庁では、海洋気象観測船等による観測データに加え、地球観測衛星等の観測データを収集し、それらをもとに解析した結果を、「海洋の健康診断表 定期診断表」として、気象庁ホームページで公表しています。この中で、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しについて、グラフや分布図を用いてわかりやすく解説しています。平成25年度には、全球の海洋による二酸化炭素吸収量に関する情報提供を開始しました。(二酸化炭素吸収量について、詳細はコラム「海洋による二酸化炭素吸収量(101ページ)」参照) コラム 海洋の健康診断表 総合診断表 第2版 の公表  地球温暖化や数か月〜数年スケールの気候には、海洋が密接に関係していることから、気象庁では、地球環境と海洋の関係について総合的、体系的に理解を深めていただくため、海洋の状態が長期的にどのように変化しているかについて、最新の観測結果や研究の成果を踏まえ、「海洋の健康診断表 総合診断表」として、平成18年に第1版を公表するとともに、随時気象庁ホームページで更新しています。  「海洋の健康診断表」の開設以降、地球温暖化への対応を強化するため、北西太平洋域の二酸化炭素等の観測に重点を置いた高精度海洋観測の成果に基づく、「海洋による二酸化炭素吸収量」や「海洋中の二酸化炭素蓄積量」の診断を開始するとともに、これまでの長期にわたる海洋気象観測の成果をもとにした「表層水温の長期変化」や「海洋酸性化」に関する定期診断表を開始しました。そのため、総合診断表について、これらの情報を拡充するとともに、第1版以降に蓄積された観測結果を追加し、「総合診断表 第2版」として、平成25年10月に公表しました。 地球環境・海洋に対する理解を深めていただくため、総合診断表第2版 (http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/index.html)をはじめとする気象庁の海洋に関する情報をご活用ください。 4.航空の安全などのための情報  航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けているため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。  航空機は、出発空港から目的空港への飛行計画を立てるとき、目的空港の天候から空中での待機や代替空港への着陸の可能性を判断し、燃料の搭載量を決定します。また、上空の風の予想や悪天の予想図から、飛行中乱気流による揺れの少ない高度や場所、燃料が節約できる高度や航空路、到着予定時刻などを決定します。気象庁が提供する各種情報がこうした判断に使われています。 (1)空港の気象状況等に関する情報  航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国81空港において、1時間又は30 分ごとに定時観測を行い、また気象状況を監視し、それらの情報を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ迅速に通報しています。東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(ウィンドシアー) や降水域を観測しています。また、東京・成田・関西の各国際空港においては空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層のウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。これらにより、離着陸する航空機の安全に影響する低層のウィンドシアーが観測された場合は、ウィンドシアー情報として直ちに管制官を通じてパイロットへ伝達されます。  また、雷監視システムにより雷が発する電波を受信し、その位置、発生時刻などを求めて情報を作成しています。作成した情報は航空会社などに直ちに提供されます。 (2)空港の予報・警報に関する情報  航空機の飛行計画を立てる際、出発前に、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合の代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な予報(飛行場予報)を30 時間先まで、国際定期便などが運航している37 空港に対して発表しています。飛行場予報は、国内外の航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ提供し、運航計画などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港に対しては、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及び業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合、「飛行場警報」を適宜発表し、航空関係者に対して警戒を促しています。  このほか、各空港では、航空管制官やパイロットなどの航空関係者に対して、気象状況や今後の予想について口頭で解説などを行っています。 (3)上空の気象状況に関する情報 ア.空域の気象情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山の噴煙に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を定期的に提供して、運航計画の支援を行っています。 イ.航空路火山灰情報  火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスが擦りガラス状になり視界が利かなくなったり、飛行場に堆積すると離着陸ができなくなるなど、航空機への被害は多岐にわたります。このため航空機の安全な運航を確保するうえで、火山灰の情報は大変重要です。  気象庁は国際民間航空機関(ICAO)からの指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター(東京VAAC)を運営しています。同センターでは、東アジア及び北西太平洋における火山噴煙の状況を監視し、火山灰の分布に関する観測・予測情報(航空路火山灰情報)を国内外の航空関係者に提供しています。 (4)航空関係者に利用される航空気象情報  気象庁は、空港内などで業務を行っている航空関係者に対して、飛行場の気象観測の結果や予報、上空の風や気温、悪天の予想図などの気象情報を提供しています。空港の観測値や予報などの航空気象情報は、国内外の航空関係者に提供しているほか、主要な空港や空域の気象情報は、飛行中の航空機に対して、短波放送や国土交通省航空局の無線通信(対空通信)などを通じて提供しています。また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。 (5)より精度の高い予測を目指して  東京国際空港では、平成22年(2010年)に新滑走路の供用が、また、平成23年(2011年)には国際定期便の運航がそれぞれ開始され、首都圏空域における航空機の交通量は、ますます増加しています。 ひとたび東京国際空港が強風や雷雨などによって着陸ができなくなるような気象状態となった場合、多数の航空機が空中で待機することとなり、日本全体の航空機の運航に影響を及ぼすため、航空関係者からは、これまで以上に詳細で精度の高い気象情報が求められています。このため気象庁は、平成20年度から首都圏空域など交通量が過密な空域の気象情報のさらなる高度化を図る目的で、より緻密な数値予報モデル(第2章参照)の開発に取り組んできました。この技術開発の成果を、平成24年から運用を開始した航空気象予報用スーパーコンピュータに取り込み、首都圏空域を中心とした領域を対象にこれまでより詳細な気象情報の提供を開始しました。今後は対象領域を日本全体に拡大するなど、更なる高度化を図ります。 (6)ISO9001品質マネジメントシステムの導入  航空気象業務は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)による国際的な要求事項や利用者からの要求事項を満たした気象観測や予報などを行う必要があります。このため、気象庁では平成22年(2010年)4月から航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入して、航空気象情報の適時適切な提供を継続するとともに、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 5.民間の気象事業  気象等の現象は、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接にかかわっています。一方、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、既製品的な情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できる環境が整ってきました。国民及び産業界のニーズは、今後、より多様化・個別化することが見込まれることから、民間気象事業者による、最新の情報通信技術を活用した個々のニーズに対応した幅広い気象サービスの提供が欠かせません。  気象庁は、国民が安心して民間気象事業者の予報を利用できるよう予報業務の許可制度、気象予報士制度を設けるとともに、このような民間気象事業者の活動を支えるため、民間気象業務支援センターを通じて、気象庁が保有する情報の提供及び支援を行っています。 ○予報業務の許可制度  民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取り組みがなされていますが、サービスを利用する国民の側からみると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。このため、気象庁では、民間気象事業者が、気象や波浪、地震・火山等の現象を予報する場合には、警報等の防災気象情報との整合性や、国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保できるよう、あらかじめ気象庁長官がその者の予報業務に必要な要員及び施設等が備わっていることを確認する「予報業務許可制度」を設けています。 ○気象予報士制度  予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技術を要することから、民間気象事業者が気象などの予報業務を行う際には気象予報士に行わせることを義務付けており、これにより予報の一定の技術水準を担保しています。気象予報士は国家資格であり、業務に必要な知識及び技術について試験を行う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受ける必要があります。気象予報士には平成26年4月1日現在、9,038人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核となる技術者だけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発にも貢献しています。なお、地震動と火山現象、津波の予報は、現象の予想を国土交通省令で定める技術上の基準に適合した手法で行うこととすることにより、予報の一定の技術水準を担保しています。 ○民間気象事業者等に対する支援  気象庁は、当庁が保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、民間気象業務支援センターを通じて民間気象事業者等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間気象事業者等により、個別企業や個人のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動や社会サービスの基盤として活用されています。また、数値予報等、気象庁による予測技術の高度化に伴い、民間気象事業者の技術基盤の確保と高度化が益々必要となっていることから、気象庁では、民間気象事業者を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会を開催している他、民間気象業務支援センターや(一社)日本気象予報士会が行う講習会等への講師派遣などの協力・支援を行っています。 6.地域の防災力向上への取り組み (1)気象台による自治体支援の取り組み  気象庁では、全国の気象台で、気象や地震などの観測・監視、予報・警報や情報の発表・提供、解説などを行っています。  大雨、津波などにより災害の発生が予想される場合、気象台が発表する警報などの防災情報が自治体などの関係機関に迅速かつ確実に伝わることはもとより、情報の受け手がその意味を正しく理解して避難勧告等の発令を適時・的確に判断するなど、適切な防災対応につなげることが被害の軽減のために非常に重要です。  各地の気象台では、自治体が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、防災情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、自治体などの防災担当者に対する説明会や研修などで情報の活用について積極的に説明を行っています。また、大雨等により災害の発生が危惧される場合には、自治体などの防災関係機関に対して気象状況の事前説明や、事態の推移によっては自治体に直接連絡して気象状況や今後の見通しを積極的に伝えるなど、気象台が持つ危機感を共有していただけるよう取り組んでいます。 (2)住民への安全知識の普及啓発・気象情報の利活用推進に関する取り組み ア.「地域防災力アップ支援プロジェクト」  気象庁では、これまでも住民等を対象とした出前講座や講演会、リーフレットやDVDの作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んできました。平成23年(2011年)3月の東日本大震災をきっかけとして、住民等への自助・共助意識の啓発や防災教育の重要性が政府の有識者会議などで報告されています。このことを踏まえ気象庁では、住民への指導的な役割を担う機関・人材や普及啓発効果の高い機関と連携・協力しながら、安全知識の理解や気象情報の利活用をより効果的に推進するための様々な取り組みを「地域防災力アップ支援プロジェクト」として進めています。  気象庁では、今後も関係機関と連携しながら、気象や地震などの自然現象に対して住民自らの判断で的確な防災行動がとれるような風土・文化が醸成されることを目指して、安全知識の普及啓発に取り組んでいきます。 コラム 気象庁と連携した取り組み「青少年赤十字防災教育事業〜まもるいのち ひろめるぼうさい〜」 日本赤十字社 社長 国際赤十字・赤新月社連盟 会長 近衞 忠?  全国に病院、血液センターやボランティアのネットワークを持つ日本赤十字社は、災害時には緊急の医療救護から、こころのケアを含む復興支援に至るまで、幅広い活動を展開し、その経験は、海外での救護活動にも活かされています。近年は増加する災害に備え、「災害からいのちを守る日本赤十字社」をスローガンに、「防災・減災」に注力した活動を積極的に進めています。その一つとして、全国の1万3千校あまりの青少年赤十字加盟校を皮切りとして、青少年赤十字防災教育事業「まもるいのち ひろめるぼうさい」を立ち上げ、学校、地域、家庭における防災意識を高める活動を進めています。この度、気象庁と防災教育に関する協定を結ぶことで、それぞれが長年にわたって蓄積してきた知識や経験を分かち合い、防災意識の向上に向けた連携を進め、地域住民の方々が一体となって更なる災害への備えを高め、被害を軽減できるようになることを期待しています。 コラム 「地域防災力アップ支援プロジェクト」取り組み例 「児童生徒の安全確保の最優先」〜熊谷地方気象台との連携〜 埼玉県教育局県立学校部保健体育課 主任指導主事 伊藤治也  学校での防災教育の推進は、教職員だけではなく、専門的知見を有する防災の専門家の助言や関係組織との連携が重要です。これまでも「緊急地震速報を利用した避難訓練」の県内全校実施、職員研修への講師派遣など、熊谷地方気象台とは日頃から連携・協力をし、様々な取組を推進してきました。こうした中で、平成25年9月に竜巻で本県は被災しました。幸い児童生徒に大きな被害はありませんでしたが、私たちは先行事例の少ない竜巻発生時の対応を、既存の「学校防災マニュアル」に追加する必要に迫られました。その後、被災した市町教育委員会の協力を得て、気象台と連携しながら、平成25年11月には県立学校に資料配布、12月に市町村へ参考資料として情報提供できました。立場は違いますが、「児童生徒の安全確保の最優先」が両者の一致した考えです。学校防災に待ったなし。私たち教育委員会と熊谷地方気象台の関係や取組が他県の参考となれば幸いです。 イ.より効果的な取り組みへの発展に向けて  気象庁では、「地域防災力アップ支援プロジェクト」として全国の気象台で進めている数ある取り組みの中から、多くの官署で参考となるものを選考して、その取り組みについて発表し、防災・教育・報道・広報の各専門家から助言や講評などをいただくための「ミーティング」を、昨年度に引き続き平成26年2月に開催しました。 【専門家(五十音順、敬称略)】 【防災分野】静岡県 危機管理監代理兼部長代理 岩田 孝仁 【報道分野】時事通信社 解説委員 中川 和之 【広報分野】(株)電通PR コミュニケーションデザイン局アドバイザリー委員室       エグゼクティブ・アドバイザー 花上 憲司 【教育分野】東京都板橋区教育委員会 学校防災・安全教育専門員       鎌倉女子大学 講師 矢崎 良明  当日は「学校防災教育懇談会の取り組み」「気象情報を活用した避難勧告等の判断を支援する訓練」「コミュニティFM局との連携強化」など8例の取り組みを、実施している気象台から取り組み概要、工夫した点などのアピールポイント、成果や課題、今後の取り組み展開について発表を行いました。  専門家からは、「様々な関係機関と連携して幅広い自然災害を対象として取り組みが行われている」、「防災教育の現状や課題について良く研究して取り組みを進めている」、「連携機関の特徴により効果的な普及啓発となっている」といった評価のほか、「関係機関が抱える課題を把握できるよう助言していくことが必要」、「継続した取り組みとなるようノウハウを継承できる仕組みが必要」、「防災学習資料の作成だけに留まらず資料を活用した具体的な指導案を作成すると活用されやすい」、「きちんと気象台からの情報発信を行い外部から評価してもらうことが大事」など、今後の気象台の取り組みに対する期待も含め、多くの助言をいただきました。この「ミーティング」でいただいた助言を踏まえ、より効果的な取り組みへの発展や新たな展開に繋げていきます。 ウ.コミュニケーションを活用した防災学習の導入  災害から身を守るためには、気象台から発表する警報や注意報等といった防災情報のタイミングや意味等を体系的に理解し、積極的に入手して利活用することが必要です。また、自宅周辺にある危険箇所の有無や住居の構造、災害時要援護者の有無等の家族構成等によっても必要な対応が異なるため、それぞれの状況に応じて、災害から身を守るための行動のシミュレーションを行うことが有効です。  このため、これまでの講演会等による安全知識の普及啓発に加えて、グループ内での議論を中心としたコミュニケーションを活用し、深い理解を導くための能動的な手法を導入することとして「気象庁ワークショップ 経験したことのない大雨 その時どうする?」(以下ワークショップ)を実施しました。また、このワークショップの成果として学校や自主防災組織等で実施いただける汎用的なマニュアルを作成しました。  ワークショップにおいて、参加者は、大雨による災害の種類と危険性、気象台から発表する防災情報の意味やタイミング、入手方法、安全知識等のレクチャーを受けた後、数人のグループに分かれ仮想の街で大雨が降り続く中、気象台が発表する防災情報を活用してグループ毎に違う状況(周辺地形、住居構造、家族構成等)に応じた安全行動をどうするかについて話し合ってまとめます。  平成25年度に東京や大阪等6箇所で行ったワークショップの参加者のアンケート結果から、ワークショップに参加する前後で安全知識や防災対応力が大きく上昇する効果が認められました。一つの地域にとって大規模な災害がおきる程の大雨の発生頻度は多くありませんが、発生した時には甚大な被害を伴うため、汎用的マニュアルにより各地の気象台や学校、自治体等での実施拡大を図り、長期的な取り組みとして地域防災力のアップを支援することとしています。 コラム 気象庁ワークショップ「経験したことのない大雨 その時どうする?」 「気象庁ワークショップに参加して」 大阪府立西野田工科高等学校 首席 谷 通弘 本校は、JR大阪駅の西南西2.3kmの場所にある創立107年の工科高校です。本校は、新淀川まで500mの距離にあり、地域の避難場所にも指定されているため日頃から大雨・洪水や地震・津波に対する防災教育の必要性を感じておりました。今回の気象庁ワークショップは、まさに本校が取り組むべき課題を明確に提示する企画でした。当日、生徒たちは、リーダーや記録係、発表係などの役割を果たしながら、議論に熱中していきいきと取り組んでいました。グループで議論し、意見をまとめ発表することの難しさや楽しさを感じ、普段の授業では得られない経験や充実感を味わっていました。アンケート結果からも災害の知識や具体的なイメージを持つことができたことが分かります。今後も生徒が自ら考えることができる防災教育に取り組んでいきたいと思います。また、多くの学校で気象庁のワークショップの活用が進み、生徒たちの防災力が向上することを期待します。 コラム 津波防災啓発ビデオ「津波からにげる」と「津波に備える」  東日本大震災では、津波防災教育や津波からの一人ひとりの自主的な避難の重要性等が改めて認識されました。このため気象庁では、津波警報や津波防災等を継続的・効果的に学べるよう、「津波からにげる」(小学生向け)と「津波に備える」(中学生以上向け)の2種類の津波防災啓発ビデオを制作しました。全国の小中学校及び高等学校やその他防災関係機関等にビデオを収録したDVDを配布したほか、各地の気象台からの貸出、気象庁ホームページ(※)での公開も行っています。皆さまのご家庭や地域、学校でもご活用下さい。 (※http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/eq/index.html) ○「津波からにげる」(小学生向け、本編約17分)  本編は@東日本大震災における小学校の実話をもとにした津波避難のアニメーション、A当日実際に避難した先生と生徒のインタビュー、B津波の知識のクイズ、C地域の防災マップの作成、の4つのパートに分かれており、自ら判断して津波から避難することや、日頃から津波に備えておくことの大切さを小学生でも飽きずに分かりやすく学べると同時に、津波避難に大切な知識もしっかり学ぶことができます。 ○「津波に備える」(中学生以上向け、本編約19分)  本編は@津波の特徴を知る、A津波からの避難の方法を知る、の2つのパートに分かれており、「知って備える」ことを学べます。前半の津波の特徴を知るパートでは、津波はなぜ恐ろしい破壊力を持つのかなどをシミュレーション映像等によりわかりやすく説明してあり、命を守るためには津波から迅速に避難する必要があることを学べます。後半の避難の方法を知るパートでは、強い揺れを感じたら津波警報をまたずに避難が必要なことなどを、体験者のインタビューなどを用いて学べます。  また、気象庁が発表する津波警報や津波に関する情報の内容や、発表にいたる気象庁の作業内容を知ってもらう映像も併せて収録しました。 ○学校でのビデオの活用  配布されたビデオを活用した防災授業や防災訓練等の取り組みも全国で行われています。  全国の気象台では学校や地域におけるビデオの活用を支援するため、教育委員会等と連携した学校向けの取り組みや出前講座等を行っています。防災知識の普及等について地元の気象台にもご相談ください。 第2章 気象業務を高度化するための研究・技術開発 1.大気・海洋の予測を支える数値予報技術 (1)数値予報とは  警報・注意報や各種の天気予報では、目先の大気の状態から明日・明後日やさらに先の大気の状態を予測する必要があります。大気や海洋の現象は物理や化学の法則に基づいて起きていますので、この法則を用いて「今」の大気などの状態から「将来」を予測することが原理的には可能です。この手法は「数値予報」と呼ばれ、気象庁の予報業務の根幹をなす技術となっています。数値予報は、大気や海洋の様々な振る舞いを物理や化学の法則で表現したコンピュータのプログラムを必要とします。このプログラムを「数値予報モデル」といい、予測の精度を向上させるため開発や改良が進められてきました。また、数値予報モデルを予報業務に使うには、膨大な計算を短時間に処理する必要があり、このため気象庁では昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用のコンピュータを導入し、以来、常に世界最高レベルのコンピュータに更新しています。数値予報モデルは、予測する期間の長さや対象領域などに応じて様々な種類がありますが、いずれも、大気や海洋を水平方向・鉛直方向に格子状に区切り、それぞれの格子での気温や風、湿度などの将来の状況を予測します。 (2)数値予報モデルの現状 ○全球モデル、メソモデル、局地モデル  気象庁で運用している数値予報モデルにはいくつかありますが、このうち主なものとしてまず「全球モデル」があります。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルです。気象庁では、全球モデルを、短期予報(明日・明後日の予報)、週間天気予報や1か月予報、航空路や海上予報など地球上の広い領域を対象とする予報に利用しています。なお、一般に予報時間が長くなるとともに誤差が大きくなります。このため週間天気予報や1か月予報では、「アンサンブル予報」という手法を用いて複数の予報を計算し、確率による予報なども行っています。 「メソモデル」は、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす積雲・積乱雲の集団などの現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報の作成や降水短時間予報、飛行場予報などに利用しています。メソモデルでは、計算を行う格子を細かくし、積乱雲に伴う上昇気流や、水蒸気の凝結、雨や雪・あられなど降水粒子の発生・落下など雲の中で発生する現象を精密に取り扱っています。そして「局地モデル」では、メソモデルよりも格子をさらに細かくすることで地形をよりきめ細かく取り扱い、降水過程においても計算の精密さを高める手法を取り入れ、風や気温、雷や短時間の強い雨をもたらすような積乱雲などの予測精度を向上させています。局地モデルは、航空機の安全運航のための気象情報や防災気象情報の作成、降水短時間予報などに利用しています。 ○季節予報モデルと長期再解析  1か月を超える時間スケールでは、大気の変動はエルニーニョ・ラニーニャ現象のような海洋の変動の影響を強く受け、逆に海洋の変動は大気の影響を受けます。このため、3か月予報、暖・寒候期予報やエルニーニョ現象の予測には、大気と海洋を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。  異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報を的確に行うためには、過去の気候を出来るだけ正確に把握しておく必要があります。この目的で、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術を用いて解析し直す「長期再解析」により、過去の気候を再現する高精度の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。平成18年に完了した長期再解析JRA-25(1979年以降の解析)に替わるものとして、その後の新たな技術を取り込み、1958年にまでさかのぼって計算を行う長期再解析JRA-55を新たに作成し、平成26年から利用しています。 ○海に関する数値モデル  気象庁では海洋の様々な現象を予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」及び「海氷モデル」を運用しています。  「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上の様々な場所での波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・注意報や、波浪予報などに利用しています。「高潮モデル」は、台風などによる海面気圧と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、この結果をもとに浸水災害がおこる恐れのある場合に、高潮警報・注意報の発表時の判断に活用しています。「海況モデル」は、黒潮や親潮に代表される日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、海面水温・海流1か月予報に使用しています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測し、海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用しています。 ○物質輸送モデル  気象庁では、大気中の物質の挙動を数式化した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、オゾンなどの監視と予測を行っています。「黄砂予測モデル」では、黄砂発生域での黄砂の舞い上がり、風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下を考慮し、大気中の黄砂の量や分布を予測しています。また、「化学輸送モデル」では、オゾンやその生成・消滅にかかわる物質の風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下、化学反応や光化学反応による生成・変質・消滅などの過程を考慮し、成層圏及び対流圏のオゾン濃度を予測しています。  モデルの計算結果は、黄砂情報や紫外線情報、全般スモッグ気象情報、二酸化炭素分布情報に利用しています。 (3)数値予報の技術開発と精度向上   高い精度の防災気象情報や天気予報を作成するためには、その基礎となる数値予報技術の向上が不可欠です。  数値予報は、(1)で述べたスーパーコンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によって目覚ましい進歩を遂げてきました。図は、過去約20年間の全球モデルの予報誤差(北半球5日予報の精度)の変化です。数値予報モデルの予報誤差が3分の2に減少するなど、予報の精度は大きく向上していることがわかります。この間、モデルの分解能の向上や物理過程の改良、初期値を作成する技術の改善、気象衛星などによる新たな観測データの利用開始など、多くの技術の進展がありました。今後も気象庁では、数値予報のさらなる精度向上を図るため、次のような開発課題に取り組みを続けています。  予測技術の観点からは、細かい気象現象の予測のために計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)が必要です。しかし、格子の間隔を細かくすると計算量が増えるため、計算に要する時間が長くなります。一方で、防災気象情報や天気予報を資料とするためには、所定の時間内に計算を終わらせる必要があります。このため、膨大な数の格子での計算を高速化する方法や、大気中の雨や雲の状態を精度よく効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。  また、数か月以上先の予測には、大気だけでなく海洋の影響が大きくなることから、大気と海洋を同時に取り扱う数値予報モデルの開発・改良を進めています。  さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よくコンピュータの中に再現するための技術(これを「データ同化技術」と言います。用語集参照)の開発も併せて行っています。特に、気象観測衛星をはじめとする人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する「4次元変分法」という手法(用語集参照)の開発・改良に重点的に取り組んでいます。  数値予報は、気象の警報・注意報や天気予報を発表するうえで、今や欠かせない存在となっています。数値予報がこのような気象業務の根幹をなす技術となったのは、先に述べたように、気象学の進歩により現象のメカニズム解明が進んだことや、スーパーコンピュータの性能が大幅に向上したことに加え、気象庁が、計算技術やモデルの改良といった数値予報技術の開発に精力的に取組んできた成果です。今後も、我が国で培ってきた優れた技術を発展させ、数値予報の精度向上、気象情報の改善に役立てていく必要があります。  現在、気象庁では目的に応じた様々な数値予報モデルを運用しています。しかし、それぞれのモデルに用いられる技術は日々深化し高度化していきますので、モデルの運用や改良を効率的・効果的に行うためには、モデル間で共通する課題はできるだけまとめて解決することが必要です。モデルの技術基盤を共通化することができれば、最新の開発成果を集中させることができ、様々な目的の数値予報モデルに効果的に反映させたりモデルを共通化したりすることが可能になります。このような「基盤モデル」の構築、そして、明日、明後日の予報から季節予報まで、様々な時間スケールの現象をひとつのモデルで予測する、いわゆる「シームレス」なモデル開発に向けた取り組みも続けています。  スーパーコンピュータの性能も日進月歩で向上しています。そのため、将来はさらに解像度が高く計算量の多い数値予報モデルを業務的に使うことができると見込まれています。モデルの高解像度化により実現できる数値予報技術のひとつに、積雲・積乱雲の再現があります。積雲・積乱雲の集団は台風をはじめとする熱帯域の気象擾乱の発生・発達、アジアモンスーンに伴う梅雨前線の活動に重要な役割を果たしています。このため、熱帯域やアジアモンスーン領域を含む全球モデルを、積雲・積乱雲を再現できるよう高解像度化することにより、例えば2週間以上先の台風の発生や強度、熱帯域やアジアモンスーンの変動、及びその影響としての日本付近の大気の状態がより的確に予測出来るようになることが期待されます。積雲・積乱雲を再現できる高解像度の全球モデルについては現在研究が進められており、気象庁では、計算コストや業務的に使用する場合の安定性、大気現象の表現の的確さなど様々な観点から、その導入に関する調査を進めています。 (4)地球温暖化予測  平成26 年(2014 年)秋までに順次公表される予定のIPCC 第5 次評価報告書に向けて、地球温暖化予測実験や、予測の不確実性の低減、その要因の理解をめざした研究が世界中で行われてきました。  気象研究所でも、最新の大気モデルと海洋モデルを結合して新たに開発した気候モデルに、これまでの気候モデルで扱ってこなかったエーロゾル、オゾン、陸域生態系及び海洋生物の効果を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しました。このモデルを用いた温暖化予測実験の結果や、海洋観測データを同化した10〜30年先の近未来予測の結果は、IPCC 第5 次評価報告書に貢献しました。アジアをはじめとした地域的な気候表現をさらに高精度にするモデル開発をおこなっており、温暖化への中期的な適応策に資することが期待されます。  さらに、日本の詳細な温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化予測を通じて我が国の温暖化対策へ貢献していきます。 2.新しい観測・予測技術 (1)雷観測による局地的大雨等の予測手法の開発  局地的大雨や竜巻等の突風の発生前後に、その現象をもたらす積乱雲の中で雷活動が急激に活発化することが知られています。積乱雲の中の雷活動を監視することによって、気象災害をもたらす局地的大雨や竜巻等の突風の予測精度が向上することが期待されています。  発生する雷の大多数は地面まで到達しない雲の中の放電(雲放電)であるため、雷活動の変化を正確に捉えるためには、雲放電を詳しく観測する必要があります。  気象研究所では、雷を高い精度で捉えることができる雷検知装置を開発し、雷観測データを蓄積して、雷活動度を用いた新たな気象予測手法の開発を行っています。  雷検知装置というのは、雷の放電が空気中を流れる時に放射される強力な電磁波を受信できるように設計した、複数のアンテナからなる観測装置です。これを2箇所以上に設置して、アンテナに電磁波が到達する時間差を計測することによって、電磁波が到来した方向がわかります。この手法を用いると、約10万分の1秒ごとに雷の放電の場所を三次元的に可視化することができ、積乱雲の中で雷活動が活発な領域を把握できるようになります。 (2)高解像度降水ナウキャストについて  気象庁は、刻々と変化する雨の状況を面的に伝える即時的な情報として「降水ナウキャスト」を提供していますが、平成26年度から、より解像度の高い新しい「高解像度降水ナウキャスト」を提供することになりました。降水ナウキャストは、気象庁のレーダー観測に基づいて1キロメートルの解像度で1時間先までの降水を予測しています。それに対して、平成26年度から提供予定の高解像度降水ナウキャストでは、250メートルの解像度で30分先まで降水を予測します。  この高解像度を実現するため、250メートルに高解像度化した気象庁のレーダーデータに加え、国土交通省のXバンドMPレーダー(XRAIN)のレーダーデータ、地上及び高層観測データを利用し、「現在の雨の様子」を表す「解析値」を作成します。この解析値から以下のとおり「予測値」が作られます。  降水ナウキャストは降水の平面分布に基づいて、移動と発達衰弱傾向を解析し、それらを未来に向かって補外する手法により予測値を作成しています。一方、高解像度降水ナウキャストでは、鉛直方向も含めた三次元の降水分布に基づいて、解析値の補外だけでなく、上昇気流の強さなど降水の発達衰弱を左右する要素も計算して予測値を作成します。さらに、「急な強い雨」をもたらすと予測される降水域について、より細かく緻密な計算を行い、短時間に激しく変化する降水の予測にも取り組んでいます。また、急な強い雨の予測には、「これから発生し、急発達する積乱雲」の予測が重要なので、レーダーやアメダスなどの観測データから、その発生の兆候を検出する手法も取り入れています。  レーダー観測網の更新・整備、そして新たな解析・予測技術によって生まれた高解像度降水ナウキャストは、時々刻々と変化する降水の監視に役立ち、他の気象情報と合せて大雨や急な強い雨の際の判断や普段の生活に利用していただけるものと考えています。 (3)次期静止気象衛星の打ち上げに向けた技術開発  気象庁は、現行の静止気象衛星「ひまわり7号」の後継機として、「ひまわり8号」を平成26年度に打ち上げ、平成27年夏季から運用を開始する予定です(42ページのトピックス5(1)を参照)。「ひまわり8号」に搭載する高機能のカメラは、大気や地表面から放出される様々な波長の光や赤外線を捉えることができ、観測で得られる画像の種類が大幅に増えます。また、衛星から見える地球の全範囲を10分ごと、日本域やあらかじめ指定された領域を2.5分ごとの高い頻度で撮影することが可能となり、画像の解像度も2倍に向上します。気象庁では、この新しい衛星観測画像を、気象の実況監視、数値予報、気候・環境監視等で利用するための技術開発を続けています。  その一例として、上空の火山灰を監視するための技術開発があります。火山灰は航空機の運航に悪影響を及ぼすため、気象庁では東アジア及び北西太平洋における火山灰の状況を監視し、航空関係者に情報を提供しています。現在は衛星画像等を人間が解析して火山灰の範囲や高度を求めていますが、衛星データから自動的に精度よく火山灰を検出する技術を開発中です。下図は、九州地方南部の霧島山(新燃岳)から噴出し太平洋の上空へ流れて来た火山灰を、現行の「ひまわり」の観測データを用いて自動的に検出したものです。色を付けた部分が火山灰の範囲であり、色の違いによって火山灰の高度を表しています。次期衛星では、画像の種類が増えることで火山灰の検出精度が向上し、かつ高い頻度で観測することによって火山灰の変化をいち早く捉えることも可能になると期待されます。  この他、特に画像の種類の増加や2.5分ごとの高頻度の観測などにより、急激に発達する積乱雲の早期検知、雲の種類や高度の推定精度の向上、きめ細かい上空の風の算出、より正確な黄砂の分布の算出など様々な技術開発も進めています。 3.地震・津波、火山に関する技術開発 (1)地震災害軽減のための技術開発  東海沖から四国沖にかけての南海トラフ沿いでは、これまでにマグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生しています。これらの地震は、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込むことにより発生しています。気象研究所では、南海トラフ沿いの沈み込み帯の性質を明らかにするため、この領域において発生している、断層やプレート境界がゆっくり滑ることにより発生するゆっくり地震(スロースリップ)に関する調査を進め、以前には確認できなかった多くのゆっくり地震が発生していたことを明らかにしました(図)。それと同時に地震発生シミュレーションに関する研究を行い、ゆっくり地震と巨大地震の関連性に関する研究も行っています。  また、緊急地震速報を、より早く、より正確に発表するための技術開発を行っています。現在運用している、地震のマグニチュードを推定して、震度を予測する方法に加えて、新たに、地震の揺れが伝わってくる様子からまだ揺れていない場所での震度を予測する方法を開発し、さらに、長周期の地震動にも対応できるよう研究を行っています。 (2)津波警報・注意報の発表・解除に関する技術開発  津波警報・注意報の発表や解除の精度を向上させるためには、津波の発生源をより精度よく推定するとともに、津波が時間とともに広がり、やがて減衰する様子を詳細に把握することが必要です。また、東北地方太平洋沖地震による津波の観測では、GPS 波浪計や、更に沖合に設置している海底津波計のデータは、沿岸での津波の到来を予測する上で極めて重要であることが確認され、沖合津波観測網の拡充が進められています。  これらを踏まえ気象研究所では、津波警報の更新の精度の向上を図るために、沖合でいち早く観測された津波波形データから、沿岸に押し寄せる津波を即座に精度良く予測するための手法の開発を行っています。また、日本から遠く離れた外国で発生した津波(遠地津波)の大津波警報・津波警報及び注意報の解除の時期を予測するための研究にも取り組んでいます。 (3)火山の監視・予測のための技術開発  活動的な火山では、GNSSなどを用いた地殻変動の観測結果に加えて、数値シミュレーション等を活用することで、地下のマグマ蓄積等を把握することができます。それは、火山の活動度を判断するデータのひとつであり、また、気象庁が発表する噴火警報や噴火警戒レベルを決定する際の判断にも活用されます。  伊豆大島は前回の噴火から20年以上が経過しており、地下ではマグマ蓄積が続いていると考えられます。気象研究所は、伊豆大島について地殻変動の精密な観測値を基に数値シミュレーション等も用いた解析を行なっています。また、事例調査等を行うことで、他の火山への応用についても研究を進めています。 4.大学や研究機関と連携した研究・技術開発  数値予報モデルをはじめとした気象や海洋、地震・火山・津波の監視・予測の技術を向上させるためには、各分野の最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学や研究機関はもとより、諸外国の気象機関などと情報交換や意見交換を行い、研究・技術開発を進めています。  国内の大学や研究機関とは、気象や海洋、地震・火山・津波のそれぞれの分野で合計130余りの共同研究を実施しています。いくつかの共同研究の成果は気象庁で活用されており、例えば、緊急地震速報の実用化も共同研究の成果のひとつです。  気象の分野については、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」という研究の枠組みを設けています。「気象研究コンソーシアム」は、気象庁の予測データや気象衛星データを研究者に提供することにより、大学や研究機関における気象研究を促進し、それにより、わが国における気象研究の発展、気象研究分野の人材育成及び気象予測技術の改善を図ろうとするものです。この枠組みのもとで、30余りの研究課題が取り組まれており、気象・気候の予測技術の開発や、現象の解明のための研究が行われています。  数値予報モデル開発に関しては、気象予測や数値シミュレーションのための数値予報モデルを利用する研究者に、気象庁が実際の予報に用いているモデルを貸与し、数値予報技術を用いた研究を促進しています。また、「気象庁数値モデル研究会」を開催し、大学や研究機関の研究者との交流を図っています。平成26年1月に統計数理研究所、データ同化研究連絡会との共同により開催した第7回気象庁数値モデル研究会では、約80人の専門家の参加により、データ同化の理論や各種のデータ同化手法について議論を行いました。  気候の分野では、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学や研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を設置しています。最近では、高知県四万十市で41℃を記録するなど顕著な高温となった平成25年夏の天候について、検討会でその要因を分析し、見解をまとめました。 第3章 気象業務の国際協力と世界への貢献  日々の天気予報や警報・注意報の的確な発表のためには、全世界の気象観測データや技術情報の相互交換など国際的な協力が不可欠です。気象庁を含む世界各国の気象機関は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心とした連携体制や、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1. 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  WMOは、世界中の気象等の観測とデータの収集、配布を促進し、また気象や気候の情報を改善させることなどを任務として活動している国際連合の専門機関の一つです。気象庁は、WMOの構成員として、国際会議開催やWMO 事務局への専門家の派遣、国際的なセンター業務を担当するなど、活発に活動しています。 2. 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 (1)北東アジア地域海洋観測システム地域リアルタイムデータベース  日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 (2)津波の警報に関する国際協力  北西太平洋で発生した地震によって起きた津波情報を各国に提供するとともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています。 3. 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  ICAOは国連の専門機関の一つであり、国際民間航空の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAO の指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター、熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4. 国際的な技術開発・研究計画との連携  気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。気象庁は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。  とりわけ地球温暖化問題については、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、昭和63年(1988年)の設立以来、気象研究所の研究者が評価報告書の執筆者として参画しているほか、気候モデルによる地球温暖化予測をはじめとする研究成果が評価報告書に盛り込まれる等、積極的に貢献しています。 5. 開発途上国への人材育成支援・技術協力  開発途上国の国家気象機関の技術向上のための支援は、その国の防災活動の強化につながる重要な活動であるだけでなく、精度ある観測データが地球全体で充実することを通じて、日本国内の予報精度の向上にもつながります。  気象庁は、開発途上国の国家気象機関の職員を対象に、気象業務の改善のための集団研修を国際協力機構(JICA)とともに40 年間にわたって実施してきました。研修生の多くは現在、世界各国の気象機関において指導的な立場で活躍しています。また、WMO や各国個別の要請に応じて、気象等の観測、解析、予報に関する分野で気象庁職員を専門家として派遣し、また、各国国家気象機関等から研修生を受け入れています。 コラム 開発途上国に対する気象レーダー整備の支援  社会・経済活動のグローバル化に伴い、多くの日本企業が開発途上国をはじめ世界各国で事業を展開しています。海外で発生する気象災害から邦人や企業資産を守るためには、その国の気象機関が、気象災害を監視する能力を高め、適時適切な警報等を発表できるようになることが有効です。  日本政府は、経済発展が見込まれ、今後多数の日本企業の展開が見込まれるミャンマー政府に対し、平成25年3月に、3基の気象レーダーを調達するための資金を供与することをミャンマー政府と合意しました。気象庁では、国際協力機構(JICA)が推進する本プロジェクトに対し、気象レーダーの観測環境や運用面など技術面で助言や支援を行い、ミャンマーでの気象災害の軽減に貢献していきます。 第2部 最近の気象・地震・火山・地球環境の状況 1.気象災害、台風など (1)平成25年(2013年)のまとめ  平成25年(2013年)は、7月と8月には、前線や大気不安定の影響で中国地方や東北地方で大雨となりました。また、9月中旬には、台風第18号の影響で、近畿地方を中心に西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨・暴風・高波・高潮となったほか、10月中旬には、台風第26号の影響で、関東地方を中心に、西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨・暴風・高波・高潮となりました。 (2)平成25年(2013年)の主な気象災害 ・大気不安定による島根県と山口県の大雨  7月28日は、中国地方を中心に暖かく湿った空気が流れ込み、雨雲が次々と発達したため、島根県と山口県では、午前中を中心に記録的な大雨となりました。28日の日降水量は、島根県と山口県のそれぞれ多いところで350ミリを超え、7月の月降水量平年値以上となりました。  この大雨により、島根県、山口県において死者2名、行方不明者2名の人的被害が生じたほか、島根県、山口県では各地で河川の氾濫や土砂災害による住家や農地の浸水、道路の被害が多数発生しました。その他、停電、断水が発生し、交通機関にも大きな影響が出ました(被害状況は、平成25年8月3日20時00分現在の内閣府のとりまとめによる)。 ・大気不安定による秋田県と岩手県の大雨  8月9日、北日本では日本海から湿った空気が流れ込み大気の状態が非常に不安定になり、秋田県・岩手県を中心に記録的な大雨となりました。  8月9日0時から10日24時までに観測された最大1時間降水量は、秋田県鹿角市鹿角(カヅノ)では108.5ミリ、岩手県雫石町雫石(シズクイシ)では78.0ミリとなりました。秋田県鹿角では、明け方から昼過ぎまでの数時間の降水量が、8月の月降水量平年値の約2倍に相当する記録的な大雨となったほか、秋田県や岩手県では、平年の8月の月降水量を上回る大雨となった所がありました。  この大雨により、秋田県で死者6名、岩手県で死者2名の人的被害が生じました。また、土砂災害による住家や道路の被害、住家の浸水被害が多数発生したほか、停電や断水が発生し、交通機関にも大きな影響が出ました(被害状況は、平成25年8月15日17時00分現在の内閣府のとりまとめによる)。 ・前線による島根県の大雨  8月23日から25日にかけて、西日本をゆっくり南下した前線に向かって、南海上から暖かく湿った空気が太平洋高気圧の縁を回って流れ込んだため、大気の状態が非常に不安定となりました。島根県西部では、24日の明け方と25日の明け方に猛烈な雨が降り、24時間降水量が多いところで400ミリを超え、8月の月降水量平年値の約3倍の記録的な大雨となりました。  この大雨により、島根県において死者1名、住家の全壊7棟の被害が生じました。また、河川の護岸と道路の路肩や法面の崩壊が多数発生し、住家の浸水と農地の冠水が発生したほか、土砂災害による住家の被害も多数発生しました。その他、停電や断水、交通機関の運休など大きな影響が出ました(被害状況は、平成25年9月13日現在の島根県のとりまとめによる)。 ・台風第18号による大雨・暴風及び突風  9月13日9時に小笠原諸島近海で発生した台風第18号は、発達しながら日本の南海上を北上し、潮岬の南海上を通って、16日8時前に暴風域を伴って愛知県豊橋市付近に上陸しました。その後、台風は速度を速めながら東海地方、関東甲信地方及び東北地方を北東に進み、16日21時に北海道の南東の海上で温帯低気圧となりました。  台風の接近・通過に伴い、日本海から北日本にのびる前線の影響や、台風周辺から流れ込む湿った空気の影響、台風に伴う雨雲の影響で、四国地方から北海道にかけての広い範囲で大雨となりました。また、台風や台風から変わった温帯低気圧の影響で、中国地方から北海道にかけての各地で暴風となりました。このほか、和歌山県、三重県、栃木県、埼玉県、群馬県、宮城県及び北海道においては竜巻等の突風が発生しました。  9月15日から16日までの総雨量は、近畿地方や東海地方を中心に400ミリを超えました。特に近畿地方では、9月の月降水量平年値の2倍を超える記録的な大雨となったところがありました。また、中国地方から北海道にかけての広い範囲で最大風速20m/sを超える暴風が吹き、海上では波の高さが9mを超える猛烈なしけとなり、沿岸では高潮となりました。  この大雨と暴風、突風等により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、岩手県、福島県、福井県、三重県、滋賀県、兵庫県であわせて死者6名、行方不明者1名の人的被害が生じました。また、四国地方から北海道の広い範囲で損壊家屋1,500棟以上、浸水家屋10,000棟以上の住家被害が生じたほか、停電、電話の不通、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等の交通障害が発生しました(被害状況は、平成25年10月11日18時00分現在の内閣府のとりまとめ及び平成25年10月7日10時00分現在の国土交通省のとりまとめによる)。 ・台風第26号による大雨・暴風  10月10日21時にマリアナ諸島付近で発生した台風第26号は、発達しながら日本の南海上を北上し、大型で強い勢力のまま、16日明け方に暴風域を伴って関東地方沿岸に接近しました。その後、台風は関東の東海上を北上し、16日15時に三陸沖で温帯低気圧に変わりました。  この台風および台風から変わった温帯低気圧により、15日と16日を中心に、西日本から北日本の広い範囲で暴風、大雨となりました。特に東京都大島町では、台風がもたらす湿った空気の影響で、16日未明から1時間100ミリを超える猛烈な雨が数時間降り続き、24時間の降水量が800ミリを超え、10月の月降水量平年値の2倍を超える記録的な大雨となりました。  10月14日から16日までの総降水量は、東京都大島町大島(オオシマ)で824.0ミリ、静岡県伊豆市天城山(アマギサン)で399.0ミリとなるなど、関東地方や東海地方では300ミリを超えたほか、風については、宮城県女川町江ノ島(エノシマ)で33.6m/s、千葉県銚子市銚子(チョウシ)で33.5m/sの最大風速を観測するなど、各地で暴風を観測しました。  この大雨や暴風により、東京都大島町では大規模な土砂災害が発生し、死者35名、行方不明4名の甚大な被害が生じました。また、各地でも土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、大島町を含め、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県であわせて死者39名、行方不明者4名の人的被害が生じ、中国地方から北海道の広い範囲で住家の損壊が生じました。そのほか、停電、電話の不通、水道被害、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等による交通障害が発生しました(被害状況は、平成25年11月25日17時00分現在の内閣府のとりまとめによる)。 (3)平成25年(2013年)の台風  平成25年(2013年)の台風の発生数は平年より多い31個(平年25.6個)で、平成6年(1994年)以来19年ぶりに30個を超えました。日本への接近数も平年より多い14個(平年11.4個)で、特に10月の接近数は昭和26年(1951年)以降で最も多い6個(平年1.5個)でした。本土への接近数は平年並の6個(平年値5.5個)、上陸数は台風第17号、第18号の2個(平年値2.7個)でした。 2.天候、異常気象など (1)日本の天候  平成25年(2013年)は、全国的に、春の前半までは気温の低い時期と高い時期が交互に現れたのち、春の後半から秋の前半にかけては気温の高い傾向が続き、顕著に高くなる時期も見られました。秋の後半以降は西日本や沖縄・奄美を中心に低温となりました。年平均気温は、東・西日本と沖縄・奄美で高く、北日本では平年並になりました。春と秋を中心に高気圧に覆われて晴れの日が多かった東・西日本では、年間日照時間がかなり多くなり、東日本太平洋側と西日本太平洋側では昭和21年(1946年)以降で最も多くなりました。一方で、一年を通じて低気圧や前線の影響を受けやすかった北日本では、年間日照時間が少なく、年降水量は多く、特に日本海側ではかなり多くなりました。また、夏以降、高気圧に覆われて晴れの日が多かった沖縄・奄美では、年間日照時間が多く、年降水量は少なくなりました。 平成25年(2013年)の各季節の特徴は以下のとおりです。 @冬(平成24年12月〜平成25年2月)は、北日本を中心に冬型の気圧配置となる日が多く、周期的に強い寒気が南下しました。このため、北日本から西日本にかけて気温の低い日が続き、寒冬となりました。また、日本海側では冬の降水量が多く、日照時間は少なくなりました。北日本日本海側の一部では記録的な積雪となり、酸ケ湯(青森県青森市)で積雪の深さが566センチメートルとなるなど、アメダスも含めた12地点で月最深積雪の大きい記録を更新しました。沖縄・奄美では、2月には顕著な高温の時期があり、暖冬となりました。 A春は、4月中旬から5月上旬にかけて寒気の影響で全国的に気温が低くなりましたが、そのほかの時期は暖かい空気に覆われて気温が上がり、寒暖の変動が大きくなりました。東・西日本では高気圧に覆われて晴れた日が多く、西日本太平洋側では春の降水量が最も少なく、東日本太平洋側、西日本日本海側、西日本太平洋側では春の日照時間が最も多くなりました(いずれも昭和21年(1946年)以降)。一方、北日本日本海側では寒気や気圧の谷の影響で曇りや雨または雪の日が多く、春の日照時間はかなり少なくなりました。また、北海道では、3月上旬に発達した低気圧の影響で暴風雪に見舞われました。 B夏は、太平洋高気圧が西日本に強く張り出し、北日本にも暖かい空気が流れ込んだため、全国的に暑夏となりました。特に、西日本では夏の平均気温が昭和21年(1946年)以降最も高くなりました。江川崎(高知県四万十市)で日最高気温が歴代全国1位となる41.0℃を記録するなど、各地で日最高気温の高い記録を更新しました。また、沖縄・奄美や東日本太平洋側では夏の降水量がかなり少なくなりました。一方で、梅雨前線や湿った気流の影響で、日本海側ではたびたび大雨に見舞われ、北陸や東北日本海側の夏の降水量はかなり多くなりました。特に、7月下旬には山口県と島根県で、8月上旬は秋田県と岩手県で、8月下旬は島根県で記録的な大雨となりました。 C秋は、9月中旬から11月上旬にかけて、日本付近への寒気の南下が弱かったため、北日本から西日本にかけて気温の高い状態が続きました。11月中旬以降は、強い寒気が流れ込み、北日本を除いて気温の低い日が多くなりました。9月から10月にかけては、台風や秋雨前線の影響でたびたび大雨に見舞われたほか、11月には低気圧や寒気の影響で日本海側では雨の日が多くなりました。このため、北・西日本と東日本日本海側の秋の降水量はかなり多くなり、北日本日本海側と東日本日本海側では秋の降水量が昭和21年(1946年)以降最も多くなりました。また、秋に日本へ接近した台風の数は9個となり、昭和26年(1951年)以降で最も多いタイ記録となりました。中でも、9月中旬に上陸した台風第18号の影響により福井県、滋賀県、京都府で、10月中旬に接近した台風第26号の影響により大島(東京都)で記録的な大雨となりました。一方で、東・西日本と沖縄・奄美では高気圧に覆われて晴れた日も多く、秋の日照時間は多くなりました。  東日本から中国中部にかけて、3月、7〜8月は異常高温となりました(図中A)。中国気象局によると、上海市のシージャーホゥエイ(徐家匯)では、8月7日に統計開始(1872年)以降で最も高い気温(40.8℃)を記録しました。  オーストラリアではほぼ年を通して気温が高く、1月、3〜4月、7〜10月に異常高温となりました(図中Q)。オーストラリア気象局によると、1月と9月は1910年の統計開始以降で、月平均気温が最も高くなりました。  フィリピンでは11月に台風第30号の影響で6200人以上(図中C)、インドでは6月に大雨による洪水や地滑りの影響でインド北部のウッタラカンド州を中心に600人以上が死亡、5700人以上が死亡と推定され、同月にはネパールで50人以上(図中E)、8月にパキスタンで230人以上、アフガニスタンで60人以上(図中F)が死亡するなどの気象災害が発生しました。なお、災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)の災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関・国連機関の発表等に基づいています。 (3)平均気温  平成25年(2013年)の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差(図の注参照)は+0.20℃(20 世紀平均を基準とした偏差は+0.57℃)で、明治24年(1891年)以降、2番目に高い値となりました。世界の年平均気温は、長期的には100年当たり約0.69℃の割合で上昇しており、特に1990年代半ば以降、高温となる年が頻出しています。  平成25年の日本の年平均気温の昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差は+0.34℃(20世紀平均を基準とした偏差は+0.95℃)で、明治31年(1898年)以降、8番目に高い値となりました。日本の年平均気温は、長期的には100年当たり約1.14℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。 (4)海面水温  平成25年(2013年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)までの30年平均値からの差)は+0.13℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降では、2番目に高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間スケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100年あたり0.51℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間スケールでは、1970年代半ばから2000年前後にかけて上昇して長期的な傾向を上回るようになった後、近年は停滞しています。  平成23年(2011年)春にラニーニャ現象が終息した後、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生しない状態が続いています。平成25年(2013年)の太平洋赤道域の中部から東部にかけてのエルニーニョ監視海域の海面水温は、冬は基準値より低く、春には基準値に近い値となりました。その後夏にかけて基準値より低い値まで下がりましたが、秋以降は上昇し基準値に近い値で推移しました。  日本近海の海面水温は、1月から5月にかけて日本海、北海道南東方で平年より低くなっていました。3月は黒潮流路付近の海域で平年より高くなっていました。6月は、日本海南部、沖縄の南で平年よりかなり高くなり、7月はオホーツク海南部、日本海北部、北海道南東方で平年よりかなり高くなりました。8月は広い範囲で平年よりかなり高くなり、特に四国・東海沖、東シナ海北部では8月の平均値としては1985年以降で最も高くなりました(34ページのトピックス2を参照)。10月には、日本の南で平年より低い海域が広がりましたが、その他の海域では11月まで平年並か平年より高い状態が続き、12月は、日本海北部、オホーツク海南部を除き平年並または平年より低くなりました。 (5)大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、各種の温室効果ガスの中で地球温暖化に最も大きな影響を与えます。大気中の二酸化炭素の濃度は、産業革命(18世紀後半)以前の過去約2000年間は278ppm程度でしたが、その後の産業活動などによる化石燃料の消費や森林破壊などの人間活動に伴って、世界的に増加の一途をたどっています。年ごとの増加量には変動があるものの、世界平均の二酸化炭素濃度は平成14年(2002年)から平成24年(2012年)までの10年間では、1年あたり2.0ppm増加しています。平成24年(2012年)の世界平均の二酸化炭素濃度は393.1ppmでした。緯度帯別の二酸化炭素月平均濃度の経年変化を見ると、北半球の中・高緯度帯の方が南半球よりも大きな季節変動をしており、また年平均濃度も高くなっています。これは、二酸化炭素の吸収源(森林など)・放出源(化石燃料消費など)がどちらも北半球に多く存在するためです。  気象庁は二酸化炭素をはじめとする様々な温室効果ガスの濃度を観測するとともに、世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)を運営し、世界中で観測された温室効果ガスのデータを収集・解析しています。 (6)温室効果ガスとしてのハロカーボン類  冷媒や溶剤として20世紀中ごろに大量に生産・消費されたハロカーボン類は強い温室効果を持っています。大気中の濃度はとても低いものの、物質によっては同濃度の二酸化炭素の数千倍の温室効果をもたらすものも存在します。その中でもクロロフルオロカーボン類(CFCs、いわゆるフロン)はオゾン層破壊の性質も合わせ持っており、国際条約(「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」)により規制されていて現在は生産されていません。綾里(岩手県)や世界各地の観測結果からは規制の成果が見られ、大気中の濃度は近年ゆるやかに減少しています。 (7)海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から25年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1〜2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成25年(2013年)までの29年間に、大気中で1年に1.8ppm、表面海水中で1年に1.6ppmの割合で増加しています。 (8)オホーツク海の海氷  オホーツク海の海氷域面積は、平成25年(2013年)12月から平成26年(2014年)3月までおおむね平年より小さく推移し、シーズンの最大海氷域面積は100.77万平方キロメートルで平年の86%でした。  特に12月は冬型の気圧配置が弱く、オホーツク海の気温が平年より高かった影響で、月平均海氷域面積は統計開始以降最小となりました。1月に入ってオホーツク海南部では海氷域はほぼ平年並に南下し、網走の流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年と同じ1月21日、網走の流氷接岸初日は平年より7日遅い2月9日でした。稚内の流氷初日は平年より8日遅い2月21日、流氷終日は平年より12日早い2月28日でした。網走の海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より13日早い3月7日でしたが、流氷終日は4月28日現在、未確定です。なお、釧路では流氷が観測されませんでした。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり5.8万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の3.7%に相当)の割合で緩やかに減少しています。 3. 地震活動 (1)日本およびその周辺の地震活動  平成25年(2013年)に震度5弱以上を観測した地震は12回(平成24年は16回)、震度1以上を観測した地震は2,387回(平成24年は3,139回)でした。国内で被害を伴った地震は10回※(平成24年も10回)でした。また、日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は20回(平成24年は21回)でした。  主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 ※6月8日16時17分および20時39分に発生した和歌山県北部の地震(マグニチュード4.0と3.9、と もに震度4)については、生じた被害がどちらの地震によるものか区別できないため、合わせて1回と しました。 (2)世界の地震活動  平成25年(2013年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は28回(平成24年は31回)でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回(平成24年は2回)でした。主な地震活動は表のとおりです。 4. 火山活動  平成25年(2013年)の日本の主な火山活動は以下のとおりです。 ○十勝岳(北海道)  平成18年(2006年)以降、火口直下浅部の膨張を示す地殻変動が継続し、平成22年(2010年)ころから火山性地震がやや多い状態で経過しています。平成25年(2013年)6月9日と7月3日に大正火口付近が夜間に高感度カメラで明るく見える現象が観測されました。この現象は高温ガスの噴出や硫黄の燃焼によるものと推定され、平成24年(2012年)6月以降時々観測されています。 ○樽前山(北海道)  6月下旬から7月上旬にかけて山体西側の深部で膨張性の地殻変動があり、その直後から山体西側を震源とする地震活動が活発化しましたが、9月以降は低調に経過しました。 ○択捉焼山(北海道)  3月29日に海抜約2,000mの高さの噴煙が気象衛星で観測されました。 ○八甲田山(青森県)  2月以降、山頂直下を震源とする地震が散発的に発生し、4月下旬以降はやや増加しましたが、7月下旬以降は減少傾向になっています。山体周辺の地殻変動観測では、2月頃以降、小さな膨張性の地殻変動がみられていましたが、8月頃から鈍化し、11月頃からは停滞しています。 ○蔵王山(宮城県、山形県)  火山性地震は、4月、10月に一時的に増加しました。火山性微動は、時々発生しました。 ○草津白根山(群馬県)  振幅の小さな火山性地震の一時的な増加が時々発生しましたが、火山活動に特段の変化はありませんでした。湯釜火口内の北壁等では引き続き熱活動がみられました。 ○箱根山(神奈川県)  1月中旬から2月中旬にかけて地震が一時的に増加しましたが、火山活動に特段の変化はありませんでした。 ○三宅島(東京都)  三宅島では、1月22日ごく小規模な噴火が発生しました。山頂火口からの二酸化硫黄放出量は、1日当たり200〜1,000トンと、やや少量〜やや多量の火山ガス放出が継続しました。4月に三宅島西方沖を震源とする地震が一時的に多くなりましたが、三宅島島内の火山性地震は少ない状態で経過しました。 ○青ヶ島(東京都)  7月に海上保安庁、10月と11月に第三管区海上保安本部が実施した上空からの観測では、青ヶ島付近の海面に火山活動によるとみられる変色水が観測され、7月と10月に実施した観測で、青ヶ島北岸の黒崎付近に白色の噴気が観測されました。12月に実施した上空からの観測では、変色水は確認されませんでした。この他、火山活動に特段の変化はなく、静穏に経過しました。 ○硫黄島(東京都)  島西部では、2月中旬、3月上旬、4月中旬に、ごく小規模な水蒸気爆発が発生しました。8月下旬には、島北部の北ノ鼻の北東から北の沖合で海底噴火が推測される変色水が確認されました。国土地理院の地殻変動観測では、1月頃からわずかに隆起、停滞を繰り返しながら、11月頃から沈降と変化しました。火山性地震が一時的に増加した日が時々ありました。火山性微動の発生は少なく発生した時間帯に、火山性地震の増加や空振は観測されませんでした。 ○西之島(東京都)  11月20日海上自衛隊からの連絡及び海上保安庁の観測によれば、西之島の南東500m付近の海上で新島が出現し、噴火しているのが確認されました。同日、火口周辺警報(火口周辺危険)、火山現象に関する海上警報を発表しました。その後、噴火及び溶岩流の流下が継続しているのが確認され、12月26日には西之島と新島の接続が確認されました。 ○阿蘇山(熊本県)  9月23日夜から火山性地震が増加し、二酸化硫黄放出量が多い状態となり、9月25日に噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、火山性地震、二酸化硫黄放出量ともに減少し、10月11日に噴火警戒レベルを2から1に引き下げました。  また、12月20日頃から火山性微動の振幅が大きい状態で継続し、湯だまり量の減少、二酸化硫黄放出量の増加、12月25日に中岳第一火口で土砂噴出が確認されるなど、火山活動が活発な状態で経過したことから、12月27日に噴火警戒レベルを1から2に引き上げました。 ○霧島山(宮崎県、鹿児島県)  新燃岳では、噴火は発生しませんでした。火山性地震は少ない状態で経過しました。火口内の溶岩の状態には、特段の変化は認められませんでした。国土地理院の広域的な地殻変動観測結果では、新燃岳の北西数kmの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張は、2011年12月以降鈍化・停滞しています。二酸化硫黄の放出量は、検出限界以下の量になっています。10月22日に噴火警戒レベルを3(入山規制)から 2(火口周辺規制)に引き下げました。 ○桜島(鹿児島県)  昭和火口では爆発的噴火が835回発生し、大きな噴石が3合目(昭和火口から1,300〜1,800メートル)まで達する等、活発な噴火活動が継続しました。8月18日の爆発的噴火では、噴煙が火口縁上5,000メートルまで上がり、昭和火口から南側約3キロメートルで小さな噴石により車のガラスが割れるなどの被害が出ました。火砕流は6回発生しましたが、火口付近にとどまる程度の小規模なものでした。  南岳山頂火口では、ごく小規模な噴火が時々発生しました。 ○薩摩硫黄島(鹿児島県)  硫黄岳で、6月3日〜5日にかけて噴火を確認しました。4日噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げました。火山性地震は一時的に増加しましたが、その後は、少ない状態で経過しました。7月10日に噴火警戒レベルを2から1に引き下げました。 ○諏訪之瀬島(鹿児島県)  御岳では、8月以降爆発的な噴火が時々発生し、12月は爆発的噴火が247回発生するなど、噴火活動は活発な状態で経過しました。 5. 黄砂、紫外線など (1)黄砂  気象庁では、国内60か所(平成26年4月1日現在)の気象台や測候所で、職員が目視により大気現象として黄砂を観測しています。統計を開始した昭和42年(1967年)から平成25年(2013年)までに黄砂観測日数が最も多かったのは、平成14年(2002年)の47日です。平成25年(2013年)の黄砂観測日数は15日(平年は24.2日)でした。黄砂観測日数は、昭和42年(1967年)から平成25年(2013年)の統計期間では増加傾向が見られますが、年ごとの変動が大きく、長期的な変化傾向を確実にとらえるには今後の観測データの蓄積が必要です。  黄砂の日本への飛来は、例年3月〜5月に集中しています。この時期は、@黄砂発生源となっている地域で砂を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した裸地となっており、砂じんが舞い上がりやすい状態であること、A砂を舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通ることが多い季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂発生源が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。  平成25年(2013年)は、4月と5月は黄砂の飛来が少なく月別黄砂観測日数は平年を大きく下回りました。 (2)オゾン層・紫外線  成層圏のオゾン量は1980年代を中心に札幌、つくばで減少が進みましたが、1990年代半ば以降、那覇も含め緩やかな増加傾向がみられます。南極域では、1980年代初め頃からオゾンホールが観測されています。平成25年(2013年)のオゾンホールは、8月に発生した後、9月16日にこの年の最大面積となる2,340万平方キロメートル(南極大陸の面積の約1.7倍)にまで広がり、11月中旬に消滅しました。大規模なオゾンホールの発生は、毎年継続しています。国内の紫外線量は、紫外線観測を開始した1990年代はじめから緩やかな増加傾向がみられます。一般にオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線が増加しますが、この期間、国内ではオゾン量の減少は観測されていません。紫外線を散乱・吸収する大気中の微粒子の減少や天候の変化(雲量の減少)などが紫外線量の増加の原因と考えられています。 (3)日射・赤外放射  気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。  世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、1980年代後半から2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。  日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。