はじめに 気象庁は、その時代における最新の科学技術を取り入れながら業務を発展させてきました。近年、急速な発展が見られるICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)についても、その動向に合わせて、国民がより身近に気象サービスを受けられるよう、業務の高度化を進める必要があると考えています。今回の「気象業務はいま2013」では、特集「社会に活きる気象情報」において、ICTの発展とともに歩んできた気象庁の業務、そして、ICTを活用した新たな気象サービスについて取り上げてみました。また、特集では、再生可能エネルギーによる発電など、新たに気象情報の利活用が期待される分野も取り上げ、関係者からご意見も盛り込みながら、科学技術・社会経済の発展に伴う気象情報の可能性について記述しました。 東日本大震災や平成23年台風第12号による大雨災害において、気象庁は警報をはじめとする防災情報により重大な災害への警戒を呼びかけたものの、災害発生の危険性が住民や地方自治体に十分には伝わらず、迅速な避難行動に結びつかない例がありました。気象庁では、この事実を重く受け止め、災害に対する気象庁の危機感を伝えるために、新たに「特別警報」を創設することにしました。これは、警報の発表基準をはるかに超える現象に対して、重大な災害の起こる恐れが著しく大きい旨を警告するものです。この「特別警報」の運用にあたっては、地方自治体や報道機関等の関係機関と十分に調整を行うこととしております。また、防災気象情報の効果的な発表に向けて、学識経験者、地方自治体、報道機関などからなる検討会を開催して議論を進めていただいており、その成果を踏まえて「特別警報」を含めた一連の防災情報の効果をいっそう高めていきたいと考えております。「特別警報」の概要や本年3月7日から運用を開始した新しい津波警報について、トピックスで説明させていただいております。 このほか、第1部として、防災情報をはじめとする各種情報について解説するとともに、気象・海洋や地震・火山などの監視・予測、技術開発といった気象庁の取り組みを、また第2部として、昨年の気象災害や地震、火山活動、異常気象などを紹介しています。 本書を通じて、国民の皆様が、気象庁の発表する情報に対する関心と理解を深めていただき、自然災害への備えなどに活用いただくことを願っております。 平成25年6月1日 気象庁長官 羽鳥 光彦 特集 社会に活きる気象情報 1.ICTが導く気象情報のさらなる活用 近年、スマートフォンの利用に代表されるように、気象情報の入手手段が多様化していますが、これは情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)の発展がもたらしたといえます。気象庁は、これまでも、その時代で最新の技術を取り入れながら、気象情報の作成と提供を行ってきました。近年のICTの進展がもたらす情報の流通と利用環境における劇的な変化に対しても、国民がより身近に気象情報サービスを受けられるよう、各種の取り組みを進めていきます。 (1)ICT の進展と気象情報 「全国一般風ノ向キハ定リナシ天気ハ変リ易シ但シ雨天勝チ」、これは明治17(1884)年6月1日に気象庁(当時は東京気象台)が発表した最初の天気予報です。ご覧の通り、日本全国の予想をたった一つの文で表現しています。この天気予報は東京市内の交番に掲示されただけでしたが、当時の通信インフラを考えると住民に情報を伝達する手段として、この方法は、なかなか良いアイデアだったかもしれません。天気予報をはじめとする気象情報は、今も昔も、自然現象の観測に始まり、観測データの収集と観測データの解析による監視や予測、情報の作成と伝達という一連の情報処理を通じて国民に伝えられています。ここでは、情報通信技術の変遷に合わせて気象庁がどのように取り組んできたかを振り返るとともに、近年のICTの進展によって気象情報のあり方がどのように変化したのか、また、それに合わせた気象庁の取り組みについて紹介します。 ・観測網と通信網の確立に向けて〜情報通信社会の黎明期(戦前・戦後期から1990年代まで) 気象衛星によって撮影された雲の動きを見るとよく分かるとおり、大気の流れに国境はありません。このため、どの国でも自国の気象の正確な予測には、外国の気象データが必要となります。各国の気象機関は、インターネットが世界に普及するずっと以前から、気象データを交換する国際通信網を整備してきました。我が国においては、昭和36(1961)年の東京ーニューデリー間の回線開通を皮切りに、国際的な気象データの交換に参加してきました。このような国際通信網がない、戦前から戦後間もない時期にかけて、外国の気象情報の入手には、無線放送の傍受が唯一の手段でした。 その後、国内外の観測データ、予報・警報及び気象の実況図や予測図等を国内の気象官署や外国気象機関に配信するためのシステムが、全国中枢の役割を担う気象資料自動編集中継装置(C-ADESS)と全国6箇所の地方中枢気象資料自動編集中継装置(L-ADESS)を昭和62(1987)年までに整備することで実現しました。 一方、観測分野については、昭和49(1974)年に、当時データ通信に開放されたばかりの電話網を活用して、全国約1300地点の気象状況を遠隔監視できる観測網を構築しました。これが、アメダスです。また、昭和29(1954)年に整備した気象レーダー、昭和52(1977)年に日本初の実用衛星として打ち上げられた静止気象衛星「ひまわり」等を組み合わせて、職員の手と目による現場の正確な観測に加え、面的にリアルタイムで気象を把握できる観測網を構築しました。 この時代、気象通信網と観測網が急速に発展しました。しかしながら、人々が気象情報を入手する手段は、新聞・ラジオ・テレビや177天気予報電話サービス等に限定されており、気象情報の利用の多様化は、高度情報化社会の到来を待たなければなりませんでした。 ・インターネット時代の気象業務〜高度情報化社会の到来(1990年代以降) 1990年代に入ると、パソコンが一般にも普及し、家庭でもインターネットが利用されるようになりました。1980年代に登場した携帯電話も1990年代に急速に普及し、平成11(1999)年にNTTドコモがiモードサービスを開始したように、高度な情報通信サービスを誰でも簡単に利用できる時代が到来しました。 ・気象庁の基盤情報システム「気象資料総合処理システム(COSMETS)」の誕生 気象庁の情報システムは、国の防災関係機関、報道機関、民間事業者や外国の気象機関等と接続しています。高度情報化社会の到来により、大量の情報を安定的に伝達する必要が一層高まりました。 昭和63(1988)年には、スーパーコンピュータとC-ADESSを統合した気象資料総合処理システム(COSMETS)の運用を開始しました。平成8(1996)年には、COSMETSの処理能力強化に伴い大型化したシステムを本庁舎に設置できなくなったことから、気象衛星センター(東京都清瀬市)に建設した新庁舎に第二世代COSMETSを整備しました。その後、C-ADESSとL-ADESSを統合し、障害時のバックアップを可能とする二中枢のシステムとして、平成17(2005)年に東日本アデス(東京)、平成20(2008)年に西日本アデス(大阪)を整備しました。 スーパーコンピュータでは、気温などの大気の時間変化を物理法則を基にシミュレーションしています(第2章第1節参照)。空間解像度が高く、より現実に近いシミュレーションの実施には、スーパーコンピュータの計算能力の向上が不可欠です。気象庁は、昭和34(1959)年にわが国の官公庁として初めて科学計算用の大型コンピュータを導入して以降、コンピュータ技術の進歩に合わせて計算機を更新してきました。平成24(2012)年6月に運用開始した9代目のスーパーコンピュータは、1秒間に8百兆回の四則演算を行う能力を持ち、局地的な大雨などに対する防災気象情報の高度化や、季節予報の精度向上に役立てるほか、気象衛星データの処理も行っています。 このように気象庁では、高度情報化社会において24時間絶え間なく情報を提供するために、情報システムの機能強化と安定性を高める取り組みを続けています。 ・民間気象事業者によるきめの細かいサービスの実現(気象予報士制度等) 情報通信技術の発達とともに、気象情報についても、例えばファクシミリネットワークを通じて「欲しい時に欲しい情報」を入手したいというニーズが高まってきました。また、CATVを中心として、地域に密着した情報を提供するメディアの展開が進み、気象情報についても、質の高い局地的気象予測情報の提供が求められるようになりました。さらには、コンピュータを用いて気象情報を加工し、企業経営に活かすようなユーザーも誕生してきました。このような情報化の進展に伴う気象情報へのニーズの多様化にきめ細かく対応するため、気象庁では、平成5(1993)年に気象予報士制度を創設しました。これは、民間気象事業者による高度な気象サービスの普及を促進するため、気象庁以外の者が行う予報業務の一層の充実を目指した制度です。加えて同年には、スーパーコンピュータによる気象予測シミュレーション結果等、気象庁が作成した大容量のデータを民間事業者が入手できるよう、民間気象業務支援センターを通じて気象情報を提供する体制を整備しました。民間気象業務支援センターからオンラインで配信されているデータの量は、年々増加しており、2011年では、新聞朝刊に換算して36年分のデータが毎日提供されています(右下図)。 現在、多くの気象予報士が民間気象事業者等で活躍しており、インターネット環境の充実など社会で進むICTの発展の中、民間事業者はスマートフォン等の携帯端末を活用したサービスの拡充など、個々の利用者の要求に対応したサービスを展開しています。今後も最新のICTを活用した幅広いニーズに対応したきめ細かな気象サービスの提供に向け、民間気象事業者が重要な役割を担うことが期待されます。 ・ICTの劇的な進展と気象業務〜現代とこれから 天気予報をはじめとする気象情報を入手する際、みなさんはどのような手段を利用しているでしょうか。テレビの気象コーナーを観る人もいれば、同じテレビでもデータ放送を利用して、目的の場所の気象情報を入手する方もいるでしょう。また、スマートフォンのアプリケーションで、いつでも最新の気象情報を入手している方もいるでしょう。ICTの進展は、個人が受け身の姿勢で情報を得るだけでなく、自らのニーズに合った情報の入手と活用を可能としました。 ・インターネットは天気予報の入手元として第2のメディア 総務省情報通信国際戦略局情報通信経済室が行った調査(右上図)によると、天気予報の入手元として「最も利用するメディア」との問いに対し、70%を超える方がテレビと回答しています。インターネットについては、報道機関のサイトや一般サイトなどを合計すると、18%を超える方が天気予報の入手元としてインターネットを最も利用しています。この割合は新聞・雑誌やラジオを大きく上回り、インターネットは天気予報の入手元としてテレビに次ぐ第2位の地位にあると言えます。ただし、インターネットの中でも報道機関の文字サイトを利用している割合が大きく、既存のメディアと合わせると、依然として報道機関を介した利用が大半を占めています。近年、報道機関や行政機関とは異なる情報の入手元として、ソーシャルメディアの存在が注目されています。同じ調査報告から天気予報の入手元として利用されているインターネット関連のメディア(右下表)を見てみると、ソーシャルメディアは報道機関のサイトには遠く及ばないものの、行政・企業サイトと同等に利用されており、今後の動向が注目されます。 ・スマートフォンの登場 平成24年版情報通信白書によると、我が国ではモバイルインターネットの普及率が89.5%(平成22年)と世界各国と比較しても先行しています。同白書では、我が国におけるモバイルインターネット利用回数について、従来型携帯電話利用では毎日1 回以上が5 割強にとどまっているのに対し、スマートフォン利用では約8 割に達しており、スマートフォンの急速な普及は、データトラヒックの急増をもたらしていると報告しています。スマートフォンの登場により、個人が活動しているそれぞれの現場にいながら、インターネット上に展開する多種多様なサービスの利用が可能となっています。気象情報についても、情報通信事業者や民間気象事業者が、個人の自発的な選択に合わせたきめの細かいサービスを展開しています。 ・「スマート革命」と気象情報 ICT の革新などにより、企業等による多種多量のデータ(ビッグデータ)の生成・収集・蓄積が可能・容易になりました。その分析・活用による異変の察知や近未来の予測等を通じ、利用者個々のニーズに即したサービスの提供、業務運営の効率化等が可能になると期待されています。気象データを取り入れたビッグデータの分析については、来店者の年齢・性別等と気象条件を組み合わせた顧客分析、交通情報と降雨情報を活用した渋滞予測、土壌情報や農作物市況と組み合わせた気象情報の営農への活用等の事例が報告*されているように、人々の暮らしや産業と密接に関わる気象情報は、ビッグデータの活用においても重要な役割を担う可能性があります。平成24年版情報通信白書では、スマートフォン等の普及により実現したユビキタス環境(『いつでも』、『どこでも』、『何でも』、『誰でも』ネットワークに接続できる社会)の完成とビッグデータの活用が融合し、「スマート革命」ともいえるICT の新たな革新がもたらされる可能性を指摘しています。時間的・空間的に変化する気象情報をICTに合わせた形で提供することにより、気象情報がより一層生活や経済社会に浸透し、人々の安全や便利な暮らし、また、産業の発展に役立つ可能性があります。気象庁が現在進めている具体的な取り組みや民間事業者等の動向について、以下で紹介したいと思います。 (2)ICTが切り拓く新たな防災気象情報 ICTの進展は、大量の情報が迅速に伝えられることに加え、巨大な組織のみならず個人までが高度な情報処理を行うことを可能とします。ICTを活用し、防災気象情報をより効果的に利用していただくための取り組みについて紹介します。 ・ICTが実現した新たな防災気象情報「緊急地震速報」 地震波には、地震発生後最初に伝わってくるP波(縦波)と、強い揺れにより建物等に被害をもたらすS波(横波)があり、P波はS波よりも速く伝わります。地震波の伝わる速度は毎秒数キロメートル程度ですが、地震計のデータや発表した情報は、ほぼ光の速度(約毎秒30万キロメートル)で伝達できることから、地震の発生場所に近い地震計でP波を観測した段階で、各地の震度を推定し伝えることにより、S波が伝わってくる前に、強い揺れが迫っていることを知らせることが可能となります(下図)。 この原理を利用して緊急地震速報を実用化するためには、地震計のデータを速やかに気象庁に収集し、瞬時にコンピュータで解析、情報として伝達する手段が必要でした。これらは、近年のICT技術の発達があって初めて実現されたものです。さらに、緊急地震速報は、鉄道運行の自動制御、エレベーターの自動停止、学校・工場・商業施設での館内自動放送、個人が持つ携帯電話への一斉配信など、いままでの防災気象情報にはなかった受け手側での高度な利活用が行われています。このように、情報の作成・伝達・利用いずれの場面でも、緊急地震速報はICTに支えられています。 ・ICTの活用で多様化する情報伝達手段 気象庁では、気象、地震・津波、火山などに関する防災情報を、防災関係機関にオンラインで迅速に伝達すると同時に、テレビ・ラジオやインターネット等を通じて広く国民に発表しています。さらに、近年のICT技術のさらなる進展を受けて、情報伝達の手段は一層多様化しています。 例えば、気象庁が発表する緊急地震速報や津波警報等の防災情報は、消防庁が整備している全国瞬時警報システム(Jアラート)により、消防庁から人工衛星を経由して市町村に迅速に伝達されるだけでなく、市町村に設置されている防災行政無線を自動的に起動させて、住民の皆様に瞬時に情報を伝えることが可能となっています。 緊急地震速報や津波警報、自治体が発令する避難に関する情報などを、該当する地域にいる一人ひとりの携帯電話に一斉に同報配信する「エリアメール」「緊急速報メール」等と呼ばれるサービスも、ICT技術の進展によって可能となりました。 さらに、最近ではスマートフォンの普及が爆発的に進んでおり、一人ひとりが必要な防災情報を手軽に手に入れることができるアプリケーションが多数提供されています。 ・ICT の進展に合わせた防災情報の提供(防災情報のXML化) これまで気象庁は、気象警報、津波警報、地震情報などを、それぞれの分野によって個別の異なる形式(フォーマット)で提供してきました。これは情報の内容の特性に応じて、従来の低速な通信環境で伝達することに対応したものでしたが、高度にICT化された現代社会において、より詳細で高度化された防災情報をより効果的に活用していただくため、情報の種類によらない統一したフォーマットとして「気象庁防災情報XMLフォーマット」を策定し、平成23年5月12日より使用しています。このフォーマットでは、汎用性が高く、インターネットの世界で広く一般に普及しているXML形式(次ページ質問箱参照)を採用しました。 これによって気象庁から提供される様々なデータを統一的に処理することができ、利用者はそのニーズに合わせて自由に情報を加工することができるようになりました。例えばハザードマップや河川の水位情報、避難情報など他機関の情報も組み合わせることによって、より効果的な利活用が広がると期待されます。 気象庁では引き続きXML形式による防災情報の普及を図るとともに、利活用の状況等を踏まえて今後更に利用者の活用の幅を拡げる取り組みを進めていきます。 質問箱 XML形式で気象情報を公開するメリットは? XMLは、ウェブページに用いられるHTMLと同じくコンピュータ言語の一つであり、文章に論理的な構造、意味を指定することが可能なテキスト形式の記述言語です。機械処理による情報の選別と取得、構造変換等を容易に行うことができ、取り扱う技術の標準化や充実したソフトウェアといった環境も整っていることから、近年は標準的なデータの記述形式として幅広く利用されています。 このような特徴を持つXML形式で気象情報を提供することで、利用者が必要とする情報を取り出し、関連する他のデータと結びつけて活用する等の高度な利用が可能となり、今まで想定していなかった分野における気象情報のさらなる活用にもつながると期待されます。また、気象や地震といった異なる分野の情報を統一的に処理できるほか、情報内容の改善や、新たな情報の提供等にも柔軟に対応することができるようになり、利用者側の負担も軽減されます。 ・メッシュデータが社会を変える 気象庁では、警報・注意報や天気予報など様々な防災気象情報を発表しています。これらの基となる気象の監視・予測データの多くは、地図を等間隔に区切った網目状に値をもつ「メッシュデータ」です。 例えば降水量は、地上の雨量計にレーダーによる観測を組み合わせて、全国を1キロメートル四方(メッシュ)ごとに解析しています。また、過去の雨雲の動きから、1時間先までの5分ごとの降水の強さを予測する「降水ナウキャスト」や、6時間先までの1時間ごとの降水量を予測する「降水短時間予報」も、同じく1キロメートルメッシュのデータです。平成25年度からは、気象庁ホームページで新たに土砂災害の危険度を5キロメートルメッシュで示す「土砂災害警戒判定メッシュ情報」の提供も開始します。 メッシュデータを用いて、降雨や災害の危険度の分布を図で確認することができます。さらに、ある地点に注目して時間的な変化を見ることで、その地点で今後の降雨や災害の危険度がどう推移するか確認することもできます。例えば、降雨予測のメッシュデータで自宅が位置するメッシュを常に監視し、雨が降り出すおそれがある場合にスマートフォンへ通知するようなことができます。 また、メッシュデータは他の様々な地理情報と組み合わせることで、災害から身の安全を確保することにも役立てることができます。例えば、従来から地方自治体が配布しているハザードマップには、災害のおそれのある地域や避難所が示されています。雨の降り方や災害の危険度を示すメッシュデータと、ハザードマップに示された情報を組み合わせることで、大雨の際に危険な地域を特定したり、最寄りの安全な避難所を判断したりすることができます。 コラム 土砂災害警戒判定メッシュ情報 土砂災害警戒判定メッシュ情報は、実況及び予測雨量に基づいて、土砂災害発生の危険度を5キロメートルメッシュごと階級表示した分布図です。 この分布図により、土砂災害発生の危険度の高い地域をおおよそ把握することができます。 避難勧告、自主避難等の判断に際しては、この情報だけではなく、土砂災害警戒区域なども合せて総合的に判断する必要があります。 なお、利用にあたっては、土砂災害警戒情報、大雨警報(土砂災害)、大雨注意報は、気象状況等を総合的に判断して発表しており、これらの発表状況と一致しない場合があることに留意して下さい。 今では携帯電話やスマートフォンのGPS技術を用いて簡単に現在地を取得することができるため、災害の危険度が高まった時に、危険な地域にいる人たちにピンポイントで情報を伝達し、さらに近くの避難所を教えてくれるようなことが技術的には可能になっています。 こうした情報の伝達を支える環境も整いつつあります。スマートフォンの利用が急速に拡大し、高速無線通信網の整備が着実に進むことで、外出先でも自宅と変わらず必要な情報が得られるようになってきています。将来的には、最新の気象のメッシュデータを基に溢れた水が低いところへ向かって流れる様子をシミュレーションするなど、刻々と変化する災害の危険度をリアルタイムに計算することが可能となり、位置情報はビルの階層や地下街での正確な位置といった3次元で取得可能になることが期待されます。さらに、スマートフォンが、スケジュール帳のデータや日ごろの行動パターンから、あなたがどこにいて、どこに向かおうとしているかを推測してくれるようになれば、災害のおそれがある場合には、その危険性をお知らせするとともに、安全な場所へ向かったり危険を回避するルートを提案してくれたり、あるいは、しばらくビルの高層階にとどまっていた方がよいといったアドバイスをしてくれるなど、その時々に応じた最適な行動の判断に必要な情報を提供してくれる、そんな技術が実現することが期待されます。 昨今の情報通信技術(ICT)では「ビッグデータ」がキーワードになっています。インターネット上には、様々な種類のデジタルデータが日々爆発的に生成されており、異なった種類のデータを組み合わせて解析することにより新たなビジネスの創造や便利なサービスの提供に繋がることが期待されています。アメリカでは、2012年にニューヨークを襲ったハリケーン「サンディ」の接近に際して、公的機関の発表する気象情報や避難に関する情報と、ソーシャルメディアから抽出した被害情報などを地図上で重ね合わせて見ることができるサイトが立ち上がり、情報発信の強力なツールとして機能しました。このようなデータ融合の流れは、今後もますます加速していくことに疑いの余地はありません。 社会活動から私たちの日常の生活に至るまで、あらゆる活動は気象に左右されています。防災という観点に限らず、ビッグデータとしてのメッシュデータの活用には大きな可能性があります。ICTの発展によりこうしたデータが広く流通することで、我々の想像を超えた多くの便利なサービスが新たに展開され、多くの人が気象情報の恩恵を受けることができるようになるでしょう。 ・個人のニーズをつかむサービスの創造〜Yahoo! JAPANの取り組み事例 ICTの進展により、今までになく高度な防災気象情報の作成・伝達・利用が可能とりました。なかでも大きな変化と言えるのが、気象庁が発表する情報がそのまま利用されるばかりでなく、ネットワーク上に気象情報が流通することで、様々な主体による個人レベルのニーズに合ったサービスの創造が期待できるようになったことです。このような取り組みをYahoo! JAPANに紹介いただきました。 コラム Yahoo! JAPANが取り組む防災情報(Yahoo! JAPAN寄稿) Yahoo! JAPANでは、社会の課題解決のひとつとして、2005年から地震発生時に地震情報を全ページでの掲載を始めるなど、防災に役立つサービスの開発に力を入れています。最近では、スマートフォンでのサービスに特に力をいれており、緊急地震速報、地震情報、豪雨予報などをプッシュ通知する防災速報や、地図上に雨雲の変化を表示する「雨雲ズームレーダー」などを提供しています。 また、地方自治体との防災協定を締結し、避難所の情報を地図上に掲載する「避難所マップ」も開始し、自治体からの避難勧告や避難指示情報も2013年夏から掲載を開始する予定です。 東日本大震災発生時、停電によりテレビ、ラジオ、ネットのどれも使えないという状況や、一方でラジオだけは使える状況、電話はつながらないがネットは使える状況など、様々な事態が発生しました。そこでYahoo! JAPANは、災害時にネットが使える場合には、最大限皆さまに役立つサービスを提供したいと考えました。テレビやラジオの代替手段としてのネットではなく、災害に備えるためには、複数の情報入手手段を持っておくことが大事だと考え、東日本大震災以降、更に取り組みを強化しています。 (1)防災速報とスマートフォン向け豪雨予報について 東日本大震災後の、2011年7月から、「防災速報」という、8種類の災害情報(地震情報、豪雨予報、津波予報、気象警報、噴火警報、放射線量、電気使用状況、計画停電)をスマートフォン(iPhone,Android)用アプリやメールで配信するサービスを開始しています。利用者の現在地や、設定した地域、災害ごとの設定(地震の震度や、豪雨予報の雨量)にあわせて、利用者に必要な情報を配信しています。特にユーザーから好評なのが、降水ナウキャストのデータを基にした豪雨予報です。ユーザーが20mm/h、30mm/h、50mm/h、80mm/hの中から通知する降水強度を設定すると、設定した地域や現在地で、1時間以内に、設定以上の降水強度が予測された時に、今後1時間の雨の予測を配信します。ユーザーから好評な点は、ナウキャストの予想データを利用する事で、雨が降る前に配信されるリアルタイム性と、そのユーザーの設定や現在地の豪雨予測のみが配信されるパーソナライズ性です。今までの多くのパソコン向けサービスでは、全国の情報を地図や一覧で掲載して、利用者が地域など自分に必要な情報を探す流れが一般的でしたが、雨が降る前にサイトで検索することは難しく、利用者が知りたいのはこれからその場所で雨が降るかどうかであり、全国の情報は必要ありません。ナウキャストの予想データと、スマートフォンのプッシュ通知や位置情報機能を組み合わせる事により、雨が降る直前に通知するリアルタイム性とパーソナライズ性を実現したことが本サービスのポイントだと思います。 (2)スマートフォン向け配信で必要となるデータ 今後、ますます、インターネットサービスは、パーソナライズ性とリアルタイム性が求められます。その場合に必要とされるデータは、市区町村よりも数キロメッシュ、1時間単位よりも1分単位と、より狭いエリアのより短い間隔のデータです。また、そこから求められる近い未来の予測データのニーズが高くなると考えられます。テレビやラジオなどの放送では、多くの人に一番重要な情報を限られた時間で伝える必要があるため、全体の特徴を簡潔に伝える情報が必要とされると思いますが、インターネットサービスでは、「細分化された情報」が求められる、という点が大きな違いです。 また、予想データと同様に、災害時に行動を指示する情報もとても大切です。2012年9月に「ソーシャル防災訓練」というスマートフォンを使って、「防災速報」とTwitterの情報を元に避難できるかを検証する避難訓練を実施しました。訓練の後、参加者に行ったアンケートでは、Twitterに流れる情報が多く、正式な避難誘導の情報をきちんと見つけづらかったという意見が最も多く寄せられました。災害時に配信される避難勧告や避難指示という情報は、市区町村などの自治体が管理され、地域の防災行政無線などから配信されることが多く、デジタル化されインターネット上で配信される事例はまだまだ少ないのが現状です。また各自治体ごとに情報が管理されているために、全国に対応したサービスの開発が難しいという問題もあります。Yahoo! JAPANでは、これらの課題を解決すべく、公共情報コモンズと連携し、2012年夏から災害時の避難勧告、避難指示の情報を「防災速報」や「Yahoo!天気・災害」で掲載・配信を開始する予定です。 (3)スマートフォン向け災害情報の今後 今後は、利用者が向かっている行き先の豪雨予報の配信や、豪雨の避けたナビゲーション、利用者の家族構成や、生活圏にあわせたサービスの提供など、さらなるパーソナライズ化、リアルタイム化が進むと考えられます。いずれにしても、増加するデータの中から、その人に情報を最適化して配信する事が重要と考え、Yahoo! JAPANとしても災害に備えるサービスの開発に取り組んでいきたいと思います。 ・ICTの期待と課題 ICTが実現する防災気象情報の新たな利用への期待ついて、京都大学防災研究所の林 春男教授にご寄稿いただきました。 マイクロメディアサービスの普及をめざして 京都大学 防災研究所 林 春男 教授 これまで気象情報の伝達は「マスメディア」に依存してきました。とくに速報性と視覚性という特徴から「テレビ放送」が中心でした。放送とは、多くの人に同じ情報を一斉に伝達することで、英語では「ブロードキャスト」といいます。その典型が、全国に1300点ほど点在するアメダス観測点からのデータをもとにした「気象情報」の提供です。日本全国の気象状況をタイルの色の変化として毎時のニュースで一覧できることは、まさにテレビというメディアが持つ特性を生かした情報提供手段として、私たちの生活にしっかり定着しています。しかし、情報の解像度という点では20kmメッシュの1時間更新です。その解像度では表現できない現象も多々あります。 現在、気象情報は格段にその解像度と情報更新頻度を増し、精度の向上が図られてきました。たとえば気象レーダーの情報は、1・メッシュの解像度の情報が5分ごとに更新にされます。発信される情報量をアメダスと比較すると、20×20×12=4800倍になるのです。これは従来のマスメディアで伝達できる情報量の限界を超えています。いいかえれば、こうした多量の情報を伝達できる新しいメディアの必要性が高まっているのです。 マスメディアも変化しています。テレビも地上波デジタルに移行し、提供できる情報量は3倍となり、データ放送も始まりました。データ放送を通して、当日は3時間ごと、向こう1週間分は1日ごとに、自分の知りたい地域の気象状況をいつでも知ることが可能となりました。同じことはパソコンでも可能で、郵便番号単位で気象情報を知ることができるようになりました。旅行を計画する際には、旅先の気候を知る上で大変有効な情報源になっています。こうした革新の背景にはICTの発達があります。インターネットにつながったテレビやパソコンは、これまでの一方向的なブロードキャスト情報ではなく、双方向コミュニケーション手段へと進化し、提供される多量な気象情報の中から利用者が自分自身のニーズに応じて、必要とする地域の気象情報だけを入手することができるようになりました。 しかし、それでも取り残されている人々がいます。それは移動している人々です。データ放送やパソコンは基本的に固定した場所での使用を想定しているからです。NHKの生活時間調査によれば、私たちは通勤・通学に全国平均で平日1時間以上を費やしています。それ以外にもプライベートに外出や旅行などで、屋外を移動している時間はかなりな時間数になります。馴染みのない場所で、急に気象の変化に見舞われるなど、移動中こそ気象情報は必要となる場合も少なくありません。そのような場合にどのようにすれば気象情報を届けることは可能でしょうか。答えはGPS付携帯端末を持っていれば可能です。 GPS付携帯端末とは耳慣れない言い方ですが、要はスマートフォンの地図機能であり、常時接続型のカーナビのことです。いずれもGPS衛星と通信しながら自分の現在位置を認識して、地図上に自分の位置を表示し、道案内する仕掛けです。 GPS付携帯端末を使うとさまざまなことが可能です。例をあげれば、緊急地震速報です。地震の被害が予想される地域にだけ地震波の到達前に地震発生を知らせる緊急地震速報の存在は東日本大震災で多くの人に認識されました。また、1時間に30ミリ以上の雨量が10分後に予想される車両に対して、注意喚起の情報を提供するサービスを実用化している自動車メーカーもあります。 こうした自分たちにとって今必要となるきめの細かい情報を、移動中の人にも届けることができるICTの仕組みを「マイクロメディア」と名付けました。そしてマイクロメディアは気象情報を伝達するこれからの主体となるメディア(=伝達方法)であると思っています。これを活用した新しい情報サービスは技術的にはすでに可能です。残された課題は制度の整備です。その意味でもインターネット上の情報を社会が2次利用する際の基準の整備が急務なのです。 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの田中 淳センター長には、防災気象情報に与えられている課題についてご寄稿いただきました。 コラム 気象情報全体の枠組みに利活用の視点を 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター 田中 淳 センター長 情報通信技術の発展は、気象庁が発表する災害情報や生活情報を大きく変えてきており、今後も大きく変えていくことは間違えのないことでしょう。これまで、種々の自然現象を予測すること、その予測の結果を伝えるという面で、情報通信技術は貢献してきました。たとえば、緊急地震速報は、処理技術の向上と伝達技術の向上抜きには提供されえなかった情報であり、竜巻注意情報の発表も、ドップラー・レーダーの整備と大気の状態の解析技術抜きには発表することはできなかったでしょう。 最近、災害情報に多くの注目を集めるようになったのは、これらの技術発展を背景に、提供できる情報が出てきたからです。ただ、これほどまでに災害情報が注目されるようになったのは、技術の発展だけではありません。日本の防災対策が直面している災害が、発生する頻度は低いが極めて大規模な災害だからです。これまでの歴史を持つ施設整備で、ある程度の規模の災害が発生しても、生命や財産に被害を受けずにすむようになってきました。しかし、施設整備計画を超える災害は現実に発生しえます。まさに東日本大震災は、発生する頻度は低いが極めて大規模な災害が、現実に発生しうることを我々の目にまざまざと見せつけたのです。それだけに、施設だけで封じ込める対策以外の、避難や防災教育を通じた避難や土地利用といった対策の必要性が喧伝されるようになりました。この避難の契機となり、最後の後押しをするのが気象警報等の災害情報だからこそ、大きな期待と注目を集めていると言えます。 情報通信技術の発展は、気象情報の生産、伝達、利用のいずれの側面においても福音となりえます。しかし、幾つかの課題があることも事実です。第1に、収集システムの脆弱性です。多くの観測点から情報を収集するシステムは、面的に広く分布するため、土砂移動や停電などの影響を受けやすく、災害発生時の、しかも被害の激しい地点の情報が欠測となった事例は数えきれません。これは、気象システムだけではなく、様々なモニタリング・システム共通の課題です。 第2に、伝達面で言えば、情報通信技術の適用システムは、電力と通信の機能状況に依存します。規模が大きな災害では、停電したり、通信が物理的に被害を受けたり、輻輳したりします。たとえば、仙台市内で自宅に大きな被害を受けず、避難もしなかった人でも、東日本大震災発生当日にインターネットを使えたのは3%、3日たっても7割の人は使えませんでした。もっとも大事な期間に使えなかったという事実は、真摯に受け止めなくてはなりません。 これらの課題は、いずれは技術的に改善され、解決されていくことでしょう。もっとも難しく、解決しなければならない問題は、災害情報の活用を図ることです。予測には不確実性がつきまとうことは避けられません。どれだけ精度が上がっても、不確実性を除去することはできません。まして、低頻度大規模災害を対象に議論する限り、利用者に体験を期待することはできません。これまでの研究の知見から見ると、・)過去の災害名に言及することは緊迫感を高める、・)警報名称の変更はあまり緊迫感を高めることに有効ではない、・)レベルがあがったという現象の動きを示す表現は有効である、・)数値情報だけではなく、たとえば床上浸水といった被害をイメージできる表現が付け加わると緊迫感が有意に増す、といった傾向を指摘できます。情報通信技術の発展は、確実に提供可能な情報を増やし、その精度を向上させ、地域的解像度を上げることでしょう。そのことは、個々の気象情報に対してだけではなく、気象情報全体の枠組みに、利用者の活用からみた情報生産内容と表現とを反映させることが求められます。 気象庁では、気象や地震等の技術的な事項だけでなく、社会活動の変化に伴う防災気象情報のあり方といった事項についても、検討会の開催等を通じて学識経験者や関係機関のご意見を伺いながら、業務の高度化に取り組んでいます(トピックス4(1)参照)。ICTの進展についても、その動向にあった対応となるよう、関係者との連携に努めます。 (3)新たな気象サービスの創造に向けて ・気象情報のネットワーク上での流通促進〜XML電文のホームページを通じた公開 近年、ICT技術の発展やソーシャルメディアの普及が進む中で、より幅広い情報を、汎用性の高い形で公開することへのニーズが高まっています。また、平成24年7月に「電子行政オープンデータ戦略」が策定され、政府全体として公共データのより幅広い公開と利活用を推進する方向性が示されました。 コラム オープンデータ戦略の推進による新サービスの創造 東日本大震災では、情報の横の連携の重要性が改めて認識されました。例えば、震災時に行政の保有する避難所情報などの震災関連情報を地図データ等を利用して広く周知させようとしても、データの形式の問題で人手によって再入力しなければいけないなど、情報の集約や二次利用に多くの時間と手間が必要とされるケースが散見されました。 このため、現在、昨年7月にIT戦略本部で決定された「電子行政オープンデータ戦略」に基づき、公共データをより利用しやすくするための検討が行われています。 この検討の中で、総務省は、分野を超えたデータの流通・連携・利活用を効果的に行うために必要となる、データ形式や二次利用に関するルールの確立等のための実証実験を行っています。 例えば、公共交通情報を活用した実証実験では、複数の鉄道やバスのリアルタイムな運行情報が活用可能となることで、実際の遅延情報を考慮した最適なルート案内等のサービスが実現できることを検証しています。また、防災・災害関連情報を活用した実証実験では、リアルタイムの様々な気象データと地方公共団体が提供しているハザードマップ等の情報とを同じ地図上で組み合わせること(マッシュアップ)で、住民の避難や地方公共団体の行政判断に役立てられるような情報の公開・利活用について検証しています。気象庁は、この実証実験において、気象データの提供に協力しています。 今後、実証実験に留まらず、様々な公共データが利用しやすい形で公開されることにより、気象データについても、様々な分野のデータと組み合わされ、防災や日々の暮らしの中で、従来では想像できなかった形で活用されることが期待されます。 コラム 気象データ・アイデアソン/ハッカソンの開催 公共データは、利用者に様々な形で活用されてこそオープン化していく意義があります。提供者側もオープン化の意義を理解できて、はじめてオープン化が促進されます。 このため、オープンデータ戦略の推進に当たっては、公共データを活用すれば例えばこういう新たなアプリケーションが生まれるといった事例を開発し、オープン化のメリットが利用者に見える形にしていくこと(可視化)が重要です。 「ハッカソン」とは、そうしたオープン化のメリットの可視化を行うためのイベントのことで、「ハック(hack)」と「マラソン(marathon)」を組み合わせた造語です。具体的には、特定のデータを対象にテーマを決めて短期間(例えば1日)で開催されるもので、参加者は複数のチームに分かれて、実際にアプリケーションの作成を行います。 昨年12月1日には、多くの人にとって身近で分かりやすいという観点から、気象データを対象としたハッカソンが、オープンデータ流通推進コンソーシアムの主催で行われ、約50名が参加し、テーマ別に6チームに分かれて検討されました。気象庁は、このイベントに参加するとともに、気象データを提供しました。また、ハッカソンの開催に先立ち、様々なアイデアを持ち寄り、お互いに検討しあうイベント「アイデアソン」(「アイデア(idea)」と「マラソン(marathon)」を組み合わせた造語)がFacebook上で約1ヶ月間行われ、40以上のアイデアが出されました。 今後もこうしたイベントを通じて、公共データのオープン化のメリットが共有されることが期待されます。 気象庁では、警報等の様々な情報を気象庁防災情報XMLフォーマット形式の電文データ(XML電文)として防災機関に提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間事業者等に提供することで、広く国民に伝えてきました。さらに、府省横断的なオープンデータへの取り組み等の近年の動きを踏まえ、気象情報の利活用の推進を図るために、気象庁ホームページを通じたXML電文の公開を平成24年12月より開始しました*。これにより、汎用性が高く情報の加工等が容易なXML形式の気象情報がインターネットを利用して誰でも入手できるようになり、気象情報利活用の裾野がより拡がることが期待されます。現在、ホームページを通じたXML電文の公開は試行的な運用として実施していますが、利活用の状況等を確認しながら本格的な運用に向けて課題の整理を進めていきます。 * http://xml.kishou.go.jp/open_trial/index.html ・新たな気象サービスの創造に向けて これまで見てきたように、ICTを活用した新たな気象サービスが始まっています。このようなサービスにより、今まで以上に防災気象情報が一人ひとりに直接的に活用され、避難行動の支援といった形で国民の安全につながることが期待されます。また、自治体や防災関係機関でも、最新のICTを取り入れたシステムにより、防災情報等を伝達し、住民に知らせています。 さらに、前ページで紹介したアイデアソン・ハッカソンといった活動にみられるように、ICTの進展により、新たな主体が、新たなサービスを産み出す可能性が広がりました。また、ネットワーク上に流通している様々なデータを統合・分析して、あらたな価値を生み出す試みが進められています。 気象庁では、社会のあらゆる場面で気象情報が利活用されるような環境の充実に向けて、今後も最新の情報通信技術を活用した情報の作成・伝達、また、メッシュデータ((2)・参照)のような新たな情報の開発に取り組みます。さらに、様々な主体によって新たな気象サービスが創造され、国民がそれを享受できるよう、気象情報の流通と利活用の促進に、より一層努力いたします。 コラム 気候リスク評価のための気象観測データの提供 気象庁では、天気予報や警報等の即時的な情報だけではなく、日々の気象観測データについても、利活用の促進を図っています。 産業界においては、例えば店頭での売り上げが気候の影響を大きく受けることが認識されていましたが、その影響を定量的に見積もることはこれまであまり実施されていませんでした。気象庁が様々な産業分野の民間企業及び自治体を対象に実施したアンケート結果によると、気候データが利用しづらいことも一因であることがわかりました。 そのため、気象庁では、様々な産業分野において気候の影響の定量的な評価に利用していただけるように、平成25(2013)年5月に過去の気象データを検索して利用しやすい形式でダウンロードできる機能を気象庁ホームページに新たに開設しました。この機能では、気象観測データの入手のみならず、昨年との差、過去5年平均との差、指定した値を上回った日数等、利用者の必要に応じて様々な統計計算を簡単に行い、その結果をダウンロードできます。 このデータを活用することによって、売り上げと気温との関係を調べる等、社会経済活動に対して気候の変動が与える影響を定量的に把握することが可能になります。その結果を季節予報等の予測データと組み合わせて用いることにより、気候の変動による売り上げへの影響を小さくする対策(気候リスク管理)をとることができるようになります。 気象観測データを利用した気候リスク管理を促進するため、気象庁ホームページには、気候リスク管理の考え方や実例も紹介したサイト「気象情報を活用して気候の影響を軽減してみませんか?」もあわせて開設しました。気象庁では、今後も、気候データ利用者の視点に立って情報の提供を進めていきます。 2.暮らしや産業に役立つ気象情報 「この冬は寒い日が続いたため、コンビニエンスストアではおでんの売り上げが好調だった。」といったニュースが流れることがあります。気温や日照時間等は、人々の日常の生活に大きく影響します。また、天気予報をはじめとする気象の予測情報や観測データは、産業活動においても重要な役割を演じています。ここでは、人々のより良い暮らしや産業での活用という視点で、気象情報の可能性について紹介します。 (1)再生可能エネルギーと気象情報 ・再生可能エネルギーの普及と気象情報 太陽光、水力、風力などのエネルギーは、一度利用しても比較的短期間に再生が可能で、資源が枯渇しないエネルギーであるため 「再生可能エネルギー」といわれます。これら再生可能エネルギーの導入が、様々な主体によって進められています。太陽光や風力等による発電は、次の2つの点で気象情報と密接に関わっています。 第一に、太陽光や風の強さはどこでも同じではありません。このため、太陽光や風力等による発電に適した場所を選ぶ際は、設置場所の気象条件を考慮する必要があります。 第二に、太陽光や風力等による発電では、気象条件の時々刻々の変化による発電量の変動があります。発電所から送電線、変電所等の設備を経て、需要の現場まで電力が届けられる過程の全ての要素を組み合わせた「電力系統」を安定運用させるためには、発電量と需要量をバランスさせる必要があります。このため、再生可能エネルギーによる発電においては、気象情報を用いた発電量の正確な予測が必要となります。 ・発電設備の整備に用いられる気象情報 気象庁のアメダス等による全天日射量や日照時間、風向・風速の観測値は、発電施設の適地選定や発電事業者が自ら行った気象観測の検証に利用されています。また、長期間にわたる観測データが十分に得られない洋上に施設を整備する場合などには、観測データとシミュレーション技術を用いて作成した気象や海流のメッシュデータが活用出来ます。 ・太陽光発電の発電量予測 気象研究所は、平成22年度から太陽光発電に関する研究を(独)産業技術総合研究所、東京大学、岐阜大学、(一財)日本気象協会と共同で実施しています*。 この研究では、太陽光発電を他の発電方法(火力、水力、原子力等)と組み合わせて電力システムを構成した場合のシミュレーションが行われています。シミュレーションに用いる発電量の予測の基礎となるのは日射量の予測です。日射量の予測値は、毎日の天気予報を作成するための基礎となっている「数値予報モデル」(スーパーコンピュータで将来の大気の状態を予測する技術で、詳しくは1部2章1節参照。)を用いて計算しています。気象研究所は、日射量の予測精度の向上とともに、予測の精度や誤差の特徴を明確にするための改良・開発を担当しています。日射量の予測値は、工学的な処理によって発電量予測に変換されます。シミュレーションの結果から、日射量の予測精度が向上することにより、火力発電で用いる燃料を節約した発電計画で電力システムを運用できるため、発電コストが低下することが明らかになってきました。 (2)電力需要予測や熱中症対策と気象情報 ・気象情報を活用した電力需要予測 東日本大震災以降、夏期や冬期に広く節電が求められました。気温をはじめとする気象条件は電力需要に大きく影響します。従来、電力会社は、天気予報や週間予報を電力需要予測に利用していましたが、電力需給のひっ迫が懸念される場合、対策の検討や準備のために出来るだけ早い段階から需要見通しが必要となります。このため気象庁は、資源エネルギー庁及び電気事業連合会からの要請に基づき、平成24年の夏期と同年末から翌年はじめの冬期において、異常天候早期警戒情報(次ページコラム参照)を活用した2週目の気温予測値を同連合会に提供しました。電力会社は、この予測値を利用して2週目の 「でんき予報」を作成し、ホームページで公表しました。 コラム 気象情報を活用した2週目の「でんき予報」について 関西電力では、平成24年の夏に3回目の節電のお願いをさせていただきました。これは、東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故を受けて、定期検査中の原子力発電所の再稼動の見通しが立たないことから、電力需給状況が厳しく、広域的な停電を回避できない可能性があったためです。できるだけお客さまの負担を少なく節電していただくためには、あらかじめ計画が必要となる節電(例:勤務シフトの変更)と短期間で実施可能な節電(例:エアコンの停止)を上手く組み合わせていただくことが重要であり、お客さまからも、準備期間が2週間あれば、対応できる節電施策が増える、とのご意見を伺っており、2週目(翌々週)の需給見通しを公表するニーズが高まってきました。 しかしながら、電力需要に大きな影響を与える気温などの気象情報については、気象庁や民間気象会社においても週間天気予報より先は平均気温の確率情報しかなかったため、電力需要の予想に活用することは困難でした。そこで、気象庁と電気事業連合会および電力会社で相談し、2週目のそれぞれの日の天気予報を行うことの難しさを共有しながら、お客さまのニーズに合った電力需要の予想やそのために必要となる気象情報について議論を重ねました。お客さまにおいて2週目の節電の取組みの目安としていただくために、電力会社はでんき予報で2週目の最も厳しい日の需給状況を公表することとし、気象庁に2週目の「期間中の最高気温の最高値」を予想する手法を構築いただき、昨年夏のでんき予報から公表することができました。 今後とも、気象庁には、産業に活用できる気象情報の提供やその工夫について期待しております。 ・熱中症対策に関する気温予測情報 気象庁では、熱中症への注意の呼びかけとして、翌日又は当日を対象とした「高温注意情報」、向こう1週間を対象とした「高温に関する気象情報」、5〜14日後を対象とした「異常天候早期警戒情報」を発表しています。これらの情報の中で、水分のこまめな補給、冷房の適切な利用等の具体的な熱中症対策を示し、注意を喚起しています。これらに加え、電力需給ひっ迫時には、より一層気温の情報が重要となることから、「最高最低気温分布予想図」の提供を平成24年7月より開始しました。これは、全国を20キロメートル四方の格子に分け、翌日または当日の最高・最低気温の予想を地図上に表示するもので、気象庁ホームページに掲載しています(「天気分布予報」にリンクがあります。)。 コラム 異常天候早期警戒情報の拡充 気象庁は、週間天気予報より先(2週間後まで)に数日間以上続く著しい高温や低温への警戒を早期に呼びかける「異常天候早期警戒情報」を平成20(2008)年3月より発表しています。この情報は、天候の影響を受けやすい農業関係機関を中心に活用されていますが、雪害対策等への活用に向けて、平成24(2012)年11月より、降雪に対する警戒の呼びかけを新たに開始しました。 大規模な偏西風の蛇行に伴い、強い寒気が上空に流れ込んで冬型の気圧配置となる日が続くと、日本海側の地域ではまとまった雪が数日以上にわたって降り続きます。概ね1週間後からの7日間を対象とした「低温に関する異常天候早期警戒情報」を発表する際に、日本海側を中心とした地域を対象に、7日間降雪量が平年よりかなり多くなると予想された場合、降雪に関する情報を付加し、注意を呼びかけています。 降雪が多くなると人々の日常生活に大きな影響が現れてきますが、すでに積雪が多くなっている場合には、その後さらに積雪が増えることによって影響が甚大となります。 警報・注意報や天気予報とともに、本情報を有効に活用していただき、道路や屋根雪等の早期の除雪や排雪の実施・事前計画の策定、農業施設の補強や枝折れ防止など、さまざまな雪害に対する対策に役立てていただきたいと考えています。 (3)産業と気象情報 気象庁では、気候変動や異常気象による影響を受ける分野が損失や被害を回避・軽減するために必要な気候情報とその利活用のあり方に関して、交通政策審議会気象分科会の提言を受け、利用者との対話や、関係機関との連携・協力を通して、気候情報活用策の成功事例の創出とその普及を進めていくこととしています。 ここでは、アパレル・ファッション業界と漁業において気候情報が活用されている事例について紹介いたします。 コラム アパレル・ファッション業界における気象データの活用 アパレル・ファッション産業協会では、気象庁と共同で気候情報の利活用に向けた検討を進めています。これまで、アパレル・ファッション業界では、店頭での売り上げには気候が大きく影響していることが暗黙の裡に“業界の常識”となっており、また、商品展開に取り入れていました。しかしながら、これらの“常識”は伝統的に受け継がれていたものであり、定量的な評価がなされていたわけではありません。各社の営業やマーケティング担当者は、この“常識”を、独自の経験に基づきマーケティング施策に活用していました。 今回、気象庁と共同で、過去数年間の品種別店頭売り上げの実績データと気象データとの関係を定量的に分析しています。もちろん、売り上げは気象だけで決まるものではありませんが、例えば、気温とコートの売り上げを比較すると、ある一定の気温を下回ると売り上げが伸びていることがわかりました。つまり“業界の常識”が具体的に実証されたことになり、気温の情報を業務に活用できる可能性を確認することができました。 しかしながら、日々の業務の中で気象情報を効果的に活用するためには、課題もあります。1つは各社の売り上げ実績を整理するとともに、業務における対策をとるための基準を設定すること、もう1つは気象情報の基礎的な知識を共有することです。 今後、これらの課題の解決に取り組み、どの時期にどのようなアイテムを手配すればよいか把握できるようになると、・適切な販売時期の設定、・適切な在庫管理、・店頭VMD(ビジュアルマーチャンダイジング;視覚的演出効果)施策、等に応用できる可能性が広がってくると考えます。このように過去の気象データや予測に関する情報をマーケティング分析に活用することによって、より一層お客様に満足していただける商品提供ができるようになることを期待しています。 コラム 日本近海のかつお資源分布動態予測とその実利用に向けて ア. かつおについて 水産資源生物の分布動態を把握するためには、漁獲の時期・海域・量の情報に並んで、海洋の情報が必要となります。本コラムでは日本の水産資源の中でもとりわけ重要でかつ、さまざまな国によって利用される「国際資源」である「かつお」を対象とし、その分布動態予測のために必要なデータの一部として黒潮や親潮に代表される日本周辺の海流や水温を再現・予測する気象庁の北西太平洋海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM-WNP:以下気象庁MOVE*)のデータを取り入れた技術開発について紹介します。 かつおは水産生物の中でも海洋の特徴とともに紹介され、「かつおは黒潮に乗ってやってくる」といった言葉を聞いたことがあるかと思います。表現の科学的な是非はともかく、これには南からかつおを追いながら漁獲する一本釣りのイメージが大きいかもしれません。かつおを漁獲する主要な漁法は、まき網、竿釣り(遠洋と近海)、沿岸ひき縄があり、現在ではその中でも漁獲量が最も多いのはまき網です。2010年のデータを元にしますと、世界のかつお漁獲量は252.3万トンで主要かつお・まぐろ類(ビンナガ、メバチ、キハダ、クロマグロ、ミナミマグロ)の合計漁獲量約420万トンの約6割を1魚種で占めていることになります。この数値からだけでも地球規模の食料供給において、かつおが蛋白資源として重要であることがわかります。日本近海における中心的漁場である常磐・三陸沖漁場でのかつお来遊量は、分布の中心である熱帯域の資源量と北上回遊・漁場形成に関連する海洋環境に影響されると考えられています。近年、日本近海でのかつお漁の操業環境は厳しくなっており、漁場探索の効率化や漁場選択のための有力な助けとなる精度の高い漁場予測が望まれるようになってきています。これまでの漁場予測手法は、過去の漁場と海況を重ね合わせによる経験則に基づいていました。そこで本研究では、かつおの生物特性と生息適水温、移動を考慮した資源動態モデルを適用した資源分布動態の把握を目的としました。 イ. かつお資源分布動態の予測 かつお資源分布動態を予測するために適用した方法は、SEAPODYM(Spatial Ecosystem and POpulation Dynamic Model)と呼ばれる資源動態モデルです。このモデルは環境と漁獲の影響を考慮に入れた手法で、持続的な水産資源の利用を目的としてフランスのCLS社のPatrick Lehodey博士を中心に開発されてきました。国際水産資源研究所では2010年度からCLS社との共同研究としてこのモデルを適用したかつお資源分布動態に関する研究を遂行してきました。このモデルの目的は、海洋環境データ(水温、流速、溶存酸素、基礎生産)を入力データとし、かつおの環境への応答を考慮した年齢別の資源動態を予測することです。このモデルの主な特徴は、海洋物理−物質循環結合モデル、餌生物モデル、かつお個体群動態モデルの3つのサブモデルから構成されていることです。かつお資源分布動態の把握において、水温と流速は生息域や移動に関連するパラメータとして重要になり、これらのパラメータを得るために気象庁MOVEのデータを使用しています。一例としてSEAPODYMによって推定された2011年8月中旬の42.3センチメートル以上のカツオ分布を、同時期の竿釣(赤丸)とまき網(青丸)の各漁業の分布を重ね合わせて示します。分布密度が高く予測された海域は、東経160度より西側に確認でき、特に南西諸島周辺で高い傾向を示しています。逆に東経160度の西側の海域や黒潮流路沿いでは低く予測されています。実際のこの時期の漁場は主に三陸沖の北緯40度付近に形成され、分布密度が比較的高く予測された海域と良い一致を示しました。しかし、漁場が分布していない亜熱帯海域でかつおが多く分布するように推定されており、この点についてはかつお分布に関連する要因の再検討なども含めて今後の課題です。 現在は試験段階ですが、1か月先まで予測した気象庁MOVEのデータを旬別に処理、入力して予測されたかつお分図を作成し、水産総合研究センター・開発調査センターとも共同して竿釣り船を使用した予測域の妥当性について検証を実施しています。今後はかつお分布予測精度の向上を図るとともに、準リアルタイムでの配信方法や予測域の描画などについて検討していく予定です。将来的に高精度な予測が実現出来れば、管理のためのツールとしての利用が可能と考えています。 (4)利用者との対話の促進 これまで見てきたように、気象情報は人々の生活や社会経済活動と密接に関わっており、その利活用を推進することで、より良い暮らしや産業の発展に貢献できると考えています。このような認識のもとに、気象庁としては第一に、気象や海洋の数値予測モデルに代表される基盤的技術の改良と開発を進めます。さらに、再生可能エネルギーのような新しく気象情報の活用が期待される分野においては、利用者との対話を深めることで、より高度な利用方法を探っていきます。このような取組として、気象庁が持っている情報と技術を専門分野の研究者や技術者に提示し、気象情報の活用研究を共同で実施しています。その他にも、産業界、民間気象事業者、関係省庁との対話をさらに深め、気象情報の改良と利活用の推進に取り組んでいきます。 トピックス1 「特別警報」の創設 東日本大震災では、気象庁は大津波警報などを発表しましたが、必ずしも住民の迅速な避難に繋がらなかった例がありました。また、平成23年台風第12号による大雨災害等においては、気象庁は警報により重大な災害への警戒を呼びかけたものの、災害発生の危険性が著しく高いことを有効に伝える手段がなく、関係市町村長による適時的確な避難勧告・指示の発令や、住民自らの迅速な避難行動に必ずしも結びつきませんでした。そのため、地方公共団体及び住民等の皆様からは、直ちに防災対応をとるべき状況である旨のわかる、危険性を明確に示した情報の提供が望まれています。 中央防災会議の防災対策推進検討会議は平成24年7月に、東日本大震災等を踏まえた我が国の今後の防災対策の理念や具体的方策をとりまとめました。この中には、災害の危険性や避難の必要性を分かりやすく伝えるための情報提供方法の改善や、国及び地方公共団体の連携による警報等の情報の住民等への確実な伝達など、気象業務に関連する提言も盛り込まれています。そして、我が国における防災対策の一層の充実・強化のため、早急に必要な制度の改善・拡充を行い、具体的な対策の推進に取り組んでいくべきと結ばれています。 これらを踏まえ、広い範囲で多くの人命が危険にさらされる大災害は今後も発生し得るものであることから、東日本大震災を踏まえた防災対策全般の見直しに向け、国、地方公共団体等で多くの取り組みが行われています。気象庁としても、このような防災対策の動向及び近年における気象業務に関する技術の進展に対応し、災害から多くの生命を守るため、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい旨を警告する「特別警報」の制度を創設することとしています。 「特別警報」は、予想される大雨や火山の噴火、津波等の現象が特に異常であるため、重大な災害の起こるおそれが著しく大きく、避難などの防災対応を直ちにとるべき状況にあるという危険性を伝えるものです。 したがって「特別警報」は、市町村長が発令する避難勧告や避難指示、都道府県等の防災関係機関の防災対応を判断する際に重要な情報となるものであり、非常時においてこれを有効に活用していただくため、「特別警報」を発表する基準については、あらかじめ都道府県知事や市町村長の意見を聴いて定めることとしています。 また、「警報」や「特別警報」の通知先に消防庁を新たに加え、同庁が整備を進めているJアラート(全国瞬時警報システム)を活用した警報等の伝達ルートの多重化を図るとともに、「特別警報」については、都道府県から市町村への伝達、市町村から住民等への周知の措置をそれぞれ直ちに行うことを義務付けることとしています。 「特別警報」の創設により、気象庁が発表する情報や住民等の皆さんの対応はどのように変わるのでしょうか。 大雨の場合を例にすると次のようになります。1日程度先に大雨が降る可能性が高くなった時点で、大雨等に関する気象情報を発表し、大雨の始まる数時間前には「大雨注意報」や「大雨警報」を発表します。その後、例えばこの大雨が数十年に一度の大雨になると予想した時点において、新たに「大雨特別警報」を発表することとなります。ただし、「大雨警報」が発表された後には、「大雨特別警報」が発表されなくても重大な災害のおそれがありますので、「特別警報がまだ発表されないから」といって決して安心するのではなく、大雨に備えた早めの避難行動を心がけることが重要です。「大雨特別警報」は、さらに著しい大雨を予想した場合に発表するものですので、情報を収集し一刻も早く安全確保のための行動をとるなど、一層厳重な警戒が必要となります。市町村の避難勧告等にしたがって直ちに避難所へ避難する、或いはすでに外出することが危険な状態のときは、無理をせず家の中で比較的安全な場所にとどまる、といった命を守る行動ををとる必要があります。 また、津波や噴火等については、現行の「大津波警報」や「噴火警戒レベル4相当以上の噴火警報」などの危険性が高いレベルのものを「特別警報」と位置付ける予定としており、これまでと同様に、直ちに安全な場所に避難するなどの行動をとる必要があります。 トピックス2 平成24年の主な風水害 (1)平成24年7月九州北部豪雨 7 月11 日から14 日にかけて、黄海から本州付近にのびる梅雨前線に沿って非常に湿った空気が流れ込み、九州北部地方を中心に記録的な大雨になりました。 特に、12日未明から明け方にかけて熊本県と大分県を中心に猛烈な雨が降り、熊本県阿蘇市阿蘇乙姫(アソオトヒメ)では1時間に80ミリを超える猛烈な大雨が3時から6時にかけて降り続き、1時から7 時までの6時間では、7月の月降水量平年値570.1ミリの8割を超える459.5ミリの雨を観測しました。また、13日は佐賀県、福岡県を中心に、14日は、福岡県、大分県を中心に大雨となり、11日から14日までの間に、3時間降水量で計7地点、24時間降水量で計8地点が観測史上1位の値を更新しました。 これらの大雨により、河川のはん濫や土石流、がけ崩れ等が発生し、熊本県、大分県、福岡県で死者30 名、行方不明者2 名となったほか、九州北部地方を中心に1万棟を超える住家の損壊・浸水等が発生しました。また、停電被害や交通障害等も発生しました。(被害状況は、平成24 年8 月10 日18 時00 分現在の総務省消防庁の情報による) この様な甚大な被害を踏まえて、気象庁は7月11日から14日にかけて九州北部地方を中心に降った大雨について、「平成24年7月九州北部豪雨」と命名しました。 11日から降り始めた雨は、12日未明には熊本県と大分県を中心に猛烈な雨となり、降り続く大雨により重大な災害が一層差し迫っている状況と考えられました。 このため、気象庁として初めての「記録的な大雨に関する気象情報」を発表し、「これまでに経験したことのないような大雨」という文言を用いて最大限の警戒を呼びかけました。 気象台では、普段から自治体の防災対応を支援する取り組みを進めており、今回の大雨では、自治体へ直接電話し、気象状況がかなり危険な状態になっていることを伝えたほか、報道機関を通じて気象解説を行うなど、危険な気象状況と今後の見通しについて説明を行いました。また、災害対策本部への職員派遣や、政府調査団による現地調査への随行、自治体の災害応急活動等を支援するために災害時気象支援資料の提供を行うなど、災害への対応と1日も早い復旧のための支援に努めました。 また、気象研究所では今回の豪雨の発生要因を調査し、その結果について7月23日に報道発表を行っています。 (2)台風第16号・17号による潮位記録及び高潮災害 平成24年には、台風第16号が接近・通過した際に西日本の13地点、台風第17号の際に東海地方を中心とした8地点で、過去最高潮位を超えるもしくは過去最高潮位に並ぶ潮位を観測しました。その要因としては、以下の4つの条件が重なったことがあげられます。 ・台風による吸い上げ・吹き寄せ効果での潮位上昇があったこと ・海水温が高いことなどにより一年の中で最も潮位が高くなる時期であったこと ・大潮(満月や新月の前後で満潮の潮位が高くなる時期)であったこと ・多くの地点で台風の接近・通過時間帯が満潮時間帯であったこと なお、台風第16号の際には、鳥取県の田後では台風が離れてから最高潮位を観測しました。これは、台風第16号が日本海西部を通過した際に気圧低下による吸い上げや風の吹き寄せによって発生した海水の高まりが、その後「陸棚波」と呼ばれる非常にゆっくりした速度で進行する波として東へ伝播し、それが満潮に重なったために発生したものと考えられます。また、9月下旬には東海地方を中心として、黒潮から枝分かれした海流が沿岸域を流れることによって潮位が天文潮位より20〜30センチ程度高い状態が継続するいわゆる「異常潮位」が発生していました。「異常潮位」の発生と台風第17号の接近・通過が重なったことも複数の地点で過去最高潮位を超える潮位となった要因となりました。 これら台風による高潮で、台風第16号の際には沖縄県、熊本県及び長崎県を中心に、台風第17号の際には愛知県と三重県で床上浸水の被害が発生しました。台風や低気圧の接近が予想される場合には高潮に十分注意・警戒することが必要です。各地の気象台が発表する高潮警報・注意報等を確認してください。 (3)5月6日に発生した茨城県つくば市・常総市の竜巻 平成24年(2012年)5月6日12時35分頃に発生したと推定される竜巻により、茨城県常総市からつくば市付近にかけて大きな被害が発生したため、気象庁は、6日から7日にかけて気象庁機動調査班(JMA-MOT)を現地に派遣して調査を実施しました。この現地調査の結果や複数の研究機関の局地的な風速の推定値等から、竜巻の強さは藤田スケールでF3(毎秒70〜92メートルの風速)と推定しています。竜巻の強さについては、平成18年(2006年)の北海道佐呂間町で発生したF3の竜巻などと共に、国内では最大級となりました。 この竜巻について、気象研究所で開発中の二重偏波固体素子ドップラーレーダーでは大気下層の反時計回りの渦を捉えており、この渦は現地調査による被害分布とよく対応していることから、竜巻に伴うものと考えています。また、気象研究所のスーパーコンピュータを用いた250m格子の水平分解能での数値シミュレーションによると、強い竜巻をもたらす積乱雲の特徴であるスーパーセルの構造が解析されました。 気象庁では引き続き、竜巻等の激しい突風をもたらす顕著現象の実態解明とその予測に向けて、研究と開発を着実に進めていきます。 トピックス3 平成24年12月7日の三陸沖の地震〜約1年8か月ぶりに津波警報を発表 平成24年12月7日17時18分、三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生し(注)、青森県、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県で震度5弱を観測しました。この地震により津波が発生し、石巻市鮎川で98センチメートルなど、東北地方の太平洋沿岸で津波を観測しました。 また、この地震により、死者1人、負傷者15人、住家一部破損1棟の被害がありました(総務省消防庁調べ)。 気象庁はこの地震に対して、最初の地震波の検知から6.6秒後に東北地方と関東地方の一部に対して緊急地震速報(警報)を発表しました。また、17時22分に宮城県の沿岸に津波警報(津波)、青森県太平洋沿岸、岩手県、福島県、茨城県の沿岸に津波注意報を発表(同日19時20分にすべて解除)しました。 この地震は、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の余震域で発生した地震で、マグニチュード7.0以上の余震は平成23年7月10日の三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震以来約1年5か月ぶり、また、津波警報を発表したのは平成23年4月7日の宮城県沖を震源とするマグニチュード7.2の地震、平成23年4月11日の福島県浜通りを震源とするマグニチュード7.0の地震以来約1年8か月ぶりでした。 東北地方太平洋沖地震の余震は全体的には次第に少なくなってきており、マグニチュード7.0以上の大きな余震が発生する可能性は低くなってきましたが、今後もまれに大きな余震が発生することがあり、最大震度5弱以上の強い揺れや、海域で発生した場合には津波が発生する可能性があります。また、これより規模の小さな地震でも沿岸域や陸域で発生すると震源付近では強い揺れになることがありますので、引き続き余震に対する注意が必要です。 トピックス4 防災気象情報の強化 (1)防災気象情報に関する三つの検討会 ・竜巻等突風予測情報改善検討会 平成24年5月6日に茨城県つくば市等で竜巻による被害が発生したことを踏まえ、気象庁では竜巻等の突風に関する情報の現状並びに住民への伝達と利活用における課題等を改めて整理し、今後の情報の改善に向けた検討を行うこととしました。これまで、気象庁では雷注意報、竜巻注意情報(平成20年3月から)、竜巻発生確度ナウキャスト(平成22年5月から)といった情報を発表していました。 検討会を通じて平成24年7月に、これらの予測情報の発表、伝達のあり方、竜巻の実態把握の強化などからなる提言がまとめられました。 ・土砂災害への警戒の呼びかけに関する検討会 平成23年台風第12号による和歌山県や奈良県での土砂災害における課題等を踏まえ、土砂災害への警戒の呼びかけに関わるさらなる改善方策について検討を行うこととしました。 検討会では、都道府県砂防部局と地方気象台等が共同で発表する「土砂災害警戒情報」の全国運用開始から約4年が経過したことを踏まえ、これまでの利活用状況や運用実績、技術の進展などを評価し、平成25年3月に、土砂災害への警戒の呼びかけ方の改善の方向性などを示した提言がまとめられました。 ・防災気象情報の改善に関する検討会 気象庁では、様々な風水害による被害を踏まえて、地方公共団体の防災活動や国民の防災行動に資するよう、警報・注意報を市町村毎に発表するなど防災気象情報の改善を進めてきました。 一方、市町村の合併による広域化、ICT技術の進展等、防災気象情報を取り巻く環境は大きく変化してきています。このような中、最近の災害により新たな課題も明らかになっています。 これらのことから、・と・の検討会の提言も踏まえつつ、気象庁の防災気象情報が地方公共団体の防災活動や国民の防災行動により一層有効に活用されるよう、防災気象情報のあり方と改善の方向性について検討を行うため、学識経験者、地方自治体、報道機関等から構成される「防災気象情報の改善に関する検討会」を開催しており、平成25年8月を目途に検討結果をとりまとめる予定です。 なお、トピックス1で示したように、平成25年から重大な災害の発生のおそれが著しく大きくなった場合において、特別警報を実施することとしていますが、さらに本検討会の成果を反映させ、注意報・警報・特別警報等の一連の情報についてより効果的な発表を推進していくこととしています。 (2)気象ドップラーレーダー観測網が完成 気象庁では、平成18年3月の東京レーダーを皮切りに、順次、全国20か所の気象レーダーを気象ドップラーレーダーに更新してきました。平成24年度には、長野、静岡及び名瀬に気象ドップラーレーダーを更新整備し、全国をカバーする気象ドップラーレーダー観測網が完成しました。 気象ドップラーレーダーは、従来の気象レーダーが持つ降水の強さや分布を観測する機能に加えて、電波のドップラー効果を利用して雨や雪の動きを捉えることによって、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の風の向きや強さを立体的に観測することができます。 気象ドップラーレーダーの風の観測データは数値予測モデルの基礎データとして利用しており、きめ細かな降水の監視・予測に役立っています。また、竜巻等突風の予測に有効なメソサイクロン(発達した積乱雲の中に発生する直径数キロメートルから十数キロメートルの局地的な低気圧)の検出にも活用しており、大雨や竜巻等突風に対する監視・予測機能が強化されました。気象庁では、引き続き、観測データ処理の高度化を図りつつ「降水ナウキャスト」などの気象情報のさらなる精緻化と精度向上を目指します。 トピックス5 アジア域の観測測器の校正及び保守管理の充実に向けて 〜国際ワークショップを開催〜 世界各国の気象機関では、リアルタイムで相互に観測データを交換していますが、途上国から観測データが安定的に通報されないことや、通報された観測データの品質にもしばしば問題があり、その改善が国際的な課題となっています。 毎日の天気予報や気候変動の監視などを支える高品質の気象観測データを得るためには、精度の確かな気象測器で統一された方法で観測を行うとともに、観測機器の維持管理を行う高い専門知識を有する技術者の養成が欠かせません。このため、世界気象機関(WMO)は、アジア地区の気象観測データの品質管理能力強化のためのパイロットプロジェクトを推進しています。気象庁は、そのコーディネータとして、地区内の気象データの品質改善に不可欠な気象測器の校正と保守技術の向上に貢献してきました。 今回、この取り組みに対するフォローアップとして、気象庁は、WMOとの共催で、平成25年(2013年)2月19日から22日にかけて、「気象測器の校正及び保守に関するワークショップ」を気象庁(東京)及び気象測器検定試験センター(つくば)*において開催しました。WMOでは、気象機関以外の観測データも含めた様々な観測システムを統合し、より効率的・効果的な観測網の実現を目指し、WMO統合全球観測システム(WMO Integrated Global Observing System:WIGOS)を推進しており、この活動は、アジア地区の実施計画にも貢献するものです。 ワークショップには、アジア域の14カ国から気象測器の維持管理業務に従事している実務者が参加し、気象測器の保守と校正に係る講義と実習を行いました。気象庁では、本ワークショップを通じて得られた各国における校正や保守の現状と問題点を踏まえ、引き続き、アジア域の気象測器の保守・校正技術のさらなる改善に取り組み、WMOのアジア域での観測データの品質向上に係る活動の一層の推進を図っていきます。 トピックス6 地震・津波情報の高度化に向けた動き (1)津波警報の改善 気象庁は、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」による甚大な津波被害を踏まえ、有識者や防災関係機関等からなる「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報改善に向けた勉強会」を開催し、同年9月、「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報の改善の方向性について」をとりまとめました。さらに、「津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する検討会」を開催して津波警報等の内容の具体的な改善策を検討し、平成24年2月、「津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する提言」をとりまとめました。これらの結果に基づき、平成25年3月7日正午から、新しい津波警報の運用を開始しています。 ・ 津波警報等の発表と予想される津波の高さの区分 津波警報・注意報は、地震の規模をもとに地震発生後3分程度で発表しますが、マグニチュード8を超えるような巨大地震では、正確な地震の規模を即時に推定できず、過小に評価してしまう可能性があります。そのため、気象庁は、地震の規模が過小評価されている可能性を速やかに判定し、その可能性が確認された場合は、地震が発生した海域で想定される最大級の津波予想を用い、安全サイドに立った津波警報の第一報を発表します。その後、正確な地震の規模を算出し、より確度の高い津波警報に更新します。 予想される津波の高さは、その高さが大きいほど誤差が大きくなることや、被害との関係を踏まえて、改善前の8段階から5段階に集約し、各区分の高い方の値で発表します(例:高さ予想が3〜5mの場合は「5m」と発表)。想定される最大級の津波予想を用いる場合は、最初に発表する大津波警報や津波警報では、「巨大」や「高い」という言葉で発表して非常事態であることを伝えます。その後、正確な地震の規模が分かった時点で津波警報を更新し、予想される津波の高さも数値で発表します。 ・ 津波観測に関する情報 津波観測に関する情報では、第1波の到達時刻と初動に加え、観測された最大波を「これまでの最大波」の表現で発表しますが、観測値が予想される津波の高さより大幅に低い間は、安心情報と受け取られないよう「観測中」と発表します。また、新たに「沖合の津波観測に関する情報」を設け、沖合で津波が観測された事実をいち早く伝えるとともに、沖合の津波観測値に基づいて沿岸での津波の高さ等を推定し、津波警報を迅速に更新します。これらの観測値・推定値についても、沿岸での観測と同じように、一定の基準を満たすまでは沖合の観測値を「観測中」、沿岸の推定値を「推定中」という言葉で発表します。 質問箱 津波警報で「巨大」と発表されるのはどんなとき? 津波警報や注意報を発表した際、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さも併せて発表します。新しい津波警報では、この予想される津波の高さを数値ではなく、「巨大」「高い」という言葉で発表する場合があります。 マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、3分程度で地震の規模を正確に求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第一報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。 このように「巨大」という言葉を使って大津波警報が発表された時は、東日本大震災クラスの津波が襲うような非常事態ですので、ただちにできる限り高い場所へ避難してください。 巨大地震が発生した場合でも、地震発生から15分ほどで正確な地震の規模を把握し、予想される津波の高さを数値で発表しなおします。また、巨大地震ではなく、地震発生直後から正確な地震の規模が分かった場合には、初めから数値で発表します。このように津波の高さが数値で発表された場合でも、津波は非常に強い力で人や物を押し流しますので、津波警報が発表された時には、必ず避難してください。 質問箱 津波の観測情報の「観測中」とは? 沖合や沿岸の津波観測施設で津波が観測された時には、その高さや時刻を観測情報として発表します。津波の観測情報は、津波が到達したという事実を伝える大切なものです。しかし、大きな津波が予想されているなかで、到達した津波の第1波の高さが「0.1m」であることを伝えることは、今回の津波が小さいという誤った安心感を与えてしまうおそれがあります。 こうしたことから、観測された津波が予想よりも十分に小さい場合は、数値を発表せず「観測中」と発表します。津波は繰り返し襲ってきて、あとから来る波の方が高い場合も多くあります。「観測中」と発表された時は、すでに津波が観測されているものの、これから高い津波がくる可能性があることを示しています。決して油断せず、安全な場所を離れないでください。 質問箱 ■ 沖合で観測される津波はどんな特徴があるの? 平成24年12月7日17時18分頃、三陸沖でマグニチュード7.3の地震が発生し、津波が観測されました。左上の図はそのときの潮位波形です。当時、気象庁では、沿岸の津波観測計、20キロメートル程度までの沖合に設置されたGPS波浪計及びそれよりやや沖合に展開された水圧計を用いて津波を監視しており、このときは、沖合約10キロメートルにある宮城金華山沖GPS波浪計で17時49分に津波の到達を検知した後、17時53分に0.1メートルの高さの津波を観測しました。一方、沿岸の石巻市鮎川の津波観測点では、宮城金華山沖GPS波浪計より9分遅い17時58分に津波の到達を検知し、18時03分に98センチメートルの高さの津波を観測しました。 このように、沖合の津波観測地点では、いち早く津波の来襲をとらえることができます。気象庁は、 沖合の観測点で津波を観測した場合、沖合での観測値や、推定される沿岸での津波の到達時刻・高さを発表するだけでなく、予想より高い津波が推定される場合の津波警報の更新に活用しています。 しかし、迅速な津波検知に有効な一方、注意しなければいけないこともあります。一般に、沖合での津波の高さの観測値は、沿岸における観測値より小さくなります。これは、津波には、沿岸に近づくにつれてその波高が増していく性質があるためです。そのため、沖合で観測された津波が小さいからといって安心してはいけません。もっと大きな津波が到達すると思って行動することが大切です。また、いち早く津波をとらえるとはいえ、沖合の津波観測地点から沿岸まで、津波はすぐにやってきます。沖合で津波が観測されるのを待たず、強い揺れや弱くても長い揺れを感じたり、津波警報等を見聞きしたりしたらすぐに避難を開始する必要があります。 なお、気象庁は、東北地方のさらに沖合に3基のブイ式海底津波計を設置し、運用を開始しました。右上にその配置図を示します。これにより、日本海溝付近で発生した津波をより迅速に検知できることが期待されます。 質問箱 津波警報が発表されても津波がこないことがあるのはなぜ? 気象庁では、地震が発生した時は地震の発生場所(震源)や地震の規模(マグニチュード)を即座に推定し、津波による災害の発生が予想される場合には、地震発生から約3分で津波警報や津波注意報を発表します。しかし、津波の高さを正確に予想するには、震源やマグニチュードだけでなく、地震による断層のずれの向きや断層の動いた領域などを解析する必要があり、地震発生後約3分ではこれらを解析することはできません。 例えば、震源とマグニチュードが同じ地震でも、海底の断層のずれの向きによって、発生する津波の大きさは異なってきます(右上図)。また、断層の動いた領域により津波の発生する場所が異なるため、各地に到達する津波の高さが異なってきます(右下図)。 このため、津波警報や津波注意報は、地震発生直後の限られたデータをもとに科学的にあり得る最大の危険度を伝える内容で発表します。その結果として、実際の津波より大きめの予測となる場合や津波が観測されない場合があります。 津波の来襲時には、津波を見てから避難を判断したのでは命を守れません。津波警報が発表された場合は、津波が来襲する可能性が高いこと、津波は目に見えてからでは避難が間に合わないことを十分理解して確実に避難行動をとることが重要です。津波警報が発表されたら必ず高台などへ避難し、津波注意報が発表されたら必ず海から上がって海岸から離れてください。 コラム 津波防災啓発ビデオ「津波からにげる」、「津波に備える」 東日本大震災では津波防災教育や津波からの一人ひとりの自主的な避難の重要性等が明らかになったことから、気象庁では、学校や自主防災組織等で津波警報や津波防災に関わる知識等を効果的に学べるよう、2種類の津波防災啓発ビデオ、「津波からにげる」(小学生向け)と「津波に備える」(中学生以上向け)を製作し、全国の小中学校及び高等学校やその他防災関係機関等へ配布しました。各地の気象台からの貸出も行っており、気象庁ホームページ(http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/public.html)でも公開していますので、ぜひ学校や地域でご活用ください。 ○「津波からにげる」(小学生向け、本編約17分) 本編は・東日本大震災における津波避難のアニメーション、・避難した先生と生徒のインタビュー、・津波の知識のクイズ、・地域の防災マップの作成、の4つのパートに分かれており、津波から自ら判断して避難すること、日頃から備えておくことの大切さを子供でも飽きずに分かりやすく学べると同時に、津波避難に大切な知識もしっかり学ぶことができます。さらに、授業等で活用しやすいよう、ビデオ視聴後に内容を振り返ったり知識を補うハンドブックや、クイズの内容などを詳しく説明した先生方向けの解説ビデオも作成しました。資料集(約43分)には、津波の実験映像、避難訓練の映像、津波に関する石碑や過去の被害映像等が収められており、必要に応じてさらに知識等を補うことが出来ます。小学校だけでなく中学校、高等学校等でも活用いただいています。 ○「津波に備える」(中学生以上向け、本編約19分) 本編は前半で津波発生のしくみや特徴を理解することで津波に備え、後半は津波からどのように避難するかを知って備えるという構成です。津波の特徴を知るパートでは、津波はなぜ恐ろしい破壊力を持つのか、なぜ後から高い波が襲って来ることがあるのかなどをCGやシミュレーション映像等によりわかりやすく理解することで、命を守るためには津波から迅速に避難する必要があることを学べます。避難の方法を知るパートでは、強い揺れでは津波警報をまたずに避難が必要なこと、弱くても長くゆっくり揺れた場合は大きな津波が襲う可能性があることなどを、体験者のインタビューなどでより身近に感じながら理解できます。資料集(約30分)に収められた、新しい津波警報の内容解説、地域での津波防災の取り組み、避難の際におちいりやすい心理の解説などは、防災に関する取り組みの助けとなります。学校だけでなく、地域で防災活動に取り組む方々にも有効に活用していただける資料です。 ○学校でのビデオの活用 配布されたビデオを活用した防災授業や防災訓練等の取り組みも全国で行われています。 三重県では平成24年度に教育委員会と気象台が連携した学校防災教育への支援の一環として、気象台職員や県の担当者による防災に関する授業が行われました。海の近くの小学校では、ビデオ鑑賞後の問いかけにも積極的に手を挙げ、津波の実験映像に驚きの声を上げるなど、活発な授業が行われました。 (2)長周期地震動に関する情報の発表に向けて 巨大地震に伴って発生する長周期地震動により、周期数秒から十数秒の固有周期を有する高層ビルや、石油タンク、長大橋梁等の長大構造物等において大きな揺れが生じると懸念されています。「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」では、大都市圏に立地する高層ビル内で、什器等が転倒・移動するといった被害が発生しました。 気象庁は、地震発生後直ちに震度に関する情報を発表していますが、震度は周期数秒以下の地震動を処理して用いているため、長大構造物内の揺れの大きさや被害の程度を表現出来ない、という課題があります。長大構造物を有する地域における人的・物的被害の早期把握や、迅速かつ的確な災害応急体制の確立等を支援するためには、観測された地震動から長大構造物における揺れの状況を迅速に分析し、被害発生の可能性等について評価し、一般の方や防災関係機関に揺れの大きさや特徴等を分かりやすい情報として発表することが有効であると考えられます。 このため気象庁は、平成23年度、有識者や防災関係機関等からなる「長周期地震動に関する情報のあり方検討会」を開催し、長周期地震動に関する情報の役割や内容の基本的な考え方等についての検討を行い、平成24年4月報告書をとりまとめました。 さらに平成24年度には、「長周期地震動に関する情報検討会」を開催して情報の内容について具体的な検討を行い、平成25年3月より長周期地震動に関する観測情報を気象庁HP上で試行的に発表しています。この情報では、長周期地震動が観測された地域や、観測点毎の長周期地震動の揺れの大きさ、波形データ等の詳細な情報をお知らせしています。 質問箱 長周期地震動はどんな場合に観測されるの? 地震が発生すると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生します。長周期地震動は、数秒から十数秒でゆっくり繰り返す長い周期の地震動のことで、マグニチュードが大きい地震ほど長周期の波を強く出します。長周期地震動は、短い周期の波に比べて減衰しにくいため、遠くまで伝わる性質があり、大都市の平野を厚く覆っている柔らかい堆積層において、長周期地震動は増幅され、大きくて長時間続く揺れを作り出します。 東京、大阪、名古屋等の大都市には、長周期地震動の影響を受ける高層ビルや石油タンク、長大橋梁等の長大構造物が多く立地しています。特に近年、大都市圏を中心に住居の高層化が進み、高層ビルに関係する人は年々増加しています。高層ビルは、長周期の揺れに共振しやすい固有周期(揺れやすい周期)を持つため、ビルが大きく長時間揺れます。 「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」では、長周期地震動により首都圏の高層ビルで、大きく長時間揺れ続け、家具や什器が転倒・移動したり、エレベータの障害が発生しました。また、震源から遠く離れた大阪市内の高層ビルでも長周期地震動による大きな揺れが発生し、エレベータの停止や閉じ込め、内装材等の破損が生じました。また、「平成15年(2003年)十勝沖地震」では、震央から約250キロメートル離れた苫小牧市内で長周期地震動による石油タンクの火災が発生する等、長周期地震動特有の被害が発生しています。 トピックス7 火山に関する情報の高度化と防災対応 (1)火山災害の軽減のため 平成23年〜24年にかけて、中央防災会議(会長:内閣総理大臣)において、防災基本計画(火山災害対策編)が大幅に改定され、噴火時や噴火の前兆現象が現れた場合の噴火警報(噴火警戒レベル)に応じた避難勧告や入山規制等の防災対応は、「火山防災協議会」(都道府県、市町村、気象台、砂防部局、火山専門家等で構成)において共同で策定する避難計画に基づき実施することと明確に定められました。 これを受けて気象庁では、各火山の地元の気象台から関係機関に働きかけて火山防災協議会の設置や開催を推進し、火山災害から登山者や住民の生命を守るための取組み(噴火シナリオ、火山ハザードマップ、噴火警戒レベル、避難計画、防災マップ、防災訓練等の作成や実施)を火山防災協議会の場で地元関係機関と共同で進めています。 具体的な動きとして、富士山では、平常時から噴火時の避難計画等を策定することを目的として、山梨県、静岡県、神奈川県の3県と周辺市町村、国の機関、火山専門家等の58機関(気象庁本庁、東京管区気象台、甲府・静岡・横浜地方気象台を含む。)が参加し、平成24年(2012年)6月8日に「富士山火山防災対策協議会」を設立しました。設立に当たっては、同協議会が防災基本計画に基づく避難の共同検討体制として十分に機能するように、桜島の火山防災協議会の特徴である、以下の4つの条件を満たした規約が合意されています。 桜島の火山防災協議会(桜島爆発災害対策連絡会議)の4つの特徴 ○ 火山防災協議会が「県の地域防災計画」(災害対策基本法第40条)に基づき、設置されている。 ○ 火山防災協議会が、市町村長に対して「避難対象地域を助言」する役割を担っている。 ○ 避難時期・避難対象地域の技術的な検討を行う「コアグループ会議」が設置されている。 ○ コアグループ会議に「火山専門家」が正式な構成員として参画している。 富士山の噴火時に想定される火山現象の及ぶ範囲は複数の市町村にまたがっており、段階的な避難計画を、共同で検討しています。避難計画策定後、3県合同の避難訓練が実施される予定です。 さらに、平成25年(2013年)1月16日には、新潟焼山(新潟県の糸魚川市と妙高市にまたがり、長野県の小谷村にも危険を及ぼす火山)の噴火時の避難計画を検討する「新潟焼山火山防災協議会」が、新潟・長野両県のもとで設置されました。富士山と同じく、桜島の火山防災協議会の4つの特徴も取り入れられています。さらには同協議会の下部組織としてコアグループ会議のほか「避難計画検討ワーキンググループ会議」と「緊急調査・緊急対応ワーキンググループ会議」の2つの会議が設置され、防災・砂防関係機関の緊密な連携のもと、ソフトとハードのバランスのとれた火山防災対策を共同で推進する体制がとられています。 火山防災協議会でのこうした共同検討は、地域の関係者の間で「顔の見える関係」(相手が決めることについてもお互いに意見を言い合える信頼関係)と「防災対応のイメージ共有」(噴火警戒レベルに応じた具体的な防災対応についての認識の共有)を確立することにつながり、噴火時等には関係機関が、組織を越えたチームワークを発揮して防災対応をとることが可能となります。 コラム 新潟焼山火山防災協議会のこれから 新潟焼山では、平成23年(2011年)3月から噴火警戒レベルの運用が開始され、噴火時の入山規制や避難等の防災対策の骨格が整いました。また、防災基本計画の改定を受けた県地域防災計画に基づく火山防災協議会についても、市町村、国の機関、専門家及び関係機関等の協力を得て平成25年1月に発足し、総合的な火山防災対策検討のための器ができたところです。 引き続き、火山防災協議会として専門家の先生方も含めた構成員が「顔の見える関係」を構築し、火砕流や泥流などの火山災害から住民の生命を守るための実践的な避難計画等の策定や合同訓練の実施に向け、共同で取り組んでいきたいと考えています。 (2)桜島大正噴火から100年 ○はじめに 桜島は南九州の姶良(あいら)カルデラ(南北17km、東西23km)の南縁部に位置する安山岩〜デイサイトの成層火山で、北岳、中岳、南岳の3峰と側火山からなり、人口が密集する鹿児島市の市街地に近接しています。歴史時代に、「天平宝字」、「文明」、「安永」、「大正」の4大噴火が発生しています。これらの大噴火はすべて山腹噴火で、火山灰の噴出から噴火が始まり、火砕流の発生、多量の溶岩の流出と推移しました。このうち、大正3年(1914年)の大正噴火は、我が国が20世紀に経験した最大の火山噴火で、来年(平成26年)1月には100周年を迎えます。 ○大正大噴火 大正3年(1914年)1月12日10時5分西山腹で、同15分には東山腹で激しい噴火が始まり、13日20時14分には西山腹で火砕流が発生して西桜島の集落は焼失しました。その後、西山腹と東山腹から溶岩流出が始まり、東山腹からの溶岩流は瀬戸海峡を埋め、1月末頃大隅半島に達し、当時鹿児島湾に浮かぶ火山島であった桜島は大隅半島と陸続きになりました。噴火開始から約8時間後の12日18時29分にはマグニチュード7.1の大きな地震が発生し、鹿児島市街地では家屋の倒壊等の大きな被害がありました。噴火による降灰は東北地方の仙台まで達しました。この噴火による犠牲者は58名(うち地震による犠牲者は29名)でした。 この噴火の前年には、周辺の地震活動の活発化が見られ、また、噴火の1〜2ヶ月前から桜島島内でも井戸水の水位低下や噴火の数日前からは体に感じる地震が多発しました。村役場は鹿児島測候所(現・鹿児島地方気象台)に噴火の有無を問い合わせました。しかし、当時の測候所には旧式の機械式地震計が1台しかなく、地震活動の詳細を把握することができず、井戸水等の異常現象は伝わっていませんでしたので、「噴火なし」という返答がなされました。大部分の住民は自らの判断で避難しましたが、測候所の言を信用した一部の人たちが逃げ遅れる事態を招き、その経緯は、東桜島小学校の「桜島爆発記念碑」に残されています。 ○火山観測・噴火予知研究の進歩 大正噴火以降桜島は20年間沈黙を保っていましたが、昭和10年(1935年)頃から南岳山頂で小規模な噴火が間欠的に発生するようになり、昭和14年南岳東南東中腹(昭和火口生成)から噴火が始まり、昭和21年に昭和火口から溶岩を流出する噴火が発生しました(昭和噴火)。鹿児島測候所は、昭和3年に当時最新式の地震計(ウィーヘルト地震計)を設置、昭和14年の噴火において、直ちに現地調査を行っています。昭和30年には南岳山頂で噴火が発生し、鹿児島地方気象台では高感度地震計による監視体制が強化され、昭和35年には京都大学が桜島火山観測所(現防災研究所附属火山活動研究センター)を設置、我が国をリードする火山監視・観測研究が行われるようになりました。 昭和47年(1972年)10月2日に発生した規模の大きな噴火を契機として火山活動が激化し、1974年〜1992年まで毎年500万〜2,000万トンの多量の火山灰が放出されるようになり、農作物等への被害、交通障害、土石流による被害が頻発するようになりました。昭和48年「活動火山対策特別措置法」が制定され、国としての火山災害対策の取組みが始まりました。翌年には、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会建議)も始まり、大学関係の観測体制も強化され、1970年代末には桜島で発生する爆発地震や火山性地震・微動の発生メカニズムや噴火予知の研究が進展しました。1980年代半ばからは、観測坑道や観測井による地殻変動の観測から、山頂噴火の直前に微小な地盤の隆起・膨張を捕捉することに成功しました。水準測量など姶良カルデラの広域の地殻変動、噴火直前の微小な地殻変動などの研究が継続的に実施され、また、火山体地下の構造探査により、桜島・姶良カルデラのマグマ溜まりやマグマの移動経路など地下構造とマグマ供給系と噴火に至る火山活動のプロセスが次第に明らかになりました。 ○近年の桜島の火山防災体制 桜島南岳の噴火活動は1980年代にピークを迎え、噴出物(大きな噴石、火山れき、火山灰、火山ガス)や爆発時の空振、二次災害としての土石流により各方面に被害を及ぼしました。21世紀に入ってから火山活動はやや低調になってきていましたが、平成18年(2006年)6月に昭和火口からの噴火が始まり、2008年からは爆発的噴火を頻繁に繰り返すようになりました。2008年〜2012年の爆発回数は約4,300回に達しています。 平成9年(1997年)、鹿児島県は、地域防災計画を見直し、警戒区域の設定や住民への避難勧告等について関係自治体に対して助言を行うことを目的として、県、関係市町村、鹿児島地方気象台、大隅河川国道事務所、京都大学等の関係機関で構成される火山防災協議会「桜島爆発災害対策連絡会議」を設置しました。平成18年(2006年)6月の昭和火口の噴火では、火山防災協議会の助言に基づき、南岳山頂火口及び昭和火口から2km以内の範囲についても立入禁止とする措置がなされました。平成19年(2007年)12月から気象庁の噴火警戒レベルの運用開始(噴火警報の発表開始)に際しても、火山防災協議会における共同検討を通じて、噴火警戒レベルに応じた段階的な「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が県・市町村の「地域防災計画」に定められています。また、火山防災マップが整備・配付され、大正噴火が発生した1月12日には毎年避難計画に基づく総合防災訓練が行われています。こうした火山防災協議会の活動は、全国の火山防災協議会のお手本となるものとされています。 来年、大正噴火から100年を迎える桜島は、火山観測・監視、調査研究の推進と火山防災体制の充実の両面で、世界をリードする存在と言えます。 (2) 北西太平洋における海洋酸性化 海洋は、人間活動により排出された二酸化炭素の約3分の1を吸収することにより、大気中の二酸化炭素濃度の増加を抑制し、地球温暖化の進行を緩和しています。しかしながら、海洋に蓄積された二酸化炭素が増えつづけることにより、海洋が酸性化(水素イオン濃度指数(pH)が低下)している可能性が指摘され、近年注目されています。海洋酸性化が進行すると、海洋の二酸化炭素吸収能力が低下し、大気中に残る二酸化炭素の割合が増えるため、地球温暖化を加速する可能性があります。また海洋酸性化の進行は、プランクトンやサンゴ等の成長を阻害して海洋の生態系に大きな影響を与える可能性があり、水産業や、サンゴ礁等に依存する観光産業に打撃を与えるなど、経済活動への影響も懸念されます。 気象庁では地球温暖化や海洋酸性化の状況を把握すべく、北西太平洋を対象に長期にわたり継続して海洋気象観測船による海洋観測を実施しています。その観測データをもとに、北西太平洋海域(東経137度線上の北緯3度〜34度)の表面海水中における海洋酸性化の状況について解析を行いました(下図)。その結果、東経137度線に沿った海域では、観測を行っているすべての緯度帯においてpHが10年あたり約0.02低下し、海洋酸性化が進行していることが分かりました。 今回の解析結果をもとに、気象庁は、平成24年(2012年)11月に国内で初めて海洋酸性化に関する定期的な情報の提供を開始しました。この情報は、水温や海流などの海況情報や、地球温暖化に関わる海洋の長期変動についての情報などとともに、ホームページ「海洋の健康診断表」(http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/index.html)を通じて公開しています。 (3)日本付近の詳細な地球温暖化予測を公表 大気中の温室効果ガス濃度の増加に伴って、世界規模での気温や海水温の上昇、降水量の変化が予測されています。地球温暖化による影響の評価や対策について検討するための基礎となる資料として、国や地域規模で見た詳細な気候変化予測が必要です。気象庁は、地球温暖化が進行した将来における我が国の気候変化について、日本列島の複雑な地形の影響等を考慮した気候モデルで新たに予測し、その結果をとりまとめて「地球温暖化予測情報第8巻」として公表しました。 今回実施した予測では、平均気温や年降水量等の変化だけでなく、極端な高温や大雨の変化についても分析しています。例えば、21世紀の末頃には、猛暑日(日最高気温が35℃以上の日)の日数は、東日本から西日本にかけての地域平均で年間10日程度増加すると予測されています。また、1時間降水量が50ミリ以上の短時間強雨の発生回数は、全国的に増加すると予測されています。 (4)平成24年9月における北日本の気温・海面水温について 平成24年(2012年)は、8月後半から9月にかけて北・東日本を中心に気温の高い状態が続き、厳しい残暑となりました。特に北日本では、9月の月平均気温が1946年以降のこれまでの記録を大幅に上回る記録的な高温となりました(平年差+3.7℃、これまでの記録は1961年の+1.8℃)。この厳しい残暑は、日本の東海上で太平洋高気圧の勢力が非常に強かったことが原因と考えられます。 北海道周辺海域の海面水温も、9月に、昭和60年(1985年)以降の統計で過去最高を記録しました。平年では北海道周辺海域の海面水温は8月に最も高くなり、これまでの最高記録も平成11年(1999年)の8月でした。平成24年は、海面水温が平年では下がり始める9月になっても上昇を続けました。 この高い海面水温にも太平洋高気圧が影響しました。海面水温の上昇の原因としては、日本の東海上で太平洋高気圧の勢力が非常に強くなり、平年より海上で風が弱く下層の冷たい海水との混合が少なくなり、日照による熱が海面から深さ十数メートル付近までの海水に蓄積されたことが考えられます。 トピックス9 地磁気観測所100周年 柿岡において地磁気観測が開始されてから平成25年(2013年)1月でちょうど100周年を迎えました。地磁気観測所は磁気嵐(地磁気の乱れ)の観測情報を公式に発表する機関です。 第1回国際極年観測を契機に明治16年(1883年)日本における地磁気の定常観測が東京市赤坂(当時)で始められ、その後、気象庁の前身である中央気象台(旧本丸北桔橋門)に引き継がれました。明治末期になると東京で市内電車の拡張が次第に進み、地磁気の観測に影響を受けるようになりました。そのため移転計画が持ち上がり、いくつかの候補地の中から現在の茨城県石岡市柿岡が移転地として選ばれました。大正元年(1912年)12月に観測施設が完成し、大正2年(1913年)1月に観測が始められました。このころは東京から係官が柿岡に出張して観測し、結果を東京に持ち帰っていました。 柿岡が地磁気観測の本拠地となったのは、大正12年(1923年)の関東大震災での被災を契機に、大正13年〜14年(1924年〜1925年)に庁舎・観測室などを新設・拡充してからです。その後、国際地球観測年(昭和32年〜33年(1957年〜1958年))などの国際協力事業にも参加、観測内容も地磁気の他に、地電流、空中電気、地震・火山噴火予知研究のための観測を加えて拡充してきました。昭和38年(1963年)に国際科学会議の活動として、磁気嵐の強さを表す国際的な指標であるDst指数(Storm-time Disturbance)の発表が始まりました。柿岡は、Dst指数の算出に必要な観測を行う世界4か所の観測点の一つとして、重要な役割を担うようになりました。その後も観測測器や処理装置の進展に伴いデータのデジタル化、高精度・高分解能化が進められ、平成4年(1992年)には準リアルタイムで国際的な地磁気データ交換をおこなうインターマグネットの認定観測所となりました。 地磁気の観測は社会生活に付随する電磁ノイズに弱く、世界の多くの観測所が中断や移転してきた中で、100年間にわたり高精度で安定した観測を継続してきたことは国際的に高い評価を得ています。また、得られた観測データは太陽惑星空間から地球内部まで様々な分野において数秒から数十万年に及ぶ地磁気変動に関わる諸現象の研究に役立てられてきました。今後も地磁気観測所は地球電磁気学的手法により地球環境の変動監視を継続し防災情報として磁気嵐速報を発信するとともに、高精度で安定した地磁気観測データにより地磁気変動の解明に寄与していきます。 第1部 気象業務の現状と今後 第1章 国民の安全・安心を支える気象情報 1気象の監視・予測 (1)気象の警報、予報などの発表 ア.警報・注意報などの防災気象情報 気象庁は、大雨や暴風、高波などによって発生する災害の防止・軽減を目指し、警報や注意報などの防災気象情報を発表しています。さらに、情報の内容や発表タイミングの改善にむけ常に防災関係機関や報道機関との間で調整を行い、効果的な防災活動の支援を行っています。 ◯防災気象情報の種類と発表の流れ 都道府県や市町村等の自治体や国の防災関係機関が適切な防災対応を取れるよう、また、住民の自主避難等の判断に資するよう、発生するおそれがある気象災害の種類や程度に応じて警報・注意報を発表します。また、顕著な現象の発生する1日ないし数日前から気象情報を発表し、現象の予想や観測データについても随時、気象情報を発表して、気象状況を解説します。警報・注意報及びそれらを補完する気象情報には、以下のようなものがあります。 ○警報・注意報 ・警報・注意報の種類 現在、警報は7種類、注意報は16種類あり、発表されることの多い時期で分けると、概ね次のようになります。 ・警報・注意報の年間を通じた発表回数の割合 それぞれの警報・注意報について、年間の発表回数に占める季節ごとの割合でみると次のようになります。 ・警報・注意報の発表区域と発表基準 警報や注意報は、市町村長が行う避難勧告等の防災対応の判断や住民の自主的な避難行動をよりきめ細かく支援するため、市町村ごとに発表しています。また、災害の特性は地域によって異なるため、警報・注意報のそれぞれの種類や対象区域ごとに災害と雨量などの関係に基づき発表基準を定めています。大規模な地震の発生により地盤が脆弱となっている可能性の高い地域や、火山噴火により火山灰が堆積した地域、大雨等により大規模な土砂災害が発生した地域の周辺では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなりますので、都道府県などと調整の上、大雨警報などの発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」により、東北地方から関東甲信地方にかけての多くの市町村で大雨警報・注意報の基準を引き下げて運用しました。 ・大雨に関する警報・注意報の特徴 大雨に伴い警戒が必要な土砂災害や浸水害、洪水害に対し、大雨や洪水の警報・注意報を発表します。大雨警報は、主に警戒を要する災害が標題からわかるよう「大雨警報(土砂災害)」、「大雨警報(浸水害)」として発表しています。警報や注意報では、発表状況や警戒すべき事項、予想される気象状況に関する量的な予報事項などを簡潔に記述しています。特に、予想される気象状況については、現象の開始時刻、終了時刻、ピーク時刻、最大値などを箇条書きで記述しています。注意報から警報に切り替える可能性が高いときには、前もって注意報の中で、「○○(いつ)までに××警報に切り替える可能性がある」と明示しています。 ○土砂災害警戒情報 気象庁は、土砂災害から生命、財産を守るために、土砂災害の危険度が高まっていることを市町村や住民に知らせる情報として、対象となる市町村を特定して都道府県と共同で土砂災害警戒情報を発表しています。 土砂災害警戒情報は大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で、さらに危険度が高まった時に発表する情報で、市町村長が行う避難勧告等の防災対応の判断や、住民の自主的な避難行動の判断などの参考としていただくことを目的としています。 ○指定河川洪水予報 防災上重要な河川について、河川の増水やはん濫に対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、国が管理する河川は国土交通省水管理・国土保全局と気象庁が、都道府県が管理する河川は都道府県と気象庁が、共同して指定河川洪水予報を発表しています。気象庁は気象(降雨、融雪など)の予測、水管理・国土保全局や都道府県は水文状況(河川の水位または流量)の予測を担当して、緊密な連携のもとで洪水予報を行っています。洪水予報の標題は、洪水の危険度の高い順からそれぞれ「はん濫発生情報」「はん濫危険情報」「はん濫警戒情報」「はん濫注意情報」を河川名の後に付加したものです。また、洪水の危険度と水位を対応させて数値化した水位危険度レベルを情報に記載するなど、わかりやすい情報を目指しています。 ○台風情報 台風がいつ頃どこに接近するかをお知らせするのが「台風情報」です。この情報は、様々な防災対策に利用できるよう、台風が我が国に近づくにつれてきめ細かく頻繁に発表します。 気象庁は台風を常時監視しており、通常は3時間ごとに台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と最大3日先までの予報を、観測時刻の約50分後に発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。更に、3日先以降も台風であると予想される場合には5日先までの進路予報を6時間ごとに行い、観測時刻から約90分後に発表します。 台風の勢力を示す目安として、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」を表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)、「強さ」は最大風速を基準にして表現を使い分けています。 台風が我が国に近づき、被害のおそれが出てきた場合には、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、72時間先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 ○(全般・地方・府県)気象情報 低気圧や前線などの災害をもたらす原因となる気象の状況と今後の推移、雨・風などの観測の実況と今後の見通し、防災活動上の留意事項などを「気象情報」(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点をわかりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても気象情報(「高温に関する気象情報」など)を発表します。 ○記録的短時間大雨情報 現在の降雨がその地域にとってまれな激しい現象であることを周知するため、数年に一度の猛烈な雨を観測・解析した場合に「記録的短時間大雨情報」を府県気象情報として発表します。 質問箱 「記録的短時間大雨情報」と「記録的な大雨に関する気象情報」の違い この2つの情報は、いずれも記録的な大雨について伝える情報です。 いったい何が違うのでしょうか。 「記録的短時間大雨情報」は1時間という短い時間に集中的に降る雨に焦点を当てて、その地域にとってまれな激しい現象であることを周知し今後の警戒を呼びかけるために発表する情報です。一地点でも発表基準を超えれば異常値ではないことを確認した上で速やかに発表します。 一方で「記録的な大雨に関する気象情報」は、数時間以上降り続く大雨によって重大な災害が差し迫っている場合に一層の警戒を呼びかけるために発表します。 この情報は、数値などを極力用いずに危機感を訴える短い文章だけで作成します。この情報が発表される場合も統計的に見て非常にまれな現象と言えますが、甚大な災害をもたらす現象はある程度広がりを持っていることを踏まえ、一地点だけの状況で発表することはありません。また、この様な時は、1時間に集中的に降る雨が継続することも多く、平成24年7月九州北部豪雨の時は、「記録的短時間大雨情報」が連続して発表された後に「記録的な大雨に関する気象情報」を発表しました。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、降水ナウキャスト) 「解析雨量」は、雨量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1キロメートル四方の細かさで解析し、30分間隔で発表します。 「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱や数値予報の予測雨量などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測し、30 分間隔で発表します。 さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな予測情報を提供するのが「降水ナウキャスト」です。気象レーダー観測と同じ5分間隔で、1時間先までの5分ごとの降水強度を、1キロメートル四方の細かさで予測し、発表します。 ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 ・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報 積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。「竜巻発生確度ナウキャスト」は、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10 キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10 〜 60 分先)までの予測を行うもので、10 分ごとに発表します。「竜巻発生確度ナウキャスト」を利用することにより、竜巻が発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況の変化を詳細に把握することができます。竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた県などには「竜巻注意情報」を発表します。この段階では既に竜巻が発生しやすい状況ですので、情報の発表から1 時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト 落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。「雷ナウキャスト」は、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1キロメートル格子単位で解析し、その1 時間後(10 分〜 60 分先)までの予測を行うもので、10 分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1〜 4で表します。このうち活動度2〜 4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。直ちに建物の中など安全な場所への避難が必要です。 イ.天気予報、週間天気予報、季節予報 天気は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいかとか、週末に予定している旅行はどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。 ○天気予報 今日から明後日までの天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の三つの種類があります。 「府県天気予報」は、一日の天気をおおまかに把握するのに適しています。 「地方天気分布予報」は、天気などの面的な分布が一目でわかるので、例えば府県天気予報で「曇り時々雨」となっていた場合、雨がどの地域でいつごろ降るのかといったことを把握するのに適しています。 「地域時系列予報」は、ある地域の天気や気温、風の時間ごとの移り変わりを知るのに便利な予報です。 ○週間天気予報 週間天気予報は、発表日の翌日から1週間先までの毎日の天気、最高・最低気温、降水確率を、1日2回、11時と17時に発表しています。週間天気予報のような先の予報になると、今日や明日の予報に比べて予報を適中させることが難しくなります。このため週間天気予報では、天気については信頼度を、気温については予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の降水の有無について、「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表し、予報の確度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。気温の予測範囲は、「24℃〜 27℃」のように予想される気温の範囲を示しており、実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。これらの情報によって、例えば同じ晴れ時々曇りという予報でも、どれくらいの確度の予報かを知ることができます。 ○季節予報 季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予測する異常天候早期警戒情報、1か月先まで予測する1か月予報、3か月先までを予測する3か月予報、6か月先までを予報する暖・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、予報区単位で予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。なお、「異常天候早期警戒情報」は、2週間程度先までの7日間平均気温が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表されます。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また地方季節予報で用いる予報区分は図の通りです。 ウ.船舶の安全などのための情報 船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められます。 このため、日本近海や外洋を航行する船舶向けに、海上における風向・風速、波の高さ、海面水温、海流などの予報や強風・濃霧・着氷などの警報を、通信衛星(インマルサット)による衛星放送、ナブテックス無線放送、NHKラジオ(漁業気象通報)などにより提供しています。 ○日本近海に関する情報 日本の沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12に分けた海域ごとに、低気圧などに関する情報とともに、天気や風向・風速、波の高さなどの予報、強風・濃霧・着氷などの警報を発表しています。これらの予報や警報などは、地方海上予報や地方海上警報として、ナブテックス無線放送(英文・和文放送)によって日本近海を航行する船舶に提供しています。ナブテックス無線放送では、これらの予報や警報に加えて、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。 主に日本近海で操業する漁船向けには、台風、高・低気圧、前線などの実況と予想、陸上や海上における気象の実況情報を、漁業気象通報としてNHKラジオを通じて提供しています。また、天気概況や気象の実況情報、海上予報・警報などを、漁業無線気象通報として漁業用海岸局を通じて提供しています。 さらに、海上の警報の内容も記述された実況天気図や、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想も記述された予想天気図(海上悪天24時間予想図、同48時間予想図)、台風(120時間先までの進路予報及び72時間先までの強度予報)、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況や予想などの図情報を、短波放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)により提供しています。 ○外洋に関する情報 「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、気象庁の責任分担海域である北西太平洋(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象に、緯度・経度で地域を明示して、低気圧や台風に関する情報とともに海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。 エ.その他の情報 ○光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供 晴れて日射が強く、風が弱い等、光化学スモッグなどの大気汚染に関係する気象状況を、都道府県に通報します。また、光化学スモッグが発生しやすい気象状況が予想される場合には、「スモッグ気象情報」や翌日を対象とした「全般スモッグ気象情報」を、広く一般に発表します。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 ○熱中症についての注意喚起 一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。 (2)気象の観測・監視と情報の発表 ア.アメダス(地域気象観測網) 気象台や測候所では気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。これらの気象官署を含めた全国各地の約1,300 か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)として、降水量を観測しています。このうち約840 か所では、降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間の観測を、また、豪雪地帯などの約320 か所では積雪の深さの観測を行っています。 イ.レーダー気象観測 全国20 か所の気象レーダーによって降水の観測を行い、大雨警報などの気象情報の発表に利用しています。気象レーダーは、パラボラアンテナから電波を発射し、雨滴などによって反射された電波を受信することにより、どの位置にどの程度の強さの降水があるかを把握することができます。各地のレーダーの観測結果を組み合わせることにより、日本の陸域とその近海において東西南北1キロメートル四方ごとの降水の分布と強さを観測しています。平成21年7月1 日から局地的大雨を早期に把握できるよう、気象レーダーの観測間隔を従来の10 分毎から5分毎に変更し監視機能を強化しました。また、降水の分布と強さに加え、電波のドップラー効果を利用して風で流される雨粒や雪の動きを観測できるドップラー機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の高度15キロメートルまでの詳細な風の分布の把握を行っています。 コラム メッシュ平年値2010を公表しました。 メッシュ平年値は、気象台やアメダス観測所のない所の平年値を、地形等の影響を考慮に入れて、1キロメートル四方の網目(メッシュ)状に推定したものです。気象庁では、平成23年に平年値を統計期間1981年〜2010年によるものに更新したことから、この新平年値を用いて、新たに「メッシュ平年値2010」を作成し、気象庁ホームページで公表しました。 URL:http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/atlas.html 作成した気象要素は、平均気温、日最高気温、日最低気温、降水量、最深積雪、日照時間、全天日射量の月別及び年の平均値や合計値です。 メッシュ平年値2010の数値データは、国土数値情報ダウンロードサービスなどにより提供しており、自然エネルギー開発、各種産業分野での適地選定、環境保全計画、都市開発計画等など多方面で利用が期待されます。とりわけ、農業では、気候の変化に応じた対策をとるために、面的に充実したきめ細かい気象データが必要になり、メッシュ平年値の利用が進んでいます。 例えば、(独)農業・食品産業技術総合研究機構では、気候の変化に対応した農業活動を支援するために、全国版早期警戒・栽培支援システム(AMATERAS: Agriculture Meteorological Alert Transmission and Expert Regional Assistant System)の開発を進めており、そのシステムの基盤となる農業用の1キロメートルメッシュデータの整備に、メッシュ平年値が活用されています。 ウ.高層気象観測 低気圧などの大気の諸現象は、主に、地上から十数キロメートル上空までの対流圏において発生しています。また、その上にある成層圏において発生する現象も、気象現象に大きく関連しています。気象庁では、これら上空の気象現象を捉えるため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30 キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風について観測しています。 高層気象観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、高層気象観測の観測資料は対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。 エ.ウィンドプロファイラ観測 ウィンドプロファイラは地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱してはね返ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を10 分毎に300 メートルの高度間隔で連続して観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、晴天時には3〜6キロメートル、曇天時や降雨時には7〜9キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。全国33か所のウィンドプロファイラで上空の風を連続的に観測し、豪雨や豪雪などの局地的な気象災害の要因である「湿った空気(湿度が高い空気)」の流れを観測することにより、数時間先の大雨の予測の精度向上に大きく寄与しています。 また、台風や前線に伴う強風などの監視にも役立てられています。観測データから鉛直方向の風の変化(鉛直シアー)を知ることもできます。鉛直方向に風が大きく変化している所では乱気流が発生する可能性があるため、この情報を航空関係者に提供し、航空機の安全な運航に役立てています。 オ.静止気象衛星観測 わが国は現在まで約35 年にわたって静止気象衛星「ひまわり」による気象観測を行ってきました。静止気象衛星の最大の利点は、同じ地域を常時観測できるという点です。東経140 度付近の赤道上空約35,800 キロメートルの静止軌道にあって地球の自転周期に合わせて周回することにより、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を24時間常時観測することができます。特に観測地点が少ない洋上の台風の発生・発達の監視に不可欠の観測手段です。 気象庁では、次期衛星として「ひまわり8号・9号」をそれぞれ平成26年度(2014年度)、平成28年度(2016年度)に打ち上げることを計画しています。次期衛星は、現在の30 分毎の観測を10 分毎に行い、観測画像の種類も5種類から16種類に増やすなど観測機能を大幅に向上させることにより、台風、局地的豪雨や雷、突風をもたらす積乱雲の状況をより詳細に早期に捉えることができると期待されています。気象庁では、次期衛星で得られる観測データの利活用技術についても開発を進めているところです(第1部第2章第2節(3)「次期静止衛星のための技術開発」参照)。 ○幅広い分野での利用 「ひまわり」が観測するデータは、台風の監視以外にも、集中豪雨等の監視、数値予報の初期値への利用、航空機や船舶の安全運航に資する情報の作成、気候・地球環境の監視、火山灰や黄砂の監視などに幅広く利用されています。また、アジア・太平洋を中心とした世界各国の気象機関でも利用されています。また、「ひまわり」にはデータを中継する通信機能もあり、国内外の船舶や離島などに設置された観測装置の気象観測データ、国内主要地点の震度データ・潮位(津波)データなどの収集に活用されています。 カ.潮位・波浪観測 気象庁では、高潮・副振動・異常潮位及び高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。 一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮警報・高潮注意報、波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 (3)異常気象などの監視・予測 ア.異常気象の監視 異常気象とは、一般に過去に経験した現象から大きく外れた現象で、人が一生の間にまれにしか経験しないような現象をいいます。大雨や強風などの激しい数時間の気象から数か月も続く干ばつ、冷夏などの気候の異常も含まれます。気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。 気象庁では、世界中から収集した観測データ等をもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を監視して、極端な高温・低温や大雨・少雨などが観測された地域や気象災害について、週ごとや月ごと、季節ごとにとりまとめて発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらした異常気象が発生した場合は、特徴と要因をまとめた情報を随時発表しています。 さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会(写真)を開催し、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。 イ.エルニーニョ・ラニーニャ現象の監視と予測 エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の中央部から南米ペルー沿岸にかけての広い海域で、海面水温が平年より高い状態が、数年おきに半年から一年半程度続く現象です。一方、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象をラニーニャ現象と呼びます。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えていることが、近年明らかになってきました。 気象庁では、エルニーニョ・ラニーニャ現象や、西太平洋熱帯域・インド洋熱帯域の海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 (4)気象庁の基盤情報システムとインターネットを通じた情報発信 気象庁では、国内外の関係機関から気象などの観測データを収集し、これを解析、予測することで、警報・注意報などの防災気象情報を作成し、防災関係機関や報道機関を通して広く国民に伝達しています。観測データの収集や情報伝達、解析や予測には気象資料総合処理システム(COSMETS)を使用しています。気象資料総合処理システムは解析や予測を担うスーパーコンピュータシステムと通信機能を担う気象情報伝送処理システムの2つのシステムで構成されています。スーパーコンピュータシステムは、世界各地の観測データ、気象衛星(ひまわり)の観測データなどを使って気圧や気温など大気の状態を詳しく解析し、さらに解析結果から物理法則に基づくモデル計算により大気の今後の変化を予測します。気象情報伝送処理システムは、最新の地上・高層気象観測や気象レーダー観測のデータ、沿岸波浪計や潮位計、船舶などによる海洋観測のデータ、震度観測データなどのほか、都道府県などが行う雨量観測や震度観測などのデータを収集しています。また、世界の気象機関が協力して運用する全球通信システム(GTS)の通信中枢として関係国と観測データの交換を行っています。これらの観測データ、解析・予測の情報、地震・津波や火山に関する情報を、国内の気象官署や防災関係機関、外国の気象機関などに提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間の気象事業者や報道機関などに提供しています。各気象台との情報伝達経路となる国内の基盤通信網を2重化していることに加え、東日本と西日本にそれぞれ中枢を持つ気象情報伝送処理システムは相互バックアップ機能を有しており、大規模災害時にも安定して各種観測データの収集や予報、防災情報などの伝達を継続できるように信頼性の向上を図っています。 ○気象庁ホームページ 気象庁ホームページ*では、気象庁の組織や制度の概要、広報誌などの行政情報をはじめ、気象の知識などの情報を提供するとともに、天気予報や気象警報・注意報、地震、津波などの防災情報を掲載しています。平成24年は、1日当たり約1,400 万ページビュー、多い時には5,200万ページビュー(平成23年9月21日台風第15号が接近した時)のアクセスがありました。あわせて過去の気象データを検索できるページや、過去の地震データを検索できる「震度データベース検索」ページなども公開しており、過去データの検索サイトとしても充実してきております。 * http://www.jma.go.jp/jma/index.html コラム 気象庁ホームページにおける気象情報の図表示の色合いの統一について 平成24年度から、ホームページで気象情報を図表示する際の色合いについて、情報を見た際に受ける注意・警戒レベルの印象を各種情報間で可能な限り一致させるような色づかいに変更して提供しています。 例えば、気象警報、大津波警報、噴火警報などに、警報のうち特に警戒を要する区分を示す紫色を設定しました。 また、レーダーの降水や雷活動度などの強さを示す情報については、注意を要するレベルは黄色、警戒を要するレベルは赤色、さらに警戒を要するレベルは紫色、逆に注意や警戒を要しない場合は青色系の濃淡色と、強さに応じた色づかいに統一し、これにより注意・警戒をより一層喚起することにしています。 ○WMO情報システム(WIS) WMO情報システム(WIS:WMO Information System)は、気象に関するデータやプロダクトなどの情報を国際的に効率よく交換・提供するために、WMOが新たに構築中の基盤情報網です。従来のGTSに各種気象情報を統合し、統一された情報カタログを整備することで検索やアクセスが容易になり、気象情報の有効活用が図られます。 WISは、中核となる全球情報システムセンター(GISC:Global Information System Centre)、各種気象情報を提供するデータ収集作成センター(DCPC:Data Collection or Production Centre)、各国気象局など(NC:National Centre)から構成され、気象庁はWMOからGISCと8つのDCPCに指名されています。 気象庁は、世界中のデータやカタログの管理・交換を行う最も重要な存在であるGISCの運用を、世界に先駆けて平成23(2011)年8月から開始しました。その後平成24(2012)年12月までに中、独、英、仏のGISCが運用を開始し、将来的には15ヶ所のGISCでWMO各地区をカバーする計画となっています。 気象庁は第・地区のカンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスおよび第・地区ながら台風などで連携の強いフィリピンをGISC東京の責任域国とし、WISに関する技術支援を積極的に行い、国際貢献と我が国の国際的プレゼンスの向上を更に図っていきます。 ○防災情報提供センター 国土交通省では、気象庁を含む省内各部局等が保有する様々な防災情報を集約し、インターネットを通じてワンストップで国民の皆様へ提供するため「防災情報提供センター」(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を開設しており、気象庁が運営を担当しています。 気象庁、国土交通省等が観測した雨量情報が一覧できる「リアルタイム雨量」、気象庁、国土交通省のレーダーを統合した「リアルタイムレーダー」をはじめ、災害対応の情報や河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の防災に関する情報を容易に入手することができます。 また、屋外などパソコンが使えない状況でも防災情報を入手できるよう、携帯端末向けホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)も開設しており、気象警報、竜巻や降水のナウキャスト情報などの気象情報のほか、津波警報や潮位情報等を提供しています。 2 地震・津波と火山に関する情報 (1)地震・津波に関する情報の発表と伝達 地震による災害には、主に、地震時の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、その発生時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震及び津波の情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 ア.地震に関する情報 ・地震の監視 気象庁は、全国約280 か所に設置した地震計や、(独)防災科学技術研究所等の関係機関の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さを測る震度計を全国約660 か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や(独)防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4400 か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に、地震発生時には次の情報を発表します。 ・緊急地震速報(地震動警報・地震動予報) 緊急地震速報は、地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる地震動の予報及び警報のことです。強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、あるいは工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減を図ります。震度5 弱以上の揺れを予測した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、緊急地震速報(警報)を発表し、テレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、民間の予報業務許可事業者は専用端末等を開発し音声や文字等で緊急地震速報(予報)を知らせるサービスを行っています。 ・観測した結果を整理した情報 気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度(揺れの強さ)などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後には、震度3以上が観測されている地域を示す「震度速報」を、その後、震源の位置や震度3以上を観測した市町村名など、観測データの収集にあわせて詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道される他、防災関係機関の初動対応の基準や災害応急対策の基準として活用されています。 イ.津波に関する情報 ・津波の監視 気象庁では、津波を伴う可能性のある規模の大きな地震が発生した場合には、沿岸及び沖合に設置した津波観測施設を用いて津波の状況を監視しています。監視には、気象庁が設置した全国約80 か所の津波観測施設に、関係機関が設置した施設も加えた、全国約220 か所からのデータを活用しています。このうち沖合については、ケーブル式海底津波計や、国土交通省港湾局が整備したGPS波浪計に加え、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の後は、ブイ式海底津波計も新たに整備し、津波の監視に活用しています。気象庁では、地震計のデータやこれらの津波の監視に用いているデータを基に、地震により日本沿岸に津波が到達するおそれがある場合や、津波を観測した場合には、次の情報を発表します。 ・津波警報・注意報、津波情報、津波予報 地震と同時に発生する地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすると、津波が発生します。気象庁は、海域で規模の大きな地震が発生し、陸域へ浸水するなど重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には津波警報(高さ1メートル超)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は大津波警報(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害の起こるおそれのある津波が予想される場合には津波注意報(高さ0.2メートル以上)を発表します。津波警報・注意報を発表した場合には、津波の到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報なども発表し、また、沿岸で津波を観測した場合は、第一波の到着時刻、最大の高さなど、観測状況を発表します。さらに、沖合で津波を観測した場合には、沖合における第一波の到達時刻、最大の高さなどに加え、沖合の観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さも発表します。また、地震発生後、津波が予想されても災害が起こるおそれがない0.2メートル未満の高さの場合には、津波予報(若干の海面変動)を発表します。 ウ.地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用 「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、政府の特別の機関として地震調査研究推進本部が設置されました。気象庁では、この地震調査研究推進本部が策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて、平成9年より大学や(独) 防災科学技術研究所などの関係機関の地震観測データの提供を受けています。これらのデータをもとに、気象庁では文部科学省と協力して、我が国やその周辺で発生する地震活動の把握に努めています。気象庁に関係機関のデータを集めて処理したことにより、小さい地震の震源も求まるようになり、詳細な地震活動の把握が可能となりました。気象庁では、これらの結果を地震情報に活用するとともに、地震調査研究を推進するため、地震活動の評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会や、大学など関係機関へ提供しています。 コラム 1年間の地震の回数 気象庁に関係機関のデータを集めて処理することで、内陸ではマグニチュード1.0より小さい地震の震源まで計算することができます。このため、震源を決定した地震の数は震度1以上を観測した地震の数よりもずっと多くなります。平成13年(2001年)から平成22年(2010年)までの10年間は、1年あたりの地震数は12万回前後で、これは同期間に震度1以上を観測した地震の数の約70倍に当たります。 平成23年(2011年)には、東北地方太平洋沖地震の発生に伴う余震や余震域周辺の地震活動の活発化により、震源を決定した地震の数は25万回を超え非常に多くなりました。同年3月から5月の期間についてはまだ震源決定作業が終わっていないため、今後その数は更に増えることになります。平成24年(2012年)は約18万回と前年よりも減りましたが、なお以前よりは多い状態です。 エ.東海地域の地震・地殻変動の監視と情報提供 東海地震は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域とし、いつ発生してもおかしくないと考えられている大規模な地震で、現在、科学的な直前予知の可能性がある地震と考えられています。東海地震はプレート(地球表面を覆う厚さ数十〜百キロメートル程度の岩石の層)同士の境界で起こる地震です。プレート境界の一部は普段は強くくっついています。東海地震の前にはこの領域の一部が少しずつすべり始め、最終的に急激に大きくずれて強い揺れを発生させ東海地震になると考えられています。この少しずつすべり始める現象を「前兆すべり(プレスリップ)」といいます。東海地震の予知は、この前兆すべりに伴う地盤の伸び縮み(地殻変動)を捉えることで行います。気象庁は、東海地震の発生を予知し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺に展開された地震計やひずみ計などのデータを収集し、この地域の地震と地殻変動を24時間体制で監視しています。 気象庁は、観測データに異常が現れた場合、地震等の専門家から構成される地震防災対策強化地域判定会(判定会)を開催し、東海地震に結びつくかどうかを「東海地震に関連する情報」で発表します。防災機関等はこの情報内容に応じた段階的な防災対応をとります。 ただし、前兆すべりが小さい場合など、必ずしも前兆現象を捉えることができず、上記の情報を発表できないまま東海地震が発生することもありえます。 コラム 地震の予知と予測 地震の発生をあらかじめ予想することは、日本では一般に、地震「予知」と呼び習わされてきました。しかし、最近、地震「予測」という言葉を使おうという動きをニュースや記事で見かけるようになりました。予知と予測は、いずれも科学的根拠に基づく予想であることに違いはありませんが、その用法はこれまで必ずしも明確に区別されていませんでした。いずれにせよ、現在の地震学では地震の予知・予測は実用段階ではなく研究段階にあります。 その中で、東海地震については、現在日本で唯一、短期直前予知ができる可能性がある地震と考えられています。その根拠としては、・予想震源域の周辺に精度の高い観測網が整備されていること、・科学的に根拠のある前兆現象(前兆すべり)を伴う可能性があると考えられること、さらに、・捉えられた現象が前兆現象(前兆すべり)であるか否かを科学的に判断するための基準があることの3つが挙げられます。 ただし、東海地震についても発生日時を指定した予知を行うことはできませんし、前兆現象である前兆すべりが急激に進んだ場合や小さい場合には短期直前予知ができない場合があります。 「○月×日に大地震が起こる」という話を耳にすることがありますが、発生日時を指定した情報は根拠のない話ですのでご注意ください。 (2)火山の監視と防災情報 ア.火山の監視 ・110活火山と火山監視・情報センター 我が国には110の活火山があります。気象庁では、気象庁本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「火山監視・情報センター」において、これらの活火山の火山活動を監視しています。110の活火山のうち、「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火 予知連絡会によって選定された47火山については、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を適確に発表するために、地震計、傾斜計、空振計、GPS観測装置、遠望カメラ等の観測施設を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関等)からのデータ提供も受け、火山活動を24時間体制で常時観測・監視しています。 また、47火山以外の火山も含めて、各センターの「火山機動観測班」が現地に出向き計画的に調査観測を行っており、火山活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するために機動的に観測体制を強化しています。特に噴気活動の活発化・拡大がみられている弥陀ヶ原(富山県)については、現地の立山室堂に臨時の地震計を設置して平成24年(2012年)11月から活動を24時間体制で監視しています。 全国110の活火山について、観測・監視の成果を用いて火山活動の評価を行い、居住地域や火口周辺に影響を及ぼすような噴火の発生や噴火の危険が及ぶ範囲の拡大が予想された場合には「警戒が必要な範囲」(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)を明示して噴火警報を発表しています。 コラム 火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山 平成15年(2003年)に火山噴火予知連絡会は「概ね1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義し直しました。活火山の数は現在110となっています。 さらに、火山噴火予知連絡会では平成21年(2009年)6月、これら110火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として47火山が選定されました。なお、平成15年(2003年)1月に発表された「火山活動度による活火山の分類(ランク分け)」は、今後の噴火の可能性や社会的な影響が考慮されていないことから、現在、気象庁では使用していません。 気象庁では、火山噴火予知連絡会によって選定された47火山のすべてに対して、新たな観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GPS観測装置及び遠望カメラ)を整備しました。新たに整備した観測施設のうち地震計・傾斜計は、一部観測点を除き、地上の雑音を避けるため深さ約100メートルの孔井の底に設置し、高感度な観測が可能となりました。 ・火山活動を捉えるための観測網 気象庁では、火山周辺に配置した地震計、傾斜計、空振計、GPS観測装置及び遠望カメラによる観測データ等をリアルタイムに伝送して、関係機関からのデータ提供も受け、火山監視・情報センターにおいて全国の活火山の活動を24時間体制で監視しています。 ○震動観測(地震計による火山性地震や微動の観測) ○空振観測(空振計による音波観測) 震動観測は、地震計により、火山体内部で発生する微小な地震(火山性地震や微動)をとらえるものです。空振観測は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるものです。天候不良等により遠望カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震記録や空振記録等より、噴火の発生と規模をいち早く検知することができます。 ○地殻変動観測(傾斜計、GPS等による地殻変動観測) 地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や膨張・収縮を観測するものです。傾斜計では火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえることができ、また、GPS観測装置では、他のGPS観測装置と組み合わせることで、火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動の推移を予想(評価)するための重要な手段となります。 ○遠望観測(高感度カメラ等による観測) 遠望観測は、定まった地点から火山を遠望し、噴煙の高さ、色、噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測するものです。星明かりの下でも観測ができる高感度の遠望カメラを設置しています。 気象庁では、噴火時等には必要に応じて火山機動観測班を派遣して観測を行い、火山活動の正確な把握に努めています。また、24時間体制で監視している47火山以外の活火山も含め、火山機動観測班が平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGPS観測、熱や火山ガスなど陸上からの現地観測やヘリコプター(関係機関の協力による)による上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動把握・評価に努めています。 ○熱観測 赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、熱活動の状態を把握します。 ○機上観測 関係機関の協力により、上空からカメラや赤外熱映像装置を用いて、地上からでは近づけない火口内 の様子(温度分布や噴煙の状況)や噴出物分布を詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。 ○火山ガス観測 火口から放出される火山ガスには、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含 まれています。気象庁では、小型紫外線スペクトロメータ(COMPUSS)という装置を用いて二酸化硫黄 の放出量を観測し、火山活動の評価に活用します。 ○噴出物調査 噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や 噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 イ.災害を引き起こす主な火山現象 火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 ・大きな噴石 爆発的な噴火によって火口から吹き飛ばされる直径約50cm以上の大きな岩石等は、風の影響を受けずに火口から弾道を描いて飛散して短時間で落下し、建物の屋根を打ち破るほどの破壊力を持っています。大きな噴石による被害は火口周辺の概ね2〜4km以内に限られますが、過去、登山者等が死傷する災害が発生しており、噴火警報等を活用した事前の入山規制や避難が必要です。 ・火砕流 高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失させる極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十kmから百数十km、温度は数百℃にも達します。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 ・融雪型火山泥流 積雪期の火山において噴火に伴う火砕流等の熱によって斜面の雪が融かされて大量の水が発生し、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する現象です。流下速度は時速60kmを超えることもあり、谷筋や沢沿いをはるか遠方まで一気に流下し、大規模な災害を引き起こしやすい火山現象です。積雪期の噴火時等には融雪型火山泥流の発生を確認する前にあらかじめ避難が必要です。 ・溶岩流 マグマが火口から噴出して高温の液体のまま地表を流れ下るものです。地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、流下速度は比較的遅く基本的に徒歩による避難が可能です。 ・小さな噴石・火山灰 噴火により噴出した小さな固形物で、粒径が小さいほど遠くまで風に流されて降下します。小さな噴石は10km以上遠方まで運ばれ降下する場合もありますが、噴出してから地面に降下するまでに数分〜十数分かかることから、火山の風下側で爆発的噴火に気付いたら屋内等に退避することで身を守れます。火山灰は、時には数十kmから数百km以上運ばれて広域に降下・堆積し、農作物の被害、交通障害、家屋倒壊、航空機のエンジントラブルなど広く社会生活に深刻な影響を及ぼします。 ・火山ガス 火山地域ではマグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素等の様々な成分が気体となって放出されます。ガスの成分によっては人体に悪影響を及ぼし、過去に死亡事故も発生しています。 ウ.噴火警報・予報 ・噴火警報・予報の対象範囲 気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報・予報を発表しています。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して発表します。 ・噴火警報・予報の名称 噴火警報は、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」(略称は「火口周辺警報」)、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されると直ちに住民等に周知されます。噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。 また、噴火警戒レベルが運用されている火山では、平常時からの地元の火山防災協議会で合意された避難計画等に基づき、気象庁は噴火警戒レベルを付して噴火警報・予報を発表し、地元の市町村等の防災機関は入山規制や避難勧告等の防災対応を実施します。 エ.噴火警戒レベル ・「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」 噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する指標です。 国全体の火山防災の基本方針を定めた防災基本計画(火山災害対策編)と「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」に基づき、各火山の地元の都道府県等は、火山防災協議会(都道府県、市町村、気象台、砂防部局、火山専門家等で構成)を設置し、平常時から噴火時の避難について共同で検討を行っています。火山防災協議会での共同検討の結果、火山活動の状況に応じた避難開始時期・避難対象地域が設定され、噴火警戒レベルに応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の「地域防災計画」に定められた火山で、噴火警戒レベルは運用が開始されます。 噴火警戒レベルが運用されている火山では、平常時のうちに火山防災協議会で合意された避難計画の避難開始時期・避難対象地域の設定に基づき、気象庁は「警戒が必要な範囲」を明示し、噴火警戒レベルを付して、地元の避難計画と一体的に噴火警報・予報を発表します。市町村等の防災機関では、あらかじめ合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 噴火警戒レベルの活用事例として、平成21年2月の浅間山噴火の際には、噴火の前日に前兆現象を捉えた気象庁は噴火警戒レベル3(入山規制)を発表し、あらかじめ火山防災協議会で合意されていた申し合わせに基づいて、地元の関係機関によって入山規制の対応が迅速にとられました。 ・噴火警戒レベルの設定と改善 噴火警戒レベルは、「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山のうち、29火山(平成25年4月現在)で運用されています。今後、このほかの火山も含め、地元の火山防災協議会における避難計画(いつ・どこから誰が・どこへ・どのように避難するか)の共同検討を通じて、噴火警戒レベル(いつ・どこから誰が避難するか)の設定や改善を地元の気象台を含む関係機関が共同で進めていきます。 オ.その他の火山現象に関する予報 噴火警報等で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 カ.火山現象に関する情報 噴火警報や上記の予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等を 周知しています。 キ.火山噴火予知連絡会 火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年に設けられた組織です。連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究および観測体制を整備するための検討も行います。 連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、定例会として年3回開かれます。事務局は気象庁が担当しています。 コラム 伊豆東部火山群防災協議会で実施した 噴火警戒レベル4を想定した合同図上訓練 静岡県伊東市沿岸から沖合の領域では、1978年以降群発的な地震活動が49回発生しています。この地震活動は、マグマが浅いところへ上昇することによって起こっていると考えられます。1989年7月には、伊東市沖約3kmの海底(手石海丘)で有史以来初めての噴火が発生しました。伊豆東部火山群では、噴火が居住地域の周辺や直下で発生しうるという特殊性があり、噴火に伴う大きな噴石やベースサージ(岩塊等の混じった横なぐりの噴煙が水面上を環状に高速で広がる現象)が居住地域に及ぶおそれがあるため、噴火の可能性が高まった段階で、住民や観光客の事前避難が必要となります。 平成24年(2012年)3月、噴火等の防災対策を進めることを目的に、静岡県、伊東市を含む4市1町、国の機関(気象庁、沼津河川国道事務所など)、専門家(静岡大学、東京大学)で構成する「伊豆東部火山群防災協議会」(火山防災協議会)を設置し、避難計画を共同で策定しています。 平成24年度には、伊東市の一部地区の避難計画、道路規制、緊急時の連絡体制を共同で策定しました。また、11月28日には、昨年度に続き、緊急時の火山防災協議会の役割(市長に対する避難対象地域の助言)を確認するための合同図上訓練を行いました。 訓練は、マグマの上昇に伴う地殻変動を観測し、気象庁から「地震活動の見通しに関する情報」が発表され、群発地震活動や震度5弱の地震が発生したため、伊東市では、災害対策本部を設置し、緊急に火山防災協議会の「コアグループ会議」(避難対象地域の技術的検討を行う会議)の開催を各機関に呼びかけるという場面から開始しました。 火山防災協議会では、気象庁から噴火警戒レベル4(避難準備)、レベル5(避難)が発表された場合には、伊東沖周辺の21領域に区切られた「噴火が発生する可能性のある範囲」のうちの地震活動が発生している領域を「想定火口域」に設定し、その周辺概ね2kmの「警戒が必要な範囲」の住民等に対して避難準備・避難を呼びかけるという体制をとっています(図参照)。 訓練では、気象庁から火山活動の状況や想定火口域を説明した後、伊東市から対象地区の住民(今回は1,020名)の避難方法、避難場所、交通規制、各機関の連絡体制の説明が行われ、各機関からも住民避難に対する伊東市への支援・連携体制の報告が行われました。 今回の訓練で、緊急時に住民避難を迅速に行うためには、噴火警戒レベル4発表前の早い段階から臨時のコアグループ会議を開催し、噴火時の防災対応の確認を行う必要があることが分かりました。火山災害から住民等の生命を守るために、今後も訓練を実施して関係者の間で「防災対応のイメージ共有」を確立・維持していくことが、いつ起こるか分からない噴火への備えとして最も重要な防災対策です。 3.地球環境に関する情報 (1)地球温暖化問題への対応 ア.気温や海面水位の監視と地球温暖化に伴う気候などの将来予測 気象庁では、気温や海面水位の長期的な変化傾向を監視して、地球温暖化の現状に関する情報を提供しています。また、将来の気候を数値モデルによって予測し、地球温暖化に伴う気候の変化に関する予測情報を提供しています。 世界の平均気温については、全世界の千数百か所の観測所における観測データや海面水温データを収集して、長期的な変化傾向を監視しています。また、日本国内の気象庁の観測点のうち、都市化の影響が少なく、特定の地域に偏らないように選定された17か所の観測データをもとに、日本の年平均気温の長期的な変化傾向を監視しています。 さらに、海面水位については、潮位や地盤変動の観測から得られたデータに加え、海洋気象観測船で観測した水温・塩分のデータや、人工衛星から観測された海面高度データをもとに、海洋の数値モデルも活用して海面水位の変動を分析し、地球温暖化による海面水位の上昇の実態を明らかにすることを目指しています。 気候変化の予測については、今後の世界の社会・経済の動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオに基づいて、日本周辺の気候をきめ細かくシミュレーションできる気候モデルを用い、21世紀末頃における我が国の気温や降水量などの変化を計算しています。得られた予測結果は、「地球温暖化予測情報」として発表しています。 気象庁は、これらの業務を通じて、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が平成25〜26年(2013〜14年)に公表予定の第5次評価報告書にも貢献します。 (2)環境気象情報の発表 気象庁では、オゾン層保護に資するための情報のほか、黄砂や紫外線対策に役立つ情報の提供を行っています。 ア.オゾン層・紫外線の監視と予測 気象庁は、自ら実施している国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果に加え、収集した地球観測衛星のデータ等も利用して、オゾン層破壊の実態を調査解析しています。これらの観測・解析の成果は、オゾンや紫外線の長期変化傾向などの調査結果も含め気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護対策などの資料として活用されています。 また、毎日の生活の中での紫外線対策を効果的に行えるように、有害紫外線の人体への影響度を示す指標であるUVインデックスを用いた紫外線の翌日までの予測情報を気象庁ホームページで毎日発表しています。 コラム 南極オゾンホール モントリオール議定書採択から25周年を迎えて 平成24年(2012年)9月16日、フロンなどオゾン層を破壊する物質の生産と消費の規制を定めた「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が昭和62年(1987年)に採択されてから、25周年を迎えました。 オゾンは上空約10〜50キロメートルの範囲に多く存在していることから、この層をオゾン層といいます。オゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収し地上の生態系を保護しています。1970年代に入り、フロンなどの化学物質がオゾン層を破壊することが指摘されました。そうした中、昭和59年(1984年)、南極昭和基地上空における春季のオゾン全量がそれまでと比較して著しく少なくなっていることが、気象庁の観測により明らかにされました。これは後日オゾンホールと呼ばれるようになった現象を観測したものであり、この発見により、オゾン層保護の機運が高まり、モントリオール議定書の採択につながりました。 その後、モントリオール議定書の効果によって、オゾン層破壊物質の大気中の濃度は1990年代以降減少しており、これに対応して、オゾンホールの規模は1990年代後半以降、拡大傾向がみられなくなりました。しかし、オゾン層破壊物質は寿命が長いため、その減少は極めて緩く、このため、現在も毎年規模の大きいオゾンホールが発生しています。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)がとりまとめた「オゾン層破壊の科学アセスメント:2010」によると、南極域上空のオゾン層の状況が、オゾン層破壊が顕著ではなかった昭和55年(1980年)以前の水準に戻るのは今世紀半ば以降になるとされており、気象庁では引き続きオゾン層の状況を観測し、的確な情報提供に努めます。 イ.黄砂の監視と予測 黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上がった無数の細かな砂じんが上空の風に乗って日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が飛来すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、濃度が高くなるとまれに交通障害の原因となる場合があります。 気象庁では、黄砂が日本の広域にわたって観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページには毎日の黄砂の観測・予測結果を掲載しています。なお、環境省と共同で「黄砂情報提供ホームページ」を運用し、黄砂に関する観測から予測まで即時的な情報を簡単に取得できるようにしています。 ウ.ヒートアイランド現象の監視・実態把握 都市化の進んでいる東京や大阪などの大都市圏を中心に、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が生じています。ヒートアイランド現象による大都市圏での夏季の著しい高温は、熱中症の増加や光化学オキシダント生成の助長などを通じて人々の健康への被害を増大させるほか、局地的大雨の発生との関連性が懸念されています。 気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離2キロメートルごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」として平成16年度(2004年度)から公表しています。平成24年度は、関東、東海、近畿地方の三大都市圏を対象に、都市化の影響による8月の月平均気温の上昇や相対湿度の減少の様子を示しました。 (3)海洋の監視と診断 ア.海洋の監視 地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。 気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどによって海洋の観測を実施しています。 海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。主な観測成果は、トピックス8(2)をご参照下さい。 イ.海洋の健康診断表 気象庁では、海洋気象観測船等による観測データに加え、地球観測衛星等の観測データを収集し、それらをもとに解析した結果を、「海洋の健康診断表」として定期的に気象庁ホームページで発表しています。 この中では、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因、今後の推移の見通しについて、グラフや分布図を用いてわかりやすく解説しています。平成24年度には、海洋酸性化に関する情報提供を開始しました(海洋の酸性化について、詳細はトピックス8(2)を参照)。 コラム 海洋内部の水温の長期変化傾向と世界の海面水位の上昇 地球表面の7割の面積を占める海洋は、大気に比べて大量の熱を蓄積し、この熱を大気とやり取りすることで気候に大きな影響を与えます。過去50年余りにわたって気候変動により増加した地球全体の熱量の半分以上は、海面から深さ700メートルまでの海洋の表層に蓄えられていると考えられています(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書)。この熱の蓄積により、世界全体の平均では、海洋表層の水温が上昇していることが分かっています(水温上昇の実態についてはトピックス8(1)「地球温暖化の進行」参照)。このため、大気を含め地球全体の温度変化を把握するためには、海洋内部の水温変化を知ることが鍵になります。 海洋内部の水温は、気象庁などの観測船の観測や、一般船舶による篤志観測、中層フロートなどの自動観測によって測られています。しかし、海域や年代によって観測数に偏りがあることや、また、時代とともに観測手法が変わってデータ品質が改善されてきたこともあり、単に過去からの観測データを並べるだけでは、長期間にわたる世界の海洋全体の水温の変化は把握できません。このため、現在までの様々な観測データをもとに時間的、空間的に均質な水温データを計算し、それを使って解析する必要があります。気象庁では、海面から深さ700メートルまでの海洋表層の水温について、1950年以降の毎月のデータを作成して長期変化の監視に用いています。トピックス8(1)「地球温暖化の進行」に示したとおり、世界全体の海洋表層の水温は1950年から2012年の間に10年あたり0.021℃の割合で上昇しており、特に1990年代半ばから2000年代初めにかけて大きな昇温が見られ、その後も水温が高い状態が続いていることが分かりました。 海洋内部の水温上昇が地球環境に与える影響の一つに、海面水位の上昇が挙げられます。海水は温度が上がると熱膨張し体積が増えます。地球温暖化によって海面水位が上がるとされていますが、その要因として氷河や氷床などが融けることによる海水の増加とともに、熱膨張による海水の体積の増加があります。グラフは、人工衛星によって観測された世界の平均海面水位の変化量と、海洋表層の水温変化から推定された熱膨張による水位の変化量です。人工衛星の観測データがある1993年以降、世界の平均海面水位は上昇を続けています。そのうちの約3分の1は海洋表層の水温上昇によるものだということが分かります。 気象庁は、このような地球環境の様々な変動と密接にかかわっている海洋の解析結果を、気象庁ホームページの「海洋の健康診断表」に掲載しています。 4.航空の安全などのための情報 航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けているため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。 航空機は、出発空港から目的空港への飛行計画を立てるとき、目的空港の天候から空中での待機や代替空港への着陸の可能性を判断し、燃料の搭載量を決定します。また、上空の風の予想や悪天の予想図から、飛行中乱気流による揺れの少ない高度や場所、燃料が節約できる高度や航空路、到着予定時刻などを決定します。気象庁が提供する各種情報がこうした判断に使われています。 (1)空港の気象状況に関する情報 航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国81空港において、1時間又は30 分ごとに定時観測を行い、また気象状況を監視し、それらの情報を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ迅速に通報しています。東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(ウィンドシアー) や降水域を観測しています。また、東京・成田・関西の各国際空港においては空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層のウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。これらにより、離着陸する航空機の安全に影響する低層のウィンドシアーが観測された場合は、ウィンドシアー情報として直ちに管制官を通じてパイロットへ伝達されます。 (2)空港の予報・警報に関する情報 航空機の飛行計画を立てる際、出発前に、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合の代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な予報(飛行場予報)を27 時間先まで、国際定期便などが運航している36 空港に対して発表しています。飛行場予報は、国内外の航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ提供し、運航計画などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港に対しては、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及び業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合、「飛行場警報」を適宜発表し、航空関係者に対して警戒を促しています。 このほか、各空港では、航空管制官やパイロットなどの航空関係者に対して、気象状況や今後の予想について口頭で解説などを行っています。 (3)上空の気象状況に関する情報 ア.空域の気象情報 飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山の噴煙に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を定期的に提供して、運航計画の支援を行っています。 イ.航空路火山灰情報 火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスが擦りガラス状になり視界が利かなくなったり、飛行場に堆積すると離着陸ができなくなるなど、航空機への被害は多岐にわたります。このため航空機の安全な運航を確保するうえで、火山灰の情報は大変重要です。 気象庁は国際民間航空機関(ICAO)からの指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター(東京VAAC)を運営しています。同センターでは、東アジア及び北西太平洋における火山噴煙の状況を監視し、火山灰の分布に関する観測・予測情報(航空路火山灰情報)を国内外の航空関係者に提供しています。 (4) 航空関係者に利用される航空気象情報 気象庁は、空港内などで業務を行っている航空関係者に対して、飛行場の気象観測の結果や予報、上空の風や気温、悪天の予想図などの気象情報を提供しています。空港の観測値や予報などの航空気象情報は、国内外の航空関係者に提供しているほか、主要な空港や空域の気象情報は、飛行中の航空機に対して、短波放送や国土交通省航空局の無線通信(対空通信)などを通じて提供しています。また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。 (5)より精度の高い予測を目指して 東京国際空港では、平成22 年(2010 年)に新滑走路の供用が、また、平成23 年(2011 年)には国際定期便の運航がそれぞれ開始され、首都圏空域における航空機の交通量は、ますます増加しています。 ひとたび東京国際空港が強風や雷雨などによって着陸ができなくなるような気象状態となった場合、多数の航空機が空中で待機することとなり、日本全体の航空機の運航に影響を及ぼすため、航空関係者からは、これまで以上に詳細で精度の高い気象情報が必要とされています。このため気象庁は、平成20 年度から首都圏空域など交通量が過密な空域の気象情報のさらなる高度化を図る目的で、より緻密な数値予報モデル(第2 章参照)の開発に取り組んできました。この技術開発の成果を、平成24 年から運用を開始した航空気象予報用スーパーコンピュータに取り込み、首都圏空域を中心とした領域を対象にこれまでより詳細な気象情報の提供を開始しました。今後は対象領域を日本全体に拡大するなど、更なる高度化を図ります。 (6)ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 航空気象業務は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)による国際的な要求事項や利用者からの要求事項を満たした気象観測や予報などを行う必要があります。このため、気象庁では平成22 年4 月から航空気象部門にISO9001 に基づく品質マネジメントシステムを導入して、航空気象情報の適時適切な提供を継続するとともに、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 5.民間の気象事業 気象等の現象は、交通、食品、衣料等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接にかかわっています。一方、インターネット、デジタル放送、携帯端末、高速通信回線等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、既製品的な情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を取捨選択できる環境が整ってきました。国民及び産業界のニーズは、今後、より多様化・個別化することが見込まれることから、民間気象事業者による、最新の情報通信技術を活用した幅広いニーズに対応した気象サービスの提供が欠かせません。 気象庁は、国民が安心して民間気象事業者の予報を利用できるよう予報業務の許可制度、気象予報士制度を設けるとともに、このような民間気象事業者の活動を支えるため、受益者負担の原則の下、民間気象業務支援センターを通じて、気象庁が保有する情報の提供及び支援を行っています。 ○予報業務の許可制度 民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取り組みがなされていますが、サービスを利用する国民の側からみると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。このため、気象庁では、民間気象事業者が、気象や波浪、地震・火山等の現象を予報する場合には、警報等の防災気象情報との整合性や、国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保できるよう、あらかじめ気象庁長官がその者の予報業務に必要な要員及び施設等が備わっていることを確認する「予報業務許可制度」を設けています。 ○気象予報士制度 予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技能を要することから、民間気象事業者が気象などの予報業務のうち現象の予想を行う際には気象予報士に行わせることを義務付けており、これにより予報の精度を担保しています。気象予報士は国家資格であり、業務に必要な知識及び技能について行う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受ける必要があります。気象予報士には平成25年4月1日現在、8,753人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核的となる技術者だけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発に貢献しています。なお、地震動と火山現象の予報は、現象の予想を国土交通省令で定める技術上の基準に適合した手法で行うこととすることにより、予報の精度を担保しています。 ○民間事業者等に対する支援 気象庁は、当庁が保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、受益者負担の原則の下、民間気象業務支援センターを通じて民間事業者等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間の気象事業者等により、個別企業のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動の基盤として活用されています。また、数値予報等、気象庁による予測技術の高度化に伴い、予報業務を行う民間気象事業者の技術基盤の確保と高度化が益々必要となっていることから、気象庁では、予報業務を行う民間気象事業者を対象とした講習会を開催する他、民間気象業務支援センターや日本気象予報士会が行う講習会等に講師を派遣するなど必要な協力と支援を行っています。 6.地域の防災力向上への取り組み (1)気象台による自治体支援の取り組み 気象庁では、全国の都道府県にある気象台で、気象や地震などの観測・監視、予報・警報や情報の発表・提供、解説などを行っています。 大雨、津波などにより災害の発生が予想される場合、気象台が発表する警報などの防災情報が自治体などの防災関係機関に迅速かつ確実に伝わることはもとより、情報の受け手がその意味を正しく理解して、避難勧告等の発令を適時・的確に判断するなどの適切な防災対応につなげることが、被害の軽減のために非常に重要です。 各地の気象台では、自治体が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、気象台が発表する防災情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、自治体などの防災担当者に対する説明会や研修などでも、情報の活用について積極的に説明を行っています。また、大雨等により災害の発生が危惧される場合には、気象台から自治体などの防災関係機関に対して気象状況の事前説明や、事態の推移によっては気象台から自治体に直接連絡して気象状況や今後の見通しを積極的に伝えるなど、気象台が持つ危機感を共有していただけるよう取り組んでいます。 気象庁では今後とも関係機関と連携しながら、より分かりやすい防災情報の提供と、気象や地震などの自然現象や防災情報に関する普及啓発に引き続き取り組んでいきます。 (2)住民への安全知識の普及啓発・気象情報の利活用推進に関する取り組み ア.「地域防災力アップ支援プロジェクト」 気象庁では、これまでも住民等を対象とした出前講座や講演会など、様々な普及啓発活動に取り組んできました。平成23年3月の東日本大震災をきっかけとして、住民等への自助・共助意識の啓発や防災教育の重要性が政府の有識者会議などで報告されています。このことを踏まえ気象庁では、関係機関と連携・協力しながら、安全知識の理解や気象情報の利活用をより効果的に推進するための様々な取り組みを「地域防災力アップ支援プロジェクト」として進めており、住民自らの判断で的確な防災行動がとれるような風土・文化が醸成されることを目指しています。 「地域防災力アップ支援プロジェクト」取り組み例 札幌市立幌西小学校 教諭 安達 正博 私達は、自然災害を無くすことはできない。しかし、防災教育を推進することで被害を少しでも減らすことはできる。この考えのもと、平成21年から、札幌管区気象台と札幌市の社会科を専門とする教員が協働で小学校における防災教育を推進する方策を考えてきました。そして、「どこの学校でも実践できる」防災教育をめざして、小学校5年社会科の情報単元で「緊急地震速報」を教材として取り上げ、授業づくりを行いました。授業に必要な情報は、札幌管区気象台のHPに掲載しました。平成22年には、この資料を活用し札幌市立資生館小学校で授業実践を行い、緊急地震速報を取り上げた授業の効果を確認しました。 平成23年から札幌管区気象台と一緒に、夏・冬の年2回、教員を対象とした「授業で使える緊急地震速報の研修会」を行い、小学校社会科で緊急地震速報を取り上げる意味と意義を伝えるとともに、この授業をきっかけとして少しでも教育現場で防災教育が進められるよう普及・啓発を行っています。 防災機関と連携した取り組み 「防災士養成研修」 大分県生活環境部防災危機管理課 主査 後藤 賢一 大分県では地域防災力向上のため、自主防災組織の育成・強化に力を入れています。平成24年度は活動の要となる人材を養成するため、県下で3,000名の防災士を養成する取り組みを行いました。県下各市町で2日間12コマの研修会を延べ31会場で開催、受講者は気象台職員を講師に迎えた気象特性や地震・津波のメカニズムの講話から防災士による災害図上訓練など多岐にわたり学習しました。また研修修了後はNPO法人日本防災士機構の実施する防災士試験を受験、合格者には認定証が交付されています。認定された各地の防災士には今後、自主防災組織内での防災講話や防災訓練の企画運営、また災害ボランティア活動への参加、さらには居住市町村の防災士同士が連携し、自主防災組織の枠を越えた活動など,様々な取り組みで地域の防災力を高めていただくことを期待しています。 報道機関と連携した取り組み 「コミュニティ放送による防災知識の普及・啓発」 東北コミュニティ放送協議会 会長 玉井 恒 東北コミュニティ放送協議会には東北6県の24局が加盟しています。 これまで仙台管区気象台と連携し、防災週間や緊急地震速報のキャンペーン番組を放送し、現在は宮城県、岩手県、山形県、福島県の加盟コミュニティ放送局が地元気象台職員出演による気象知識の普及啓発番組を放送しています。 2011年3月11日の震災では、当協議会加盟8局が臨時災害放送局(24自治体29局)に移行し、救援情報や気象台から提供された防災気象情報を放送しました。また、今回の震災の経験をふまえ、当協議会を中心としたNPO法人東日本地域放送支援機構により「臨時災害放送局の開設等の手引き」を作成しました。 今後はより地域に密着した放送局として加盟全24局による定期的な番組を仙台管区気象台と連携し放送するなど、地域住民への防災情報の普及・啓発について積極的に取り組むこととしております。 民間団体と連携した取り組み 「地域防災力向上」 特定非営利活動法人 兵庫県防災士会 理事長 大石 伸雄 当会は、日本防災士機構によって認証された防災士により平成16年10月に設立された日本防災士会の兵庫県支部として平成21年3月に設立、平成24年3月に法人認可された新しい団体ですが、地域防災力の担い手として意識の高い会員205名が兵庫県下全域で活動しております。当会は、官民の境界を越えた「新しい公共」の担い手としての役割や公共との連携を重視し公益性が求められる団体を目指しております。活動としては、兵庫県や県下地方自治体等との連携による防災訓練参加協力や自主防災組織への出前講座等を実施し、兵庫県からは「ひょうご防災特別推進員」の称号をいただき防災啓発活動を行っており、組織内では研修委員会を設けて会員の研鑚も強化しています。最近では神戸海洋気象台とも連携し懇談会・講演会・勉強会等の相互乗り入れをさせていただいており、気象台の情報提供は住民サイドで活動する当会にとって大変有益なものです。 イ.より効果的な取り組みへの発展に向けて 気象庁では、「地域防災力アップ支援プロジェクト」として全国の気象台で進めている数ある取り組みの中から、多くの官署で参考となるものを選考して、その取り組みについて発表し、防災・教育・報道・広報の各専門家から助言や講評などをいただくための「ミーティング」を平成25年2月に開催しました。 ミーティングにご参加いただいた専門家(敬称略) 【防災分野】静岡県危機管理部 危機報道監 岩田 孝仁 【教育分野】全国学校安全教育研究会 会長 矢崎 良明 【報道分野】時事通信社 山形支局長 中川 和之 【広報分野】(株)電通PR コミュニケーションデザイン局長 花上 憲司 気象台が進める普及啓発の取り組みについて、専門家の方々のご意見を伺う場を設けるのは初めての試みです。当日は、「学校における緊急地震速報を活用した避難訓練の支援」、「地元のテレビ局やラジオ局と連携した防災知識等の普及」などの取り組みを実施している気象台から、取り組み概要、工夫した点などのアピールポイント、成果や課題、今後の取り組み展開について、プレゼンテーションを行いました。 各分野の専門家からは、「関係機関との連携のきっかけを見つけて、うまく連携して取り組みが行われている」、「多くの関係者・機関が関わって地域ぐるみで取り組んでいる」といった評価のほか、「学校の先生が創意工夫しながら防災意識を子供たちに教えることができる仕組みづくりが有効」、「地域に根差した普及啓発を進めていくことが重要」、「気象庁の取り組みをより多くの方々に知っていただくための工夫」など、今後の気象台に対する期待も含め、多くの助言をいただきました。この「ミーティング」でいただいた助言を踏まえ、より効果的な取り組みへの発展や新たな展開に繋げていきます。 第2章 気象業務を高度化するための研究・技術開発 大気・海洋に関する数値予報技術 (1)数値予報とは 警報・注意報や各種の天気予報では、明日・明後日やさらに先の大気の状態を予測する必要があります。大気や海洋の現象は物理や化学の法則に基づいて起きていますので、この法則を用いて「今」の大気などの状態から「将来」を予測することが原理的には可能です。この手法は「数値予報」と呼ばれ、気象庁の予報業務の根幹をなす技術となっています。数値予報は、大気や海洋の様々な振る舞いを物理や化学の法則で表現したコンピュータのプログラムを必要とします。このプログラムを「数値予報モデル」といい、予測の精度を向上させるため開発や改良が進められてきました。また、数値予報モデルを予報業務に使うには、膨大な計算を短時間に処理する必要があり、このため気象庁では昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用のコンピュータを導入し、以来、常に世界最高レベルのコンピュータに更新しています。数値予報モデルは、予測する期間の長さや対象領域などに応じて様々な種類がありますが、いずれも、大気や海洋を水平方向・鉛直方向に格子状に区切り、それぞれの格子での気温や風、湿度などの将来の状況を予測します。 (2)数値予報モデルの現状 ○全球モデル、メソモデル、局地モデル 気象庁で運用している数値予報モデルにはいくつかありますが、このうち主なものとしてまず「全球モデル」があります。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルです。気象庁では、全球モデルを、短期予報(明日・明後日の予報)、週間天気予報や1か月予報、航空路や海上予報など地球上の広い領域を対象とする予報に利用しています。週間天気予報や1か月予報では、予測時間が長くなるとともに誤差が大きくなります。このため、「アンサンブル予報」という手法を使用し、確率による予報などを行っています。「メソモデル」は、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす積雲・積乱雲の集団などの現象(高低気圧や梅雨前線など、天気図上で解析される数千キロメートル規模の現象より小さく、竜巻など局所現象(数キロメートル以下)より大きいスケールが「メソスケール」と呼ばれています。)の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報の作成や降水短時間予報、飛行場予報などに利用しています。メソモデルでは、計算を行う格子を細かくし、積乱雲に伴う上昇気流や、水蒸気の凝結、雨や雪・あられなど降水粒子の発生・落下など雲の中で発生する現象を精密に取り扱っています。そして「局地モデル」では、メソモデルよりも格子をさらに細かくすることで地形をよりきめ細かく取り扱い、降水過程においても計算の精密さを高める手法を取り入れ、風や気温、雷や短時間の強い雨をもたらすような積乱雲などの予測精度を向上させています。局地モデルは、航空機の安全運航のための気象情報や防災気象情報の作成に利用しています。 ○季節予報モデルと長期再解析 1か月を超える時間スケールでは、大気の変動はエルニーニョ・ラニーニャ現象のような海洋の変動の影響を強く受け、逆に海洋の変動は大気の影響を受けます。このため、3か月予報、暖・寒候期予報やエルニーニョ予報には、大気と海洋を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。 異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報を的確に行うためには、過去の気候を出来るだけ正確に把握しておく必要があります。この目的で、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術を用いて解析し直す「長期再解析」により、過去の気候を再現する高精度の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。平成18年に完了した長期再解析JRA-25(1979年以降の解析)に替わるものとして、その後の新たな技術を取り込み、1958年にまでさかのぼって計算を行う長期再解析JRA-55を新たに作成しています。 ○海に関する数値モデル 気象庁では海洋の様々な現象を予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」及び「海氷モデル」を運用しています。 「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上の様々な場所での波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・注意報や、波浪予報などに利用しています。「高潮モデル」は、台風などによる海面気圧と海上の風の予測値から海面水位の上昇量を予測し、この結果をもとに浸水災害がおこる恐れのある場合に、高潮警報・注意報を発表しています。「海況モデル」は、黒潮や親潮に代表される日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、海面水温・海流1か月予報に使用しています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測し、海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用しています。 ○物質輸送モデル 気象庁では、大気中の物質の挙動を数式化した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、オゾンなどの監視と予測を行っています。「黄砂予測モデル」では、黄砂発生域での黄砂の舞い上がり、風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下を考慮しています。また、「化学輸送モデル」では、オゾンやその生成・消滅にかかわる物質の風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下、化学反応や光化学反応による生成・変質・消滅などの過程を考慮しています。 予測結果は、黄砂情報や紫外線情報及び全般スモッグ気象情報に利用しています。 (3)数値予報の技術開発と精度向上 高い精度の防災気象情報や天気予報をきめ細かく作成するためには、その基礎となる数値予報の精度向上が不可欠です。 スーパーコンピュータの性能向上や数値予報モデルの開発改良が進み、数値予報は目覚ましい進歩を遂げてきました。過去18年間の全球モデルの予報誤差(北半球5日予報の精度)の変化を図に示します。この間、モデルの分解能の向上や物理過程の改良、4次元変分法の導入などデータ同化技術の改善、気象衛星などによる新たな観測データの利用開始など、多くの技術の進展がありました。その結果、数値予報の誤差が3分の2に減少するなど、予報の精度は大きく向上しました。 気象庁では数値予報のさらなる精度向上のために、次のような開発課題に取り組んでいます。 細かい現象の予測には、計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)が必要ですが、格子の間隔を細かくすると、計算量が増えるため、計算に要する時間が長くなります。タイムリーに予報を行うためには所定の時間内に計算を終わらせる必要があり、このため、膨大な数の格子での計算を高速化する方法や、大気中の雨や雲の状態を精度よく効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。 また、数か月以上先の予測には、大気だけでなく海洋の影響が大きくなることから、大気と海洋を同時に取り扱う数値予報モデルの開発・改良を進めています。 さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく再現するための技術(これを「データ同化技術」と言います。用語集参照)の開発も併せて行っています。特に、人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する「4次元変分法」という手法(用語集参照)の開発・改良に重点的に取り組んでいます。 (3)数値予報の技術開発と精度向上 高い精度の防災気象情報や天気予報をきめ細かく作成するためには、その基礎となる数値予報の精度向上が不可欠です。 スーパーコンピュータの性能向上や数値予報モデルの開発改良が進み、数値予報は目覚ましい進歩を遂げてきました。過去18年間の全球モデルの予報誤差(北半球5日予報の精度)の変化を図に示します。この間、モデルの分解能の向上や物理過程の改良、4次元変分法の導入などデータ同化技術の改善、気象衛星などによる新たな観測データの利用開始など、多くの技術の進展がありました。その結果、数値予報の誤差が3分の2に減少するなど、予報の精度は大きく向上しました。 気象庁では数値予報のさらなる精度向上のために、次のような開発課題に取り組んでいます。 細かい現象の予測には、計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)が必要ですが、格子の間隔を細かくすると、計算量が増えるため、計算に要する時間が長くなります。タイムリーに予報を行うためには所定の時間内に計算を終わらせる必要があり、このため、膨大な数の格子での計算を高速化する方法や、大気中の雨や雲の状態を精度よく効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。 また、数か月以上先の予測には、大気だけでなく海洋の影響が大きくなることから、大気と海洋を同時に取り扱う数値予報モデルの開発・改良を進めています。 さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく再現するための技術(これを「データ同化技術」と言います。用語集参照)の開発も併せて行っています。特に、人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する「4次元変分法」という手法(用語集参照)の開発・改良に重点的に取り組んでいます。 (4)今後の数値予報技術 数値予報は、気象の警報・注意報や天気予報を発表するうえで、今や欠かせない存在となっています。数値予報がこのような気象業務の根幹をなす技術となったのは、気象学の進歩により現象のメカニズム解明が進んだことや、スーパーコンピュータの性能が大幅に向上したことに加え、気象庁が、計算技術やモデルの改良といった数値予報技術の開発に精力的に取組んできた成果です。この我が国が有する優れた技術を今後も発展させ、数値予報の精度を向上させ、情報の改善に役立てていく必要があります。 現在、気象庁では、目的に応じた様々な数値予報モデルを運用していますが、それぞれのモデルに用いられる技術が深化・高度化する中、モデルの運用・改良を効率的・効果的に行うために、モデル間で共通する課題はできるだけまとめて解決する必要があります。モデルの技術基盤を共通化することができれば、最新の開発成果をそこへ集中させることによって、様々な目的の数値予報モデルに効果的に反映させる、またモデルを共通化することが可能となります。このような「基盤モデル」の構築、そして、明日、明後日の予報から季節予報まで、様々な時間スケールの現象をひとつのモデルで予測する、いわゆる「シームレス」なモデル開発に向けた取り組みを始めています。 スーパーコンピュータの性能は日進月歩で向上しています。そのため、将来はさらに解像度の高い数値予報モデルを業務的に使うことができると見込まれています。モデルの高解像度化により実現できる数値予報技術のひとつに、積雲・積乱雲の再現があります。積雲・積乱雲の集団は台風をはじめとする熱帯域の気象擾乱の発生・発達、アジアモンスーンに伴う梅雨前線の活動に重要な役割を果たしており、熱帯域やアジアモンスーン領域を含む全球モデルを、積雲・積乱雲を再現できるよう高解像度化することにより、例えば二週間以上先の台風の発生や強度、熱帯域やアジアモンスーンの変動、及びその影響としての日本付近の大気の状態がより的確に予測出来るようになることが期待されます。積雲・積乱雲を再現できる全球高解像度モデルについては、研究段階のものとしてすでにいくつかのタイプが作られています。気象庁では、計算コストや業務的に使用する場合の安定性、大気現象の表現の的確さなど様々な観点から、その導入に関する調査を進めています。 (5)地球温暖化予測の研究 平成25 〜 26 年(2013 〜 14 年)に公表予定のIPCC 第5 次評価報告書に向けて、地球温暖化予測実験や、予測の不確実性の低減、その要因の理解をめざした研究が世界中で行われてきました。 気象研究所でも、最新の大気モデルと海洋モデルを結合して新たに開発した気候モデルに、これまでの気候モデルで扱ってこなかったエーロゾル、オゾン、陸域生態系及び海洋生物の効果を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しました。このモデルを用いた温暖化予測実験の結果や、海洋観測データを同化した10 〜 30 年先の近未来予測の結果は、IPCC 第5 次評価報告書に貢献します。アジアをはじめとした地域的な気候表現をさらに高精度にするモデル開発をおこなっており、温暖化への中期的な適応策に資することが期待されます。 さらに、日本の詳細な温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化予測を通じて我が国の温暖化対策への貢献が期待されています。 2.新しい観測・予測技術 (1)GPS等測位衛星を用いた視線方向の遅延量の利用に向けた研究開発 GPS(全球測位システム)に代表される測位衛星群は、地上約2万キロメートルの高度を周回しながら電波を送信しています。その電波の速度は大気中の水蒸気や気温、気圧により遅れが生じることから、測位衛星の電波を地上の受信機で受信し、さらに衛星軌道の情報を用いて計算することにより、上空の大気に含まれる水蒸気量を算出できます。 気象庁では、国土地理院が地殻変動の監視のための電子基準点として全国約1200地点に設置した受信機のデータを用いて、高分解能な水蒸気量の観測を行っています。また、その水蒸気量を数値予報モデルで利用して、警報などの各種気象情報や日々の天気予報の精度向上にも役立てています。 現在気象庁で利用しているのは、上空を周回している複数のGPS衛星を用いて算出した受信機の上空のやや広い範囲の水蒸気の総量(可降水量)ですが、気象研究所では、個々の衛星から受信した測位衛星の方向(視線方向)の電波の遅れ(視線遅延量)の算出と利用に向けた研究開発を行っています。 視線遅延量を用いると、3次元の水蒸気、気温、気圧の情報が得られるため、可降水量のみを用いた場合に比べて、短時間の局地的な大雨などの激しい大気現象の予報精度の向上が期待されます。平成21年8月19日の沖縄県での局地的大雨の事例では、視線遅延量を用いたほうが、より実際の現象に近い降水分布を再現することができました。 (2)降水短時間予報の改良 〜局地モデルの結果を活用した改良について〜 降水短時間予報は、解析雨量(1部1章1節○雨の実況と予測情報 参照)をもとに雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測しています。気象台では大雨警報・注意報や洪水警報・注意報の発表に利用しており、降水短時間予報は適確な防災気象情報を提供する上で基盤となる予測資料となっています。 降水短時間予報は、その時点までの雨域の移動をそのまま持続させ、地形による雨雲の発達・衰弱を考慮した雨量予測(実況補外型予測)と、数値予報モデルによる雨量予測を結合する手法で行っています。これは、目先の2〜3時間までは実況補外型予測の精度が良く、それを過ぎると数値予報による雨量予測の精度の方が良くなるためで、両方の予測精度をその都度比較し、精度に応じた重みをつけて結合しています。 平成25年出水期から数値予報の局地モデル(2km格子)が日本全土を覆う領域を対象に、1時間ごとに起動され、9時間先までの雨量予想が利用できるようになります。これまで降水短時間予報では、3時間ごとに起動されるメソモデル(5km格子)の雨量予測を利用していましたが、より解像度が高く、高頻度で計算結果が得られる局地モデルの雨量予測も利用する計画です。局地モデルでは今まで以上に細かな地形やそれに伴う降水域の表現が改善され、また、起動時間の間隔が短くなることによって新しい予測が次々と使えるため、実況補外型予測と結合して利用することで降水短時間予報の雨量予測の精度も向上するものと期待されています。 (3)次期静止衛星のための技術開発 気象庁は、現行の静止気象衛星「ひまわり7号」の後継機として、静止地球環境観測衛星「ひまわり8号」を平成26年に打ち上げ、平成27年から運用を開始する予定です。「ひまわり8号」に搭載する高機能のカメラは、大気や地表面から放出される様々な波長の光を捉えることができ、観測で得られる画像の種類が大幅に増えます。また、地球画像を10分ごと、日本周辺画像を2.5分ごとの高頻度で撮影することができ、画像の解像度も向上します。気象庁では、この新しい画像を、気象の実況監視、数値予報、気候・環境監視等で利用するための技術開発を進めています。 例えば、高頻度に撮影された画像を利用することで雲や水蒸気の移動を追跡して上空の風の分布をよりきめ細かく算出するための技術開発を行っています。下図の左は、試験的に気象衛星「ひまわり6号」が日本付近を5分間隔の高頻度で撮影した画像から算出した風の分布図です。通常の15分間隔の画像から算出した風の分布図(右)と比較すると、得られる風のデータが大幅に増えることがわかります。さらに観測の頻度だけではなく画像の解像度が向上すると、より多くかつ正確な風のデータを算出することができます。 このように高頻度かつ高解像度で取得した画像を利用することにより、台風や低気圧・前線等の気象現象をより詳細に把握することができるようになります。特に、急激に発達して局地的豪雨や雷、突風をもたらす積乱雲を発達段階で捉えることについては期待が大きく、技術開発の重要課題となっています。 また、様々な波長の光を観測することで得られる画像を利用することで、雲の種類を詳細に分類することや、正確に大気中の水蒸気量を推定するといった技術開発を進め、台風の解析精度の向上や、数値予報モデルでの利用を通じた予報精度の向上を目指します。さらに、黄砂や火山灰などの分布や高度をより正確に算出するための技術開発も進めています。 4.開かれた研究・技術開発体制 数値予報モデルをはじめとした気象や海洋、地震・火山・津波の監視・予測の技術を向上させるためには、各分野の最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学や研究機関はもとより、諸外国の気象機関などと情報交換や意見交換を行い、研究・技術開発を進めています。 国内の大学や研究機関とは、気象や海洋、地震・火山・津波のそれぞれの分野で合計100余りの共同研究を実施しています。いくつかの共同研究の成果は気象庁で活用されており、例えば、緊急地震速報の実用化も共同研究の成果のひとつです。 気象の分野については、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」という研究の枠組みを設けています。「気象研究コンソーシアム」は、気象庁の予測データや気象衛星データを研究者に提供することにより、大学や研究機関における気象研究を促進し、それにより、わが国における気象研究の発展、気象研究分野の人材育成及び気象予測技術の改善を図ろうとするものです。この枠組みのもとで、30余りの研究課題が取り組まれており、気象・気候の予測技術の開発や、現象の解明のための研究が行われています。 数値予報モデル開発に関しては、気象予測や数値シミュレーションのための数値予報モデルを利用する研究者に、気象庁が実際の予報に用いているモデルを貸与し、数値予報技術を用いた研究を促進しています。また、「数値モデル研究会」を開催し、大学や研究機関の研究者との交流を図っています。平成25年3月に開催した第6回数値モデル研究会は、数値モデルによる台風予報の課題と展望をテーマとし、約100人の参加により、台風予報の改善方策について議論を行いました。 気候の分野では、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学や研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を設置しています。最近では、平成24年8月下旬〜9月中旬の北日本と東日本の高温について、検討会で分析を行い発表しました。また、長期再解析の実施にあたっては、解析結果の評価を大学や研究機関の専門家で構成する外部評価グループが実施するなど、気象庁と研究者が連携して長期再解析データの品質向上を目指しています。 第3章 気象業務の国際協力と世界への貢献 日々の天気予報や警報・注意報の的確な発表のためには、全世界の気象観測データや技術情報の相互交換など国際的な協力が不可欠です。気象庁を含む世界各国の気象機関は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心とした連携体制や、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1.世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献 WMOは、世界中の気象等の観測とデータの収集、配布を促進し、また気象や気候の情報を改善させることなどを任務として活動している国際連合の専門機関です。気象庁は、WMOの構成員として、国際会議開催やWMO 事務局への専門家の派遣、国際的なセンター業務を担当するなど、活発に活動しています。 2.国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献 UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 (1)北東アジア地域海洋観測システム地域リアルタイムデータベース 日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 (2)津波の警報に関する国際協力 北西太平洋で発生した地震によって起きた津波情報を各国に提供する(左図)とともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています(右図)。 3.国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献 ICAOは国連の専門機関の一つであり、国際民間航空の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAO の指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター及び熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4.国際的な技術開発・研究計画への貢献 気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。我が国は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。 とりわけ地球温暖化問題については、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、昭和63年(1988年)の設立以来、気象研究所の研究者が評価報告書の執筆者として参画しているほか、気候モデルによる地球温暖化予測をはじめとする研究成果が評価報告書に盛り込まれる等、積極的に貢献しています。 5.人材育成支援・技術協力について 開発途上国の気象機関の技術向上への支援は、その国の防災活動の強化につながる重要な活動であるだけでなく、精度ある観測データが地球全体で充実することを通じて、日本国内の予報精度の向上にもつながります。 気象庁は、途上国の国家気象機関の職員を対象に、気象業務の改善のための集団研修を国際協力機構(JICA)とともに30 年以上にわたり実施してきました。研修生の多くは現在、世界各国の気象機関において指導的な立場で活躍しています。また、WMO や各国個別の要請に応じて、気象等の観測、解析、予報に関する分野で気象庁職員を専門家として派遣し、また、各国気象機関等から研修生を受け入れています。 第2部 最近の気象・地震・火山・地球環境の状況 1.気象災害、台風など ○平成24年(2012年)のまとめ 平成24年(2012年)は、7月中旬には、停滞前線の影響で「平成24 年7 月九州北部豪雨」が発生しました。また、8月中旬には、前線により近畿地方を中心に大雨となったほか、9月中旬には、台風第16号の影響で、沖縄地方から近畿地方の太平洋側にかけて大雨・暴風・高波・高潮となりました。 ○平成24年の主な気象災害 ・低気圧による暴風 4月3日から4日にかけて、低気圧が急速に発達しながら日本海を東北東に進みました。この低気圧の中心気圧は、2日21時には1006ヘクトパスカルでしたが、その後の24時間で42ヘクトパスカル降下し、3日21時には日本海中部で964ヘクトパスカルまで発達しました。 この低気圧の影響で、山形県酒田市飛島(トビシマ)では4日に最大風速39.7メートル、最大瞬間風速が51.1メートルを観測するなど、西日本から北日本の広い範囲で暴風となりました。さらに、最大風速が20メートルを超えた観測地点数は927地点のうち79地点に達し、統計期間が10年以上の観測地点889 地点中76 地点で観測史上1位を更新するなど記録的な暴風となりました。この暴風により、歩行中の転倒や倒木の下敷きになるなどにより死傷者が出たほか、鉄道など交通機関も運休が相次ぎ、首都圏では暴風のピークが帰宅時間帯と重なり影響が広がりました。 ・平成24 年7 月九州北部豪雨 7 月11 日から14 日にかけて、本州付近に停滞した梅雨前線に沿って南から非常に湿った空気が流れ込み、九州北部を中心に大雨となりました。熊本県阿蘇市阿蘇乙姫(アソオトヒメ)では、7 月11 日0 時から14 日24 時までに観測された最大1 時間降水量が108.0 ミリ、最大24 時間降水量が507.5 ミリとなり、それぞれ観測史上1位の値を更新しました。これらを含め、統計期間が10 年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量で計7 地点、最大24 時間降水量で計8 地点が観測史上1位の値を更新しました。 この大雨により、河川のはん濫や土石流が発生し、熊本県、大分県、福岡県で死者30 名、行方不明者2 名となったほか、九州北部を中心に住家損壊、土砂災害、浸水害等が発生しました。また、停電被害、交通障害等が発生しました。(被害状況は、平成24 年8 月16 日19 時00 分現在の内閣府の情報による) この7月11日から14日にかけて災害をもたらした大雨について、気象庁は「平成24年7月九州北部豪雨」と命名しました。 ・前線による大雨 8月13日から14日にかけて、朝鮮半島から日本海中部へのびる前線がゆっくりと南下し、本州付近に達しました。前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込んだため、大気の状態が非常に不安定となり、近畿中部を中心に大雨となり、局地的に猛烈な雨が降りました。 8月13日0時から14日24時までに観測された最大1時間降水量が、大阪府枚方市枚方(ヒラカタ)では91.0ミリ、京都府京田辺市京田辺(キョウタナベ)では78.0ミリとなり、それぞれ観測史上1位の値を更新しました。これらを含め、統計期間が10 年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量で計3地点、最大3時間降水量で計2地点が観測史上1位の値を更新しました。また、解析雨量*によると、大阪府高槻市で1時間に約110ミリの猛烈な雨を解析し、京都府宇治市では3時間に約190ミリの雨を解析しました。 この大雨により、河川の増水や住宅の浸水が発生し、京都府、大阪府で死者2名、京都府で行方不明者1名となったほか、がけ崩れ、交通障害などが発生しました。(被害状況は、平成24年8月17日19時30分現在の内閣府の情報による) ・台風第16号および大気不安定による大雨・暴風・高波・高潮 9月11日9時にカロリン諸島近海で発生した台風第16号は、発達しながら北西へ進み、14日には中心気圧が900ヘクトパスカル、最大風速が55メートルとなって、フィリピンの東海上を北へ進みました。台風は14日21時には中心気圧が915ヘクトパスカル、最大風速が50メートルの大型で非常に強い勢力で沖縄の南海上をさらに北へ進み、16日7時半頃に勢力を保ったまま沖縄本島付近を通過しました。その後台風は九州の西海上を北へ進み、朝鮮半島から日本海西部へ進んで進路を北東に変え、18日9時に沿海州で温帯低気圧に変わりました。 台風により、沖縄地方から近畿地方の太平洋側にかけて大雨、暴風となり、沖縄地方から九州地方を中心に高波、高潮となりました。また、台風から変わった温帯低気圧にむかって湿った空気が流れ込んだため、大気の状態が不安定となり、東海地方でも大雨となりました。 9月15日0時から19日24時までに観測された日最大風速は、鹿児島県大島郡与論町与論島(ヨロンジマ)で42.1メートルとなり観測史上1位の値を更新したのを含め、日最大風速は4地点で観測史上1位の値を更新しました。また、台風の接近・通過に伴って、沖縄地方から近畿地方にかけての沿岸で、50センチメートルから1メートル程度の最大潮位偏差(実測の潮位と平常の潮位との差)が観測されました。台風の接近・通過が年間で最も潮位が高い秋の大潮の満潮時間帯と重なったため、那覇市や長崎市など九州・沖縄地方を中心に過去に記録した最高潮位を上回る高い潮位を観測しました。 この台風により、沖縄地方から関東地方にかけての広い範囲で住家損壊、土砂災害、浸水害、停電、航空機・フェリーの欠航等による交通障害が発生しました。(被害状況は、平成24年9月26日20時00分現在の内閣府の情報による)。 ○平成24年(2012年)の台風 平成24年(2012年)の台風の発生数は25個(平年25.6個)で平年並でしたが、日本への接近数は昭和26年(1951年)以降では4番目に多い17個でした。接近した台風のうち第15号、第16号、第17号は、3個連続して非常に強い勢力を保ったまま沖縄本島周辺を通過しました。 2.天候、異常気象など ○日本の天候 平成24年(2012年)は、北日本から西日本にかけては、春の前半まで低温傾向、春の後半から秋の前半まで高温傾向、秋の後半から初冬まで低温傾向と季節のメリハリがはっきりとした気温変化となり、沖縄・奄美では年の前半が高温傾向、年の後半が低温傾向となりました。このため、年平均気温は全国的に平年並でした。西日本や沖縄・奄美では夏に降水量が多く、北日本や東日本では春や秋に降水量が多かったことから、年降水量は全国的に平年を上回った所が多くなりました。沖縄・奄美では、一時期を除いて平年より晴れの日が少なく、年間日照時間はかなり少なくなりました。 平成24年(2012年)の各季節、梅雨、台風の特徴は以下のとおりです。 ・冬(平成23年(2011年)12月〜平成24年(2012年)2月)は、冬型の気圧配置が強く寒気の影響を受けやすかったため、北日本から西日本にかけて3か月連続して月平均気温が低く、寒冬となりました。日本海側ではたびたび大雪となり、ここ10年間では平成17年(2005年)/平成18年(2006年)冬の「平成18年豪雪」に次ぐ積雪となりました。また、全国のアメダスを含む17地点では、年最深積雪の大きい方からの1位を更新しました。 沖縄・奄美では、寒気や気圧の谷の影響により曇りの日が多く、冬の日照時間が昭和21年(1946年)以降で最も少なくなりました。 ・春は、北日本から西日本にかけては、概ね天気は数日の周期で変わりましたが、たびたび偏西風の蛇行が大きくなって上空に寒気が流れ込みました。このため、4月上旬には、急速に発達しながら日本海を進んだ低気圧の影響により各地で大荒れの天気となり、広い範囲で記録的な暴風が観測されたほか、5月上旬には、動きの遅い低気圧の影響で北・東日本太平洋側で記録的な大雨となりました。また、東日本を中心に大気の状態が不安定となる日があり、5月6日には関東地方などで竜巻が発生し、大きな被害をもたらしました。 ・夏は、太平洋高気圧が日本の東海上で強く、本州付近に張り出したため、北日本から西日本にかけての夏平均気温は高く、暑夏となりました。一方で、6〜7月にかけてはオホーツク海高気圧がしばしば現れたため、北・東日本太平洋側では、気温が平年を大幅に下回った日もありました。梅雨前線が西日本付近に停滞したことや台風および太平洋高気圧の縁を回って南から暖かく湿った空気が流入した影響で、西日本と沖縄・奄美では降水量が多く日照時間が少なくなりました。台風の接近数が多かった沖縄・奄美では、夏の降水量が昭和21年(1946年)以降最も多い値を更新しました。また、梅雨前線の活動も活発で、西日本ではたびたび大雨に見舞われ、7月11日〜14日にかけて九州北部地方で記録的な大雨となり甚大な災害が発生しました(「平成24年7月九州北部豪雨」)。 ・秋の始まりは、勢力の強い太平洋高気圧の影響で北・東日本では厳しい残暑に見舞われ、北日本の9月の月平均気温は昭和21年(1946年)以降のこれまでの記録を大幅に上回る記録的な高温となりました。10月後半以降は、北日本と東日本日本海側では低気圧の影響を受けやすく、曇りや雨または雪の日が多くなりました。また、東日本以西では10日程度の周期で寒気が流れ込んで気温の低い時期が現れ、沖縄・奄美では気温の低い状態が続きました。 ○世界の主な異常気象 東アジア北部〜アフリカ北西部の広い範囲で偏西風の蛇行に伴って高気圧の勢力が強まり、異常低温(1〜2月、12月)となりました(図中・)。1〜2月の寒波の影響により、ウクライナで130人以上、ポーランドやルーマニアでそれぞれ80人以上が死亡するなど、多くの国で気象災害が発生しました。 米国では、異常高温(3〜7月)・異常少雨(5〜9月、11月)となりました(図中・)。このため、トウモロコシなどの農産物の生育が悪化し、世界的な穀物価格の上昇を引き起こしました。米国海洋大気庁によると、米国本土の3月及び7月の月平均気温が1895年以降で最も高くなりました。 パキスタンでは9月に異常多雨(図中・)となり8月下旬以降の大雨の影響で570人以上、米国東部・カリブ海諸国では10月のハリケーン「サンディ」の影響により合わせて200人以上(図中・)、フィリピンでは12月の台風第24号の影響で1000人以上(図中・)が死亡するなどの気象災害が発生しました(災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)の災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関の発表等に基づいています)。 質問箱 偏西風の蛇行とは? 北半球と南半球の中緯度や高緯度の上空では、一年を通じて西から東に向かって風が吹いています。この風のことを偏西風といいます。偏西風の強さは、北半球であれば寒い北極側と暖かい赤道側の温度差が関係しており、南北の温度差が大きいほど偏西風は強く、温度差が小さいと弱くなります。そのため、冬は南北の温度差が大きいので偏西風は強く、逆に温度差の小さい夏には弱くなります。冬の日本の上空は偏西風が合流・集中し、世界で最も偏西風の強いところとなり、上空およそ10キロメートルでは、速さが毎秒100メートルを超える場合もあります。この強い偏西風の流れを、ジェット気流と呼んでいます。 偏西風は、その強さも流れる位置も日々変動しています。南北に波打つように蛇行することがあり、ときには北あるいは南に大きく蛇行した状態が数日から数週間程度続くこともあります。偏西風が大きく蛇行した状態が続くと、ブロッキング高気圧の停滞や上空の強い寒気の流入が起き、異常気象が発生する場合があります。 平成24年(2012年)の冬(前年12月〜2月)は、北日本、東日本及び西日本は寒冬となりました。特に、日本海側の地域を中心に積雪が多く、多くのアメダス地点で冬の最深積雪の記録を更新しました。この低温や大雪には偏西風の蛇行が関連しており、平成24年(2012年)1月下旬から2月はじめにかけては日本の上空で偏西風が大きく南に蛇行した状態が続き、強い寒気が断続的に流れ込んだため、各地で大雪となりました。 ○平均気温 平成24年(2012年)の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差(図の注参照)は+0.14℃(20 世紀平均を基準とした偏差は+0.51℃)で、明治24年(1891年)以降、8 番目に高い値となりました。世界の年平均気温は、長期的には100年当たり約0.68℃の割合で上昇しており、特に1990年代半ば以降、高温となる年が頻出しています。 平成24 年の日本の年平均気温の昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差は+0.06℃(20世紀平均を基準とした偏差は+0.66℃)で、明治31年(1898年)以降、20番目に高い値となりました。日本の年平均気温は、長期的には100年当たり約1.15℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。 ○海面水温 平成24年(2012年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)〜平成22年(2010年)までの30 年平均値からの差)は+0.09℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降では、9番目に高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間スケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100 年あたり0.51℃の割合で上昇しており、特に1990 年代後半からは高温となる年が頻出しています。 平成23年(2011年)春にラニーニャ現象が終息した後、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生しない状態が続いています。平成24年(2012年)の太平洋赤道域の中部から東部にかけてのエルニーニョ監視海域の海面水温は、冬は基準値より低い値となり、その後夏にかけて基準値より高い値まで上がりましたが、秋以降は低下し基準値に近い値で推移しました。 日本近海の海面水温は、6月に日本海と黄海で平年より高くなりましたが、その期間を除くと、1月から7月にかけての海面水温は平年並か平年より低い状態が続いていました。8月から10月にかけては、北海道周辺海域と日本海で平年より高い状態になりました。特に北海道周辺海域では、9月の海面水温が1985年以降で最も高くなりました(トピックス8(4)参照)。11月には、日本近海は全般に平年並の海域が広がり、12月は平年より低い状態となりました。 ・オホーツク海の海氷 オホーツク海の海氷域面積は、平成24年(2012年)12月から平成25年(2013年)3月まで平年並か平年より小さく推移しました。シーズンの最大海氷域面積は107.13万平方キロメートルで平年の92%でした。 一方、オホーツク海南部では海氷域の南下が平年より早く、網走の流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年より9日早い1月12日、網走の流氷接岸初日は平年より16日早い1月17日でした。また、稚内では昨年に引き続き流氷が観測され、流氷初日は平年より1日早い2月12日、流氷終日(海岸から流氷が観測された最後の日)は平年より5日早い3月7日でした。網走の海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より7日早い3月13日、流氷終日は平年より9日早い4月2日でした。なお、釧路では流氷が観測されませんでした。 オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり5.8万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の3.7%に相当)の割合で緩やかに減少しています。 3.地震活動 ○日本およびその周辺の地震活動 平成24年(2012年)に震度5弱以上を観測した地震は16回(平成23年は71回)、震度1以上を観測した地震は3,139回(平成23年は10,487回※)でした。国内で被害を伴った地震は10回(海外で発生した地震による津波の被害も含む、平成23年は28回)でした。また、日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は21回(平成23年は116回)でした。 主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 ○世界の地震活動 平成24年(2012年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は31回(平成23年は37回)でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は2回でした。主な地震活動は表のとおりです。 4.火山活動 ○十勝岳(北海道) 6月30日から7月5日にかけて、大正火口付近が夜間に高感度カメラで明るく見える現象が観測され、大正火口から噴出した火山ガスが北西斜面を流下して山麓の望岳台付近まで達しました。 火山性地震は、2010年頃からやや多い状態で経過しています。火口直下浅部の膨張を示す地殻変動は、4月頃から鈍化が認められました。 ○択捉焼山(北海道) 8月15〜26日に噴火が発生しました。25日に海抜約4000mの高さの噴煙が気象衛星で観測されました。その後の噴火については、気象衛星画像で噴煙は観測されませんでした。 ○岩手山(岩手県、秋田県) 低周波地震が山頂直下のやや深いところで時々まとまって発生しました。火山性微動も5月と10月に2回発生しましたが、噴気活動は低調で、地殻変動も変化はなく、火山活動は静穏に経過しました。 ○吾妻山(山形県、福島県) 大穴火口では、北西側下部噴気孔から噴気が見られるなど、やや活発な状態で経過しました。火山性地震はやや多い月もありましたが、概ね少ない状況で経過しました。 ○草津白根山(群馬県、長野県) 振幅の小さな火山性地震の一時的な増加が繰り返しありましたが、火山活動に特段の変化はありませんでした。湯釜火口内の北壁等では引き続き熱活動がみられています。 ○白山(石川県、岐阜県、福井県) 10月に白山北側の浅部を震源とする地震が多発しました。このほか、3月、5月、8月、9月に白山付近の浅部を震源とする微小な地震がややまとまって発生しましたが、火山性微動の発生など火山活動に特段の変化はありませんでした。 ○三宅島(東京都) 2012年は、噴火の発生はありませんでした。山頂火口からの二酸化硫黄放出量は、1日当たり400〜1,200トンと、やや多量〜多量の火山ガス放出が継続しました。 ○青ヶ島(東京都) 8月に海上保安庁が実施した上空からの観測で、島の南東沖で変色水が確認され、船舶等が変色域に近付かないよう海上警報を発表しましたが、9月に実施した上空からの観測では、変色水は確認されず、海上警報を解除しました。これ以外では、火山活動に特段の変化はなく、静穏に経過しました。 ○硫黄島(東京都) 島西部では、2月上旬以降、時折、ごく小規模な水蒸気爆発が発生しました。4月下旬から5月初めには火山活動が活発化し、島北部では新たな噴気が、北東沖では変色水が確認されました。国土地理院の地殻変動観測では、急速な隆起の後に沈降を観測しましたが、その後、沈降傾向は鈍化し、ほぼ停滞しています。火山性地震や火山性微動も増加しましたが、5月以降は共に低調に経過しました。 ○福徳岡ノ場(東京都) 海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による上空からの観測では、福徳岡ノ場付近の海面には火山活動によるとみられる変色水が時々確認されました。 ○阿蘇山(熊本県) 中岳第一火口では、噴火は発生しませんでしたが、湯だまりの減少や火山性地震及び孤立型微動の増加など、一時的にやや活発な傾向が認められました。 ○霧島山(宮崎県、鹿児島県) 新燃岳では、噴火は発生しませんでした。火山性地震は3月頃から減少し、少ない状態になりました。 国土地理院の広域的な地殻変動観測結果では、新燃岳の北西地下深くのマグマだまりへのマグマの供給に伴う地盤の伸びの傾向は2011年12月以降鈍化・停滞しています。上空からの観測では、新燃岳火口内に蓄積された溶岩の大きさや形状及び周辺の噴気の状況に特段の変化は認められませんでした。二酸化硫黄の放出量は、7月以降は減少し、少ない状態で経過しました。 ○桜島(鹿児島県) 昭和火口で活発な噴火が続きました。爆発的噴火は883回発生し、大きな噴石が2合目(昭和火口から1,800〜2,700m)まで達する等、活発な噴火活動が継続しました。噴煙の最高高度は、5月と9月の爆発的噴火による火口縁上3,500mでした。火砕流は6回発生しましたが、火口付近にとどまる程度の小規模なものでした。南岳山頂火口では、爆発的噴火が7月と12月に発生しました。この爆発的噴火で鹿児島市では大量の降灰に見舞われ、電車の運転を見合わせたほか、島内の国道が通行止めになるなどの影響が出ました。 国土地理院の地殻変動観測では、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)深部へのマグマの注入によるものと考えられる膨張による長期的な伸びの傾向がみられます。 ○薩摩硫黄島(鹿児島県) 噴煙活動は、やや低下した状態が続いており、火山性地震も少なく、火山活動は静穏な状態で経過しました。11月29日に噴火警戒レベルを2から1に引き下げました。 ○口永良部島(鹿児島県) 火山性地震は、1月上旬までやや多い状態で経過しましたが、それ以降は、その他の観測データにも特段の変化はなく静穏に経過しました。火山性微動は少ない状態で経過しました。 ○諏訪之瀬島(鹿児島県) 御岳火口では、爆発的噴火を含む噴火が時々発生し、噴火活動はやや活発な状態で経過しました。 5.温室効果ガス、黄砂、紫外線など 気象庁は二酸化炭素をはじめとする様々な温室効果ガスの濃度を観測するとともに、世界気象機関(WMO) 温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)を運営し、世界中で観測された温室効果ガスのデータを収集・解析しています。地球温暖化の進行速度は、大気に含まれる温室効果ガスの濃度によって左右されます。また、同じ濃度でも温室効果ガスの種類によってその効果は異なります。このため、地球温暖化への効果的な対策を行うためには、その原因となる温室効果ガスの削減を進めるとともに、温室効果ガスの濃度を継続して監視することが不可欠です。 ○大気中の二酸化炭素 二酸化炭素は、各種の温室効果ガスの中で地球温暖化に最も大きな影響を与えます。大気中の二酸化炭素の濃度は、産業革命(18世紀後半)以前の過去約2000年間は280ppm 程度でしたが、その後の産業活動などによる化石燃料の消費や森林破壊などの人間活動に伴って、世界的に増加の一途をたどっています。年ごとの増加量には変動があるものの、世界平均の二酸化炭素濃度は平成13年(2001年)から 平成23年(2011年)までの10年間では、1年あたり2.0ppm 増加しています。平成23年(2011年)の世界平均の二酸化炭素濃度は390.9ppmでした。緯度帯別の二酸化炭素月平均濃度の経年変化を見ると、北半球の中・高緯度帯の方が南半球よりも大きな季節変動をしており、また年平均濃度も高くなっています。これは、二酸化炭素の吸収源(森林など)・放出源(化石燃料消費など)がどちらも北半球に多く存在するためです。 ○温室効果ガスとしてのハロカーボン類 冷媒や溶剤として20世紀中ごろに大量に生産・消費されたハロカーボン類は強い温室効果を持っています。大気中の濃度はとても低いものの、物質によっては同濃度の二酸化炭素の数千倍の温室効果をもたらすものも存在します。その中でもクロロフルオロカーボン類(CFCs、いわゆるフロン)はオゾン層破壊の性質も合わせ持っており、国際条約(「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」)により規制されていて現在は生産されていません。綾里(岩手県)や世界各地の観測結果からは規制の成果が見られ、大気中の濃度は近年ほぼ横ばいかゆるやかに減少しています。 ○海洋中の二酸化炭素 海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から28年間にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1〜 2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年) から平成24年(2012年)までの28年間では、大気中で1年に1.8ppm、表面海水中で1年に1.6ppmの割合で増加しています。 ○黄砂 気象庁では、国内61か所(平成25年3月31日現在)の気象台や測候所で、職員が目視により大気現象として黄砂を観測しています。統計を開始した昭和42年(1967年)から平成24年(2012年)までに黄砂観測日数が最も多かったのは、平成14年(2002年)の47日です。平成24年(2012年)の黄砂観測日数は12日(平年は24.2日)でした。黄砂観測日数は、昭和42年(1967年)から平成24年(2012年)の統計期間では増加傾向が見られます。ただし、年ごとの変動が大きく、それに対して黄砂の統計期間は短いことから、長期的な変化傾向を確実に捉えるには今後の観測データの蓄積が必要です。 黄砂の日本への飛来は、例年3月〜5月に集中しています。この時期は、・黄砂発生源となっている地域で砂を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した裸地となっており、砂じんが舞い上がりやすい状態であること、・砂を舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通ることが多い季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂発生源が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件が揃えば、日本に黄砂が飛来します。 平成24年(2012年)は、初観測が3月24日と遅く、3月の月別黄砂観測日数は平年を大きく下回りました。 ○オゾン層・紫外線 成層圏のオゾン量は1980年代を中心に札幌、つくばで減少が進みましたが、1990年代半ば以降、那覇も含め緩やかな増加傾向がみられます。南極域では、1980年代初め頃からオゾンホールが観測されています。平成24年(2012年)のオゾンホールは、8月に発生した後、9月22日にこの年の最大面積となる2,080万平方キロメートル(南極大陸の面積の約1.5倍)にまで広がり、11月中旬に消滅しました。大規模なオゾンホールの発生は、毎年継続しています。国内の紫外線量は、札幌とつくばでは紫外線観測を開始した1990年代はじめから緩やかな増加傾向がみられます。一般にオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線が増加しますが、この期間、国内ではオゾン量の減少は観測されていません。紫外線を散乱・吸収する大気中の微粒子の減少や天候の変化(雲量の減少)などが紫外線量の増加の原因と考えられています。 ○日射と赤外放射 気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。 世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、1980年代後半から2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。 日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。 用語集 C CLIPS(Climate Information and Prediction Services) 気候情報・予測サービス計画。世界気象機関(WMO)の世界気候計画(WCP)の事業計画の一つで、過去の気候資料や気候実況監視情報、気候予測情報を社会・経済の各分野で有効利用し、社会・経済・環境保護等の活動に資することを目指しているもの。 COSMETS(Computer System for Meteorological Services) 気象資料総合処理システム。国内外の気象などの観測データを集信し、大気の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理をするための気象情報伝送処理システム(アデス)と、解析・予測をするためのスーパーコンピュータシステムから構成されている。 D DCPC(Data Collection or Production Centre) データ収集作成センター。 WMO情報システム(WIS)において、気象に関する各種データの収集や資料の作成を行う。 E EPOS(Earthquake Phenomena Observation System) 地震活動等総合監視システム。気象庁本庁及び大阪管区気象台において日本全国における地震や津波の観測データをリアルタイムで監視し、緊急地震速報、津波警報・注意報、東海地震に関連する情報や地震・津波に関する情報等を防災機関、報道機関等に迅速に発表するシステム。気象庁本庁では、東海・南関東地域の地殻変動観測データの監視も行っている。 G GAW(Global Atmosphere Watch) 全球大気監視。温室効果ガス、オゾン層、エーロゾル、酸性雨など地球環境に関わる大気成分について、地球規模で高精度に観測し、科学的な情報を提供することを目的に、世界気象機関(WMO)が平成元年(1989年)に開始した国際観測計画。 GCOS(Global Climate Observing System) 全球気候観測システム。気候系の監視、気候変動の検出や影響評価等の実施に必要な気候関連データや情報を収集し、幅広く利用できるようにするため、様々な観測システムやネットワークを国際的に調整するシステムとして1992年に設立された。世界気象機関(WMO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)政府間海洋学委員会(IOC)、国連環境計画(UNEP)、国際科学会議(ICSU)が共同支援機関である。 GDPFS(Global Data Processing and Forecasting System) 全球データ処理・予報システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、WMO加盟国の利用に供するために気象の解析、予報資料を作成する体制。 GEOSS(Global Earth Observation System of Systems) 全球地球観測システム。50以上の国並びに欧州委員会・世界気象機関(WMO)・国連教育科学文化機関及び国連環境計画等の40以上の国際機関が参加する、人工衛星観測と地上気象観測を組み合わせた複数の観測システムからなる地球観測のためのシステム。気象・気候分野のみならず、生物多様性の保護、持続可能な土地利用管理、エネルギー資源開発等といった成果をも目的としている。 GISC(Global Information System Centre) 全球情報システムセンター。WMO情報システム(WIS)において世界の気象通信網の中核をなし、気象に関する各種データの交換や資料の管理を行う。気象庁はWMOからの指名を受け、世界に先駆けて平成23年8月から運用を開始した。 GOOS(Global Ocean Observing System) 全球海洋観測システム。全世界の海洋の環境や変動を監視してその予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際的な計画。国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)、世界気象機関(WMO)などが共同で推進している。 GOS(Global Observing System) 全球観測システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で展開されている地球規模の観測網。地上気象観測所、高層気象観測所、船舶、ブイ、航空機、気象衛星などから構成される。 GPS(Global Positioning System) 全地球測位システム。人工衛星を用いて位置を決定するシステムで、一般にはカーナビゲーションシステムへの利用でなじみ深い。高い精度での位置決定が可能なGPSを用いることにより、地震あるいは火山現象などに伴う地殻変動の観測やラジオゾンデによる高層観測に利用することが可能である。また、最近では、水蒸気により電波の遅延が生じることを利用して、このシステムから大気中の水蒸気分布を推定することも行われている。 GPV (Grid Point Value:格子点値) 数値予報の計算結果を、大気中の仮想的な東西・南北・高さで表した座標(立体的な格子)に割り当てた、気温、気圧、風等の大気状態(物理量)。コンピュータで気象状態の画像表示や応用処理に適したデータの形態である。数値予報の計算もこのような立体的な格子上で物理量の予測を行う。 GTS(Global Telecommunication System) 全球通信システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、気象資料の国際的な交換、配信を行うために構築された全世界的な気象通信ネットワーク。 I ICAO(International Civil Aviation Organization) 国際民間航空機関。昭和19年(1944年)の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づいて設立された、民間航空に関する国際連合の専門機関の一つ。 ICG/PTWS (Intergovernmental Coordination Group for the Pacific Tsunami Warning and Mitigation System) 太平洋津波警戒・減災システムのための政府間調整グループ。昭和35年のチリ地震により発生した津波が太平洋全域に甚大な被害を与えたことを契機として、太平洋において発生する地震や津波に関する情報を各国が交換・共有することにより太平洋諸国の津波防災体制を強化することを目的として設立された、IOC(次項参照)の下部組織のひとつ。昭和40年に太平洋津波警報組織国際調整グループ(ICG/ITSU)として設立され、平成17年10月に現在の名称へ変更された。太平洋周辺の45の国又は地域が参加している(平成23年10月現在のIOC資料による)。 IOC(Intergovernmental Oceanographic Commission) 政府間海洋学委員会。昭和35年(1960年)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)内に設立された機関。海洋と沿岸域の性質と資源に関する知識を深め、その知識を加盟国における海洋環境の管理と持続可能な開発、保護及び政策決定プロセスに適用するために、国際協力を推進し、関連の研究やサービス及び能力開発のプログラムを調整している。 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) 気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により、昭和63年(1988年)に設立された。各国の科学者や専門家で組織され、気候変動の(1)自然科学的根拠、(2)脆弱性・影響・適応策、(3)緩和策の評価を行い、報告書をとりまとめている。その報告書の内容は、地球温暖化に関する条約交渉の際などに、共通認識の情報として取り扱われている。 L LIDEN(Lightning Detection Network System) 雷監視システム。雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステム。 N NEAR-GOOS(North-East Asian Regional Global Ocean Observing System) 北東アジア地域海洋観測システム。全球海洋観測システム(GOOS)の北東アジア地域プロジェクトであり、参加各国が行った海洋観測のデータなどを即時的に国際交換するためのデータベースを運用している。日本、中国、韓国、ロシアが参加している。 W WINDAS(Wind Profiler Network and Data Acquisition System) 局地的気象監視システム。全国33か所に設置した無人のウィンドプロファイラ観測局とこれを制御しデータを自動的に収集する中央監視局で構成するシステム。 WIS (WMO Information System) WMO情報システム。従来の全球通信システム(GTS)による即時性・確実性が必要なデータ交換の効率化を進めるのに加え、各国国家センターに対して各種資料を効率良く検索・取得できるようにするために統一した情報カタログを整備・提供する統合気象情報通信網。中核をなす全球情報システムセンター(GISC)、データ収集作成センター(DCPC)、各国国家センター(NC)から構成される。 WMO(World Meteorological Organization) 世界気象機関。世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25年(1950年)に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26年(1951年)に国際連合の専門機関となった。平成23年(2011年)9月30日現在、183か国と6領域が構成員として加盟している(日本は昭和28年(1953年)に加盟)。事務局本部はスイスのジュネーブに置かれている。 WWW(World Weather Watch(Programme)) 世界気象監視計画。世界気象機関(WMO)の中核をなす計画であり、世界各国において気象業務の遂行のため必要となる気象データ・プロダクトを的確に入手できることを目的とする。全世界的な気象観測網(全球観測システム:GOS)、通信網(全球通信システム:GTS)、データ処理システム(全球データ処理・予報システム:GDPFS)の整備強化がこの計画の根幹となっている。 ア アジア太平洋気候センター アジア太平洋地域の各国気象機関に対し、基盤的な気候情報の提供や気候予測に関する技術移転を行うことを目的として、平成14年(2002年)4月に気象庁内に設置されたセンター。これらの活動を通じて、同地域内において異常気象による災害の軽減や、農業をはじめとする各種産業の振興に、気候情報が有効に利用されることを目指している。 アデス 気象庁本庁及び大阪管区気象台に設置された気象情報伝送処理システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理を行っている。 アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System) 全国約1,300か所に設置した無人の観測所で、気温や降水量などを自動的に観測するシステム。アメダスはこのシステム(地域気象観測システム)の英語名の頭字語である。 アルゴ計画 世界気象機関(WMO)及び国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)などの協力の下、国際的な枠組みにより、世界の海洋を常時観測するシステムとして中層フロート(チの項を参照)を全世界の海洋に約3,000台投入して、気候に大きく影響する海洋の状況をリアルタイムに把握することを目的として実施されている。アルゴとは、ギリシャ神話に出てくる船の名前(Argo)にちなんだもの。 アンサンブル手法 初期値に含まれる誤差や数値予報モデルが完全ではないことにより生じる、予測結果の不確実性に関する情報を、多数の予測計算から抽出する方法。初期値の誤差を考慮する手法を「初期値アンサンブル手法」、数値予報モデルの不完全性を考慮する手法を「モデルアンサンブル手法」と呼ぶ。気象庁では初期値アンサンブル手法とモデルアンサンブル手法の両方を用いている。 イ 異常潮位 高潮や津波とは異なり、比較的長期間(1週間から3か月程度)継続して、潮位が平常より数十センチメートル程度高く(もしくは低く)なる現象。原因は、気圧配置・海水温・海流の変動など多岐にわたり、これらが複合して発生すると考えられている。 ウ ウィンドシアー(wind shear) 大気中の2地点で風の強さや向きが異なる状態のことで、風の空間的な急変域をいう。航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要とされている。 ウィンドプロファイラ(wind profiler) 電波を地上から上空に向けて発射し、主に乱流に起因する空気屈折率の不均一によって後方に散乱された電波を受信し、処理することにより、観測点上空の風向・風速を測定するレーダー。 エ エーロゾル(aerosol) 大気中に浮遊している固体あるいは液体の微粒子。地表や海洋から舞い上がるものや、工業活動によって排出される煤煙などがある。太陽光の吸収・散乱や雲の生成などに影響する。 エルニーニョ現象(El Nin〜o) 南米のペルー沖から中部太平洋赤道域にかけて、2〜7年おきに海面水温が平年に比べて1〜2℃、時には2〜5℃も高くなり、半年〜1年半程度継続する現象。これに伴って世界各地で異常気象が発生する可能性が高い。 オ オゾンホール(ozone hole) フロンガスなどのオゾン層破壊物質の排出により、1980年代初めから南極域で春季にあたる9、10月頃を中心に成層圏のオゾン量の顕著な減少が観測されるようになり、この現象は、南極大陸を中心にオゾン層に穴のあいたような状態となることからオゾンホールと呼ばれている。 温室効果ガス 地表面から放出される赤外線を吸収して大気を暖める効果(温室効果)をもつ気体(ガス)の総称。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがある。このうち、水蒸気を除くガスは人間活動に伴って増加しており、地球温暖化の原因物質として知られている。 カ 海溝型地震 太平洋側の千島海溝や日本海溝、南海トラフ等では、海洋のプレートが陸のプレートの下に沈み込んでいる。陸のプレートが海洋プレートに引きずり込まれることにより、プレート境界には徐々にひずみが蓄積していく。これが限界に達すると、プレート境界が急激にずれて地震が発生する。これら海溝に近いところで発生する地震を海溝型地震と呼ぶ。 解析雨量 アメダスや自治体等の雨量計による正確な雨量観測と気象レーダーによる広範囲にわたる面的な雨の分布・強さの観測とのそれぞれの長所を組み合わせて、より精度が高い、面的な雨量を1キロメートル格子で解析したもの。 海流 海洋のほぼ決まった場所をほぼ定常的に流れる大規模な流れ。代表的なものに日本の南岸を流れる黒潮や北大西洋のメキシコ湾流がある。 火砕流 高温の火山灰や岩塊や気体が一体となって急速に山体を流下する現象。火砕流の速度は時速数十キロメートルからときには百キロメートル以上に達し、温度は数百℃に達することもある。大規模な場合は地形の起伏に関わらず広範に広がり、埋没・破壊・焼失などの被害を引き起す。火砕流が発生してからの避難は困難なため、事前の避難が必要である。 火山ガス 火山活動に伴い火口等から噴出する気体。噴火前になると、マグマの上昇に伴い噴出量の増加等が観測されることがある。火山ガスには人体に有害なものがあるが、それらは空気より重いため凹地に溜まりやすく、中には無色無臭のものもあり危険に気づきにくいこともあるので注意が必要である。 高濃度の火山ガスを吸い込むと死に至ることもある。 火山性微動 マグマの活動に起因する連続した地面の震動であり、火山活動が活発化した時や火山が噴火した際に多く観測される。 火山噴火予知連絡会 火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分 科会)建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年に設置された。この連絡会は、学識経験者及び関係機関の専門家から構成されており、気象庁が事務局を担当している。 火山礫(れき) 噴火によって噴出される噴石や火山灰などの固形状の物質は大きさによって分類されており、そのうちの一つ。直径が2〜64ミリメートルのものを指す。なお、直径が64ミリメートルより大きいものを「火山岩塊」、2ミリメートルより小さいものを「火山灰」と呼んでいる。 ガストフロント 積雲や積乱雲から吹き出した冷気の先端と周囲の空気との境界を指し、前線状の構造を持つ。降水域から周囲に広がることが多く、数10キロメートルあるいはそれ以上離れた地点まで進行する場合がある。地上では、突風と風向の急変、気温の急下降と気圧の急上昇が観測される。 活火山 火山噴火予知連絡会では、平成15年(2003年)に活火山を「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義した。現在、日本には110の活火山がある。 キ 気候モデル 気候を形成する大気、海洋、陸面などの諸因子を数値モデル化し(それぞれ大気大循環モデル、海洋大循環モデル、陸面モデルという。)、これらを組み合わせコンピュータで計算して気候を予測する数値予報モデル。 緊急地震速報 地震波には、比較的早く到達するP波(初期微動)と、遅れて到着し主要な破壊現象を引き起こすS波(主要動)がある。緊急地震速報とは、震源近傍の観測点のP波の観測データを処理することにより、震源からある程度離れた地域においてS波が到達する前に、地震の発生、震源の速報、主要動の到達時刻、その予測される震度などについて被害の軽減・防止を目的として可能な限り即時的に発表する情報のこと。 ク 空振 爆発により発生する空気の振動現象。火山の噴火、火砕流の流下などに伴い発生する。 クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons) 塩素、フッ素、炭素からなる化合物で、オゾン破壊の程度の高い物質。代表的なものとしてCFC-11、CFC-12などがある。フロンともいう。 ケ 傾斜計 地盤の傾きを測定する機器で、地震や火山活動に伴う地殻変動の監視に用いる。 コ 黄砂 アジア域の砂漠地帯(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠)や黄土高原などから舞い上げられた砂塵が、上空の強い風によって東方へ輸送され、徐々に降下する現象。日本における黄砂現象は、春先から初夏にかけて観測されることが多く、空が黄褐色に煙ることにより、一般にもよく知られた現象である。現象が著しいときは、視程の悪化により交通機関へ影響を与える場合がある。 シ 自己浮上式海底地震計 海底に設置する地震計で、記録装置とともに船舶などから投下し海底に沈めて、一定期間の観測終了後に海面上に浮上させ回収する方式のもの。データを記録できる期間は数か月程度で、継続的な監視のための常時観測には向かないが、ケーブル式海底地震計より安価で、機動的な調査のための観測に用いられる。 地震計 地震動を計測する機器。複数の観測点における、地震波が到達した時刻や地震波の振幅などから、地震の発生場所、深さ、規模(マグニチュード)が推定できる。 地震動 地震波が地表に到達したときの地面の揺れ。 地震波 地下で生じる岩盤の破壊は、ある面(断層)を境に互いがずれるように起こる。これを断層運動といい、それに伴い地震波が生じる。地震波は、地球の内部を伝わる縦波(P波)と横波(S波)、地球の表面に沿って伝わる波(表面波)に大別できる。 地震防災対策強化地域判定会 地震防災対策強化地域*に係る大規模な地震**の発生のおそれの有無につき判定するために組織され、学識経験者(現在は6名)から構成される。気象庁は、東海地域の観測データに基準以上の異常が現れた場合、同会を開催し、委員の意見を踏まえ、「東海地震注意情報」を発表する。さらに異常な観測データが前兆すべりによるものと判定され、東海地震の発生のおそれがあると認めた場合に、気象庁長官はその旨を内閣総理大臣に報告する。報告を受けた内閣総理大臣は閣議に諮った後「警戒宣言」を発令する。(東海地震に関連する情報発表の流れについては121ページの図参照) *:大規模地震対策特別措置法の規定に基づき内閣総理大臣が指定する。 **:現在は東海地震を対象としている。 震源 断層運動の際に、岩石の破壊(ずれ)が始まり地震波を発生させた最初の地点。震源域は、断層運動により地震波を発生させた領域全体を指し、断層運動によって生じた岩石の破壊面とほぼ同じである。震源域の長さ(差し渡し)は、マグニチュード7の地震で数十キロメートル程度、マグニチュード8では100キロメートルを超えることがある。 震度 地震動の強さを表す尺度であり、地表での揺れの程度を意味する。震度は揺れの強い方から「7」、「6強」、「6弱」、「5強」、「5弱」、「4」、「3」、「2」、「1」、「0」の10段階の階級で表現する。一般に、地震の震源域に近い場所ほど震度は大きく、またマグニチュードが大きい地震のときほど、各地の震度は大きくなる。 震度計 地震動を計測し、観測地点における震度(計測震度)を自動的に算出する機器。計測震度の算出には、計測した地震動の加速度の振幅や周期等を用いる。 ス スーパーコンピュータシステム 数値予報モデル等による解析・予測および静止気象衛星(ひまわり)に代表される衛星データ処理に用いるスーパーコンピュータを中核としたシステム。 水蒸気爆発 マグマから伝わった熱により火山体内の地下水が加熱され生じた高圧の水蒸気によって起こる噴火である。 数値予報 物理の法則に基づき、将来の気温、気圧、風などの大気や海洋の状態を数値として予測する技術。この計算には、膨大な演算処理が必要であるため、スーパーコンピュータが使われる。計算に用いられるプログラムを数値予報モデルと呼ぶ。 セ 静止気象衛星 赤道上空約35,800キロメートルの高さにあって、地球の自転と同一周期で地球を周回しながら、常に地球上の同じ場所の気象観測を行う衛星。我が国の「ひまわり」のほか、米国のGOES、欧州のMETEOSATなどが運用されている。 静止地球環境観測衛星(Himawari) ひまわり7号の後継となる静止気象衛星で、「ひまわり」8号及び9号を指す。従来の「ひまわり」という和名の愛称を受け継ぎ、8号及び9号から英名も「Himawari-8」「Himawari-9」とした。「ひまわり」8号及び9号の気象観測機能は、「ひまわり」6号及び7号と比べ、画像分解能が向上、観測間隔が短縮、画像の種類が増加し、防災のための監視機能を強化すると共に、気候変動や地球環境の監視機能も強化する。8号は平成26年(2014年)に、9号は平成28年(2016年)に打ち上げ、2機あわせて14年間の観測を行う予定。 成層圏 対流圏と中間圏の間にある大気圏。昭和36年(1961年)に世界気象機関(WMO)は、「対流圏界面(高さ6〜18キロメートル)と成層圏界面(50〜55キロメートル)との間にあり、一般に気温が高さとともに高くなる領域」と定義した。 世界気象機関 →WMO (World Meteorological Organization)参照 前兆すべり 地震は、まずゆっくりとしたすべりで始まり、やがて急激な断層運動となり、地震発生に至ると考えられている。この地震発生の前段階における断層のゆっくりした動きを前兆すべり(プレスリップ)と呼ぶ。 タ 台風 北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のもの。 ダウンバースト 積雲や積乱雲から生じる強い下降気流を指し、地面に衝突し周囲に吹き出す突風を生じる。地上では、発散性の突風のほか強雨・雹とともに露点温度の下降を伴うことがある。被害域は円または楕円状となることが多い。また、強い低層ウィンドシアーを起こす現象の一つであり、航空機の離着陸に大きな影響を与える。周囲への吹き出しが4キロメートル未満のものをマイクロバースト、4キロメートル以上のものをマクロバーストとも呼ぶ。 高潮 台風や発達した低気圧などに伴う気圧降下による海面の吸い上げ効果と風による海水の吹き寄せ効 果のため、海面が異常に上昇する現象。 竜巻 積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きで、漏斗状または柱状の雲や、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴うことがある。地上では、収束性や回転性を持つ突風や気圧降下が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。 チ 中層フロート(アルゴフロート) 海面から深さ2,000メートルまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測し、そのデータを人工衛星経由にて通報する観測機器。アルゴ計画(アの項を参照)において主要な観測機器として用いられている。中層フロートから通報されたデータは、直ちに気象データ交換のための全球通信システム(GTS)を通じて国際的に交換され、海水温予測やエルニーニョ現象の監視・予測などの気象・海洋業務に利用されている。 潮位 基準面から測った海面の高さで、波浪など短周期の変動を除去したもの。 ツ 津波 海底下の浅いところで大きな地震が起きると、海底が持ち上がったり下がったりする。その結果、周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に急激に持ち上がったり下がったりし、それにより発生した海面の変動が波として周囲に広がっていく現象。津波が陸地に近づき水深が浅くなると、速度は遅く なるとともに、津波の高さは急速に高くなる。 津波地震早期検知網 津波の発生の有無を即座に判定するための地震観測網。各観測点からの地震波形データは本庁、各管区気象台および沖縄気象台に伝送され、地震の位置・規模を迅速に推定することにより津波の有無の判定を行っている。 テ データ同化技術 気象台などが行う地上気象観測や高層気象観測のように、ある決まった時刻に行われる観測に加えて、衛星観測のように特に観測時刻が定まっていない観測など、様々な観測データを数値予報の「初期値」(予測計算を開始する時刻の気温や風速などの大気の状態を表す物理的な数値)として活用するための手法。 ト 東海地震 過去の大規模な地震の発生間隔などから、駿河湾から静岡県の内陸部のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、いつ発生してもおかしくないと考えられているマグニチュード8クラスの海溝型地震で、現在日本で唯一、防災対策に結びつけられる短期直前予知の可能性がある地震。 東南海地震及び南海地震 過去の大規模な地震の発生間隔などから、紀伊半島沖から四国沖付近のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、今世紀前半にも発生する可能性が高いとされるマグニチュード8を超える海溝型地震。 ネ 熱帯低気圧 熱帯又は亜熱帯地方に発生する低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル未満で台風に満たないもの。台風も含めて熱帯、亜熱帯地方に発生する低気圧の総称として用いることもある。 ハ ハザードマップ(hazard map) ある災害に対する危険な地区が記入されている地図。火山噴火、地すべり、山崩れ、洪水、高潮、土石流、なだれなどの現象に対して、それぞれ作成されている。 波浪 海面の波のうち、風によって引き起こされるものの総称。その場所で吹いている風によって起った 「風浪」と、他の場所で風によって生じた波がその場所まで伝わって来た「うねり」がある。 ヒ ひずみ計 地下の岩盤の伸び・縮みを非常に高感度で観測する装置。気象庁では、東海地震の短期的な前兆と考えられる地殻変動を捉えることを目的として、地下数百メートル程度の深さに円筒形のセンサーを埋設し、周囲の岩盤から受ける力によって変形する様子を極めて高い精度で検出し、監視している。センサーには、変形による体積の変化を測定する体積ひずみ計と、水平面内の方位ごとの変形の量も測定できる多成分ひずみ計がある。 非静力学モデル 低気圧や前線などの気象現象を予測するための数値予報モデルでは、大気の鉛直方向の運動を水平の気流の流れから間接的に求めているが、メソモデル(メの項を参照)が扱う気象現象では鉛直方向の大気の運動が相対的に大きくなってくる。このため、鉛直の大気の運動(上昇気流・下降気流)を直接計算する必要があり、この計算を取り入れた数値予報モデルを「非静力学モデル」という。 ヒートアイランド(heat island) 人工的な熱の排出や、人工的な地表面及び建築物の増加により、都市の気温が周囲よりも高い状態になる現象。等温線が都市を丸く取り囲んで、気温分布が島のような形になることから、このように呼ばれる。 フ 藤田スケール 藤田スケールとは、竜巻やダウンバーストなどの風速を、建物などの被害状況から簡便に推定する ために、シカゴ大学の藤田哲也により昭和46年(1971年)に考案された風速の尺度。竜巻やダウンバーストなどは現象が局地的なため、風速計で風速を観測できることがほとんどないことから、このような現象における強い風を推測する尺度として世界的に用いられている。藤田スケールは「Fスケール」とも呼ばれ、F0からF5の6段階に区分されている。過去に日本で発生した竜巻のうちで最もFスケールの大きかったものはF3。 プレート 地球表面を覆う厚さ数10キロメートルから100キロメートル程度の固い岩石の層。地球表面は大小合わせて十数枚のプレートで覆われており、日本周辺は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの4枚のプレートが接する境界に位置している。 プレートテクトニクス(plate tectonics) 地震活動、火山活動、地殻変動などの地球表面の地学現象を、地球表面を覆っている複数のプレートの相対的な運動から生じるものとして統一的に説明・解明する学説。 噴火警戒レベル 火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、噴火警報、噴火予報で発表する。各火山の地元都道府県等が設置する火山防災協議会で共同検討を行い、火山活動の状況に応じた避難開始時期・対象地域が設定された火山で運用を開始している。平成19年12月1日から順次運用を開始し、平成25年4月現在、全国の29火山で運用している。 噴火警報 火山現象に関する警報。噴火に伴って、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等の避難に時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示して発表する。 噴石 噴火に伴って火口から噴出する石は、その大きさや形状等により「火山岩塊」、「火山れき」、「火山弾」等に区分される。気象庁では、防災情報で住民等に伝える際には、これらを総称して「噴石」という用語を用いている。噴石は、時には火口から数キロメートル程度まで飛散することがあり、落下の衝撃で人が死傷したり、家屋・車・道路などが被害を受けることがある。 マ マグニチュード(magnitude) 地震(断層運動)の規模の尺度。一般にMという記号で表され、観測された地震波をもとに算出される。Mの値が1大きくなると地震のエネルギーは約30倍になる。 ミ 民間気象業務支援センター 気象庁は、予報業務許可事業者その他民間における気象業務の健全な発達を支援し及び産業、交通その他の社会活動における気象情報の利用促進を図るため、「民間気象業務支援センター」を指定できることになっている。 平成24年4月1日現在、(一財)気象業務支援センターが気象庁長官よりその指定を受けている。 メ メソモデル (メソ数値予報モデル、meso-scale numerical weather prediction model) 低気圧や梅雨前線などの大規模な現象に伴い、大雨などをもたらす数十キロメートル程度の空間規模の気象現象(メソ気象現象)の予測を目的とした、水平分解能が数キロメートル〜10キロメートルの数値予報モデル。 ユ 有害紫外線 紫外線の中でも特に、波長280〜315ナノメートル(注)の紫外線(B領域紫外線、UV-B)は、オゾンによる吸収が大きいことからオゾン層の破壊の影響を最も強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、一般に有害紫外線と呼ばれている。オゾン層破壊に伴い、地上に到達する有害紫外線量の増加による皮膚がん、白内障など健康被害の増加が懸念されている。 注:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1(10億分の1メートル) ヨ 余震 比較的大きな地震(本震)が発生した後、その近くで続発するより小さな地震。震源が浅い大きな地震は、ほとんどの場合、余震を伴う。余震の数は本震直後に多く、時間とともに次第に少なくなる。大きな余震による揺れは、場所によっては本震の揺れと同じ程度になることがある。壊れかけた家や崖などに注意する必要がある。 4次元変分法 数値予報モデルが短時間(例えば3時間程度)に予測する、風、気温、降水量などの様々な物理量と、地上の様々な場所や時刻に実際に観測される物理量との差が最小になるようにするデータ同化技術。空間(3次元)の観測値の分布に加えて、時間的な分布も考慮されることから4次元と称される。 ラ ライダー (lidar : Light Detection and Ranging)、ドップラーライダー レーザー光の短いパルスを大気中に発射し、雲、エーロゾル、大気分子からの散乱光を受信することによりそれらの濃度の高度分布を遠隔測定する装置のことをいう。レーザーレーダーとも呼ばれる。また、ドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えた装置をドップラーライダーという。 ラジオゾンデ(radiosonde) センサーと無線発信器を一体とした気象測器のこと。水素又はヘリウムを詰めた気球に吊して上空に飛揚し、気圧・気温・湿度・風など大気の状態の測定に使用する。 ラニーニャ現象(La Nin〜a) エルニーニョ現象(エの項を参照)とは逆に、南米のペルー沖から中部太平洋赤道域にかけて海面水温が平年より低くなり、半年〜1年半程度継続する現象。これに伴って世界各地で異常気象が発生する可能性が高い。 レ レーダー(radar:Radio Detection and Ranging)、ドップラーレーダー パルス状の電波を大気中に発射し、雨粒や雪からの反射波を受信することにより降水の水平分布や 高度などを遠隔測定する装置のことをいう。また、降水の分布や強さなどの観測に加え、電波のドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えたレーダーをドップラーレーダーという。